探求!! ◆SXmcM2fBg6



 支給された道具を確認して一つのデイバックにまとめ、リュックサックのように背負う。
 デイバックに納めなかった本は、いつでもすぐに使えるように抱える事にする。

「さて、荷物も確認したことですし、さっそくみんなを探しに行きましょう」

 そう言って少女――志筑仁美は意気揚々と歩きだした。


 ―――直後、
 彼女の体は剣のような何かに穿たれ、弾き飛ばされた。

 悲鳴を上げる暇さえない。
 体が貫かれなかったのは、抱えていた本のおかげだろう。
 だが硬いアスファルトに叩きつけられた体は、全身から痛みを訴えている。
 それによって意識が朦朧としつつも、事を成したモノの正体を知ろうと顔を上げた。 
 するとそこには――――

「おねえちゃんしってる……? 痛いのが愛なんだって……。
 だからおねえちゃんにも……愛をあげる………」

 背中から刃の様な異形の羽を生やした、修道服を着た幼い少女の姿があった。

 先ほど自分の身体を弾き飛ばしたのは、その刃の様な翼だろうと仁美は予想をつけた。
 だが彼女の朦朧とした頭は、全く別の事を気にしていた。

「痛いのが……愛………?」
「うん、そうだよ……。
 イカロスおねぇさまが言ってたんだ……。大好きなますたーのことを考えると……動力炉が痛いって……。
 だからきっと、痛いの(これ)が愛なんだよ………」

 少女はそう言って、翼を広げる。
 それはまるで、獲物に狙いを定めた鷹のようで。

「だから私……みんなに愛をあげるの……! 愛を……、愛を!!
 愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を!!!!!!!!!!」

 少女は躊躇なくそれを仁美へと奔らせる。
 先ほどとは違い、偶然など起こりようのない一撃。
 瞳にそれを避ける術はなく、また彼女を助ける人物もまた、ここにはいなかった。

 ―――だがその翼が、仁美を貫く事はなかった。

「それは……どうでしょう………」

 朦朧とした頭で、少女の言葉を反芻していた仁美は、無意識にそう呟いていた。
 その言葉に少女は、思わず己が翼を止めたのだ。

「………ちがう……の?
 でも「愛」って痛いものなんでしょ……?」

 少女は本当に不思議そうな顔をしてそう言った。
 その様子を見て、ようやく頭がはっきりしてきた仁美は、この子は何も知らない、幼い子供なんだ、と思った。
 普通の子供に、あんな異形の羽は生えてないが、そんな事は気にならなかった。
 だから仁美は、今の自分に出来る精一杯の愛を教えようと思った。

「いいえ。「愛」が痛いものとは限りませんわ。だって愛は、心地よいものだったりもしますもの」
「そうなの……? じゃあ……愛ってなぁに?」
「それはとても難しい問題ですわ」
「むずかしいの……?」
「ええ。本当の答えは無いと言っていいくらいに。
 なぜなら、「愛」というのは様々な形を持っていますの。
 人の数だけ、愛の形があるといっても過言ではないかもしれません」
「へぇ……そうなんだ………」
 少女は本当に不思議そうな顔をしている。

 そう、愛には様々な形がある。
 恋愛、親愛、友愛など、身近なものだけでもこれだけあるのだ。
 言葉にならないような曖昧な愛情も含めればもっと多い。

「けれど「愛」というものには、絶対にではありませんが、共通する事があります」
「共通すること……?」
「はい。それは、その人の傍にいたい。その人に傍に居て欲しい。
 それに何より、その人に笑顔になって欲しい、という想いです」

 想い返すのは一人の少年のこと。
 事故に遭い、夢を断たれてしまった愛しい人。

 私は彼の傍に居たいと思っているし、彼にそばに居て欲しいと思っている。
 そして何より、彼に幸せになって欲しいと願っている。

「「愛」に確かな形は有りません。けれど、大好きな人の傍に居ると、とても温かい気持ちになりますの。
 けれどそれだけに、その人の傍に居られなかったり、その人と喧嘩して嫌われてしまったりすると、胸が張り裂けそうに痛くなりますわ。
 ……ああ、そう言う意味では確かに、痛いのが愛と言えるかもしれませんね」
「そばにいたい……そばにいられないと、胸が痛い……。それが……「愛」………?」

 そう言って少女は自分の胸に手を当てた。
 その中には、自分の身体を動かすための動力炉がある。

「イカロスおねぇさまも、ここが痛いって言ってた………。
 ………そっか。おねぇさまはサクライ=トモキを、愛してるんだ……」

 それがどんなものかは、まだわかからない。
 けどおねぇさまたちは、サクライ=トモキのそばにいたいと思ったのだろう。
 だからシナプスを裏切ったのだ。

「ねえ、もっと「愛」を教えて!
 「愛」っていろんな形があるんだよね! 私、もっと「愛」を知りたいの!!」
「残念ですけど、「愛」は教えることの出来るものではありませんの。
 「愛」は、心で感じるものなのです」
「そう……なんだ………」

 残念そうな顔をして、彼女はそう言った。
 そのことに少女は目に見えて落ち込んだ。

 やっと「愛」がわかったと思ったのに、「愛」にはいろんな形があるらしかった。
 「愛」は教えることの出来るものじゃなくて、心で感じるものだって言われた。

 エンジェロイドは地蟲(ダウナー)とは違う。
 エンジェロイドには「愛」も、「夢」も、「心」もプログラムされていない。
 ないもので何かを感じることなんて――――

「…………あれ?」

 なにか、変だと思った。
 「愛」がプログラムされてないのは、おねぇさまたちも同じはず。
 けどおねぇさまたちは、サクライ=トモキを愛してる。
 それに、「愛」は「心」で感じるものらしい。
 ならおねぇさまたちにも……エンジェロイドにも「心」があるのだろうか?
 それにそもそも―――

「「心」って……なんだろう……」

 「心」を知ることが出来たなら、「愛」を知ることも出来るのだろうか。
 そう思って、「心」を教えてもらおうと顔をあげ、

「そうだ。あなたの「愛」の形を、一緒に探しませんこと?」

 パン、と手を合わせ、急に立ち上がった仁美に押し留められた。

「「愛」を……探す……?」
「ええ、そうですわ。ここでじっとしていたって、何も見つかりませんもの。
 だから私と一緒に、あなただけの「愛」を探しに行きましょう?
 いろんな人に話を聞けば、何かきっかけが掴めるかもしれませんわ」
「……いいの?」
「ええ、もちろんですわ。私の用事は急がなくても出来ることですし」
「用事って?」
「それはですね、みんなで一緒に、ここよりもずっと素晴らしい場所に行くための儀式ですわ。
 ―――ああ、そうだ! あなたもぜひ、その儀式に参加してくださいな。
 ええそうですわ、それが素晴らしいですわ! そうと決まれば急ぎましょう!」

 そう言うや否や、仁美は少女の手を取って歩きだした。


 ――――その握られた手に何を感じたのか。
 少女はじっと、握られた手と先を歩く仁美の後ろ姿を見つめていた。


        ○ ○ ○


 ―――三十分前―――


 土地ごと切り取られ、波の音を無くし凪いだ港に、怒りの籠った奇声が響き渡った。

「おのれ! おのれおのれおのれェッ!!
 あれほどに待ち焦がれた我が聖処女との逢瀬を妨げるとはッ!!
 許さぬ……思い上がるなよ匹夫めがァ!!」

 頭皮を掻きむしりながら、この殺し合いの主催者足る男に罵声を張り上げる男の名はジル・ド・レェ。
 第四次聖杯戦争においてキャスターのクラスで召喚されたサーヴァントであり、かつてフランス救国の英雄となりながら狂気へと凋落し、『青髭』と呼ばれ『聖なる怪物(モンストル・サクレ)』と恐れられた男だ。
 彼は万全の準備を整え、いざや己が聖処女を迎えに馳せ参じんとしたところを、この殺し合いに招かれたのだ。
 そのため、整えに整えた準備は全て無為となり、聖処女との邂逅に高ぶっていた感情は、転じて真木清人への怒りとなった。

「……まあ、とりあえずそれは後回しです。
 あの愚かな男はいずれ誅伐するとして、まずはリュウノスケと合流し、この忌々しい首輪を外し、我が聖処女を迎え入れるための準備を整えなくては」

 だがその怒りもしばらくすれば冷め、改めて己が聖処女の元へと向かうための準備を――ひいては如何に儀式の為の生贄をどう調達するかを考え始める。

「―――あの、どなたかいらっしゃるのですか?」

 そこに、一人の来客があった。
 積み重ねられたコンテナの影から現れたのは、学生服を着た少女だった。

「ふむ、どなたですかな?」
「はい。私、志筑仁美と申します。
 ここには人の声が聞こえたので、どなたかいるではと訪れましたの」
「そうでしたか。これはお見苦しいとこを見せてしまいましたかな?
 私のことは『青髭』とでもお呼びください」
「青髭さん……ですか?」

 そのどこかで聞いた様な、聞かなかったような呼び名に、少女は僅かに当惑している。
 その様子を見て、青髭はこの少女をどうするかを考える。

 常であれば、即座に海魔の生贄として処置を施すところではある。
 だが、忌々しくも盟友の遺した魔書に栞の如く挟まれていたメモによると、魔術を行使すればするだけメダルを消費するように制限を掛けられているらしい。
 主催者の定めたルールに従うつもりなど毛頭ないが、魔術の行使に支障が出るのは看過できない。

「……ふむ、仕方ありませんね」
「あの、どうかなされましたか?」

 青髭の声に反応し、疑問を投げかけてきた少女の額に指先を当て、そのまま何か意味のとれない言葉を一言二言ばかり呟いた。
 その時にはもう、少女の瞳からは意志の光が消えていた。

「間に合わせになりますが、聖処女と相見えるその直前に処置を施すとしましょう。
 なに、数をそろえれば儀式には事足りるでしょう」
「………ぎし――き?」
「然り! 神に裏切られし我が聖処女、ジャンヌ・ダルクをお迎えするための儀式!
 忌々しいことに彼女は今なお神によって束縛されている! 故にさらなる背徳を! 冒涜を! 涜神の生贄を以って神威の失墜を、神の愛の虚しさを示し、彼女の魂を神々の呪いから解放するのです!!」
「……それは素晴らしいですわ! 邪魔なだけの生きている体から、自由な魂を解放するのですね!」

 青髭は大仰に両手を広げ、自らの決意を高らかに宣言する。
 我を阻むものはない、否、阻む者は須らく背神の贄と捧げてくれようと。

 ――――彼が聖処女と仰ぐ少女が、全くの別人であることを解すことなく。

「さあ今度こそ貴女を、恐怖と絶望を以って忌まわしい神共から救って差し上げますぞジャンヌ゛―――ッッ!!??」

 だが、その悪逆の道が歩まれる事はなかった。
 青髭の胸の奥、心の臓腑に突き立てられたナイフによって。
 そしてそれを成した下手人は、つい先ほど自らの手で生贄の為の傀儡とした筈の少女だった。

「では青髭さんは、先にその素晴らしい世界へと向かい、ジャンヌさんを歓迎する準備を整えておいてください」
「ッ――、―――ッッ!!!」
「私はそのジャンヌさんを含め、儀式に参加して下さる皆さんを招待して参りますわ」

 青髭は、キャスターのクラスで召喚されながらも、自身は一切の魔術師としての能力を持っていない。
 その魔術は全て、強力な魔道書である宝具“螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)”による補佐を得て行使されていたのだ。
 故に彼は気付く事が出来なかった。
 志筑仁美の首筋に浮かび上がる、小さな呪刻の証に。


 “魔女のくちづけ”
 それは“魔女”によって齎されるモノであり、紋章の浮かび上がった人間を死に誘う呪力を持つ。
 確かに志筑仁美の意志は青髭によって剥奪された。だが“魔女の口付け”は仁美の意志を呼び覚まし、死への方向性へと導いたのだ。
 青髭は仁美の意思を奪うのではなく、支配するべきだったのだ。

 だがそれももう遅い。
 心臓に突き立ったナイフは既に彼の命を奪っている。
 その証に、彼の首輪からはメダルが零れ出し、止まることはなかった。

「お、のれ……この、魔女め……が―――ッ!!」
「それでは青髭さん、御機嫌よう。
 魂の解放された素晴らしい世界で、また会いましょう」

 突き立ったナイフを引き抜き、その体を突き飛ばす。
 突き飛ばされた青髭はよろよろと後退り、最後には埠頭の縁を踏み外して海の底へと落ちていった。

「では私も、ジャンヌさん達をお迎えする準備を整えませんと」

 青髭が取り落とした魔道書やデイバック、メダルを回収しながら、志筑仁美はいずれ至る“素晴らしい世界”に心躍らせていた。

 ―――自身が何をしたのかも。その“素晴らしい世界”がなんなのかも解さぬままに。


        ○ ○ ○


 ―――“魔女のくちづけ”を受けた志筑仁美が、少女とまともに会話を出来た理由は定かではない。
 この殺し合いの会場に“魔女”が存在しないからか。それとも目の前の少女が“人間ではない”からか。
 少なくとも少女より齎された筈の“死への恐怖”を、彼女が恐怖と感じなかったからであることは確かだ。

 だがいずれにせよ、志筑仁美が“魔女のくちづけ”を受けている事実には変わりはない。
 その呪いがある限り、彼女は必ずや周囲に死を招くだろう。
 それが他者のものであるか、自身のものであるかは別として―――


「そう言えば自己紹介がまだでしたわ。
 私は志筑仁美と申します。あなたのお名前は何ですか?」
「私は第二世代エンジェロイド・タイプε「Chaos(カオス)」だよ」
「カオスさん、ですね。わかりました。これからよろしくお願いいたします」

 お互いに今更な自己紹介をし、頭を下げる。
 その際に仁美はあることに気付いた。

「あら? カオスさん、靴はどうなされたのですか?
 女の子が裸足で歩くなんて、いけませんことよ」
「靴? 靴って、これのこと?」
「……まあ、確かにそれも靴の一つではありますわね。
 ちょっとブカブカですけど、裸足よりは良いでしょう」
「………………」

 仁美はカオスが取り出した上靴を受け取り、少女に履かせる。
 カオスは自分の穿いた上靴を不思議そうに見つめ、何度か足踏みする。

「愛なの……?」
「?」
「これも……愛なの……?」
「そう……ですね。優しさも、愛の一つと言えるかもしれませんわ」

 それを聞いたカオスは、いくばくかの巡思をする。
 不意に握られた手は――温かかった。
 靴を履かせてもらった足は――温かい。
 多分この温かさが、「愛」の欠片なのかもしれない。
 そう思って、

「うん……!!」

 「心」の底から湧き上上がった笑顔を浮かべた。
 それを見て仁美もまた微笑む。

「さて、それではどこへ向かいましょう。
 あら? カオスさん、それは何ですか?」
「たぶん方位磁針みたいなだと思う。おねぇちゃんもこれで見つけたの」

 カオスが持つ手の平サイズのコンパスは、ずっと仁美の方を指し続けている。
 試しにカオスがぐるりと仁美の周りを回っても、それは変わらなかった。

 このコンパスは魔力針といって、より強い魔力を発している方角を示すものだ。
 そしてこのあたりで最も強い魔力の発信源は、仁美の持つ魔道書だった。

「あらあら、これでは役に立ちませんわね」
「うん……」
「あら? あれは何でしょう」

 そう言って仁美が視線を上げた先にあったのは、もくもくと上がる黒煙だった。

「丁度いいですわ。あちらに向かいましょう」
「うん……!」

 そう言うと、仁美は再びカオスの手を取って歩き出した。
 握られた手の温かさに、少女は少し笑みを浮かべながら同じように歩いた。

 ―――その手の導く先に、いかなる答えがあるのかを解すために。


【キャスター@Fate/zero 死亡】

【一日目-日中】
【A-4/埠頭】

【志筑仁美@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】緑
【状態】全身打ち身(軽度)、“魔女のくちづけ”
【首輪】195枚:0枚
【装備】江崎志帆のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、螺湮城教本@Fate/zero
【道具】基本支給品×2、洗剤二本(混ぜるな危険)@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品1~5(キャスターの支給品を回収しました)
【思考・状況】
基本:みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る。
0.とりあえず煙の上がっている場所へ向かう。
1.カオスさんと一緒に、カオスさんの「愛」の形を探す。
2.知り合いを探す。
3.カオスさんやジャンヌさん達を儀式に招待する。
4.思考:1~を終えたら、みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る
【備考】
※“魔女のくちづけ”により、死に対する忌避感がありません。
 またどのような状況・形であれ、思考が現在の基本思考(死への方向性)に帰結します。


【カオス@そらのおとしもの
【所属】青
【状態】健康
【首輪】200枚:0枚
【装備】上靴@そらのおとしもの、魔力針@Fate/zero
【道具】基本支給品×2、ランダム支給品1~5(至郎田の支給品を回収しました)
【思考・状況】
基本:このゲームを楽しむ。
1.仁美と一緒に、自分だけの「愛」の形を探す。
2.温かいのが、「愛」?
3.「心」ってなんだろう?
【備考】
※参加時期は45話後です
至郎田正影を吸収しました



024:明日の この空さえ永遠じゃないかもしれない 投下順 026:青い薔薇は愛ある印!
023:ネコミミと電王と変態 時系列順 026:青い薔薇は愛ある印!
GAME START キャスター GAME OVER
GAME START 志筑仁美 046:成長!!
010:料理!! カオス


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最終更新:2013年11月01日 15:32