混線因果のダイバージェンス ◆SXmcM2fBg6

PREV:断片交錯のダイバージェンス


        ○ ○ ○


 一瞬で魔法少女の姿へと変身し倫太郎を守り切ったほむらは、変身した瞬間から消費され始めたメダルに煩わしい感覚を覚える。
 それはすなわち、自分達が今真木清人の手の平の上だという証明に他ならないからだ。

「それでどうすると言うのだ。俺が戦う事は出来んぞ」
「そんな事は分かっているわ。邪魔だから下がっていなさい」
 その言葉に頷き、校舎の影へと隠れる倫太郎を尻目に、ほむらはライアとファムの二人と相対する。


 暁美ほむらの能力は“時間停止”――そして“時間遡行”。
 時間を操る彼女の能力は、その特異性では最上位に位置する力だろう。
 だが逆に、それらの能力に特化しているが故に、戦闘能力は魔法少女の内では底辺に近い。
 故に彼女の戦闘方法は、その力不足を補うための多量の重火器であり、時間停止による奇襲・不意打ちだった。

 だがここで真木清人の化した制限が問題となる。
 ただでさえ彼女の集めた兵装は全て没収されているのだ。
 彼女の命綱ともいえる時間停止に、一体どれほどの制限が掛けられているのか。
 最悪、普段通りの戦闘を行う事すら満足に行かないかもしれない。となれば、

“頼れるのは、これらの武器だけね”

 対未確認生命体用強化装甲服・G3-Xの使用する特殊武装。
 眼前の二人に通用するかは判らないが、ただの銃器よりは有効だろう。
 そう決断し、左腕の“盾”の中から、GM-01スコーピオンを取り出し構える。

「生憎、お遊びに付き合うつもりはないの。さっさと倒させてもらうわよ」
《――SWINGVENT――》
《――SWORDVENT――》

 返答はなし。彼らは新たにカードを読み込み、武器を構えることで戦意を示してきた。
 ほむらはそれに応じる様に二人へと駆け出し、

「――――さようなら」

 彼らの背後から、GG-02サラマンダーのグレネード弾を発射。
 直撃し、炸裂した爆発が、ライアとファムを飲み込む。
 一撃で戦車も破壊するその威力に、二人はあっけなく吹っ飛ばされた。


 ―――停止時間は3秒。消費メダルは6枚。
 試験的に時間停止を行使して見たが、毎回この程度の消費なら何の問題もない。
 だが時間停止のメダル消費がルールブック通りのシグマ算であるのなら、4秒で10枚、5秒で15枚も消費する事になる。
 そうなればあっという間にセルメダルが底を尽く。やはり普段通りに戦う事は出来ないようだ。


 ライアとファムはまだ起き上がらない。
 あの青い装甲の男に召喚された彼らは、おそらく最初の白い装甲の人物と同じ存在だろう。
 そうであれば、彼らが真に倒れたのなら白い装甲の人物と同じように消え去る筈だ。
 メダル的にも弾薬的にも無駄な消費は避けたい。出来ればこのまま消えて欲しいところだが、

「やっぱり、そう旨くは行かないわね」

 ライアとファムがゆっくりと立ち上がる。
 よく見れば、ライアの左腕の盾が割れていた。
 おそらくあの盾で防ぐ事で、ダメージを最小限に抑えたのだろう。

 GM-01 スコーピオンからGG-02 サラマンダーを取り外し、GK-06 ユニコーン取り出しながら改めて銃口を向ける。
 もう先ほどの様な奇襲は通用しないだろう。
 今度こそ、本当の戦闘開始だ。油断は出来ない。

「――――――――」
「……………………」

 無言のまま、先ほどとは逆にライアとファムの方から迫り来る。
 対してほむらは、距離を詰められぬよう後退しながら引き金を引く。
 だがその弾丸は防ぐか弾かれ、ライアが鞭から電撃を放って反撃する。

 ほむらは危なげなくそれを躱すが、その隙に接近してきたファムが薙刀を振り抜いてくる。
 それを右手のGK-06 ユニコーンで捌きながら躱し、ゼロ距離から左手のGM-01 スコーピオンを連射して反撃する。
 ファムはたたらを踏んで後退するが、あまりダメージを受けたようには見えない。
 そしてファムとの距離が離れたところを、ライアが鞭で打ち据えようとする。
 当然それは後退して回避する。


 そうやって攻防を重ねながら、ほむらはG3-Xの武装に舌を巻くと同時に、敵の厄介さにも歯噛みをしていた。

 使ったG3-Xの武装はまだ二つだけだが、そのどちらも高い威力と、それに見合った反動を伴っている。
 魔力で肉体を強化していなければ、今頃手首の捻挫では済まない怪我を負っていただろう。
 だが相対した敵の強度も高く、GM-01 スコーピオン単体では大してダメージを与える事が出来ない。
 相手が一人ならばGG-02 サラマンダーを使う余裕もあるだろうが、二人がかりではその隙を狙われてしまう。
 時間停止の使用も含め、どうにか確実にどちらか一方でも倒す隙を作らなければ。
 と、そう考えていた、その時だった。

《――GUARDVENT――》

 その音声と共に、周囲に白い羽が撒き散らされた。
 同時に、その羽に紛れる様にファムの姿を見失う。

「これは……撹乱系の眩惑―――!」

 そう理解した直後、背後から刃が閃く。

「ク――ッ!」
 迫る一閃を辛うじて躱すも、背中に焼けるような痛みと、紅い飛沫が飛ぶ。
 その痛みを遮断し、即座にファムの方へと向けてGM-01 スコーピオンを撃つ。
 だがファムの姿は舞い散る羽に紛れ、放たれた銃弾は虚空を穿つだけだった。

「っ……厄介ね」
 この羽が舞い散る中でファムを捉えることは難しい。
 時間停止を使えば容易いだろうが、メダルの消費を考えれば避けたい。
 それに忘れてはならないのが、敵は一人ではないという事だ。

 舞い散る羽の中、唯一紛れずに存在を示す紅い装甲が、その手に持つ鞭から電撃を飛ばす。
 それを防がずに躱し、ライアへと銃口を向けるが、白い羽に紛れながらファムが現れる。
 振るわれる薙刀の一撃をGK-06 ユニコーンで防ぐが、その守りの隙を逃さずライアが鞭で打ち据える。

「グ………ッ!」

 追撃のファムの一撃を紙一重で避け、GM-01 スコーピオンを向けるが、ファムは既に白い羽に紛れている。
 それと入れ替わる様にライアが鞭を振るい、雷撃を飛ばしてくる。

「この、邪魔よ……!」

 転がる様にその一撃を回避し、ライアへと向けてGM-01 スコーピオンを撃つが、ライアは割れた盾を構え、弾丸を防ぐ。
 壊れた盾でも、GM-01 スコーピオンの弾丸を防ぐ程度にはまだ強度があるらしい。
 そしてその反撃を狙ったかのように、再び現れたファムが薙刀を薙ぎ払ってくる。
 その一撃をGK-06 ユニコーンで受け止め、GM-01 スコーピオンをファムに向けた……その瞬間。

「ッ、しまった……!」

 狙い澄ましたかのように、ほむらのGM-01 スコーピオンを持つ左腕をライアの鞭が絡め取った。

 ―――ほむらの時間停止の弱点は拘束系の技だと言える。
 なぜなら時間から切り離されるのはほむらだけでなく、ほむらと接触する他者をも時間から切り離してしまうからだ。
 この場合、鞭を使ってほむらの左腕を捕えたライアも一緒に、だ。
 ライアにGM-01 スコーピオンの弾丸を防げる防御力がある以上、時間を止めた所でメダルの無駄にしかならないのだ。

「くっ……、ッ……!」
 ファムの薙刀をGK-06 ユニコーンで捌く。
 時間停止が無駄な以上、ファムの攻撃を防ぎながら鞭を外す機会を狙うしかない。

 ……だが決して戦闘能力の高くないほむらにファムの斬撃を捌き切る事など出来るはずがなく、

「ッ――――!」

 ついにGK-06 ユニコーンが弾き飛ばされる。
 これで盾となる物は右腕にはなくなり、左腕は依然と拘束されたまま。
 その絶体絶命の窮地を逃れるためにほむらは可能な限り体を捻り、
 一切の感情なく、ファムはその刃を振り抜いた。


        ○ ○ ○


 放たれる銃弾を躱しながら、セシリアはどう戦うかを考える。
 敵はエビルダイバーに乗った海東大樹とブランウィングの一人と一匹。
 一対二という厄介な状況に加え、海東大樹が全ての手札を晒したとも思えない。
 定石であれば、深追いはせず相手の手の内を探るべきなのだが、こちらはISのエネルギーに余裕はあるが、メダルの残量が心許ない。
 となれば戦法など考えるまでもなく―――

「短期戦しか、ありませんわね」

 大樹が他にどんな効果のカードを持っていようと、使う前に倒してしまえば関係ない。
 それに何より、加速度的に増加するメダルの消費量からすれば、持って五分。
 故に速攻で終わらせるべく、初手から“ブルー・ティアーズ”を展開する。

「さぁ、踊りなさい! リズムを崩した時が、貴方の敗北の時ですわ!」

 四基のビットから、次々とレーザーを放つ。
 片方に二基ずつ。時としてその編制を入れ替えながら、大樹達を翻弄する。
 大樹とブランウィングを同一射線上に加えたりと多少の工夫も加えながら、まるで第三者の様に戦況を観察する。

 ……出来ればこのまま撃ち落としたいところだが、やはりそうはいかないだろう。
 その証拠に、大樹とブランウィングはサイガと同じように、自分に有利な位置へと移動している。


 ―――“ブルー・ティアーズ”の弱点は、ビットの展開時にその制御に集中せねばならず、その他の行動が出来ない事にある。
 つまりその間、セシリア自身は無防備になってしまうのだ。

 当然セシリアとてその弱点は理解している。
 故に戦いにおいては常に距離を取り、相手の行動に対処出来るようにしてきた。
 それは、相手が同じ射撃型だったとしても変わる事はない。


《――ATTACK RIDE・BLAST――》

 大樹が、彼にとってのベストポジションに着くと同時に、誘導性の散弾を放ってくる。
 ビット制御に集中するセシリアでは、その光弾を避ける事は難しいだろう。

 ―――だが、避けることが困難なのであれば、最初から避けなければいいだけの事だ。

「―――そこですわ!」

 大樹が散弾を放つと同時に、セシリアもビットの制御を中断し、大樹へとスターライトmkⅢの引き金を引く。

 ブラストのカードの効果は、すでに知っている。
 その散弾の威力ならブルー・ティアーズが落とされる事はまずない。
 故にセシリアは、早々に決着を付けるために敢えて攻撃を避けず、その隙を狙う作戦に出たのだ。
 しかし―――

「うおっとッ!」
「キャア――!」

 大樹の放った散弾はセシリアへと全て命中する。
 絶対防御が発動する様な急所だけは確実に守り、後は全て甘んじて受ける。
 しかしそうしてまで放ったセシリアの一撃は、大樹の乗るエビルダイバーを掠めるだけに終わった。
 なぜなら引き金を引いたあの瞬間、突如のして発生した突風に姿勢を崩されてしまったのだ。

 そして台風でもないのにISの機体制御を奪う程の風など、自然に起こるはずがない。

「このっ、邪魔ですわ!」

 肝心なところで暴風による妨害を行った存在。即ちブランウィングへと向けてスターライトmkⅢを撃つ。
 だが八つ当たりの様な攻撃ではブランウィングを捉えられず、ひらりと躱されてしまう。
 その間に接近してきた大樹から、即座に加速して距離を取る。

 ―――予想以上に厄介だ。
 セシリアとて一対多の戦闘に関する訓練は積んである。
 しかし訓練相手は全てIS。それ以外の、しかも人外との戦闘など想定していない。
 故に相手の行動予測が困難になっているのだ。

 今回の妨害にしてもそうだ。
 これがISであれば普通に攻撃した方が有効であり、その場合ブルー・ティアーズから警告が来る。
 だがブランウィングがした事は暴風を放つこと。
 攻撃でも何でもないただの風など、ISの警戒の範疇外だ。

「……仕方がありません。作戦Bに変更ですわ」

 作戦Bは、その危険度で言えば最初の作戦を上回る。
 だがISの定石が通用しないのであれば、四の五の言ってはいられない。
 そう決意し、セシリアは再びビットを展開して大樹達へとレーザーを撃つ。



 そうして大樹は、自身の勝利が近い事を予期した。

 セシリアの操るブルー・ティアーズは、その性能を見れば見るほど手に入れたくなる。
 今までに旅をした、どの世界にもない理論で構築された機動兵器。
 その機動は重力の影響を無視し、サイガやミラーモンスターさえ寄せ付けない。
 大樹とてディエンドの力がなければ、今頃撃ち落とされていた事は想像に難くない。

 惜しむらくは、その性能を現在の持ち主の少女が引き出し切れていないらしい事だが、それは今の状況では歓迎すべき事だろう。

「また同じ攻撃かい? もう少し考えた攻撃をしたまえ。
 それとも、勝てないと理解しての最期の悪あがきかい?」
「まさか。貴方の攻撃の方こそ、わたくしには何の問題にもなっていなくてよ。
 無様に撃ち落とされる前に、自分から降伏してはどうですの?」
「お断りだね。狙ったお宝は絶対に手に入れるのが僕の身上だ。諦めるつもりはない」
「あら、そうですの。では今直ぐに蜂の巣になりなさい!」

 その言葉と同時に四方から放たれるレーザーを、エビルダイバーを駆って回避する。
 全方位から際限なく放たれるレーザーは確かに脅威だ。
 だが、一度に放てる攻撃が四発だけならば、回避すること自体は難しくない。

「それじゃあ、そろそろ終わりにしよう」
「それはわたくしの台詞ですわ!」

 ブランウィングとエビルダイバーに指示を出し、セシリアへと一気に加速する。
 セシリアのビットによる攻撃パターンはもう見切った。
 そのパターンを元に割り出した、セシリアへの最短ルートを飛翔する。

 ディエンドドライバーによる銃撃でセシリアの気を逸らし、その間にブランウィングに退路を封じさせる。
 そのまま反撃のレーザーを一発、二発、三発と躱し、残り十メートルまで接近する。
 しかしその瞬間、大樹の周囲に、四基全てのビットが囲い込む様に展開された。

「残念。その程度は読めてましてよ」

 セシリアは大樹を嘲笑うかのようにそう告げる
 ビットの配置からして、ブランウィングによる妨害も見越してあり、避け切る事は出来ないだろう。
 だがしかし、

「読めていたのはこっちも同じさ」
《――ATTACK RIDE・BLAST――》

 ブラストのカードを挿入し、ビットへと向けて発射する。
 放たれた光弾は全てのビットへと着弾し、破壊するまでは行かずともその射線を大きく逸らす。
 そうして出来た檻の隙間を潜り抜け、

「掛かりましたわね」
「――――ッ!」
「四基だけではありませんのよ!」

 セシリアの脚部に接続された二基のビットから、計四発ものミサイルが発射された。

「っ――、やってくれるね……!」

 即座に回避行動を取るも、ミサイルは誘導式らしく大樹を迷うことなく追尾する。
 加えて大樹の乗るエビルダイバーにミサイル全てを躱せる程の機動力はない。
 もう少し距離があれば撃ち落とす事も出来たが、今の距離では爆発の巻き添えとなってしまう。
 故に大樹にミサイルを逃れる術はなく、数秒と持たずにミサイルに撃墜される。
 ――その直前、

《――ATTACK RIDE・INVISIBLE――》

 大樹の姿がエビルダイバーの上から消え去った。
 それにより標的を見失ったミサイルは、一発はエビルダイバー中り爆発し、残りは見当違いの方向へと飛んで行った。

「なっ……!? 一体どこに!?」

 ここは遥か空の上だ。
 例え全てのセンサーを誤魔化して姿を隠したところで、飛行の出来ない海東大樹にエビルダイバー以外の足場はない。
 だがそのエビルバイダーは落ち、残るはブランウィングだけだ。

 と、そこまで考え、ようやく“ソレ”がもう一つの足場である事に思い至った。

「―――ッ、しまった……!」

 咄嗟にブランウィングのいる方向へと視線を“見上げ”、

「―――ゲームオーバー。僕の勝ちだ」
《――FINAL ATTACK RIDE・Di Di Di DIEND――》

 モザイクの様なシアンカラーの極光に、セシリアの視界と意識は飲み込まれた。


        ○ ○ ○


 ほむらの命を奪うために、金色の刃が風を切る。だが左腕を拘束され、ほむらに逃れる術はない。
 故にせめてダメージを最小限に抑えようと、最大限に体を捻った――その時だった。

「ッ――――!」

 鞭を握るライアの手を赤い閃光が撃ち抜き、鞭を弾き飛ばす。
 そうして引っ張り合いの形で拮抗していた力が崩れ、ほむらの体はその勢いのままにバランスを崩した。
 その結果、ほむらの命を奪う筈だった刃は空を切るだけに終わった。

「あ、中った……!」
 すぐに体勢を立て直し声のした場所を見れば、岡部倫太郎の姿がある。
 彼はポインターを取り付けた銀色の携帯電話を、拳銃の様に構えていた。


 ―――その光線銃の説明を、ほむらは既に聞いていた。
 岡部倫太郎に支給された、仮面ライダーファイズに変身出来るというファイズギア。
 今彼が構えているのはファイズギアのツールの一つであるファイズフォンで、その形態の一つ、フォンブラスターだ。
 そして拳銃に慣れていない彼はフォンブラスターにファイズポインターを取り付け、命中精度を上げる事で見事にライアに光弾を命中させたのだ。

「岡部倫太郎、変身して時間を稼ぎなさい!」

 攻撃を受けた事で、ライアは倫太郎も攻撃対象だと認識した。
 逆に言えば、戦いは一対二から二対二の形に変わったのだ。

 そしてライアは今の一撃で鞭を失っている。
 無手のライアならば、倫太郎でもファイズに変身すれば、勝てぬまでも耐えられると判断したのだ。

「な……ッ!? それは俺が戦えぬと知ってのセリフかワンマンアーミーよ!
 だが仕方があるまい! この鳳凰院凶真の力が必要だというのなら、協力してやろうではないか!
 ……貸し一つだからな! 忘れるなよ!!」
 そうセコイ言いながらポインターを外し、変身コードを入力する倫太郎に呆れながら、ほむらもまたファムと相対する。

「もうさっきの様な油断はないわよ。今度こそ終わらせましょうか」

 彼に貸しを作ってしまったのは癪だが、助けられたのは事実なので大人しく借りておこう。
 今はそれよりも、倫太郎がライアの相手をしていられる間に一番厄介なファムを撃破するのが先だ。
 そう決断し、ほむらはGM-01を構えて、舞い散る羽の中に紛れ消えゆくファムへと突撃した。



《――Standing by――》
「変身」
《――Complete――》

 555,ENTERとファイズフォンに変身コードを打ち込み、ファイズドライバーへとセットする。
 すると直後に全身を赤いフォトンストリームが覆い、倫太郎を仮面ライダーファイズへと変身させた。


 ―――本来ファイズギアは、オルフェノクと呼ばれる存在しか変身できない変身ベルトだ。
 ではなぜオルフェノクではない岡部倫太郎がファイズに変身できたのか。
 それはこの殺し合いを仕掛けた真木清人がそう調節したから、としか言いようがない。

 そもそも前提として、この殺し合いに呼ばれた参加者にはオルフェノクがいない。
 またディケイド――門矢士の様に、「トリックスター」と呼ばれる秘石のエネルギーを動力源として代用とすることで、ただの人間がファイズに変身した例もある。
 故に真木清人はその技術を応用し、ただの人間にもファイズギアが使えるように調整したのだ。
 ……もっとも、当然代償として相応のセルメダルを消費するのだが。


 そのような事情など知る由もなく、ファイズへと変身した岡部倫太郎は自身の体を確かめ、改めてライアと相対する。

「よし……やってやる!」
《――Ready――》

 ファイズショットにミッションメモリーを挿入し、ライアへと殴りかかる。
 いつもとは違う感覚に戸惑いながらも拳を振り抜くが、当然のようにあっさりと往なされる。
 そのままバランスを崩して地面を転がるが、すぐに立ち上がる。
「おぶッ……!?」
 立ち上がった瞬間、見事に顔面を殴られた。
 その衝撃に声を上げるが、思ったよりは痛くなかった。
 よく解らないアイテムに不安を抱いていたが、ファイズの装甲は確かな物らしい。
 生身だったらどうなったかなど想像したくないが、その事にひとまず安心し、

「げは……ッ!」
 今度は腹を殴られた。
 僅かな吐き気と、腹部の鈍痛に呻く。

 たとえ大きなダメージはなくとも、痛いものは痛いのだ。
 そして痛いのを避けたければ、自分の方がライアを倒すしかない。
 そう決意し、反撃とばかりにライアへと再び殴りかかり、

「グオッ……!」

 カウンターとばかりに胸部の装甲を蹴り飛ばされたのだった。



 GM-01でファムへと牽制射撃を行いながら、Gk-06を拾い構える。
 辺りには今尚白い羽が舞い散り、ファムの姿を眩まし続けている。
 闇雲に攻撃したところでファムに中る事はないだろう。

 だがしかし、戦いが一対一の形になった分、ほむらには幾分かの余裕が出来ていた。

「そこ……!」
 視覚外からの一撃を躱し、ファムへとGM-01の弾丸を撃つ。
 ファムはそれを左手の盾で防ぎ、再び舞い散る羽に紛れて消える。

 ――そう。ほむらの反撃に、ファムは“躱す”ではなく“防ぐ”という手段を選んだ。
 つまり倫太郎がライアの相手をする事で、ほむらにはファムに反撃するだけの猶予が生まれたのだ。
 そしてその僅かな猶予に、ほむらは確かな勝機を見出した。


 舞い散る羽の中、ほむらはファムの奇襲に備え周囲を警戒する。
 そのついでに倫太郎の方にも気を配っていたのだが、ファムが彼を襲う様子はない。
 先ほどからライアに一方的に攻められている倫太郎なら、二人掛かりで攻めればあっという間に殺せるはずだ。
 そうすれば先ほどの様に、自分達に有利な展開に持ち込めるだろうに。とそこまで考え、ほむらはライアとファムにある印象を抱いた。

 ―――まるで機械か人形。決められた役割しかこなせない、魔女の操る使い魔の様だと。

 ……いや、事実使い魔と同じなのだろう。
 彼らは青い装甲の男に召喚された操り人形でしかないのだ。
 であれば、最初の白い装甲の男が消えた理由も容易に想像が付く。
 逆に言えば、青い装甲の男を倒さない限り、この人形達はまた出現するだろうことも同様に。


 背後からの薙刀をGK-06で捌き、返すように銃撃する。
 ファムはそれを防げずに食らうが、やはりダメージは小さく、倒すには至らない。

 彼らがただの人形であるならば、対処は容易い。
 人形はただ与えられた指示を淡々と繰り返すだけであり、そこに思考は挟まれないからだ。
 故にその行動パターンは読み易く、

「チェックメイト。これで終わりよ」

 人形もまた、あからさまな隙と言う罠に自ら嵌まるである。

 ファムが出現すると同時に時間を停止。
 体を反転させながらGG-02 サラマンダーをセットし、薙刀を振りかぶった姿勢のまま停止したファムへと発射する。
 着弾の直前に停止した弾を確認せずに振り返り、ライアへとGM-01を乱射しながら倫太郎の元へと駆け出す。
 それらの工程を4秒で済ませ、時間停止を解除する。

 直後、ファムはグレネード段に吹き飛ばされ、ライアは無数の銃弾に撃ち抜かれ、ほむらは倫太郎の前に立ち塞がった。

「お、お前、いつの間に……!?」
「ちゃんと無事なようね。……立てる?」
「ああ、なんとかな」

 ふらつきながらもしっかりと立ち上がった倫太郎に、ほむらは一先ず安心した。
 彼はまどかを救うための鍵となるかもしれない人間だ。こんな所で死んでもらっては困る。

「立てるなら逃げる準備をしなさい。これ以上付き合ってはいられないわ」
 ほむらはそう言いながら、前方を睨みつける。

 やはりGM-01では大してダメージを与えられないらしく、あっさりとライアが立ち上がった。
 また直前に盾で防げたのか、ライアに続くようにファムも立ち上がり、薙刀を構える。
 その手に盾がないのは、おそらくあの爆発で手放してしまったのだろう。
 同時にずっと舞い散っていた白い羽も消えているのは幸いだ。

「よしわかった! 今直ぐ逃げるとしよう!
 と言うか、マジでこれ以上殴られたくないのでな!」
 そう言って一も二もなく倫太郎が賛同する。
 ならばこれ以上この場に留まっている理由はないと、ライアとファムから逃げ出そうとした――その時。

 遥か上空から、大きな爆発音が聞こえた。

「な……! 一体何事だ!?」
「あれは……!」

 空を見上げれば、青い閃光の直後に一つの大きな影がセルメダルを撒き散らせながら落ちてくる。
 その影は重力に囚われたまま浮上する事なく、轟音を立てて地面へと墜落した。

 その正体が何であるかなど考えるまでもない。
 形成されたクレーターの中央には、青い機動兵器を纏った少女が倒れている。
 青い装甲の男と戦っていた筈の少女は気絶しているらしく、どうやらは戦いに負けたのだろう。
 それを認識すると同時に、どういう理屈か、機動兵器は消え去り少女一人が残された。

「おい、大丈夫か!?」
「待ちなさい、岡部倫太郎!」

 思わずといった様子で少女に走り寄った倫太郎を追いかける。
 ライアとファムは、少女の墜落から逃れるために距離を取り離れているが、まだ少女を倒した男がいるのだ。

「触らないでくれるかな。彼女の“お宝”は僕の物だ」

 倫太郎が少女を助け起こそうと屈み込むと同時にその声が響き渡る。
 直後、青い装甲を纏った男――海東大樹が、空飛ぶ紅いエイに乗って降りてきた。
 同時に、背後にも巨大な白鳥が舞い降りてくる。
 それにより挟み撃ちの形になり、逃げる事は容易ではなくなってしまった。

「それはファイズギアか。
 丁度良い。一度は掴み損ねた“お宝”、ここで手に入れるとしよう」
 大樹はファイズに変身した倫太郎を見ると同時にそう宣言する。
 さも当たり前の様に放たれたその言葉に、彼にとってそれが当然の事なのだと理解させられた。
 その事に倫太郎は僅かに怯むが、それでも少女から離れなかったのは認めてもいいだろう。

「随分と見境がないのね。それとも貴方、ただ他人の物が欲しいだけの子供なのかしら」
「言っただろ? 全ての“お宝”は僕の物だって。そこに例外はない。
 だからさっさと、君たちの“お宝”も僕に渡したまえ」
 そう言って銃口を向ける大樹に、ほむらはどうするかを考える。

 敵はライアとファム、エビルダイバーとブランウィングを含めて三人と二匹。
 現在の装備とセルメダルの残量を考えれば、まともに戦っても勝機はないだろう。
 かと言って逃げるにしても、これ以上のセルメダルの消費は、今後の戦いを考えれば避けたい。
 となれば、現状使い道のないG3-Xや彼の欲しがっているファイズギア。気絶した少女の支給品などを素直に渡し、ここは一旦引き下がるのも手ではあるが―――

「―――だが断わる! 貴様に渡す物など、食パン一つとしてないわ!」

 岡部倫太郎の状況を読まないセリフに、思わず天を仰いだ。

 確かに人道的見地から見れば、それが正しい行動なのだろう。
 明らかに震えているその脚さえ除けば、今の格好も相まってヒーローのようにも見える。
 だが決定的に戦力が不足し、気絶した少女を庇いながらと言う二対五以下の現状において、その選択は間違いでしかない。

「岡部倫太郎。貴方、今の状況が分かってるの?」
「わ、分かっている! だが女子供を見捨てる事など、出来るわけがないだろう!」
「へぇ、カッコイイ事を言うねぇ。けどこの状況では無意味だと思うな。
 ……一応聞くけど、撤回するつもりはないのかな?」
「と、とと、当然だ! お男に二言はない!」
「そっか、なら仕方がない。
 “お宝”にはあまり傷を付けたくなかったけど、実力行使とさせていただこう」

 そう言うと大樹は、ライアとファムが両隣なりに立つと同時に、一枚のカードをとりだした。
 そのカードが何であるかは判らないが、おそらく私達を一網打尽に出来る効果を持つのだろう。
 であれば、生き残るために残された手段は一つだけしかない。
 そう決断し、ほむらはGM-01にGG-02をセットする。

「……仕方ないわね。岡部倫太郎、その子を担いで私の手を掴みなさい」
「は……?」
「いいから早くしなさい!」
「あ、ああ、理由は解らんがわかった」

 倫太郎はよく解らないまま、ほむらの指示に従い少女を担ぎ上げる。
 ファイズのスーツのおかげか、意外と軽く持ち上げられた事に驚きながらもほむらの手を掴む。

「いい? 私が合図したらGトレーラーにまっすぐに走って。それと、何があっても絶対に手を離さないで」

 そう言いながら、ほむらは位置とタイミングを測る。
 これからする事は、おそらく一瞬の攻防になる筈だ。

《――ATTACK RIDE・CROSS ATTACK――》

 大樹が青い銃にカードを挿入し、引き金を引く。
 すると同様にライアとファムもカードを挿入した。

《《――FINALVENT――》》

 背後の白鳥が羽ばたき、風を巻き起こす。
 そのあまりの強風に、人間三人分の重量が吹き飛ばされた。
 それに合わせる様にファムが薙刀を構え、ライアが紅いエイの背に飛び乗る。
 おそらく対象を吹き飛ばし、そこを攻撃する技なのだろう。

「グゥ……ッ!!」
「ぬわ~~~ッ!?」

 ほむらは倫太郎の手を離さぬようしっかりと握りしめる。
 倫太郎もまた少女を落とさない様、腕に力を籠めている。
 そこに紅いエイに乗ったライアが、風の波に乗るが如き軌道で突撃してくる。
 少女の操った機動兵器の様な飛行手段を持たないほむら達に、その攻撃を回避する術はない。
 故にほむら達は、為す術なくライアの体当たりを受ける―――その直前、

「――――今よッ!!」

 三度、時間が停止した。
 止まった時の中、ほむらはライアの体を足場に、少女を担ぐ倫太郎ごと跳躍する。
 それと同時に最期のグレネード弾を大樹へと発射し、着地するやGトレーラーのある方向へと走り出す。
 そうして敵の攻撃圏外へと出た事を確認し、5秒間の時間停止を解除する。

「な、何だ今のは!? 一体何が起こった!?」
「気にしている暇はないわ! 今はとにかく走って!」

 それなりに距離を稼いだとはいえ、自分達はまだ敵の近くにいるのだ。
 質問のために立ち止まっている余裕はない。
 そう言ってほむら達は、Gトレーラーへと向けて全力で走った。



 そんなほむら達を前に、大樹は一瞬何が起こったのか理解できなかった。
 クロスアタックを使用しほむら達を仕留めたかと思えば、いつの間にか眼前にグレネード弾が迫っていた。
 驚きながらも回避して爆発をやり過ごせば、ブランウィングに吹き飛ばされた筈のほむら達がいつの間にか遠くに移動していたのだから、それも当然と言えるだろう。

「今のは……クロックアップか……?」

 しかしすぐに類似する能力を割り出して落ちつき、ライアとファムに追いかけるよう指示を出す。だが、

「な、消えた!? チッ、制限ってやつか……!」

 倒された訳でも解除した訳でもないのに、ライアとファムが幻のように消えた。
 それが制限であることを察し、その事に舌打ちをしながらも、即座にディエンドの加速能力でほむら達を追い掛け、壊れた正門から道路へと飛び出す。
 だがその時にはもう、ほむら達は大型トレーラーに乗り込み発車していた。
 その手際の良さからして、おそらくエンジンを掛けたままにしていたのだろう。

「お宝は絶対に逃がさない! 諦めたまえ!」

 だがそんな事はお構いなしに、トレーラーへと追い縋る。
 無理矢理にでもトレーラーを止めるためにディエンドブラストのカードを取り出し、ディエンドドラーバーへと挿入しようとしたところで、

「いいえ、諦めるのは貴方の方よ」

 トレーラーの屋根に、大型のガトリングガン――GX-05 ケルベロスを構えるほむらの姿があった。

「な―――まずいっ……!」
 大樹はすぐにその危険性を察し、
「さようなら。二度と会わない事を祈ってるわ」
 直後、毎秒三百発もの特殊鉄鋼弾が掃射された。

 避ける間もなく銃弾の雨に晒され、ダメージと共に路上を転げる。
 再び起き上がった時にはもう、トレーラーは追いつけない距離にまで離れていた。

「くそっ……!」

 狙った“お宝”に逃げられた事に、激し苛立ちを覚える。
 あと一歩まで来ていただけに、その怒りも一入だ。

「……待っていたまえ。次は絶対に逃がさない」

 大樹は執念を籠めてそう呟き、ディエンドへの変身を解除する。
 機を逃した以上、これ以上変身したままなのはメダルの無駄でしかない。
 そうして改めて、“今回の戦果”を確認する。それはすなわち“情報”だ。

 まず首輪から一枚のメダルを取り出し、それを検分する。
 それはセルメダルではなく、金の縁取りをされたコアメダルだ。
 だがその色は失われ、無色透明になっている。

「……なるほど。セルの代用として使用すると、こうなるのか」

 先の戦いにおいて、大樹はコアメダルを能力コストに使用した。
 つまり、この無色透明な状態が一定時間使えないという証明なのだろう。
 このコアメダルに色が戻れば、再びセルメダル50枚分の代用として使える筈だ。
 そしてもう一つの戦果が―――

「たしか、ブルー・ティアーズ……だったよね。なるほど。あれはISと言うのか」

 セシリアの言葉から、あの青い機動兵器の名称を把握し、デイバックから取り出した資料で確認する。

 ――“支給品一覧表”。それが海東大樹の二つ目の支給品だった。
 この一覧表には、この殺し合いの参加者達に渡されたであろう支給品の情報が載っているのだ。
 ただ記載された情報は簡単な説明のみで、ISは女性にしか扱えないなどといった、その世界にとって常識とも言える部分の説明が抜けていたりもするのだが。

 ともかく、これによってISの情報を得た大樹は、次の目的地を決める。

「――IS学園か。ここならあの“お宝”に関する情報がありそうだ」

 地図と照らし合わせても、現在地からはそう遠くはない。
 次に目指す場所としては、悪くない案だろう。
 それに何より―――

「“王の財宝”……か。 素晴らしい! 僕にぴったりのお宝じゃないか!」

 支給品一覧表に乗っていた、この世の全てのお宝が収められているという宝物庫。
 これは何としてでも手に入れようと決意して、海東大樹は置き去りにしたライドベンダーの元へと歩いて行った。


【一日目―日中】
【F-5/スマートブレインハイスクール正門前】

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、「お宝」を手に入れ損ねた事による苛立ち
【首輪】50枚(増加中):0枚
【コア】クワガタ:1(一定時間使用不能)
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式、支給品一覧表、不明支給品0~1
【思考・状況】
基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、この殺し合いに勝利する。
0.次は絶対にお宝を手に入れてみせる。
1.IS学園に向かい、「お宝」の情報を手に入れる。
2.他陣営の参加者を減らしつつ、お宝も入手する。
3.“王の財宝”は、何としてでも手に入れる。
4.いずれ真木のお宝も奪う。
【備考】
※「555の世界」編終了後からの参戦。
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明。
※ディエンドに掛けられた制限を理解しました。
※仮面ライダーの召喚は一人につき五分間のみで、一度召喚すると一定時間再召喚不能です。

【支給品一覧表@オリジナル】
海東大樹に支給。
参加者達に渡されたであろう全支給品の情報が載っている。
ただし、記載された情報は簡単なもので、支給品と一緒に渡されるメモ程度の事しか書かれていない。



NEXT:測定不能のダイバージェンス




タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年10月21日 15:13