青い薔薇は愛ある印! ◆LuuKRM2PEg



「……本当にごめんなさい、ヒーローでありながら助けることができなくて」

 燦々と輝く太陽の元で、ブルーローズことカリーナ・ライルの瞳からは一筋の涙が流れている。人を助けるために存在するヒーローである自分が、人を助けることができなかった。
 ある日から『NEXT』と呼ばれる超能力に目覚め、シュテルンビルトの平和を守るために『ヒーロー』の名前を背負って力を尽くし、多くの人を助けてきた。それなのに、罪のない少女を二人も死なせてしまう。
 それが彼女を罪悪感で苦しめている理由となっていた。普段演じている、企業から求められた高飛車なキャラクターを忘れてしまうほどに。

「本当にごめんなさい……!」

 届かないことが分かっていても、二人に謝らずにはいられない。
 彼女たちはきっと平和な毎日を過ごしていたはずなのに、殺し合いなんて意味が分からない物の犠牲にされてしまった。自分にも巻かれたこの首輪が爆発し、首を無残に吹き飛ばされて。
 同じ女の子として、あの光景はあまりにも辛すぎた。出来ることなら悪夢であって欲しいが、これは紛れもない現実。そして今もこの妙な空間の何処かで、犠牲者が出ている可能性は充分に考えられた。
 それに考えが至った瞬間、カリーナは涙を拭う。そして殺し合いなどという狂った所行を、一方的に強制させた真木清人に対して憤りが沸き上がった。

「ふざけないでよね……ヒーローの私が、人を殺せですって……!?」

 人を人とも思わない、まるで虫けらでも見るかのような男の目を思い出して、思わず拳を握り締める。
 グリードだの殺し合いのルールだの、こちらを無視した発言に怒りを通り越して吐き気すら覚えた。本当なら今すぐにでもNEXT能力で奴を凍らせて刑務所に放り込みたいが、現状ではあまりにも難しい。
 恐らくあの男はここから簡単に辿り着けない場所から、自分達を見下ろしている筈だ。爆弾が設置された首輪に、自分が生き残るために他者を蹴落とす。こんな卑劣で悪質極まりないやり方に、カリーナは覚えがあった。
 以前、ワイルドタイガーの偽物に敗北して囚われの身となり、ロトワングと言う下劣な男から似たような事をされた。本当ならもう二度と思い出したくもなかったが、真木によって嫌でも穿り出される。
 しかも今度は鏑木・T・虎徹ことワイルドタイガーやバーナビー・ブルックスJr.、更には司法局の人間であるユーリ・ペトロフまで巻き込まれていた。ネイサン・シーモアことファイアーエンブレムを含めて、彼らが真木に従う可能性は考えられない。
 無論、それはカリーナとて同じ。かつては歌手になりたいという願いだけでヒーローを目指したが、タイガー達との交流によってヒーローの意義を知った。
 あのホールで虎徹が真木に対して宣言したように、誰一人も殺させるつもりはない。そんな決意を固めながらカリーナは、名簿に目を向ける。
 六十五人もの人間がこんなふざけた殺し合いに巻き込まれている事に再度憤りを募らせる中、ある疑問が芽生えていた。


 名簿に書かれているジェイク・マルチネスという名前。それはカリーナにとって、マーベリックやロトワングと同じくらい思い出したくない男の名だった。
 かつてシュテルンビルト・シティ全域を恐怖のどん底に叩き落とし、心を読み取るNEXT能力で多くのヒーローを倒してきた犯罪者。しかしジェイクは虎徹やバーナビーとの戦いに敗れて逃走し、その後死亡したはずだった。
 同姓同名の他人なのか? しかしもしも自分が知るジェイク本人であれば、間違いなくこの殺し合いに乗るはずだ。二つの能力を持つという特異なNEXT能力者が相手では、一人だと勝算が薄い。
 それでも、誰かを傷つけているというのであれば止めなければならなかった。

「とりあえずジェイクに関しては会ってからでいいわね。問題は……」

 不意に彼女は、正義の壊し屋と呼ばれた男の姿を思い返す。
 虎徹はワイルドタイガーとして、殺し合いに巻き込まれた全ての人達を助け出そうとする筈だ。それは容易に想像できるし、どんな事があろうとも絶対に諦めなかった彼の姿に何度も憧れた。
 しかし今の彼は、ハンドレットパワーの減退によって一度はヒーロー業を引退している。今はHERO TVに復帰しているものの、かつて程の能力は発揮出来ていない。でも虎徹はそんな事などお構いなしに、ヒーローとして戦う筈だ。
 そんな状態で戦い続けては、一歩間違えたら取り返しの事になりかねない。

「みんな、お願いだから無茶はしないで……特にタイガー、あなたがいなくなったらみんなは悲しむし……楓ちゃんは一人ぼっちになるんだからね」

 かつて偽者のワイルドタイガーの攻撃により、虎徹が致命傷を負ってしまった時にヒーローのみんなが悲しみに沈んだのを忘れない。特に彼の娘である鏑木楓は泣き崩れていた。
 もしも虎徹に何かがあったら、今度こそあの子がどうなるのか分からない。そうなってしまうのは、カリーナにとって何よりも嫌だった。


 ○○○


「嘘でしょ……こんなの、嘘に決まってるよね……!?」

 牧瀬紅莉栖の声は震えていた。恐怖、絶望、失意、驚愕、悲哀……様々な感情が彼女の脳裏で沸き上がり、滅茶苦茶に混ざり合っていく。
 暴風雨のように荒れ狂う感情によって紅莉栖の膝は力無く落ちていき、反射的に両手が地面に付く。そこに常日頃の怜悧さや、無愛想な雰囲気は一切感じられない。

「どうしてよ……どうして、まゆりが……!」

 彼女の脳裏を支配してるのは親しい少女が死ぬ光景。共に過ごしてきた少女が何の前触れもなく、殺された。
 唐突に首が爆発し、頭蓋が跡形もなく一瞬で吹き飛んだと思ったら、赤い血や桃色の肉片が周囲に霧散する。それが何を意味しているかなんて考えなくても分かるが、考えたくない。
 一体何が起こったかなんて到底受け入れる事が出来なかったが、彼女の頭脳は答えを瞬時に導き出していた。椎名まゆりは死んでしまったことを。

「どうしてまゆりが殺されなきゃいけないのよっ!?」

 憤りと悲しみが叫びと共に、紅莉栖の瞳から涙が溢れ出していく。止めどなく溢れる雫を拭おうともせず、彼女はただ空を睨み付けていた。
 いつも見慣れてきたそれも今の紅莉栖にはひたすら憎々しく思えた。あの向こうから、真木清人という男がこちらを覗き込んでいるように思えて。

「一体まゆりが何をしたって言うの!? どうしてあんなにいい子を殺したの!? まゆりが殺されなければならない、理由があるって言うの!?」

 真木がこちらに向けてきた吐き気を催すほど傲慢な視線を忘れない。奴はまるで、日常で繰り広げる当たり前の出来事のようにまゆりを殺した。
 彼女はラボメンの為にいつも一生懸命頑張っていて、悩んだ時はみんなの為に動いてくれたりもした。それなのに、どうして殺されなければならないのか。

「これじゃあ、岡部は何の為に頑張ってきたって言うのよ!? あいつは一人で頑張ってきたのよ!」

 胸の奥から込み上げてくるやり切れない思いを言葉にして吐き出すが、尽きる気配は全くない。むしろ、時間の流れと共に増幅していた。
 ある日、目の前に現れてきた岡部倫太郎は自分に全てを話してきた。まゆりを救う為に、タイムリープマシンを使って何度も時間を跳躍したと。
 最初は疑ったが、話を聞いている内に彼の言葉が真実であると知った。彼が言うにはどの世界線でもまゆりは死ぬ運命にあり、それを防ぐ為にたった一人で数え切れない程過去に向かって飛んだらしい。
 幾ら守っても、幾ら逃げようとしても、世界の運命はまゆりを殺すように導いた。そして今回も真木という男によってまゆりは殺されてしまう。

「答えなさいよ……っ!」

 流れ出る涙は次々と零れ落ちては地面で弾け飛び、跡形もなく吸い込まれる。今の紅莉栖には動くこともまともに思考を働かせることも出来ずに、ただ泣き崩れていた。

「ねえあなた……大丈夫!?」
「――ッ!?」

 悲しみに沈む中、彼女の耳に声が響く。それを察知した瞬間、紅莉栖の思考が一気に覚醒した。
 そして、今の自分がどんな状況に置かれているのか、そして真木は自分達に何を強制したのかを記憶から掘り起こす。
 ここは殺し合いの戦場。自らの生き残りを賭けて、他者を容赦なく蹴落とす弱肉強食の世界だ。ラボメンのメンバーがそんなのに乗る可能性は考えられないが、世界にいるのは善人だけではない。
 自分の為に誰かを犠牲にするような輩だって、数え切れないほどいる。

「誰ッ!?」

 全身の細胞が警鐘を鳴らす中、彼女は反射的に振り向いた。もしもこんな時に通り魔のような奴が現れたら、ここで一巻の終わり。
 どうか普通の人間であって欲しいと強く願う。

「……えっ?」

 しかし紅莉栖の緊張は一瞬で解けていった。目の前に立っているのは彼女とほぼ同年代に見える一人の少女。
 けれどもその格好はあまりにも普通に見えなかった。髪の毛も瞳も青で染まっていて、到底日本人とは思えない。青と水色を基調に彩られた服装は胸元や四肢を大きく露出させていて、腰から伸びた薔薇の茎みたいな飾りが二本も伸びていた。
 そしてよく見ると袖やロングブーツ、更にはキャップ帽にはよく見かける炭酸飲料水のロゴが大きく描かれている。現れた少女のあまりにも奇妙すぎる格好に、紅莉栖は見覚えがあった。
 超巨大電子掲示板サイト@ちゃんねるを利用する者の中には、時に自分の存在を異常に誇示する人種がいる。そして、そういう人はたまにアニメや漫画のキャラクターが纏うコスチュームを着る事もあった。
 ここにいる彼女がこんな妙な格好で堂々としているのは、そういう事なのだろう。

「コスプレイヤー……?」
「は……?」

 唖然とした表情を浮かべる紅莉栖のように、ブルーローズの姿をしたカリーナもぽかんと口を開けることしか出来なかった。


 ○○○


「過去に何度も飛んだって……本当なの!?」

 カリーナ・ライルにとって牧瀬紅莉栖と名乗った少女の話は、完全に理解の範疇を超えていた。何処にでもいる普通の一般市民かと思い保護したが、話を聞いている内に普通ではないことを知る。
 彼女の知り合いである岡部倫太郎という男性は、真木によって犠牲にされた椎名まゆりという少女が死ぬ運命を変えるために過去へ何度も飛んだらしい。それもNEXT能力のような力ではなく、タイムマシーンに準ずるような機械を使って。
 そんな技術など、カリーナにとっては未知の物だった。

「ええ、私も本当かは分からないけど岡部はそう言ってたわ……まゆりを助けるために何度も時間を超えたって」
「そう……まさか、そんな夢みたいな事が出来るなんて」
「私から言わせれば、NEXT能力者やヒーローなんてものこそ夢物語みたいなものだわ。ましてや企業のロゴを背負って悪人と戦うなんて、ありえないわよ」
「むっ……」

 自分の誇りとも呼べる行いをあっさりと否定されたことで、カリーナは少しだけ表情を顰める。しかしその苛立ち以上に、根本的疑問が彼女の中に広がっていた。

「でもあなた、本当に知らないの……? 私達ヒーローやNEXT能力者の存在を」
「知らないわ。あなたの言っていたシュテルンビルトって街やHERO TVなんて番組だって、聞いたこともないし」
「どういう事なの……どっちも有名だと思ったけど?」
「これは私の推測だけど、私とあなたの生きる時代が違うんじゃないかしら」
「えっ?」

 紅莉栖の言葉によってカリーナの表情は疑問に染まる。

「それって、どういうこと……?」
「少なくとも私が生きてる時代じゃ、あなたの言っているような存在はフィクションの中でしか有り得なかったわ。でも、あなたの生きてる時代じゃありえない存在じゃなくなってる……これじゃあ、私達の認識が噛み合わなくて当然だわ」
「え……もしかして、私とあなたが違う時代の人間って意味?」
「そういうことになるわね」
「じゃあ、あの真木って男は時間を自由に行き来する手段を持っているって言うの!?」
「……認めたくないけど、その可能性は高いわね。何の為にわざわざ違う時代に生きる私達を一ヶ所に閉じこめたのかは、まるで理解出来ないけど」

 溜息と共に出てきたその推測は、カリーナを驚かせるのに充分な威力を持っていた。
 目の前にいる牧瀬紅莉栖という少女は、ヒーローやシュテルンビルトに関する情報をまるで知らないからよほど遠い国に住んでいるかと思ったが、そこまで世界の情勢に疎そうでもない。
 そして出てきたのが、この殺し合いに巻き込まれた全員を違う時代から攫ってきたというあまりにも突拍子もない理屈だった。しかし、タイムマシンがあると聞いた今、可能性としてはゼロではない。
 真木自体が時間を飛ぶことが出来るNEXT能力を持っているか、時間を飛ぶ手段を持つ奴と関わりを持っていることも考えられた。それも、ウロボロスのようなタチの悪い連中が後ろにいる事もありえる。

「とにかく今はみんなを捜さないと……こんな状況じゃ、いつ何が起こったっておかしくないでしょうから」

 そう言いながらデイバッグを持つ紅莉栖の目は、よく見ると赤くなっていた。
 そしてカリーナは思い出す。ついさっき、彼女はまゆりが死んだ事で酷く泣いていた。
 救いたい人を救うことが出来ずに、死なせてしまう。その辛さは自分よりも遙かに大きいはずだった。

「……ごめんなさい」
「えっ?」
「まゆりって子、本当なら私が助けなければいけなかったのに助けられなくて……ごめんなさい」

 だからカリーナは謝らずにはいられなかった。紅莉栖はもう二度とまゆりに会うことは出来ないし、まゆりと笑ったり遊んだりすることが出来ない。
 それはヒーローとしてあってはならないのだから。

「……あなたのせいじゃないわ」
「えっ?」
「まゆりが死んだのは事実だけど、それであなたに責任が生じるなんて……ありえないわ」
「でも、私は――!」
「気持ちは嬉しいけど、今はみんなを捜したいの……そうしないと、何も始まらないし情報も集められないから」

 紅莉栖はそう言ってくれるが、声からはまるで力が感じられない。
 彼女は強がっている。それも友達の死という最悪の出来事を前に、折れないように立ち上がろうとしている。
 確かに悲しみを乗り越えることは大事だが、無理してやるのでは意味がない。

「そう……分かったわ。みんなを見つけるまで、私はヒーローとしてあなたを守ってみせるから」
「ええ、ありがとう……」

 だからカリーナは決意する。せめて残された彼女だけでも、この手で守ってみせると。
 きっとヒーローのみんなもそれを望んでいるはずだから。私が、ヒーロー界のスーパーアイドルと呼ばれている限り。


【一日目-日中】
【D-3】
【カリーナ・ライル@TIGER&BUNNY】
【所属】青
【状態】健康、まゆりや紅莉栖に対する罪悪感
【首輪】100枚:0枚
【装備】ブルーローズ専用ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本:ヒーローとしてみんなを守るために戦う。
1:まずは紅莉栖を何としてでも守る。
2:ヒーローのみんなが心配(特にタイガーが)
3:ジェイク・マルチネス……
【備考】
※マーベリック逮捕後からの参戦です。その為、虎徹の能力減退について知っています。
※ジェイク・マルチネスの名前について疑問を抱いています。


【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】
【所属】赤
【状態】健康、まゆりの死による悲しみ、真木に対する怒り
【首輪】100枚:0枚
【装備】不明
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本:とにかく今はやるべき事をやり、情報を集める。
1:まずはカリーナと行動し、みんなを捜したい。
2:ラボメンのみんなが心配。
【備考】
※岡部倫太郎がタイムリープを繰り返していることを知った後からの参戦です。
※この殺し合いの参加者は別々の時代から集められている可能性を考えました。
※NEXT能力者やヒーローに関する情報を知りました。


025:探求!! 投下順 027:誰がために黒兎は戦う
025:探求!! 時系列順 027:誰がために黒兎は戦う
GAME START カリーナ・ライル 051:Circumstances may justify a lie.(嘘も方便)
GAME START 牧瀬紅莉栖



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年07月03日 19:50