取引をしよう ◆QpsnHG41Mg



「月影め……早々にやられおったか」
 放送で知った仲間の死に、ガイは憎々しげに一人ごちた。
 あの世紀王が、まさか最初の六時間でやられるとは……
 いや、ヤツが弱かっただなどとは思うまい。
 この場には、それだけ強力な敵がいるということだ。
 自分と同じ大幹部ですら容易くやられてしまう過酷な戦い。
 そう思えば、より油断するワケにはいかなくなった。
「……この戦いを生き残るには…賢く戦わねばな」
 勝利するため必要なのは如何に上手く戦うか、だと思う。
 ここでは仲間を利用し、罠を駆使し、頭を使って戦うべきだ。
 今までよりも気を引き締めてやらねばならない。
 加頭のような悪を味方に引き入れるか。
 同じ赤陣営の参加者を見付けて協力するか。
 ともかく今は、仲間となれる参加者との合流が必須だ。
 大ショッカー大首領の意思が関わっているかもしれないこの殺し合い、
 大幹部であるこのアポロガイストが無様を晒すわけにはいかない。
 仮にそうでなくとも、ゲームに勝つことに損失はない。
 多少ダメージは残っているが、これだけ休息したなら十分だろう。
 あとは誰かの生命の炎を吸収すれば体調も万全になるハズだ。
 ガイは次の出会いを求めて移動を開始した。

          ○○○

 沈鬱な空気だった。
 人のいない街を歩く二人の間に会話はない。
 アンクは元々、喋る必要がないなら喋らない。ずっとそうだった。
 弥子は、たったの六時間で大勢の人間が殺された事実に言葉をなくした。
 こんなことで一々一喜一憂していては、身がもたないとアンクは思う。
 見ず知らずの奴が何人死のうが、自分には関係ないではないか。
 これだからこの手の御人好しは理解出来ない。面倒臭い。
 かといって、いつまでもこのままでいられるのも鬱陶しい。
 アンクは苛立ちながらも立ち止まり、弥子に振り返った。
「おい、いつまでシケた面してんだ? もう放送聴いてから三十分だぞ、いい加減切り替えろ!」
「……ごめん」
 身の入らない謝罪だった。
 アンクは思った。
 このまま戦いになったら、真っ先に危険に晒されるのはコイツだ。
 そしてコイツが危険に晒されたら、間接的にアンクまで危うくなりかねない。
「…仕方ないだろ、死んだモンはもう帰ってこねぇ……今は自分が生き残ることだけ考えろ」
「仕方ないって……そんな…」
「ほとんど俺達と会いもせずに殺されたんだ、仕方ない意外に言いようがないだろ」
「…………」
 言葉を詰まらせる弥子。
 言いたい事はあるのだろうが、言い返すこともできない。
 どうしようもないし、どうしようもできなかった。
「だから今はこの先のことだけ考えろ、でないと身がもたねえぞ」
「……わかった」
 やや釈然としない面持ちでああったが、弥子は小さくうなずいた。
 それから小さく「ありがと、アンク」と言われて……
 その不可解な礼に、アンクはまたしても舌打ちした。
 オレはただ足手纏いになられちゃ鬱陶しいから言っただけだ。
 礼を言われる筋合いなどないというのに……
「あれ、アンク?」
「あ?」
 そこで思考中断。
 何かに気付いた様子で声音を切り替えた弥子。
 弥子は、アンクの顔を……その少し下をまじまじと見詰めていた。
 視線の先にあるのは、アンクの首輪、だろうか。
「色、変わってる……?」
 言われて、アンクはビルの窓ガラスに映り込んだ自分に目を向ける。
 首輪のランプの色は赤だ。
 発光色には何ら変化はみられない。
 ゲーム開始から、変わらず赤に光っていた。
「………ん?」
 いや。よくみれば、ただの赤ではない。
 ランプの赤を囲む枠が"金色"になっていた。
 注意深く見ればわかる程度の違いだった。
 さっきまで銀色だった枠が、金色に変わっているのだ。
 それに対して、弥子の首輪の枠は"銀色"のままだった。
「……なるほどな」
 アンクはその意味を察した。
 あの"片割れ"が脱落したことは、放送を聴いたアンクは当然知っている。
 だが、そうなれば赤陣営のリーダーはどうなる?
 ルール上、赤のメダルの最多保持者がリーダーを引き継ぐのだ。
 今の所持メダル数を考えるに、アンクがリーダーになるのは不自然ではない。
 これは推測だが、リーダーの首輪のみランプの枠が金色になるのだろう。
 意識してみなければ気付かない些細な違いだった。
「リーダーが誰か、判別出来なきゃ困るからなぁ」
「……どういうこと?」
 首を傾げる弥子に、アンクはどういうワケか説明した。
 あの片割れの首輪の枠など弥子が気にしているハズもない。
 説明をきいた弥子は納得し、ぽむと手を叩いた。
「ってことは……確か白のリーダーも脱落したんだよね? だったら」
「そうだ。ガメルの後釜の参加者も、オレと同じになってるだろうな」
「……なるほど」
 この発見は大きい。
 リーダー変更はおそらく今後も発生するだろう。
 その時、誰がリーダーをやっているのかが分かっていると話が早い。
 そして、この事実に気付いているものもおそらくは少ない。
 比較対象が極端に少ないのだ、気付くとしたら、白の新リーダーと一緒にいる奴くらいか。
 情報アドバンテージという奴だ。
「ともあれ、今は俺がリーダーか……アイツがリーダーやるよりはやりやすいな」
 あの忌々しい"片割れ"がリーダーをやっていた時よりはいくぶん動きやすい。
 だが、そこでアンクはふいに疑問を持った。
“動きやすい? 一体、何が動きやすいってんだ?”
 果たしてオレは、この殺し合いに乗っているのか?
 映司と決着を付けること、あの片割れのメダルを取り返すこと……
 それら両方を達成したあと、オレは一体どうするつもりだったんだ?
 まだ何も考えていない。それについて考えることを、無意識にか避けていた。
“ちっ……! 何悩んでんだ、オレらしくもない!”
 どうせ参加者の大半は知らないヤツらだ。
 知らないヤツらブッ殺して、陣営優勝で帰れるならそれも悪くない。
 悪くないどころか、分かり易いぶん、自分らしくて非常にいいと思う。
 だが、それはあの気に食わない真木の言いなりになるということだ。
 それは腹立たしい、許せないとも思う。
 何より、ヤツの言いなりになって殺すというのは、気が乗らない。
 また面倒なことで頭を悩まされる。
 理不尽に苛立って、眉根を寄せる。
 そんな時、アンクは前方から歩いて来る男の存在に気付いた。
 弥子を背に隠すように身構え、やってくる男を見据える。
 白いスーツを着た、紳士的ないでたちの中年男性だった。
「……赤陣営か。どうやらわたしと同じ、仲間のようだな」
 男はそう言って立ち止まった。

          ○○○

 それから三人は、近くのオフィスビルのロビーにて話し合いの場を設けた。
 ガラスのテーブルを中心に、片側にアンクと弥子、反対側にガイという形だ。
 互いの自己紹介を軽く済ませ、ガイは真っ先に思い浮かぶ疑問をぶつけた。
「貴様がグリードなる怪人で、赤陣営のリーダーであることは分かった」
「だが、その"リーダー"の貴様が、青陣営の小娘を連れていることには納得がいかん」
「取るに足らないその小娘を、貴様はこれからどうするつもりなのだ?」
「リーダーとして、貴様がこのゲームをどう考えているのかを聞かせてほしい」
 それによって、ガイはアンクと共に戦うかどうかを見極める。
 殺し合いに乗るつもりがあるなら、この小娘はどう見てもただの餌だ。
 人を越えた怪人の力をもってすれば、こんな一般人など難なく殺せる筈だ。
 ガイの問いに、アンクは面倒臭そうに答えた。
「少なくともゲームに負けるつもりはない」
「ほう、それはつまり、この"殺し合い"に乗ると?」
 ガイの突き刺すような視線。
 殺し合い、という言葉を強調して言う。
 ちらと横目に桂木弥子を見れば、強張った面持ちで逡巡している様子だった。
 アンクに殺し合いに乗って欲しくはない、というような顔にみえた。
「そうは言ってない。考えてもみろ、あの真木に黙って従うのも癪だろ」
「だが、リーダーとして赤陣営を救うには、他の陣営を皆殺しにするしかあるまい」
「あぁ、だから邪魔者は殺す。だがそうでないヤツはほっときゃいい」
「ほう」と一言、ガイは弥子を見ながら言った。
「では貴様は、この小娘は殺すに値しないと言うのだな?」
「コイツに敵意はないからな。何ならメズールを倒して赤に引きこみゃ赤の頭数も増える」
「ふむ…なるほど、一見合理的な判断なのだ」
 だが……ガイは今、そういう参加者の命をこそ欲しているのだ。
 無防備な、容易く狩り取れる命を。自らの糧として吸収し、傷を癒したい。
 この小娘から、今すぐにでも命の炎を吸い尽くして体調を万全のものとしたい。
 そんなガイの思惑を何となく察したのか、アンクは冷然と言う。
「コイツには手を出すな、戦力を奪うなら殺し合いに乗った敵からにしろ」
「それだったらオレもお前に協力してやる、赤陣営を優勝させるためにな」
「いいか、それが条件だ。嫌ならお前はオレが潰す!」
 猛禽類のように鋭い目だった。
「どっちが得か、自分でよく考えろ」とアンクは続ける。
 どうやらこの男、ガイが手負いであることまで見抜いているらしい。
 動きや息の仕方から、体調が万全でないことまで見抜かれている。
 その上での脅迫。そしてこの自信……
 大した肝っ玉の男だ。
 おそらく、敵にすれば厄介な相手だ。
 そこでガイは協定の条件を、前向きに検討する。
“……確かに、強者から奪った生命力の方がより上質な糧となろう”
 この男の戦力を味方として取り込むなら?
 こいつは陣営リーダーのグリード。
 そして自分は無双龍を二頭も従えた大幹部。
 二人が組めば鬼に金棒、そうそう負けることもあるまい。
“魅力的な提案なのだ……断る方が愚かしいとすら感じる”
 事実、この協定を結ぶことで、ガイは何も損をしない。
 ただ、弥子の生命力という名の目先の利益を見逃すだけだ。
 それだけで、大きな戦力と、ひいては更なる生命力を得られるのだ。
 長期的な視野で考えて、自分のプラスを認識してからのガイの決断は早かった。
 ――ただし。と、条件を続けるガイ。
「貴様がリーダーに相応しくないと判断した場合は……」
「そのメダルも、桂木弥子の生命もわたしが頂くのだ」
「よもや文句などはあるまいな、"リーダー"?」
 コイツがもしただの甘ちゃんだったなら、その時は交渉決裂。
 赤のメダルは全てガイが奪いとり、陣営リーダーの座も奪い取る。
 一緒に弥子の生命の炎も喰らい尽して、わたしの糧としてやろう。
 その気になれば、アンクを撃破することくらいは出来るハズだ。
「…わかった、それでいい」
「アンク……!」
 アンクの了承に、弥子が異議ありとばかりに立ち上がる。
「お前は黙ってろ、何もお前が損するワケでもねぇだろ」
「でも、この人は殺し合いに乗ってるんだよ!?」
「それが何だ! オレはこの陣営のリーダーなんだよ!」
 怒鳴るアンク。
「……オレが陣営を優勝させりゃ、赤はみんな助かる…何が不満だ?」
「そのために……赤以外のみんなを犠牲にしてもいいっていうの?」
「どっちにしろ邪魔者は殺さなきゃ生き残れねぇんだよ! さっきまでと何が違うってんだ!?」
 アンクの言葉に、弥子は言い返せなかった。
 確かにこれまで、アンクは邪魔をする敵とは戦って来た。
 敵までみんな助けてやるだなんて綺麗事を言ったことはなかった。
 だが、それでも弥子はアンクのことを信じていた。
 根は優しくていい奴なんだと、信じていたい。
 弥子は決然と言った。
「……わかった。でも、罪のない人を殺すのだけは、絶対に許さないから」
「何もお前に許して欲しいワケじゃない……気に入らないなら勝手にどっかいっちまえ…!」
 そういって、アンクは立ち上がり踵を返した。
 それに追随するように、ガイも立ち上がりアンクのあとを追う。
 事実として、赤陣営の危険人物二人が手を組んだことになる。
 二人の背中を見詰め、弥子は自分の無力に唇をかんだ。
 何の力も持たない弥子は、あの二人の決断に口出しはできない。
 勿論、アンクなりに上手く殺し合いに乗ったガイを抑え込んでくれたことは分かる。
 協定を結んでいる限り、あの男も明確な敵以外を襲うことはないことも分かっている。
 だが……弥子には、アンクが急に遠くへいってしまった気がしてならなかった。
 リーダーという立場、それを活かして得た同じ陣営の仲間。
 ただ目的を遂行するためだけに手を組んだ仲間。
 そこに、佐倉杏子との間にあったような"暖かさ"はない。
 その事実が、何も出来ない弥子に居心地の悪い疎外感をもたらした。
「それでも……ほっとけないじゃん…」
 弥子は小声で一人ごちる。
 結局、アンクについていく以外に道はなかった。
 純粋にアンクのことが放っておけないから……
 素直じゃないあのアンクを、弥子は見捨てられなかったから。
 だから、置いて行かれないように、弥子は急いで二人のあとを追った。


【一日目 夜】
【D-4/市街地】

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】健康、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感、自分のコアの確保及び強化による自信
【首輪】160枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、タカ(十枚目)、クジャク×2、コンドル×2、カンガルー、カマキリ、ウナギ
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
    超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
    大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1~2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。その後、赤陣営を優勝させる。
 1.優勝はするつもりだが、殺し合いにはやや否定的。
 2.もう一人のアンクのメダルを回収する。
 3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
 4.アポロガイストに勝手な真似はさせない。
【備考】
カザリ消滅後~映司との決闘からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て取り込んでいます。

【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、深い悲しみ、自己嫌悪
【首輪】120枚:0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 1.アンクとアポロガイストについていく。
 2.美樹さやかに頼み込んで佐倉杏子を復活させる。
 3.他にも杏子さんを助ける手段があるなら探す。
 4.ネウロに会いたい。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です。

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤陣営
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)
【首輪】70枚:0枚
【コア】パンダ
【装備】龍騎のカードデッキ(+リュウガのカード)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
 1.アンクと共に邪魔者を始末し赤陣営を優勝させる。
 2.が、もしもアンクが甘ちゃんなら始末し、陣営を奪う。
 3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
 4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※龍騎のデッキには、二重契約でリュウガのカードも一緒に入っています。


089:百の貌 投下順 091:運否天賦
089:百の貌 時系列順 091:運否天賦
075:タカとカンガルーでタカンガルー便 アンク 110:59【ひづけ】
桂木弥子
078:ナイトメア・ビフォア(前編) アポロガイスト

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最終更新:2013年09月17日 02:57