Aの策略/増幅する悪意 ◆qp1M9UH9gw
【1】
織斑千冬――世界の注目を一身に浴びている機動兵器「IS」を、最も上手く使いこなせる者。
その立ち振るまいには一片たりとも無駄がなく、故にあらゆる攻撃――例え飛来してくるミサイルであっても――を寄せ付けない。
彼女の驚異的な力を目の当たりにした人々は、恐れと敬意を込めて彼女に称号を与えた。
その名も『ブリュンヒルデ』――北欧神話にその名を残したワレキューレである。
アンクは北欧神話を詳しく知らないが、『ブリュンヒルデ』という名には聞き覚えがあった。
具体的に何をしたかまでは覚えていないが、神話に出てきたのだからきっと凄いんだろう。
そんな「凄い」名前を与えられた千冬は、現在一人の青年を負ぶって移動している。
かれこれかなりの距離を走っているが、彼女の移動ペースは依然として保たれていた。
彼女の持久力の高さに、追跡しているアンクも些か驚いている。
流石は、世界最強のIS使いと謳われたところか。
「……どこに行く気なのかな」
どうやら千冬は前に進む事に必死なようで、後ろからアンクが追ってきている事に気付いていないようだ。
これは都合がいいと言わんばかりに、彼はデイパックから地図を取り出した。
地図で確認した限りでは、どうやら千冬はC-1に所在する病院へと向かって進んでいるようである。
成程、負傷したユウスケに治療を施そうという魂胆か。
ここでアンクは考える。
どこを目指しているかが分かっているのなら、先周りした方がこちらにとっても有利だ。
だが、それはすなわち今よりも早い速度で病院を目指すという事であり、
その道中に居るかもしれない"もう一人の自分"を見逃してしまう恐れがある。
どちらも一長一短あるが、さて、どうするべきか――。
少しばかり思考に巡らせた後、アンクは再び進み出した。
それはすなわち、これからの方針を決定したという事である。
【2】
どうにか敵と遭遇せずに病院に辿りつけた事に、千冬は一先ず安堵する。
背負った怪我人を待合室のソファに横たわらせると、彼女は彼を治療する為の医療器具を探し始めた。
かなり距離を走ったが故に、流石にブリュンヒルデと謳われたIS使いにも色が見えていたが、
今は身体を休めるよりも、もっと重大な怪我を負っているユウスケに処置を施す方が先である。
既にユウスケのメダルは底をついており、アヴァロンによる回復も不可能な状況にあるのだ。
一応、アヴァロンの尽力によって彼の傷は、病院の器具だけでも十分対処できるまでに治っているが、
それでも怪我人である事には変わり無いのである。
まず手始めに、薬品や包帯を探さなくては――そう考えながら、千冬は病院の散策を始めた。
探し始めて少し経った後に、千冬は妙な風景に出くわした。
廊下の脇で、物言わずに並ぶ病室のドア達――その中でひとつだけが、口を開いている。
さながら、この部屋に入れと言わんばかりにドアは開け放たれており、
スライド式のドアの取っ手は、こちらに向けて手招きしているようにすら思えた。
あの部屋だけドアが開いているという事は、すなわちそこで何かがあったという事だ。
行って様子を確かめようと、千冬はそこに向かって歩みを進めようとする。
だが、どうしてだろうか――何か、とてつもない不安感が胸を絞めつけてならない。
まるでそこに行ってはならないと、全身が行動を拒絶しているかのようなのだ。
しかしそれは、千冬が行動を躊躇する理由にはならない。
例え本能が否定していたとしても、そこに何かがあるかもしれない以上、己の目で見ない訳にはいかないのだ。
一歩ずつ、前へと進む。
そしてその度に、胸を締め付ける悪寒は強くなっていく。
だが、それがどうしたと言うのだ。
何があるかはまま分からないが、恐慌してそこから逃げるのは恥以外の何者でもない。
扉に近づけば近づく程に、身体が重くなっている気がしてくる。
しかし理解はできていた――こんなものは、所詮駄々をこね始めた本能によるものだと。
理性で無理やり押さえつけて、前へ前へと進んでいく。
そして、ようやく部屋の前にまで辿り着く。
遂に千冬は、その空間の全貌を視界に収めた――収めてしまった。
その世界は、まさしく地獄であった。
そこら中におびたたしい量の赤いペンキがぶちまけられており、
清楚な空間の要素なんてものは、何処へと消え去っている。
鼻から息を吸ってみると、強烈な鉄の臭いが鼻腔を貫く。
そして部屋の中央には、さながらオブジェの如く肉塊が転がっていた。
心臓を思わせる真っ赤な塊、そしてそこから突き出るのは白い棒、
工夫を加えたと言わんばかりに散りばめられたピンク色、僅かに見え隠れする肌色。
赤がべっとりと染み付いた白い布――――――――――――――――――――――――――――――白い布?
どこかで見た事のある、かつて白かった服。
いや、間違いなく見覚えのある、あの学園の制服。
着ている者など世界にただ一人しかいない筈の、男性用制服。
まさか。
この肉塊は。
この人間は。
この男は。
彼は。
こいつは――――――。
「いち……か…………?」
【3】
「見ちゃったんだね」
そう呟きながら、膝をついて呆然としている千冬の姿をじっくりと眺める。
こうする事で、彼女の記憶はこちらに筒抜けとなるのだ。
教師であるが故に、やはり生徒達を大切に思っている記憶が多い。
そうだ、それでいいのである――心の割合を多く占めれば占めるほど、こちらもやりやすくなる。
やはり彼女を誘うには、最も利己的な一面がある「この女」が適任だろう。
物影から出て、絶望している千冬へと近づく。
今はただ悲しげに、同情するように接すればいい。
それだけで、全てが上手くいくのだから。
「……見てしまったのですね」
【4】
「――――教官」
"ラウラ"が呼びかけても、千冬はまるで反応する素振りを示さない。
ただじっと、目の前の肉塊を呆然と見つめているだけだ。
いや、生気の抜けた彼女の瞳は、「視る」という動作をしているのかすら曖昧である。
「辛いのは分かります……ですが」
「ボーデヴィッヒ」
"ラウラ"の言葉を遮ったのは、他でもない千冬であった。
しかしそれは、いつものような芯の通ったものではない。
「こいつは、一夏は、どうして死んだ」
今の千冬の声は、残った気力を振り絞って出したような、貧弱なものだった。
聞いている方まで胸が痛みそうなそれに、"ラウラ"の表情もより一層曇りを見せる。
まさかあの、凛々しいという言葉が服を着て歩いているような彼女が、ここまで衰弱するとは。
いや、無理もないだろう――千冬の目の前で斃れているのは、他でもない彼女の弟なのだ。
溺愛していた弟とこんな残酷な形で再会してしまっては、流石の彼女も平常を保ってはいられないだろう。
「……誰に、殺されたんだ」
千冬は、唯一の血縁者である一夏を何よりも大切にしてきた。
普段彼に見せる厳しさも、彼に対する不安と愛情の裏返しなのである。
そうでなければ、世界最強の栄光を放り投げてまで、彼を助けに行こうとなどするものか。
そして今――その大切な弟が、死んだ。
人としての尊厳を徹底的に踏みにじられた姿になり果てて、千冬の前に現れた。
こんなにも呆気なく、そしてこんなにも唐突に、人は死に直面するものなのか。
悲壮感で表情を曇らせながら、"ラウラ"が口を開いた。
そこから紡ぎだされるのは、聞いた事もない男の名前。
そいつは誰なのか、と千冬が問うのを待たずに、ラウラはこれまでの経緯を話し始めた。
火野映司は、"ラウラ"が最初に出会った参加者だという。
最初は善人の皮を被っていたが故に、彼女も簡単に彼を信頼してしまった。
思えば、あの時奴の本性を見極めていれば、こんな結末には至らなかっただろう。
元とは言えど、軍人にあるまじき体たらくだ――そう言って"ラウラ"は、唇を噛み締めた。
"嫁"こと、
織斑一夏と合流できたのは、その後である。
当たり前と言えばそうだが、彼も殺し合いには乗っておらず、必ず箒の敵を取ってみせると決意していた。
映司はその覚悟を、「殺し合いを止めるのに必要なのはそういう強い意思だ」と肯定していた。
当時の"ラウラ"も、彼に賛同する形で一夏を讃えた――その時の映司には、一夏などただの獲物にしか見えていないとも知らずに。
そしてその数十分後に、一夏は映司に殺されたのである。
ラウラが僅かに目を離している隙に、怪人と化した映司は一夏を瞬く間に肉塊に変貌させた。
なんと映司の正体は、リーダーの五人のグリードとは別の、新たなるグリードだったのである。
激情した"ラウラ"は怪人を追ったが、結局逃げられてしまったのだという。
「迂闊だった……ッ!奴が最初からグリードだと知っていれば……!」
語り終えた頃には、"ラウラ"の声には嗚咽が混じっていた。
思い人を喪った記憶を回想するのが、余程堪えたのだろう。
「…………教官。私は火野映司を……そしてこの争いを生んだグリードが許せません」
先程とは一転して、はっきりと"ラウラ"は宣言した。
そこに潜んでいたのは、死なせてしまった一夏への懺悔ではなく、彼を弄んだ達への怒り。
「私はグリード達を倒す!その為なら……悪魔になっても構わないッ!」
"ラウラ"のその声は、かつて千冬と初めて出会った頃の刺々しいそれに戻っていた。
内側で巣食っていた怨念が、彼女を以前の状態へ逆戻りさせてしまったのだろう。
きっと彼女は、目の前の標的の邪魔になるものは一人残らず消し去る覚悟すらできている。
「教官……あなたは悔しくないんですか……?
弟をこんな姿にされて、それでもずっと立ち止まっているんですか!?」
案の定、千冬は何も答えない。
相変わらず呆然としたままの彼女に、"ラウラ"は言い様も怒りと悲しみを感じたのか、
拳を強く握りしめ、身体を震えながら大きく項垂れた。
「……私は全てのグリードを倒します。
もしあなたが邪魔をするのなら……例え恩人でも、容赦はしない」
最後にそう言い残して、"ラウラ"は踵を返して立ち去っていった。
千冬は引き止めようともせずに、今まで同じ方向を見ている事しかできなかった。
それほどまでに、彼女の精神は磨り減っていたのである。
「…………………………………………」
何も言わずに、血まみれの病室の見渡す。
何時間経っても、何度見ても、この景色は変わってはくれない。
あれほど愛した弟も、もう二度と帰って来ない。
「馬鹿者が……ッ!」
零れたその言葉が、誰に対するものかは、彼女自身にすら分からなかった。
こんな場所で命を落とした弟へのものなのか。
殺し合いに乗る決意をした教え子へのものなのか。
それとも――心が揺らいでいる、自分自身へのものなのか。
――答えを出せぬまま、時間だけが過ぎていく。
【一日目-午後】
【C-1/病院内部・織斑一夏の殺害現場】
【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】健康、精神疲労(大)、疲労(大) 、無気力、絶望
【首輪】120枚:0枚
【コア】クワガタ:1
【装備】シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、地の石@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:???
0.――――――――。
1.ラウラを止めたいが……。
2.火野映司……グリード……。
2.生徒と合流する。
3.ウェザー(井坂深紅郞)、
門矢士を警戒。
4.ISが欲しい。
5.地の石をどうするべきか。
6.小野寺は一夏に似ている気がする。
【備考】
※参戦時期不明
※一夏を殺した犯人が火野映司だと思い込んでます。
【4】
目が覚めてから、ユウスケの目に最初に入ってきたのは、真っ白な壁。
何処かの部屋の中で寝かされている事は、すぐに理解できた。
半身を起こして周りを見渡すと、そこが病院のロビーである事が分かった。
「千冬……さん?」
きっと彼女が、気絶した自分をここまで運んでくれたのだろう。
だが、肝心の彼女の姿はどこにも見当たらない。
病院を探索して、使えそうな物でも探しているのだろうか。
寝かされていたソファから降りて、地に足を着ける。
そしてそのまま、病院の奥に向けて歩み始めた。
今やるべき事は、病院内にいるであろう織斑千冬の探索だ。
しかし、そんな簡単な事をやるだけなのに、何故なのだろうか――妙な胸騒ぎを感じる。
それはまるで、病院に得体の知れない闇が蔓延っているかのようで。
それのせいで、千冬が笑顔を失ったのではないかと思えて。
明確な根拠はないのだが、そう考えずにはいられないのだ。
どうか手遅れになる前に、彼女を救い出したい。
彼の心にあるのは、笑顔を守りたいという純粋な思いだけであった。
【一日目-午後】
【C-1/病院内部・ロビー】
【
小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】ダメージ(中)
【首輪】0枚:0枚
【装備】全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/zero
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
0.千冬さん……?
1.仮面ライダークウガとして戦う。
2.ウェザー(井坂深紅郞)、士を警戒。
3.士とは戦いたくない。
4.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
しかし、ユウスケは覚醒した事に気が付いていません。
【5】
「……ちょろい」
病院を抜け出た"ラウラ"の表情に、もう悲しみは一片も残されてはいなかった。
その代わりに現れたのは、上手く踊らせてやったと言わんばかりの邪悪な笑みである。
そう、この場には「ラウラ・ボーデヴィッヒ」という少女は存在しない。
今嗤っているのは、彼女の姿を借りた「ダミー・ドーパント」――すなわちアンクなのだ。
以前騙した
イカロスは、主には絶対的な忠誠を誓っているという一面がある。
故に、彼女のマスターである
桜井智樹に姿を変える事で、いとも容易く道を外させられた。
しかし、織斑千冬と小野寺ユウスケの二人には、そういった「付け込み易い点」がない。
それに加えて、彼らは正義感が――それこそオーズに匹敵する位に――強いのである。
仮にアンクが姿を変えて殺し合いに乗れと迫ったところで、一蹴されるのがオチだろう。
ならば、逆にその正義を利用してしまえばいい。
彼らの中で燃え上がっている正義を、グリード達にぶつけるように仕向けるのである。
このゲームでまず邪魔になるのは、自分と同じくアドバンテージを与えられている他のグリード達と、
コアメダルを破壊できるという、厄介な能力を身に付けた仮面ライダーオーズだ。
奴らを真っ先に潰すように操れば、きっと大きな戦果をあげてくれる筈だろう。
それにしても、まさか織斑一夏があんなにも呆気なく殺害されていたとは。
スタート地点から考えて、恐らく加害者は怪盗Xと考えられる。
とすれば、今のXは「IS学園唯一の男性生徒」として会場を駆け回っている可能性がある訳だ。
尤も、そんな事はアンクにとってはどうでもいい話なのだが。
結局、もう一人の自分を見つける事はできなかった。
もしかしたら道中ですれ違ったかもしれないし、あるいは全く逆方向に移動しているのかもしれない。
だがどちらにせよ、"もう一人の自分"とは出会えなかったという事実に変わりは無いのだ。
己の選択を今更悔やんだところで、何の意味もない。
今はそれよりも、これからどう動くかを考えるべきであろう。
「どこにいるの……"ボク"……?会いたいよ……」
依然として雛鳥は鳴いている。
しかし、親なくしても成長するのが生物というもの。
幼き彼は、今も確かに進化しつつあった。
ダミーメモリの精神汚染と、それを使用する事で使用可能となる悪行から、
彼の魂は確実に己に巣食う悪意を成長させつつある。
幼き鳥は、未だ半身を求め続ける。
悪意を膨らませながら、今か今かと再会を待ちわびているのだ――。
【一日目-午後】
【D-1/北部】
【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】健康、悪行に対する愉悦への目覚め(?)
【首輪】90枚(増加中):0枚
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:2
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ダミーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1~5(確認済み)
【思考・状況】
基本:赤陣営の勝利。"欠けたボク"を取り戻す。
1."欠けたボク"に会いに行く。……どこに行ったのかな?
2."欠けたボク"と一つになりたい。
3.赤陣営が有利になるような展開に運んでいくのも忘れない。
【備考】
※アンク吸収直前からの参戦。
最終更新:2013年05月06日 03:34