百の貌 ◆qp1M9UH9gw
Xが意識を取り戻した頃には、太陽は既に姿を隠していた。
太陽が役目を終えた世界はどこも薄暗く、そのせいでXが視覚できる範囲も狭まっている。
最後に見た空は夕日の色で染まっていたから、かれこれ一時間以上は眠っているということになる。
「……………………ッ」
気絶する直前に見た、魔人の表情が浮かび上がる。
かなりの痛手を負っていた筈だが、それでも彼はXを見下していた。
地に伏せて魔人を見上げていたXとは、その姿はあまりにも対照的である。
「完全敗北」という言葉が、これほどよく似合う状況はないだろう。
しかし、これまでにない屈辱を味わったにも関わらず、Xは怒気を孕ませようとはしなかった。
Xはネウロとの戦いまで、全力で相手に立ち向かおうとはしていなかった。
彼の人生の中では、自身が本気を出すに値する実力を持つ者など存在しなかったし、
そもそも彼本人に本気を出そうとする気が欠片も無かったからである。
真正面から襲い掛かるよりも、油断した隙を突いた方が無駄な労力を使わずに「箱」を作れる。
戦闘狂じゃあるまいし、真正面から相手に堂々と挑むなど馬鹿のやる事だ。
だからこそ、ゲーム開始時点で近くにいた少年――"一夏"と呼ばれていたか――を奇襲したのだ。
運の良い事に、彼は最初の
ルール説明の時点でXのすぐ近くにいたのである。
Xはその時に少年を観察しており、その結果「中身を見る必要性が低い人物」という評価を下していた。
碌に話も聞かずに彼を惨殺したのは、そういう理由があったのである。
彼に擬態していれば、きっと「仲間を殺された悲劇の主人公」に同情した参加者が集まってくるだろう。
事情を知らない連中はこちらへの警戒も弱まっているだろうし、「箱」も作りやすい。
そうやって、人目を忍んで自分のやりたい事をしようと思っていたのだ。
尤も、その計画も想定外の事態が重なった末に破綻してしまったのだが。
上述の通り、Xはネウロと交戦するまで本気で戦おうとはしなかった。
黒騎士の時だって、危なくなったら逃げるつもりだったのである。
だからこそ、彼は真の敗北の味というものを知らなかった。
本気で潰そうと挑んだ相手に叩きのめされる屈辱など、身を以て経験などできる訳がなかったのだ。
しかしこの瞬間、Xはその"敗北"の何たるかを頭ではなく心で理解した。
――無敗の『怪物強盗』は、生まれて初めての挫折を味わったのである。
くつくつと、Xの口元から笑い声が漏れ出てくる。
次第にそれは声量を上げていき、やがては爆笑となって周囲に響き渡った。
他者がその光景を目にすれば、気でも触れたのかと気味悪がるだろう。
しかし、当のXは至って正常である――正常だからこそ、笑っているのだ。
「……強いなぁ。本当に強いよ」
体内に溜まった感情を吐き出し終えてから、Xがそう呟いた。
当時自分が使えた技の全てを総動員させても、ネウロに勝てなかった。
あの規格外な魔人の方が、全力を出したXよりも一枚上手だったのである。
それなのに、悔しさは一片も燻ってなどいなかった。
敗北を堪能したXにあったのは、たった一つの硬き意思だけ。
「次は必ず勝つ。勝ってアンタの正体(ナカミ)を見せてもらうよ」
敗北という名の苦汁は、"勝ちたい"という信念を生んだ。
人間ならば誰もが持ち合わせている筈であり、しかしかつてのXには無かった感情。
有史以前から人間を進化させてきた信念が、Xの中で芽吹いたのだ。
Xには知る由などないが、この信念は既に彼に影響を与えていた。
彼は気絶する直前に腕を
アンクのものに変化させていたが、
これはXが起こした感情の爆発が、コアメダルを支配した結果起こった現象なのだ。
あの時の彼に覚悟がなければ、メダルに封じられたグリードの意識がXを乗っ取っていただろう。
極限まで衰弱している彼の隙を突いて、復活の為の傀儡にしていたに違いない。
しかし、Xの精神の昂りがそれを妨害するどころか、逆にメダルの力を支配してしまったのだ。
一時的なものとは言えど、人間の意思がグリードの意思を上回るなど、奇跡としか言いようがない。
とはいえ、一部とはいえ肉体をグリード化させた代価は重い。
既にXの肉体は、かなりの勢いでコアメダルによる浸食の影響を受けてしまっている。
ある程度時間――それが何時間先の話かは定かではないが――が経てば、彼はメダルの怪物に変貌を遂げるだろう。
コアメダルに深く関わっていない以上、Xがグリード化に気付く様子は見られない。
今の彼は、自らの目的の達成ばかりに知識を動員させているのだ。
如何にして少ない消耗で「箱」を作れるか、そして最終目的であるネウロをどうやって倒すか。
ただそれらだけを考えながら、怪物強盗は殺し合いの地を駆ける。
真木の課したゲームになど目も暮れずに、彼は己の欲望に従い凶刃を振るうのだ。
「待ってなよ、ネウロ」
次に戦う時こそは、必ずやあの魔人を確実に仕留めてみせる。
宝石の様に硬い決意に、Xはそう誓ったのであった。
O O O
Xに支給された時計の長針は、既に六の文字を通り過ぎていた。
確かルールブックには午後六時に放送を行うと書かれていたから、放送を聞き逃してしまったという事になる。
禁止エリアを始めとする情報が公表されていた間、Xはずっと気を失っていたのだ。
(これは……まいったなぁ)
死亡者はまだしも、禁止エリアの位置を知らないのは流石にマズい。
何も知らずに禁止エリアに飛び込んで、そのまま首輪を爆破される可能性だってあり得るのだ。
まだ自分の正体が掴めていないというのに、そんな間抜けな最期を遂げるのは御免である。
近くに他の参加者がいれば、放送について聞き出せたかもしれないが、それらしき気配は何処にも感じられない。
できるだけ早く他者と接触し、情報の遅れを取り戻さなければならないだろう。
とりあえず、エリアの境目まで移動する事にした。
そこにいれば、何処にいようが爆死の魔の手からすぐに逃れられるからだ。
Xが今居る場所が禁止エリアに指定されている可能性は、十分に考えられる。
気付いた頃には脱出不可能になっていた、なんて間抜けな話は御免であった。
「……ああそうだ。いい加減変えた方がいいよね、これ」
布切れ同然になった衣服を目にして、ようやく気付く。
佐倉杏子は既に死んでいるから、Xが彼女の姿に擬態しているのは不自然ではないか。
今後の為にも、また別の人間に変化する必要があるだろう。
次は誰になろうかと考えていた所で、手持ちの支給品の中で丁度いい物があった事を思い出す。
あれがあれば、きっと道行く人の誰もが自分を信用してくれるだろう。
何しろこれを着ていたのは、いの一番に主催に戦いを挑んだ男のものなのだから。
あの男が装備していた物とは少し仕様が違うようだが、パッと見では誰も違いに気付きはしない筈である。
装甲が隠してくれているお陰で、首輪の色も判別できないのも利点だった。
肉体を変化させ、杏子から対象となる男に変身する。
体格も合わせているから、当然スーツも難なく着こなせた。
「よし、こんなもんだな」
啖呵を切るあの男も観察していたから、口調もそれなりに再現できている筈だ。
それに、こちらには参加者の詳細名簿だってあるのだ。
仲間の情報を握っている以上、今のXはあの男に限りなく近い存在になっているだろう。
少なくとも、初対面の人間を確実に騙せる程度には上手く擬態できている。
ライドベンターがあれば便利だったが、見た所それらしき物は見当たらない。
ブルースペイダーも大破させてしまったし、今は自分の足で行動するしかないだろう。
そう考えても、やはり徒歩よりもバイクでやって来る方が見栄えが良い気がしてならない。
そうだ、あの台詞を口に出して自らを鼓舞してみよう。
燻った僅かな不満感を掻き消して、さらに擬態を完璧に近づける為に。
これから演じるヒーローの象徴たる、あの決め台詞を。
「さあ――ワイルドに吠えるぜ」
【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小:回復中)、疲労(大)、鏑木・T・虎徹の姿に変身中
【首輪】30枚(消費中):250枚
【コア】タカ(感情L):1、コンドル:1
【装備】ベレッタ(8/15)@まどか☆マギカ、ワイルドタイガー1minuteのスーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式×4、詳細名簿@オリジナル、{“箱”の部品×28、ナイフ}@魔人探偵脳噛ネウロ、アゾット剣@Fate/Zero、
ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、佐倉杏子の衣服、ランダム支給品0~1(X:確認済み)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
1.今は『ワイルドタイガー』として行動する。
2.次こそはネウロに勝って中身を見てみせる。
3.下記(思考4)レベルの参加者に勝つため、もっと強力な武器を探す。
4.
バーサーカーやセイバー、
アストレア(全員名前は知らない)にとても興味がある。
5.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
6.
阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
7.殺し合いそのものに興味はない。
【備考】
※本編22話終了後からの参加。
※能力の制限に気付きました。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※アゾット剣は
織斑一夏の支給品でした。
※コンドルメダルと肉体が融合しています。
時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いてません。
※タカ(感情L)のコアメダルが、Xに何かしらの影響を与えている可能性があります。
少なくとも今はXに干渉できませんが、彼が再び衰弱した場合はどうなるか不明です。
【ワイルドタイガー1minuteのスーツ@TIGER&BUNNY】
佐倉杏子に支給。
最終話で「ワイルドタイガー1minute」としてヒーローに復帰した虎徹が使用しているスーツ。
見た目は以前使っていたスーツとほとんど変わらない。
最終更新:2013年09月17日 02:58