天然痘のカムイ
もともと北海道に存在しなかった天然痘は、出稼ぎなどで移入した和人から広まり、免疫を持たなかったアイヌ民族のあいだで大流行した。
その伝染力と致死率の高さから、天然痘は当然のように
カムイとして畏敬の対象となった。
一般にパコロカムイ「pakorkamui」とよばれる。「パ」とは「年、歳」を表す
アイヌ語であるため「寿命を支配するカムイ」と解せられるが、「パ」という語自体に天然痘の意味があるともされる。パトゥムカムイという呼び名も、「病魔のカムイ」というほかに「天然痘のカムイ」という意味と考えられるという。
性質として、村々を渡り歩き、何らかの落ち度のある村に病をもたらすとされたため、
アプカシカムイ「apkas(歩く)kamui(カムイ)」
パヨカカムイ「payoka(旅をする)kamui(カムイ)」
パイェカイカムイ「payekai(旅をする)kamui(カムイ)」
などとよばれる。
さまざまな症状を眷族の起こすものと考えウタラコロカムイ(眷族を持つ神)の名もある。
眷族はそれぞれ男女一柱ずつの
シカトロケカムイ(咳のカムイ。語源は「si(大便)kat(形)torke(ある)kamui(カムイ)」と推察される)
トピシキカムイ(瘧のカムイ。「topiski(瘧)kamui(カムイ)」
ムニンペスンカムイ「munin(腐った)pe(液体)se(負った)kamui(カムイ)」
とされるが、シカトロケカムイは風邪を指すことも、また天然痘のカムイの大将のことであるとも神称であるともされる。
ほかニシレポライェ(雲を沖へ放つ)・ニシウコライェ(雲をこちらへ寄せる)の兄弟神やムニンコランクル(腐れ彦)、ムニンコランマッ(腐れ媛)の兄妹神なども伝承される。
そして、畏れ敬うべき神であるので
オリパクカムイ「oripak(遠慮する)kamui(カムイ)」
とも呼ばれた。
神としての姿は、霰模様のついた着物を着た男の姿で表される。持ち物として煙草入れを持っていることもあるが、これにも霰模様が入っていたりする。この霰模様は、天然痘の症状である赤斑を表しているとされる。この煙草入れは、しばしば天然痘のカムイを出し抜いたり、好感を持たれるような行為をした人間に授けられ、病が流行した際に日光に晒すなどして村を避けて通ってもらったり、猟運を授けたりする。
天然痘のカムイは、いずれも想像上の地である空の国の果てや西の果ての海辺の芦原などからやってくると考えられたが、地方によってはこのときに鳥の姿をとると考えられ、名前の不明な渡り鳥やオオハクチョウなどを「パヨカカムイ」「パイェカイカムイ」などの名で呼んだ。このときに糞を受けると病になるとも考えられ、それがシカトロケの語源になったとも言われる。
沙流郡平取町に伝わる昔話では、疱瘡のカムイは春先になると海岸に打ち上げられる、赤や黄色や緑色の魚の浮き袋の形をしている物体とされ、また違う昔話によれば谷地坊主(湿地帯にできる、隆起した上に草が生えている植物の堆積)のような形をしていて川の中にいたという。
カムイたちは善悪問わず、悪臭やちくちくするものを苦手とするため、ハリセンボンやトクビレなどの魚、ウワミズザクラ、ギョウジャニンニクなどの植物を村の入り口に飾ったりした。またウサギを煮て食べてもよいとされた。地方によっては、犬は病の女神の妹神が姉の怒りを受けて変化させられたものであるので、病が流行った際に犬を食べ、その頭骨や毛皮を戸口の柱に据えて病魔よけとした。また恐ろしいカムイではあるが
竜蛇のカムイも、悪臭を放つとされるため天然痘が流行ると
木幣や酒を捧げることがあった。
参考資料
北海道の項を参照のこと。
山北篤監修『東洋神名事典』315頁(「疱瘡のカムイ」)
最終更新:2021年07月04日 15:48