成長!! ◆LuuKRM2PEg



「くそっ……遅かったか!」

 B―5エリアで燃え盛る建物の前で、後藤慎太郎は拳を勢いよく電柱に叩きつけた。
 あの胡散臭い野球帽の男を探すために煙が立ち上る方に向ってみたが、見つけたのはこの惨状と無造作に散らばったデイバッグと荷物だけ。恐らくあの男は太った少年を殺して、それから建物を燃やしたに違いない。
 本当なら今すぐ消火しなければならないが、それに気を取られては野球帽に逃げられてしまう。

「あんな殺し合いに乗った馬鹿者は一刻も早く俺が裁かなければならないのに……何をやっているんだ俺は!」

 苛立ちの混ざった言葉を零しながら慎太郎は辺りを見渡すが、当然の事ながら誰もいなかった。
 あの卑劣な男をこのまま放置しては、犠牲者が増えてしまう。奴はグリードと同じで人を傷つける事を喜ぶような下劣な存在だから、平和を守る使命を持つ自分が排除しなければならない。
 危うさの秘めた強い正義感を胸に、ショットガンを強く握り締めた慎太郎は歩き出そうとするが――その途端に背後から足音が響く。

「誰だ!?」
「待ってください!」

 焦燥と共に振り向いた慎太郎の前に立つのは一人の女性だった。
 思わずショットガンの銃口を突き付けたが、相手の顔が驚愕に染まっているのを見て慎太郎は一瞬だけ後悔するが――その思いをすぐに振り払う。
 彼女の素性が分からない以上、油断するわけにはいかなかった。下手に気を緩めてはまた野球帽の男の失態を繰り返してしまう。
 だから慎太郎は決して警戒を怠らず、対話に持ち込んだ。

「驚かせてしまったようだ……だがあなたに聞きたい事がある。この殺し合いに乗っているのか?」
「いいえ、私は殺し合いに乗っていません……だから、銃を下してください」
「そうか……それに関してはこちらの責任だ。すまない」

 女性の表情が怯えに染まっていたようにも見えて、慎太郎の頭がほんの少しだけ落ち着きを取り戻す。ここで彼女を誤解させたままでは、先程のような失態を繰り返すだけだった。
 だからこそ慎太郎は、ショットガンの銃口を下していく。

「俺は後藤慎太郎と言う。俺だって、こんな殺し合いには乗っていない……いや、乗ってはいけないんだ!」
「それには私も同感です。こんな狂った戦い、許すわけにはいきませんから」

 すると、女性の表情からは先程とは一変して強い意志のような物が感じられた。例えるなら、まるで大切な誰かを守ろうとしているかのように。
 あまりの豹変ぶりに慎太郎は違和感を覚えるが、すぐにそれを振り払った。ここでまた感情のままに行動しては、世界の平和を守るというライドベンダー隊の使命を果たすことができない。

「申し遅れました。私の名前は園咲冴子と申します……慎太郎さんのような頼れる人と出会えて、光栄ですわ」
「……ッ!」

 園咲冴子と名乗った女性の頼りになるという言葉が胸に突き刺さるのを感じて、慎太郎は一瞬だけ顔を顰める。
 醜態を晒してしまったこんな自分のどこが頼れるというのか。殺し合いを止めることも出来ず、犠牲者が出てしまうのを許してしまうと男など、あの腐敗した官僚達と何も変わらない。
 慎太郎は胸中に満ちていくどす黒い感情を言葉にして吐き出したかったが、それを必死に堪える。ここで怒鳴り散らしても何も変わらないし、何よりも守るべき人である冴子を不安にさせてしまうだけ。
 そんな事になっては、真木清人という下劣な男の思い通りになるだけだった。

「あの、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません……」

 今にも爆発しそうな感情を抑えて、慎太郎は自分自身を落ち着かせながら静かな声で答える。

「俺があなたを何としてでも守ります。そして、平和を乱す奴らはこの手で裁きます……もうこれ以上、犠牲を出してはいけないのですから」
「わかりました。それでしたら、出来る限り私も力になります。どうか、決して無理をしないで下さいね?」
「……はい!」

 そう力強く頷くと、冴子は微笑んだ。
 この時、ようやく報われたと一瞬だけ慎太郎は思う。取りこぼしてばかりだった彼が抱く、ようやく誰かを守りたいという欲望が叶ったのだから。
 その甘い蜜は慎太郎の心を奪い、確実な充足感を与えている。故に、気付くことが出来なかった。
 目の前にいる園咲冴子もまた、慎太郎が忌み嫌う平和を脅かす者の一人であることを。


○○○


(ショットガンを突き付けられた時はちょっと焦ったけど……やっぱり、単純な男だったみたいね)

 園咲冴子はその顔に笑みを作りながら、心の中ではそう呟く。
 協力相手を一人でも多く捜そうと考えた彼女は煙が立ち上っているのを見て、危険人物と遭遇するリスクを犯してB―5エリアに向かって、後藤慎太郎と出会った。
 殺し合いに乗った者を裁くなどと大声で喚いていた馬鹿は、利用するには都合の良い人種だった。一人で突っ走って場を引っ掻き回す危うさもあるが、そうなったら捨て駒として見捨てればいい。
 今は敬愛する井坂深紅郎を守る為にも、慎太郎の上手い利用方法を考える事が最優先だった。深紅朗にとって邪魔となる参加者と潰し合わせるも良いし、いざという時の盾にしても良かった。
 どうにでも出来そうな手駒をこんなにも早く手に入れられたのは予想外だが、まるで天が自分の味方になったように思えて、実に心地良い。

「それで慎太郎さん、これからどこに向かいましょうか? 私達の仲間を捜すのは良いですけど、これだけ広いと何処に行けばいいのか……」

 だから今は慎太郎の警戒を少しでも解く為に、ビジネスを行う際に見せる社交辞令の笑みで演技をする。我ながら臭いと思うが、慎太郎はそれを全く疑っていない。

「……とにかく、今は少しでも情報を集めましょう。それにここにいては殺し合いに乗った奴らに不意を付かれてしまうかもしれないので、まずは安全な場所を目指さないと」
「そうですか……なら、行きましょうか」

 正義の味方のつもりでいる愚かな男が、まるで便利な操り人形のように思えてしまう。意気込む慎太郎を嘲笑いたくなったが冴子は堪えた。
 そして園咲冴子は感じている。利用出来る手駒を得てから欲望が満たされた結果、殺し合いの鍵を握るセルメダルが増幅している事を。


○○○


 後藤慎太郎と園咲冴子が去ってから十分ほど経過した後、炎に包まれた建物の前に訪れる参加者が現れた。
 素晴らしい世界に旅立ったキャスターの遺品である螺湮城教本を抱える志筑仁美は周りを見渡すが、誰も見つからない。激しく燃え広がる灼熱から生まれる熱風が肌に突き刺さるが、今の仁美はそれに関心を向けていなかった。
 彼女の思考を満たしているのは、素晴らしい世界の招待客が見つからなかった事だけ。残念な結果を前に微かな溜息を漏らす仁美の元に、カオスが空から現れた。

「カオスさん、見つかりましたか?」
「ううん、誰もいなかったよ」
「それは残念ですわね」

 首を振るカオスに仁美は頷く。
 空を飛べる彼女に目の届かない範囲の捜索を任せたが、どうやらこのエリアにはもう誰もいないと仁美は判断した。この世界の何処かにいる鹿目まどか美樹さやか達を早く見つけて素晴らしい世界に旅立ちたいが、まだまだ時間がかかるかもしれない。

「あ! でもね、代わりにこんなの見つけたよ!」

 仁美がクラスメート達との再会を希求していると、カオスが表情を輝かせているのを見た。その小さな白い手には、ストップウォッチのようにもUSBメモリにも見える奇妙な機械が握られている。

「それは、どこで拾ったのですか?」
「あっちの屋根の上に落ちてあったの!」
「そうですの……」

 仁美は知らないが、それはこの焼け跡から素晴らしい世界に旅立ってしまった橋田至に渡されていた仮面ライダーアクセルの強化アイテム、トライアルメモリだった。下手人である葛西善二郎が放り投げたそのメモリを、飛べるカオスが見つけられたのは当然の結果かもしれない。
 しかしこの場で起きた惨劇について何一つ知らない彼女には、トライアルメモリがただの機械にしか見えなかった。説明書も善二郎に破られて、その効果を知る人間は誰もいない。ただ、キャスターの遺品である螺湮城教本のように力を持っているかもしれないと、ぼんやりと予想するしか出来なかった。

「あら? そういえばカオスさん、さっきより背が伸びてません?」
「えっ……? あっ、本当だ!」

 仁美の言葉を受けたカオスは怪訝な表情を浮かべながら、傍らに立つカーブミラーを見上げる。すると、自分自身の姿を見た彼女の顔は一瞬で驚愕に染まった。
 このエリアに到着してから人を捜すために一旦別れた時より、心なしか身長が数センチ程伸びているように見える。

「どうしてなんだろう……?」
「それは、カオスさんが「愛」を得たいと思ったからですわ」
「えっ?」
「「愛」というものは、誰かの為に頑張りたいと思った時にも大きくなりますの。自分にとって大好きな人の力になりたい……その為に、今の自分から変わっていく事も「愛」の一つなのですわ」
「じゃあ、私が大きくなれたのも「愛」の力なの?」
「きっと、そうだと思います! 「愛」を得たいという思いが強くなればなるほど、カオスさんはどんどん大きくなっていけますわ!」
「そっか……なら、もっと大きくなりたいな! もっと「愛」の事を考えて、いつかおねぇちゃんよりもずっと大きくなる!」
「それはとっても楽しみですわね」

 遙か彼方の空で輝く太陽のように眩しいカオスの笑顔を見て、仁美も思わず微笑んだ。
 もしかしたらカオスは成長期に入ったから背が伸びたのだと、仁美は思う。エンジェロイドの事はよく知らないが人間と同じように考えるのだから、人間のように成長するのかもしれない。
 カオスはこれから「愛」の事を学ぶたびに、もっと大きくなっていく。今の仁美にとって、それは素晴らしい世界に行く事の次に楽しみだと感じられた。

(カオスさん、これからどんどん大きくなるのですね……とっても、楽しみですわ!)

 これからどんどん大きくなっていくカオスの姿を楽しみにしながら、志筑仁美は小さくて白い手を優しく握り締める。その姿はまるで、愛娘の成長を楽しみにしている母親のようだった。


○○○


 カオスの背丈が伸びたのには理由がある。
 彼女がこの会場に飛ばされてから最初に吸収した男、至郎田正影はその体内にドーピングコンソメスープという名の劇薬を投入していた。それを打ち込めばどんな人間だろうと、一瞬で筋骨隆々とした肉体を手に入れることが出来る。
 カオスが吸収したのは正影だけでなく、正影の体内にあったドーピングコンソメスープも含まれていた。人体を急激に成長させる薬の成分を、カオスに組み込まれた自己進化プログラム「Pandora」は解析。首輪の制限によってPandoraの機能は落ちているものの、ゆっくりとだがカオスを確実に成長させていた。
 とある世界に存在するカオスは様々な海洋生物を吸収した事で、少女から大人のように肉体を成長させている。それと同じ現象がドーピングコンソメスープによって、ここにいるカオスにも起こっていた。
 しかしその未来を知る者は誰もいないし、これからカオスの身に起こる事も誰にもわからない。それでも、カオスはゆっくりと大きくなっていた。
 全ては「愛」の形を知る為に。



【一日目-午後】
【B-6】


【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、強い苛立ち
【首輪】所持メダル100:貯蓄メダル0
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品0~2(確認済み)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊としての責務を果たさないと……。
  1:今は園咲冴子を守り、少しでも安全な場所に行く。
  2:殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
【備考】
※参戦時期は原作最初期からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※橋田至の基本支給品(食料以外)とデイバッグを回収しました。


【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚(増加中):0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW、スパイダーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
1.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
2.井坂と合流する。異なる陣営の場合は後で黄陣営に所属させる。
3.協力相手と武器が欲しい。
4.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用する。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※後藤慎太郎という協力相手を得たことで、セルメダルが増加しています。


【共通事項】
※後藤慎太郎と園咲冴子の二人がこれからどこに向かうのかは、後続の書き手さんにお任せします。


【一日目-午後】
【B-5/焼け落ちた民家の付近】


【志筑仁美@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】緑
【状態】全身打ち身(軽度)、カオスへの強い期待、“魔女のくちづけ”
【首輪】195枚:0枚
【装備】江崎志帆のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、螺湮城教本@Fate/zero
【道具】基本支給品×2、洗剤二本(混ぜるな危険)@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品1~5(キャスターの支給品を回収しました)
【思考・状況】
基本:みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る。
0.とりあえずこれからどこに向かいましょう?
1.カオスさんと一緒に、カオスさんの「愛」の形を探す。
2.知り合いを探す。
3.カオスさんやジャンヌさん達を儀式に招待する。
4. カオスさんが大きくなるのがとても楽しみ。
5.思考:1~を終えたら、みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る
【備考】
※“魔女のくちづけ”により、死に対する忌避感がありません。
 またどのような状況・形であれ、思考が現在の基本思考(死への方向性)に帰結します。


【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】健康、成長中
【首輪】200枚:0枚
【装備】上靴@そらのおとしもの、魔力針@Fate/zero
【道具】基本支給品×2、トライアルメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1~5(至郎田の支給品を回収しました)
【思考・状況】
基本:このゲームを楽しむ。
1.仁美と一緒に、自分だけの「愛」の形を探す。
2.温かいのが、「愛」?
3.「心」ってなんだろう?
4. もっと「愛」の事を知って、仁美みたいに大きくなりたい!
【備考】
※参加時期は45話後です。
※至郎田正影を吸収しました。
※吸収した至郎田正影の体内にあるドーピングコンソメスープの影響で、アニメ版のように身長が少しずつ伸びています。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より落ちています。
※今後どんなペースで成長していくかは、後続の書き手さんにお任せします。


【共通事項】
※志筑仁美とカオスの二人がこれからどこに向かうのかは、後続の書き手さんにお任せします。

045:愛と復讐と海の記憶 投下順 047:Aの策略/増幅する悪意
044:知略と猫科と必勝法 時系列順 047:Aの策略/増幅する悪意
022:橋田イタルの悪運 後藤慎太郎 070:サエコの いかりの ボルテージが あがっていく!
029:Sの誇り/それが、愛でしょう 園咲冴子
024:探求!! 志筑仁美 049:招待!!
カオス



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最終更新:2012年10月26日 02:19