儚き憎しみに彩られた悲痛の幕開け~獅子身中の虫~ ◆hGYPnjbaTY
愛する人の居ない世界に意味など無く、其処に生きる我等にも意味など無い。
無意味な我等は、其れでも愛する人を想う。其処に意味がないと知る事にすら、意味など無く――。
嗚呼。御前達は、気付かないのか。
此の世界は、既に色を、温度を、失っている。
彼の人の血で出来た紅き孤独の海に、何物も意味を失った、白く濁った沈黙の灰を浮かべた地獄。其れを御前等は、仮に世界と呼んで居るのだ。
「(いっそ――全部、壊れてしまえば良いのに)」
先刻まで僅かに残っていた太陽の鬣も、今や漆黒の帳に覆い尽くされ、此の酷く醜く無意味な世界から、薄氷の如く刻み付けられた彼女の足跡を消してゆく。
最早、嘗ての仲間達と再び途を交える事もあるまい。セシリアが、真の意味で彼女を無意味な世界に連れ出そうとする輩と行動を共にして居るのも、今の内だけだ。
世界は既に欺きの上にある。なれば今更欺く事を畏れはしない。欺かれる前に欺け。セシリアを欺かんとする闇の世界の住人達を――。
「……夜が、訪れますわ」
世界と一緒に、太陽の鬣もまた完全に色を失い、世界に漆黒の帳が下りる。
彼の人が居なくなって、世界が意味を失ってから――初めて訪れる、独りの夜。
傍に彼の人では無い誰かが二人程居るが、そんな者は居ないも同然。
事実、虚空へ向けて紡がれたセシリアの吐息の如き呟きは、誰の耳にも届きはしなかった。彼奴等、宛ら彼の人の居ない世界の速度に合わせんばかりに、未だこの胸に残る彼の人の声を過去へと置き去りにせんばかりにバイクを加速させて居るのだ。虚無の如き風音はセシリアの儚き声など掻き消して余り有る。
だが、其れで構わない。何も、構う事は、無い。
其れでこそ、セシリアの魂は燃え立つ。愛する者の魂、散りて二度とは咲かずとも、捧いだ恋慕は炎の如くに。
彼の人の声は、今もセシリアの胸に、深く突き刺さって居る。其れは、そう――例えるならば、鳴り止まぬ歓声にも似ている。今と為っては、其れだけがセシリアを此の世界に引き止め、セシリアの影を現世へと縫い付けてくれて居るように感じられる。
セシリアは想う。この無意味な世界に其れでも意味を求めるならば。彼の人が存在した証を刻む事以外にセシリアの執れる途は無かろう。彼の人は此処に居た。此の世界に、其の脚で立ちて散った。其れを、奴原めに魅せ付けてやろう。
其れだけが、彼の人への愛を守り抜く唯一無二の方法にして、絶対なる正義。
――否、正義で無くとも構わない。此の愛を貫けるならば、正義か否か等今更どうでも良かろう。抑々、此の虚無の世界に於いて、セシリア以外に真の正義など有り得るのだろうか。千冬は。ユウスケとか云う優男は。此奴等はきっと、イヤ間違い無く、己を正義だと確信して居るに違いない。なれば、其れに牙を突き立てんとするセシリアは悪なのか。
悪だと云いたいならば、それでも構わない。セシリアの使命は変わらない。
所詮、人が自らを正義であると錯覚する為には、己以外の何者かを己以上の悪であると錯覚するより他に無い。なれば、自分等を正義と信じ、判らぬと逃げ、此の虚無のような世界に殉じようとする悪魔共と同じに下らない正義を掲げるのも癪な話ではないか。
なればこそ。セシリアは、悦んで悪の汚名を被ろう。
たった一つ世界に残された此の愛を貫く為、たとい此れからの人生、悠久の刻を修羅に身を窶す事になろうとも、其れこそセシリアの望んだ途。其れ以外に赦される途等有り得よう筈も無い。
そう――何物も、私の世界を、変えられはしない。
常世の全ては、愛する人に殉ずる為にある。
亡くした物を、奪い取れ。
血と、肉と、骨と。
あと、ひとつ。
「何だ……!?」
三人を乗せたバイクは、其れまでの景色と比べれば随分と都会化が進んだ都~マチ~に入ってから暫しの後、其の底は闇に染まって見えぬ深淵たる川を目前に急停車した。
ユウスケがバイクを降りて、川の底から響く怨嗟の叫びに耳を傾ける。否、傾ける必要すらも無い。其れは宛ら、溶け出す憎悪のように、夜を食む影の様に、月を射抜かんばかりに軋む軋轢の様に。意識を向ける必要すら感じぬ程の絶叫が、此の場に居る全員の耳には届いていた。
軋む。軋む。世界を貫く光の如くに、怨嗟の叫びは空を揺らす。
揺れる。揺れる。埃を失い獣と成り果てた罪人の叫びが、世界を揺らし空を堕とす。
果たして、墜ちているのは、声の主か、其れを聞くセシリアか――。
千冬とユウスケはバイクから降り立ち、ガードレールに手を掛け深淵を覗き込むが、夜の闇の中に在っては深淵たる泥川の底等見える筈も無い。直ぐ様顔を上げ、二人は互いに見合った。
奴等、今度は何をする積もりなのか。
織斑一夏でも、織斑一夏に関わる何かでもない物に興味等抱けよう訳も無く、セシリアはサイドカーのシートに腰を預けたまま二人の会話を聞いていた。
「どうする、小野寺」
「どうするもこうするも、誰かが川底に沈んでるんだったら、助けないと!」
「……落ち着け、馬鹿者。川底で叫びを上げ続けながら、生きている輩が何処に居る。恐らく川底の奴もまた、人ではないぞ。其れでも御前は行くと云うのか」
「確かに、相手は人じゃないかも知れない。悪い怪人かも知れない。でも、そうじゃないかも知れないから……もしかしたら、助けを求めて叫んでるのかも知れないから。だったら、俺、やっぱり見捨てる何て出来ません」
「ならば、もしも悪人だったならどうする」
「其の時は、俺が、クウガとして、其奴を倒します」
「…………全く。馬鹿者が」
千冬は冷たくそう言い放つと、真摯な熱意を滾らせた眼差しで語るユウスケに背を向けた。
サイドカーの座席から其の光景を眺め見た千冬は、宵闇に紛れ誰にも見られていないとでも錯覚したのか、千冬の顔が僅かに微笑んでいる居るのを見た。
其の小さな笑顔は何処までも優しく~醜悪で~、其れがセシリアには赦せない。
織斑一夏の居ない世界で、織斑一夏の一番の理解者だった筈の彼女が、どうして笑う事等出来るのか。其れは、彼女が本当に骨の髄までこの虚無の世界の住人に成ってしまった事の証明に他ならぬ。
嗚呼、矢張り彼女は、もう――。
「だが……御前なら、そう言うと思っていたよ」
「じゃあ……!」
「どうせ止めても行くのだろう。だったら御前の好きにしろ」
「ありがとうございます……!」
セシリアの落胆等露知らず。耳を聾する雷鳴すらも未だ心地が良い、最早雑音にしか聞こえぬ二人の会話の後、ユウスケが腰に手を翳し、何処からともなくベルトを出現させた。
次の瞬間には、変身の掛け声と共に、ユウスケは赤き輝きを迸らせ何か別の物へと其の姿を変えて、闇の底へと飛び込んで行った。
紅き身体に、金の角、其の姿、伝説に伝え聞く鬼の如し。
あの優男は、人ですら無かったのだ。奴等グリードと同じで、人にすら成り切れぬ醜悪な獣。一夏を過去へ追い遣ろうとする悪魔の正体が鬼となれば、尚の事容赦は必要無い。化け物は、人に害成す存在と相場は決まって居る。
なれば、あの悪鬼も退治せねば。それが、一夏の居た世界を守る事に繋がるのであれば。
「……何処までも、あの馬鹿に似ているな」
――ふと。不可解な言葉が聞こえた。
意味が理解出来ず小首を傾げるセシリアの隣へと戻って来た千冬は、何処までも醜く赦し難い其の表情で、あの鬼が飛び込んで行った川を眺めて居た。
恐らくは独り言だったのだろう。恐らくは其の言葉に大した意味等無かったのだろう。
だが、しかし。幸か不幸か、セシリアは其の言葉を聞いてしまった。聞き逃さずに済んでしまった。あの暖かかった日々を、愛する彼に対する裏切り以外に解釈の仕様の無い、何処までも薄情で冷たい其の言葉を。
誰に似ているのか等と、そんな事は訊こうとすら思わないし、訊きたくも無い。訊かない方が良いと、無根拠にそう理解~ワカ~る。
セシリアは想う。
時は常に背後から迫り、唸りを上げて眼前に流れ去るのだ。時が貴様をどれ程織斑一夏の居ない世界へ押し流そうとも、どれ程その牙を剥こうとも、前を見てはいけない。踏み留まらなければならなかった。それが、彼のたった一人の肉親と云うなら尚更だ。
希望は背後に迫る冥々たる濁流の中にしか無いと云うのに。在ろうことか、此の女は、意味の無くなった此の地獄で、似ている、等と宣ったのだ。誰に、等と考えたくも無い。考えなくとも察しが付く。
セシリアがこんなにも苦しんで居ると云うのに。そんな苦しみも知らず、世界の変化を躊躇いなく享受し、彼の人が居ない常世に順応し、彼の人の代わりを見付けて穴埋めをする。そんな彼女を世間は、大人と云うのかも知れない。だがセシリアは、老いさらばえ、完全無欠となったそんな大人が、どうにも赦せそうもない。
殺さなければならない。彼の人の居ない世界で、此の薄情者が生きていると云う事は、理解し難く赦されざる冒涜だ。此の薄情者が今、こうして生きている事自体が、セシリアには最早怖ろしい事とすら感じられた。
貴様等は何時か必ず、此の三千世界の血の海に叩き落とす。一歩を踏み出す勇気は今、成った。刻さえ満ちれば、今直ぐにでも殺してやりたい。此奴等は、最早一切の慈悲を与えるにも値しない塵芥だ。塵芥以下の存在だ。
その罪深し、海淵の如し。
赦せない。赦されない。赦してはならない。赦されてはならない。
もう一度、此の薄情者に、彼の人の居ない世界の苦痛を知らしめねばなるまい。
肉親だけで足りぬならば、此奴が微笑みを向けたあのユウスケとか云う優男から。
今では無い何時か、そう、近い内に。私は火を噴く怪物と成り果てるだろう。
泣き叫び赦しを請うても赦してやれぬ。其の身体が、波濤の残骸と成り果てる迄。
之は粛清成リ。愛する人の光がしなやかに空を裂き、此の何処までも澄んだ蒼穹よりも尚蒼く燐く裁きの雷となりて、彼女等の命の源を断つ。
――嗚呼、白き吐息の如き月光が雲を貫き、此の地獄よりも儚い世界を毒して往く。
【
小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】健康、クウガに変身中
【首輪】10枚:0枚
【コア】クワガタ:1
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
1.声の主(バーサーカー)の正体を確認し、敵なら倒し、味方なら保護する。
2.千冬さん、セシリアちゃんと一緒に行動する。
3.千冬さんとみんなを守る。仮面ライダークウガとして戦う。
4.
井坂深紅郎、士、織斑一夏の偽物を警戒。
5.“赤の金のクウガ”の力を会得したい。
6.士とは戦いたくない。しかし最悪の場合は士とも戦うしかない。
7.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。
※千冬が立ち直ったこと、セシリアを保護したことによりセルメダルが増加しました。
【
織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(中)、疲労(小)、深い悲しみ
【首輪】130枚:0枚
【装備】ダブルチェイサー@TIGER&BUNNY、白式@インフィニット・ストラトス、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木に制裁する。
1.小野寺、オルコットと一緒に行動する。
2.鳳、ボーデヴィッヒとも合流したい。
3.一夏の……偽物?
4.井坂深紅郎、士、織斑一夏の偽物を警戒。
5.小野寺は一夏に似ている。
【備考】
※参戦時期不明
※白式のISスーツは、千冬には合っていません。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。
※セシリアを保護したことによりセルメダルが増加しました。
【
セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、精神疲労(極大)、倫理観の麻痺、一夏への依存、ダブルチェイサー(サイドカー部分)に乗車中
【首輪】5枚:0枚
【装備】ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(5/5:予備弾丸17発)@現実
【道具】基本支給品×3、スタッグフォン@仮面ライダーW、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:一夏さんへの愛を守り抜いてみせましょう。
1.千冬とユウスケの二人だけは赦せない。三千世界の果て迄追い詰めてでも何時か必ず殺す。
2.一夏さんが手に入らなくても関係ありません。敵は見境なく皆殺しにしますわ!
3.一夏さんへの愛のためなら何だって出来ますの……悪く思わないでくださいまし。
4.一夏さんへの愛のために行動しますの。殺しくらいなら平気ですわっ♪
5.織斑先生達の前では殺し合いに乗っていないフリ。賢い生き方を、ですわ。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※制限を理解しました。
※完全に心を病んでいます。
※一応、青陣営を優勝させるつもりです。
※ブルーティアーズの完全回復まで残り5時間。
なお、回復を待たなくても使用自体は出来ます。
最終更新:2013年07月30日 16:33