明かされる真実と欲望と裏の王◆z9JH9su20Q




 まともな感性の持ち主であれば、陰気な印象を覚えるだろう薄暗い部屋。
 無数に並ぶ小モニター郡に映るのは、閉鎖された空間内で繰り広げられる生存競争の様相。
 その微かな光源で照らし出されたのは、それを囲む者全てが対等の関係であることを示すため、円環の形に並べられたテーブル。
 そこはかの名高いアーサー王伝説において、アーサー王とその騎士達のためにキャメロット城に設けられていたという、円卓に由来する様式の議場だった。

 ただ……数えられるその席は、誉れ高き伝説の半分にも満たぬ、六つ。
 また伝承と異なるのは、部屋そのものの光度に反するかのような華美なまでの荘厳さ。
 それもそのはず。並べられた六つの席に腰掛けるべきは、忠義に生きる滅私の騎士達などではなく、誰より強欲であるべき“王”たる者達なのだから――



「――また、白陣営が消滅したね」

 表示装置の群れを中心に据えた、円卓を囲む六つの玉座。
 しかし今、内五つの玉座に腰を置く者はいない。
 それは資格を有する者が未だ現れていない、という意味ではなく。単純にそこに座るべき者達が今、各々の思惑のために席を外しているからに過ぎない。
「今度は代理リーダーも簡単には現れそうにないかな? これからの趨勢に大きな影響が出そうだね」
 来たるべき時が訪れれば、六人の王が一堂に会することを知る彼――紫の玉座に腰掛けた真木清人は、それ故傍らに侍る白い小動物の声を聞いても、何ら焦りを覚えなかった。
 そう、五つ――いや、正確には六つだが……の陣営の内一つが一時消失したという、此度のバトルロワイアルにおける重要事項のはずの出来事も、当事者はともかく、彼らのほとんどは所詮一時的な変化に過ぎないと、気にも留めないことだろう。簡単に動じるような輩では、“王”の座に相応しいとは言い難いのだから。
 そんなことを取り留めなく思いながら、真木は眼鏡越しに、一人の参加者がその全てを燃やし尽くし、終焉を迎える様を眺めていた。
「祝福すべきことです」
 感じたままに淡々と、真木は胸の内をインキュベーター――ではなく、腕に座らせた人形に向けて呟いた。
 白陣営の現リーダーが参戦していた戦いについては、言われるまでもなく真木もまた、キャッスルドランのインキュベーターを介して送られてくる映像をつぶさに見守っていた。真木がその動向に興味を惹かれている参加者達が集っていた上、さらにそれに釣られたグリードが複数乱入する可能性さえある、現状最も注目すべき戦場であったからだ。
鹿目まどかのソウルジェムが魔女を産む前に失われたのは、本来大きな痛手なんだけどね」
 嘆息する様子の――実際はグリード以上に感情を持たず、こちらに合わせたコミュニケーションのための素振りに過ぎない動作を見せたインキュベーターは、真木を振り向きもせずに続ける。
「それでも君の願う終末か、もしくは“彼”らの欲望が結実する瞬間にまた一つ、大きく近づいたんだ。確かに感情があれば、僕も君のように喜んでおくべきなんだろうね」
「いえ……世界の終わりにはまだ程遠い。今のは心優しい鹿目君が呪いを振り撒く醜い魔女となる前に、希望を齎す魔法少女のままでその魂を完成したことへの、単なる感想です」
「そうかい。でも出会い方が違っていれば、君こそ彼女を魔女にするために躍起になっていたかもしれないよ? それも世界を終わらせる有力な方法の一つだったろうからね」
 互いに挑発し合うような言葉を吐きながらも、感情のないインキュベーターは無論、真木もまた話し相手に何かを感じてはいなかった。
 むしろ、何かを感じ入っているとすれば――と、真木は再び送られてくる映像に集中する。

 真木が今、齎すべき世界の終末以外に、最も関心を寄せている対象。それは――

 真木と同じ、紫のメダルを体内に宿す因縁の相手・火野映司でも、
 真木が姉以外で初めて情を抱いた伊達明に似通った雰囲気を持ち、開幕の場において正面から反抗の意思を示したヒーロー・ワイルドタイガーでも、
 真実を何も知らぬまま、己が欲望のために彼らを屠らんと戦場に現れたグリード・メズールでもない。
 無論、そこに映し出されていない伊達明でもなく。
 真木が今、最も興味を惹かれている、奇妙な親近感を覚えている参加者とは――

 終わりを迎えた後、微かに残っていた鹿目まどかの痕跡すら喰らい尽くしたエンジェロイド――カオスだった。



 ――このバトルロワイアルが開始された時点では、真木はカオスに対し、特別な興味など抱いてはいなかった。
 せいぜいが強大な戦力を持つエンジェロイドの中でも、彼女は特に純粋であるが故に不安定であり、比較的多くの参加者に終わりを齎す見込みがある、程度の認識でしかなかった。
 そんな真木の心境に変化が生じたのは、カオスが彼女と――志筑“仁美”と出会ったためだ。

 カオスは“仁美”のことを、実の姉のように慕い、愛していた。“仁美”もまたそんなカオスの純粋さに、愛を返していたように真木には見えていた――例えあの“仁美”が、魔女の口づけにより狂った、本来とは異なる精神状態の彼女だったとしても……その時の二人の間に偽りはなかったはずだ。
 そしてカオスに対する真木の奇妙な執着が決定的となったのは、“仁美”がとうとう正気に戻り――未確認生物(エンジェロイド)であるカオスを拒絶する醜い彼女になってしまうことのないまま、葛西善二郎によって焼き殺され、終わりを迎えた後のことだった。

 それというのも。姉と慕った“仁美”を炎の中に喪いながらも、美しい思い出として完成された彼女の教えを健気に守ろうとし続けるカオスの姿は。
“仁美”という名の姉が醜くなる前に焼き殺し、美しい思い出のままで終わりを迎えさせた真木清人自身に、酷く重なって見えたからだ。

 物語がENDマークで完成するように、人もまた死で完成する。だから世界もまた、これ以上醜くなる前に終わりを迎えなければならない――そんな真木の終末思想も、姉である真木仁美の教えから辿りついた答えであることを考えれば――本当に今のカオスは、真木によく似ている。

「彼女はまるで、グリードのようですね」

 だから、どうしても気にかけてしまう。
“愛”という欲望のために、世界の何もかもを喰らい尽くそうとしている彼女が、どんな終わりを迎えるのかを。
 一度は終わりを迎えかけた、グリードである真木は……どうしても。

「カオスを君の作りたがっていた、メダルの器にでもするつもりかい?」

 そんな真木の心境を読んだかのように、インキュベーターは言う。

「わかっているだろうけど。あの会場の中で一つの世界を終わらせることができる何かが誕生したとしても、その作用は外にまでは波及しない。そういう仕組みだからね」
「もちろん、わかっていますよ」人形さえ見ていれば、今更真木が動揺することなどそうはない。「メダルの器が生まれ易い状況にあるというのは、単なる副産物です。今回重要であるのは、あくまで参加者のグリード化が進行し易くなるということなのですから」
「彼らにとっては、ね」
 多分に含みを持たして、インキュベーターは真木の言葉を引き継いだ。
「君にとってはそうじゃない。むしろ新たなグリードの誕生なんて願い下げだろう?」
 自分達にとってはどうなのか、をインキュベーターは直接口にはせず、しかし言外に仄めかしていた。
 真木とインキュベーター。主催陣営の中でも、彼らしか知らない秘密を共有する立場同士、ということを強調するかのように。
 もっとも――知識を授けられたのが両者だけということで。この獣の姿をした狡猾な異星人が、その情報を他の者――例えばあの最も強い“悪意”、即ち奪うという欲望を持つ“彼”辺りとの交渉材料に用いていないという保証は、どこにもないのだが。

「――おや」

 そんな時。不意に、インキュベーターが素っ頓狂な声を発した。

「海東純一に動きがあったよ。どうやら衛宮切嗣間桐雁夜が接触した時の記録を解析しているようだね」

 先の声は、記憶と認識を共有している監視用の個体を通じてそれに気づいたという合図、だったのだろう。

「ということはやはり、彼の目的は……」
「“我々”の誰かと成り代わること、ですか」

 インキュベーターの続けただろう言葉を先取りしてから、真木は己の手の甲に視線を落とした。

 そこに刻まれているのは、刺青のような紫色の痣。

 プテラノドン、トリケラトプス、ティラノサウルス。三種類の絶滅動物の顔を模した図柄が、金色の円環に詰め込まれたその印は――
 モニターの中で咆哮する、仮面ライダーオーズ・プトティラコンボのオーラングサークルに刻まれたそれと全く同じ、円形の紋章だった。

 関連する知識のある者がそれを見れば。聖杯戦争に参加した魔術師に与えられる、令呪なる聖痕を連想することだろう。

 そして、その者達が抱くそんな印象は――正しい。

 真木の――さらには本来、残る赤、黄、緑、青、白の玉座に腰掛けているはずの五人に宿った、オーズの対応色のコンボと同型の紋章は、まさしく令呪であった。

「――もちろん、英霊を使役する際に用いられる正規の物とは異なるけれど。君達が宿したそれもまた、聖杯から授けられた令呪であることに変わりはない。なるほど聖杯戦争に関する知識の足りない彼の立場なら、切嗣が雁夜から令呪を強奪した実例を参考にするというのは悪くない手だろうね」
「マルチネス君が衛宮君から令呪を譲り受けることができたのは、参加者としての特例でしたからね。海東君からすれば、参考にはならないでしょう。良い判断です」
 確認された情報を元に、インキュベーターと真木は一先ず海東純一の動きを評価する。明確に獅子身中の虫と化した男の危険度を、改めて推し測るために。
 ただ、真木の答えはすぐに下されたが。
「――まぁ、私が彼のことを気に留める必要はないでしょう」
 真木の“紫”の令呪は、六つの令呪の中でも特殊だ。単純な支配欲を満たさんとする純一からすれば、無用の長物にしかならないだろう。
 そして――海東純一の擁するカリス程度の力では、仮に挑んで来たとしても真木に太刀打ちすることなどできはしない。
 また、ならばと彼が他の“王”と成り代わったところで……結局のところ、真木にとってそれは大して意味を持たないのだから。
「彼を警戒すべきなのは他のどなたかでしょう。海東君程度に終わらされるようでは、被害者の欲望もその程度だったというだけの話です。その程度の者には、あの――」
 そうして真木は、人形に向けていた視線を持ち上げた。

 薄暗い部屋の最上。真木の見つめる先にあったのは、まるで見えざる手に掲げられたかの如く中空に浮き続ける、巨大な黄金の器。
 それは注がれるべき欲望の結晶を待ち続ける、奇跡の大聖杯だった。

「“欲望の大聖杯”を手にする権利など、最初からあるわけがない」



 ――――“欲望の大聖杯”。



 その使用権を獲得することこそが、このバトルロワイアルの“主催者”と言われる頂きに立つ者達――各陣営のグリード達の上に立つ、裏の“王”達の目的だった。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 全ての始まりは、真木自身が一度終わりを迎え、道半ばで完成してしまいかけた時だった。

 オーズ達との最終決戦に敗れた後。発生した時空の裂け目に飲み込まれ、別の時間軸へと飛ばされ消滅する運命にあった彼を、預言者を名乗る男が回収したのだ。
 曰く、彼は世界を破壊する――しかしその実、再生のための破壊などという、真木とは相容れない使命を帯びた悪魔を始末するための、世界を渡る旅の途中だったのだそうだ。

 彼に協力を要請され、別の世界の鴻上と協力体制を築き異世界への旅を再開した真木達は、やがてとある世界に辿りついた。それがあのカオス達、エンジェロイドのいる世界である。
 その世界の“シナプス”という場所には、石版(ルール)という、世界一つを容易く書き換える力を秘めた恐るべき願望器が存在していた。預言者はそれを使い悪魔を始末する手段を得ようと考えていたが、ここで同行していた別の世界の鴻上が彼を出し抜き、先に石版を使ってしまった。
 そして鴻上は、彼自身の世界には作用し得ない石版を用いて、預言者との旅の過程で知ったもう一つの願望器である“聖杯”の概念を基とした、より高次の願望器を創造したのだ。

 そうして生まれた欲望の大聖杯は、その時誕生に立ち会った者達が認識し得た全ての世界――特に預言者の訪れて来た世界や、さらにそれらの世界線が異なる並行世界全ての“欲望”と接続し。起動すれば比喩ではなく、文字通り無限のセルメダルを抽出することができるという代物だった。

 欲望とは、即ち感情の根源。その全てをセルメダルという力として取り込むことにより、かつて鴻上が語った通りに∞(神)をも超える○○○(オーズ)の力を手にすることが可能となるのだ。

 ――少なくとも。信仰もまた、感情の一側面であることから考えれば。この大聖杯の力を手にすることは、本来聖杯の存在した世界にいた、信仰をパワーソースとする全盛期の“神”霊をも凌ぐ存在となれる可能性は、極めて高いと言えるだろう。



 その力があれば、鴻上の願う欲望による世界の再生も容易く実現できたはずだったが――鴻上の欲望から生まれた大聖杯は、彼の思惑には収まりきらなかった。

 まず、魔術師達の求める聖杯を基に創造されたその大聖杯は、その機能に色濃く影響を受けていた。
 聖杯の使用権を得るためには、聖杯によって呼び出されたサーヴァント(従者)を殺し合わせ、そのサーヴァント達を贄とする必要があったのだ。

 ただ。そのサーヴァントや、贄というのが――今度は鴻上の影響によって本来の聖杯戦争で召喚される英霊達の一側面や、その魂ではなくなっていた。

 此度のサーヴァントたるは英霊ではなく、グリードという名の怪物。捧げるべき供物は高貴なる六つの魂ではなく、怪物に喰われ集積された貴賎なき数多の欲望。

 欲望の大聖杯の起動条件。それは五体のグリード達に加え、接続した無数の世界の中から聖杯が彼らの配下として選び召喚した六十名の参加者によるバトルロワイアルを行い、会場で最後に残ったグリードへセルメダルという形で集束・蓄積された参加者達の欲望のエネルギーを、直接大聖杯に注ぐこと。

 即ち、命の危機に晒すことで参加者達の欲望を増幅し。それをセルメダルという形に変換して奪い合わせ。最後に首輪に蓄えられたそれをグリードに取り込ませることで用意した欲望の蠱毒を生贄とすることが、欲望の大聖杯降誕という儀式を締め括る行程だったのだ。



 ――もっとも、この知識を鴻上や預言者は得ることはできなかった。それが、聖杯が創造主(鴻上)の思惑を超えたもう一点。

 この大聖杯の使用権は、他の参加者は無論、最後は哀れな贄となるだけの運命であるグリード達にも存在しない。

 それを手にする資格があるのは、聖杯が無数の世界からグリードを使役するに足る、その欲望を司るグリードをも超越した欲望を持つと見初め選び出した者。裏リーダー、あるいは裏の王と仮に呼んでいる、同色のグリードに対応する令呪を宿した各陣営の真の所有者(マスター)のみである。

 唯一このバトルロワイアルで利益を得る立場にある裏の王達は、一画限りの令呪とともにこの大聖杯に関する知識を授けられ、聖杯の誕生と共に各世界から呼び寄せられた。
 会場内のバトルロワイアルは彼らが聖杯の獲得権を巡るための代理戦争。言うなれば各陣営一つ一つをサーヴァントとみなした、彼らによる聖杯戦争なのだ。

 だが鴻上は、その裏リーダー権――令呪を得ることができなかったのである。

 おそらく裏リーダーの中には、彼の強欲さには及ばない者も何人かいることだろう。少なくとも真木はそれに該当するはずだ。
 彼はただ、該当し得ただろう陣営の競合相手が悪過ぎたのだと真木は推測している。
 加えてさすがの鴻上も、何の罪もない多くの参加者を我欲のために犠牲にできるほどの呵責の無さは持ち合わせていなかったかもしれない。聖杯は当人の意思を無視して適合者に令呪を授けているが、当然乗り気である方がその欲望も強まるのだろう。その点が競合相手に遅れを取ってしまった要因なのだろうと予測がつく。

 何にせよ、こうして鴻上の目論見を外れ、彼の生んだ欲望の大聖杯は自らの起動のため勝手に動き出し始めてしまった。ある意味いつものことなのだが。

 裏リーダーとは別に、大聖杯は感情を持たない観察者としての性質と外部との遮断技術の両面において優れたインキュベーター達を監督官役に適していると判断して呼び出し、彼らにも裏リーダー同様の知識を与え協力を要請した。
 宇宙の熱的死を回避すべく、大聖杯起動時のおこぼれを求めたインキュベーター達はこれを承諾し、裏リーダーやその配下、海東純一のようなスカウトして来た運営スタッフと共に、万全の状態でバトルロワイアルを決行する準備に協力した。

 その過程で、彼らが外部からの介入を防ぐべく会場周りに展開した遮断フィールドをも無視して移動できる力を持つ預言者を、いざという時のために始末すべきだとインキュベーター達が提案し、裏リーダー達の何人かがそれに賛同したことで、発端の一人であった彼は亡き者となった。
 鴻上は捕らえられ、事態を把握しきれないままに会場へ参加者宛の手紙を用意するなどしたが、一部の裏リーダーに気に入られていることもあって生き延びた。とはいえ当然、バトルロワイアル運営に関しての発言権はなく、また手紙の内容も――参加者から信頼されるために、敢えて偽った部分もあるのだろうが――真実からは遠い物となっているのだが。

 当初は五体のグリード達も、裏リーダーと同時期にそれぞれの時間軸から呼び出され各自面識があった。しかし後のことを考慮し、開始直前にアルバート・マーベリックの能力で殺し合いの真相に関する記憶を消去・調整され、何も知らぬまま裏リーダー達の代理戦争たる舞台へ登って行った。

 やがて。あらゆる準備が完了し、遂にバトルロワイアルは開始された。
 全ては選ばれし六人の王の、さらなる勝利者がその欲望を満たすために――



「――その資格を最初から持っていない君が言うのも、おかしな話だろうけどね」

 大聖杯を改めて目に収め、これまでの過程を振り返っていた真木に対し。先程呟いた言葉への感想を、インキュベーターが漏らしていた。

「本来これは、五つの陣営によるチーム戦だ。もう少し生き残れたなら、火野映司が紫のグリードとして会場に存在するようになるだろうけれど……紫の属性は無。聖杯に注ごうにも、折角集めた欲望を消してしまうのでは、願望器は機能できない」

 他の陣営裏リーダーから令呪を奪えば、それを補うことができるかもしれないが――バトルロワイアルの趨勢を無意味にしてしまわないようにか、正規の聖杯戦争とは異なり、聖杯の作用で令呪を宿した者同士で相手を害することはできなくなってしまっており、それも困難だ。
 まぁ、そうでもなければ裏リーダーは召喚された時点で一堂に会す以上、単純に武力に優れた裏リーダーがバトルロワイアル開始前に全ての令呪を掌握してしまうことは明白。当然の措置と思うべきなのだろう。
 しかしそれ故に、真木が全能の願望器として聖杯を手にできる可能性は極めて困難。いや、ほぼ不可能と言い切っても間違いない。

「――それでも私と、あなた方にとっては問題ない。そうでしょう?」

 そもそも、存在する意味すらないと思われる無陣営の裏リーダー。
 だが、それでも。対応するグリードが性質上、本来大聖杯起動の鍵にすらならずとも――紫の令呪は、現に真木の手の中にある。

 無論、他の主催陣営の者達もその理由を訝しんではいるが。紫というイレギュラーの真実を授けられているのは、先述の通り、真木とインキュベーター達だけ。
 故に両者は共謀者なのだ。無論信頼という感情など、人外である両者の間には無縁の代物であったが……白い獣は、真木の確認に頷いてみせた。

「そうだね。だから僕らもまどか達や――適齢期こそ過ぎているとは言え、観測史上最高の素質を持っていた椎名まゆりを犠牲としてでも、欲望の大聖杯をどんな形だろうと起動させることを優先した。
 だから清人。君がどんな終わりを望もうと構わないけれど、それだけは達成して貰わないと、僕らが困るということだけは覚えておいて欲しいな」

 インキュベーターは懇願するようでいて、その実恫喝のつもりなのだろう言葉を残して退室して行く。
 ここまで来て今更頓挫させるなど、決して許しはしないと。

「……当然です」
 人形にすら目を向けず、真木は独り言ちた。
 あるいはカオスに向けた興味を疑われたのだろうか。だとすれば舐められたものだ。

「例え一度失敗に終わっていようとも……私のそれは欲望などではありません。崇高なる唯一の使命なのです」

 だからこそ、鴻上に比べれば抱える欲望は劣ろうと。真木は紫の陣営の所有者として聖杯に見初められたのだ。
 自らの欲望さえ否定する真木だからこそ。他の欲望に誑かされ、目的を見失うことのない真木だからこそ――紫(無)の王に相応しいとして。
 伊達や知世子と出会いながら、使命を優先した真木が今更新たに関心を抱いたの存在の出現程度で止まることなど、あるわけがないのだ。
 むしろ、“個”として隔絶された支給品のインキュベーターや、カオスといった興味深い存在の終わりを見たいからこそ――
 そして。姉の人生を終わらせ思い出として完成させたあの日から、私には――

「――他の選択肢など、あるはずがない」

 真木清人が、己の使命を自覚したと同時に。



 どこかで《終わり》がその巨体を運ぶ歩みを、ほんの少し、だが確かに早めた――そんな気配がした。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 盤面に残された駒の数は37。
 世界に適応できずに、盤面から零れ落ちた駒達の欲望を食らって、彼らは進んでいく。
 自らは血を流すことなく、この世全ての欲を我が手に収めんとする傲慢なる王達のために。
 何も知らぬ哀れな贄達は、ただその時の到来を早める手助けをする。し続ける。

 交わり結びつく彼らの欲望の果てに待つのは、勝利を得た“王”が掴みし黄金の杯が湛える、無限大をも超える可能性(オーズ)の力か。

 それとも――








          ――――またどこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――――







【一日目 夜中(?)】
【???】

【真木清人@仮面ライダーOOO】
【所属】無・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(紫)保有
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
 基本:世界に良き終末を。
  1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
【備考】
※原作最終回後の参戦です。恐竜グリードと化してはいますが、参戦時期の都合から何枚の紫メダルを内包しているかは後続の書き手さんにお任せします。
※カオスに親近感を覚えています。
※無陣営に関するイレギュラーの真実を知っています。



【全体備考】
※主催陣営の共通目標は、【欲望の大聖杯】@オリジナルの起動です。
 現在明らかになっている起動条件はバトルロワイアルで優勝し、生存者全てのセルメダルを取り込んだグリードを“欲望の大聖杯”に捧げることです。
※各陣営には、グリードに対する令呪を持つ裏リーダーが存在します。
 現在判明している、裏リーダーについての共通事項は次の通りです。

1.裏リーダーは“欲望の大聖杯”が接続した世界(参戦作品の世界)から直接、各陣営の所有者に相応しいと選定されて、本人の意思とは無関係に聖杯に召喚された者達。裏リーダーの証として、対応色グリードに対する一画のみの令呪(デザインは仮面ライダーオーズの各同色コンボの紋章と同一)と、バトルロワイアルや大聖杯の真相に関して一定の知識を“欲望の大聖杯”から授けられている。
2.欲望の大聖杯が起動した際、願望器としての使用権を得られるのは優勝した陣営の裏リーダーのみである。
3.裏リーダー同士は、互いを害することができない(詳細は後続の書き手さんにお任せします)。

※“欲望の大聖杯”から、無陣営裏リーダーの真木と監督官役のインキュベーターにのみ明かされたさらなる秘密があります。その内容については後続の書き手さんにお任せしますが、少なくとも真木、及びインキュベーターの目的を達成することに合致したものになります。
※真木以外の残る五陣営の裏リーダーの正体、及びその担当陣営は後続の書き手さんにお任せします。ただし海東純一、鴻上光生、インキュベーター及び名簿に載ったバトルロワイアルの参加者は少なくとも現在、どの陣営の裏リーダーでもありません。
※鳴滝@仮面ライダーディケイドは既に死亡しています。
※上記備考欄の内容について、グリード達はマーベリックのNEXT能力により関連する記憶を全て失っています。彼らが元々はどの程度までバトルロワイアルの真相を知っていたのかは、後続の書き手さんにお任せします。



115:Rの流儀/砕かれた仮面 投下順 117:UNSURE PROMISE
115:Rの流儀/砕かれた仮面 時系列順 117:UNSURE PROMISE
 
083:第一回放送-適者生存- 真木清人 122:さらばアポロガイスト!男の涙は一度だけ!!
インキュベーター

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最終更新:2015年02月18日 00:01