第一回放送-適者生存- ◆qp1M9UH9gw
【0】
時計の針が18時00分を指した瞬間、鳴り響くのは鐘の音。
カラン、カランと、西洋の鐘特有の、乾いた音が響き渡る。
全ての者に平等な音量で耳に入り込んでくるそれは、一体何処から鳴っているのか。
そんな事を考える暇もなく、主催者――真木清人による提示放送は始まった。
【1】
人間という生物は、常に欲望と共にあると言っていいでしょう。
食欲、物欲、性欲、睡眠欲……無数の欲望がこの世界には溢れ返っています。
欲望は美しい人間を汚し、やがては醜くしてしまう……これ程残酷な話はありません。
しかし、欲望が人間を進化させる事もまた事実。
生命は自分の欲望を叶える為に肉体を変化させ、環境を生き抜いてきたのです。
――この殺し合いで生き残りたいのなら、"進化"することです。
進化なき生命、つまり欲望なき生命では、この戦いからは生還できません。
自分の欲望を開放し、"進化"を続けていれば、自ずと道は見えてくるでしょう。
誰よりも欲深く――つまりは、誰よりもこの環境に適応した者こそが、このゲームに勝利できるのです。
……ゲーム開始から六時間が経過しました。
では予定通り、放送を開始させてもらいましょう。
まず始めに、このこの時間までに死亡した参加者の発表です。
一度しか言うつもりはありませんから、よく聞いておくと良いでしょう。
以上18名が、この地で無事終末を迎えました。
醜くなる前に自分を終わらせられた彼らは、ある意味では幸福と言えるのかもしれません。
少なくとも、今生き残っている数名よりは、その在り方は美しかったでしょう。
次に、「禁止エリア」の発表です。
ルールブックに記載されていた通り、指定された禁止エリアに一定時間留まると、
首輪に仕掛けられた爆弾が爆発する仕組みとなっています。
最初に首輪を爆破された二人のようになりたくなければ、用心することです。
【A-6】
【D-3】
【E-5】
以上三つが、放送から二時間後に禁止エリアとなります。
首輪の爆発などという美しくない"終末"など、我々は望んではいません。
繰り返し言いますが、禁止エリアに関しては、細心の注意を払って下さい。
続いて、各陣営のメダル数の発表です。
この場に存在するコアメダルは合計65枚……その内、
20枚を緑陣営が。
12枚を赤陣営が。
8枚を青陣営が。
7枚を黄陣営が。
4枚を白陣営が。
そして、14枚を無所属が所持しています。
今の所、緑陣営が最も有利な状況となっています。
このままいけば、彼らが勝利を掴むのもそう遠くはないでしょう。
他の陣営――特にリーダーを一時期失った白陣営と赤陣営の皆さんは、緑陣営を見習って奮闘して下さい。
以上で、放送を終えさせてもらいます。
生きていれば、六時間後にまたお会いしましょう。
それでは皆さん、良き終末を――――。
【2】
「楽しそうだね」
暗闇が大部分を支配する部屋の中で、インキュベーターがそう言った。
その言葉の行き先は、この空間の中で唯一の光源となっている、小型モニターの大群である。
このゲームの参加者達の動向が映し出されたそれの前には、一人の人間が座っていた。
インキュベーターの存在に気付きながらも、"彼"は決してモニターに背を向けようとはしない。
「計画が順調に進んでて、気分が高揚してるのかな?」
"そうだとも"という、"彼"の喜びの込もった声が返ってきた。
その男は依然として、インキュベーターと向き合う気配を見せない。
白い獣はこの話題を早々に打ち切ると、別の話題を切り出した。
「今の所、運営にも支障は出てないよ。でも、海東純一が不穏な空気を見せているね……僕としては泳がせておいても構わないんだけど、君の方は――」
インキュベーターが全てを言い終える前に、"放っておけ"という"彼"の返答が飛んできた。
この男にとっては、純一の謀反などさして気にする必要などないという事なのだろうか。
それとも、この事態は既に予想の範疇にあった、とでも言いいたいのか。
「……そうかい。それならこれ以上言う事もないし、僕は失礼させてもらうよ」
この男の行動は理解し難い――"彼"に対してインキュベーターが抱いた感想は、この一言に尽きる。
一体全体、"彼"は何を目的として行動しているのだろうか。
真木と同様に終末を目指しているのか、それともグリード達のように、己の底抜けの欲望を満たそうとしているのだろうか。
感情を持たない孵卵器には、それはどう頭を捻っても理解できない謎であった。
しかし、人間の感情に理解を示せない存在であっても、ただ一つ分かる事がある。
"彼"の"欲望"は恐ろしい程に深く、そして、それが他者に齎すであろう"悪意"は、この場にいる誰よりも巨大であるという事。
果たしてこの男は、地球に住まう人間と同種なのだろうか――インキュベーターは疑念を抱かざるを得なかった。
【3】
生き残りたければ、欲するがいい。
己の欲の赴くがままに、奪い、飾り、愛で、がめるといい。
この血生臭い世界にとって、それこそが唯一絶対の法であり、適応すべき"環境"なのだから。
欲に従っての闘争――認めよう。
欲に従っての悪逆――認めよう。
欲に従っての逃避――認めよう。
欲に従っての反抗――認めよう。
欲望から生まれ、やがては進化の礎となるのなら、全てを受け入れようではないか。
盤面に残された駒の数は47。
世界に適応できずに、盤面から零れ落ちた駒達の欲望を食らって、彼らは進んでいく。
無限の欲望の果てにあるのは、永劫の輝きを放つ"王"の座か、それとも――。
――――またどこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――――
【残り 47人】
※【"彼"@????】の存在が確認されました。
最終更新:2015年01月24日 10:13