燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM
川の中はそう深くもなく、ただ若干の濁りが視界に悪い。
もし飛び込んだのがただの人間であれば、まさに一寸先は闇といったところだったかもしれない。
だが、今この水中にいるのはただの人間ではない。
ある程度視界が悪くても、クウガの感覚を持ってすればどうということにはならない。
ペガサスフォームであれば、あるいはさらに視界の確保もできただろうが、ともすれば戦闘になる可能性もあるのだ。小回りの利く形態のほうが望ましい。
そこにいたのは、病院でグリードとの戦いの中で共闘した、切嗣と去ったはずのサーヴァントの姿。
黒き鎧には何重にも巻かれたワイヤーが絡まり、身動きを封じている。彼の装備を考えれば、今の状態で自然に浮き上がるのは難しいだろう。
そして、彼のそんな姿を見て一人の存在が気に掛かった。
バーサーカーがここで沈んでいるということは、
衛宮切嗣は一体どうしたというのか。
少なくともこの付近にはいなかった。ではバーサーカーと切嗣は離れて行動しているということになる。
もし彼の身に何かあったのなら、と心中に嫌な予感が漂ってきた。
「待ってろ、すぐに助けてやるからな」
水中というのは、空気中よりも音の伝達が早い。
バーサーカーの、言葉にならぬ叫び声は大きな衝撃と共にユウスケの耳に届いている。
接近し、ワイヤーに手をかけるが、その固さは想像以上だった。
ユウスケは知らないことだが、それは対グロンギ用の武装の一つ。生半可な力だけでは引きちぎることは難しいのだ。
「くっ…、こうなれば――超変身!!」
腰に手を翳し、その体の色を変えるクウガ。
目の色が変わり、赤き体は紫の堅牢そうな鋼の鎧となる。
仮面ライダークウガ・タイタンフォーム。
例え、いかに力を加えようと切れないワイヤーであったとしても、刃物をもって斬られた場合、耐え切れるものではない。
川底に落ちていた1本の木を拾い上げると、その木の棒は大きな両刃の剣に形を変える。
そして、ユウスケはそれを振り下ろし、一刀の下にバーサーカーを拘束していたワイヤーを切断した。
「よし、これで大丈夫だ。切嗣さんのところへ―――」
それが、バーサーカーの狂気を縛っていた鎖であったことにも気付かずに。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
咆哮と同時に、全身に巻きついたワイヤーを振りほどいたバーサーカーは。
その背後に現した門、その中の剣を、ユウスケに向けて射出した。
「な…!」
味方だと思っていた存在からの、不意を撃つ形での攻撃。
幸い、門を投影してからの射出までにタイムラグがあったことが彼の命を救った。
飛んできた3本の剣をタイタンソードで弾き飛ばす。
「止めろ!俺だ、小野寺ユウスケだ!お前の敵じゃない!」
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
動揺のままに叫ぶユウスケの声は届かず、バーサーカーはその門から取り出した1本の剣を手に、クウガに斬りかかった。
水中という環境では思うように剣を振るうことができない。対してバーサーカーは水の抵抗など何のそのと言わんばかりの連撃を繰り広げる。
元々味方だと思っていた相手からの攻撃、そして水中という環境がクウガの全力を出させないでいた。
タイタンフォームの鎧にバーサーカーの連撃が、剣の射出が突き刺さっていく。
しかし、ユウスケとて多くの世界を巡り戦ってきた戦士。そのままやられっぱなしでいるわけにもいかなかった。
長期的な観察により、バーサーカーの攻撃の癖のようなものを、微かにだが掴む。
連撃の中に大振りの一撃が混じる瞬間。
敢えて、しかしダメージは最小限に抑えられるように攻撃を受ける。
そのまま剣を掴み、残った手でタイタンソードを振りかざした。
巨大な金属音と共に吹き飛ぶバーサーカー。
ある程度距離が取れたこのタイミングがチャンスだ。
「超変身!!!」
傷だらけでヒビも入った紫の鎧は、青くスマートな肉体へと姿を変える。
水を司りし形態、ドラゴンフォーム。
タイタンフォームではまともに動けない水中でも、この姿であれば少しは話が変わってくる。
手の大剣は長い棒状の武器に姿を変える。
剣の射出を持ち前の素早さで避け、眼前に迫った剣戟はドラゴンロッドで受け流す。
しかし、身軽となった反面、決定打には欠けるこの姿。いくら攻めどもバーサーカーを止めるほどのダメージは与えられずにいた。
(一体切嗣さんに何があったん…―――)
と、目の前で射出されようとしていた門の射線上、それは水面、陸上に向いたものだった。
この向きで剣が発射されれば、その先にいるのは―――
「まずい!」
ユウスケは川底を蹴り、水面に向けて飛び上がったと同時。
小さな金色の短剣のような武器が、金色の門より飛び出した。
◇
人間であれば潜水の名人といえども限界であろう時間が経過してもまだ、小野寺ユウスケは浮上してこなかった。
それどころか、金属音やうなり声が陸上までも聞こえてくる。
あの水中にいたのは敵であったということは疑いようがなかった。
では、自分達はどうするべきなのか。
水中に飛び込んで彼の援護をする?いくら千冬とて水中での白兵戦経験などない。
下手に戦いに飛び込めば足手まといとなる可能性もある。
音と衝撃が聞こえてくるということは、まだユウスケは生きて戦っているという証。
今は彼の無事を信じて待つしかない。
「オルコット、もしもの時は頼めるか?」
「――その、ブルー・ティアーズは今ダメージを受けてまして、今しばらくは調子が……」
「そうか、だがまあ念のためだ。持っておけ」
そう言って、千冬はセシリアに30枚のセルメダルを預けた。
もし戦闘まではできなくとも、逃走くらいは可能なはずだ。
「でも、織斑先生は大丈夫なんですの…?」
「私にこいつがまともに動かせるかは分からんし、最悪この剣だけでも凌いでみせるさ」
本来なら無謀としか思えない、しかしそれができうる人だということはセシリア自身はっきり分かっていた。
だからこそ、タイミングが重要なのだ、と。そう思った瞬間だった。
水面から二つの何かが飛び出すと同時、二人の目の前で大爆発を引き起こしたのは。
水柱と熱が視界を覆う中、それらから身を挺して庇った何者かが、目の前に降り立った。
「小野寺!何があった?!」
「バーサーカーです!体を縛られて沈んでいたところを助けたんですが、こっちに襲い掛かってきて。
俺が引きつけますんで、千冬さんとセシリアちゃんは離れていて下さい!」
と、水面から飛び出した黒き鎧の騎士に対し、爆風を防いだことでボロボロになったドラゴンロッドを投げつけ気を引いたユウスケ。
そのままドラゴンフォームの脚力を生かしてバーサーカーから離れ。
バーサーカーはそんなクウガを追って駆け出した。
「待て、小野寺!!」
「知り合い、ですの…?あの黒い鎧の方と…」
「少し、な。だが何やら様子がおかしい。
小野寺を追うぞオルコット。何か嫌な予感がする」
◇
特に逃げる道は決めていない。
唯一指針があるとすれば、あの二人から離れられればと思っただけだ。
そこで彼をどうにか取り押さえる。その後切嗣さんの安否を確かめるのだ。
コアメダルも既に消費済み。持つ限りはどうにか離れなければ。
さっきの二人を救えたという安堵の中、僅かにメダルが増えたのを感じたのは幸いか。
ドラゴンフォームの脚力で走るクウガにも負けない速さで追いすがるバーサーカー。
速く逃げるとはいえ、直進していてはいい的だ。
現在地の森という環境を生かし、木々の隙間を変則的に移動。
そして、そんなユウスケの下には多くの武器の弾幕が降り注いでいた。
広範囲を狙った弾幕を、高高度のジャンプで避け。
バーサーカーは飛び上がった彼に、狙い済ましたかのように巨大な戟を投擲し。
恐ろしい勢いで襲い来るそれを体を反らしてどうにか避けたユウスケ。
地面に降り立ったユウスケは再び走り出し。
それを追ってバーサーカーも駆けた。
◇
言峰教会。
未だ目覚めぬ己が主を前に、
セイバーはどうするべきか思考中だった。
それは、今後の方針に限った話ではない。
もし目覚めたとき、もし鈴羽の言うことが正しかったとき、私は彼とどう接するべきなのか。
共に戦う、というのであれば異論はない。
殺し合いを打破するのであれば、協力できるはずだ。
彼がかつてのような外道のような戦いをしないのであればなおさらだ。
と、そのように割り切るのが難しいほど、セイバーの中にあるわだかまりは大きかった。
彼がここでどのように戦ってきたのかは分からない。
あるいは、敵が切嗣より上手だっただけかもしれないし、怪我に関しては考えすぎなのかもしれない。
だが、万一変わっていたとしても。そんな彼を受け入れられるのか。
ともあれ、彼が目を覚ますまでは安静にする必要がある。セイバーとて切嗣の死を望んでいるわけではない。
手持ちのコアメダルを一枚、そしてセルメダルも半分ほど切嗣に預けると体は少しずつだが回復を始めた。
あとは自分が傍にいれば、更に回復効率は高まるはず―――
だというのに。
彼の傍にいるということに抵抗を覚えている自分がいた。
もし変わっていないのであればまだ問題はないはずだった。
ではもし彼が、鈴羽の言うとおり変わっているのだとしたら。
私は彼とどう接すればいいのか。
憎めるのであれば、引き離せるのであればまだそう難しくはない。
だが、歩み寄るとなるとなかなかどうして難しい。
そんなことを、この教会に他に何かないか、誰かいないかということを見回りに出ながらセイバーは考えていた。
「セイバー、どうだった?何か見つかった?」
「いえ、襲撃者、あの怪人の正体についての痕跡くらいはあるかと思いましたが、建物内からは何も。
ただここよりは安全であろう場所は見つけました。もしもの時の為にキリツグはそちらに移動しておきたいのですが」
この建物に入るのは初めてというわけではない。しかし当然のことだが、その時は教会内を詳しく調べるなどできなかった。
教会の人間、そしてサーヴァント・アーチャーとそのマスターとの会合に使っただけなのだから。
探索の結果、地下室がこの教会にあることが分かった。そこであればしばらくは一目を避けて切嗣が目覚めるのを待てるだろう。無論それが万全といえるわけではないが、ここよりはマシだ。
セイバーは切嗣の体を背負い上げ、移動させようとした。
その時だった。
教会の窓。その中でも一際高いところに付けられたものの外から。
一瞬何かが煌くのが見えたのは。
「鈴羽、伏せて!!」
咄嗟に叫ぶセイバー。
次の瞬間、窓が割れる音、そこから何かが飛び込む衝撃が響き、そこから飛び込んだ何かが地面に突き立った。
教会の床にキラキラと降り注ぐ破片の中。そこにあったのは、1本の巨大な武器。
槍のような刃の両側に三日月状の刃が付いた、所謂戟と呼ばれるもの。
幸いその何かが彼らの元に直撃することはなかったものの、もしもう少し軌道がずれていたなら、セイバーはともかく鈴羽や切嗣は一たまりもなかっただろう。
そして、セイバーはそれに見覚えがあった。
「これは…、アーチャーの武器のようだが…」
港での5人のサーヴァントが集結の際、アーチャーが矢のごとく発射した中にあった宝具に、形状が似ていると思ったセイバー。
この長距離からの狙撃のごとき射出。まさかとは思うが、この教会を狙った一撃か。
と、その時割れた窓からほんの微か、おそらくサーヴァントであるセイバーでなければ捉えることのできないであろう音が耳に届いた。
――■■■■■■■■■■■ーーー!
「バーサーカー…?!まさかこの付近に…!?」
先に撤退した時とは状況が違う。
もしここまで来られたら鈴羽だけでなく未だ目を覚まさぬ切嗣をも守りながら戦うことになるかもしれない。
ならば、距離がある今ここまで来ることがないよう迎え撃ちに行くのが最善―――
と、決断することはセイバーにはできなかった。
あの時も必要だったことだとはいえ、鈴羽、そしてあの時はまだ健在だったそはらの元を離れた時に二人は襲撃を受け、そはらは命を落としてしまったのだから。
もし戻ってくるのに時間がかかってしまい、その際またあの時のように第三者からの襲撃を受ければ。
セイバーにはそれが恐ろしかった。
「……行ってきなよ、セイバー」
そんなセイバーの思いを感じ取ったのか、鈴羽はセイバーに、背中を押すように告げた。
「スズハ…」
「私なら大丈夫、同じ轍は踏まないって。今度は切嗣さんも、私自身の命も、絶対守りきるからさ」
「……」
「どうせここまでそのバーサーカー?ってのに来られたら終わりなんでしょ?だったら可能性が高い方を選ぶべきだって思うんだ私。
もう、そはらの時みたいにはなりたくないしさ」
「―――スズハ、もし襲ってきたものが手に負えないと分かる相手であれば、せめてあなただけでも逃げるようにしてください。
私が戻るまでの間、少しでも生き延びる可能性が高い選択肢を、常に選んでください。それが私からのお願いです」
「了解」
数分後、教会から高速で飛び出すセイバーの姿があった。
その手には先に飛び込んできた1本の戟。
セルメダルは先に切嗣に半分使い、そして今またコアメダルを換金した、合わせて60枚あったうちの20枚をもしもの為に鈴羽に預けておいた。
今はエクスカリバーが手元にない。つまりはあのバーサーカー相手に、使いこなせなくはないとはいえ慣れない武器で、風王結界のみで戦わなければいけない。
宝具無しで戦わなければならないならメダルが多くても手に余るだけだ。
今はむしろ鈴羽、そして切嗣にメダルが必要なのだから。
「風よ!!」
手元に残ったメダル、その一部を使い足元に高圧の風を作り出す。
セイバーの華奢な、それでいて精錬された肉体を、その風圧が一気に宙に押し上げ。
地面を蹴り飛ばした次の瞬間には、セイバーの体は遥か遠くの空を舞っていた。
◇
目を覚まさない衛宮切嗣。
今その体は教会に備えられた地下室にあった。
彼の体の治癒を見守る鈴羽。
不安は尽きない。あの時にそはらを失ったときのように。
それでも、今回はセイバーが戻ってくるまで守りきろう、生き残ろうと。
鈴羽はそう心に誓った。
【B-4 言峰教会地下室】
【
阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】40枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
0.この人が衛宮切嗣……。
1.セイバーが戻ってくるまで、衛宮切嗣を守る。
2.罪のない人が死ぬのはもう嫌だ。
3.知り合いと合流(
岡部倫太郎優先)。
4.
桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。
見月そはらの最期を彼らに伝える。
5.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
6.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
7.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(大)、貧血、全身打撲(軽度)、右腕・左腕複雑骨折(現在治癒中)、肋骨・背骨・顎部・鼻骨の骨折、片目失明(いずれもアヴァロンの効果で回復中)、
牧瀬紅莉栖への罪悪感、強い決意
【首輪】60枚(消費中):0枚
【コア】サイ(一定時間使用不可) タコ(一定時間使用不可)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
0.――――――――。
1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して“仲間”となる人物を探す。
2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
5.
バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、
雨生龍之介と
キャスター、グリード達を警戒する。
6.セイバーと出会ったら……? 少なくとも今でも会話が出来るとは思っていない。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※かろうじて生命の危機からは脱しました。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します。
◇
1本の巨大な斧をもって斬りかかるバーサーカー。
受け止めるのは蒼き体を、紫の鎧、タイタンフォームへとその身を変えたクウガ。
斧を受け止める剣は、バーサーカーが撃ち込んだ大量の宝具の中の一つを変化させたもの。
精錬された一撃は、タイタンフォームでなければ武器ごと吹き飛ばされていただろうと言わんばかりの威力。
それを、タイタンフォームの腕力、そしてタイタンソードをもって受け流す。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
「ッ…、切嗣さんはどこに…!」
ユウスケにはバーサーカーを殺すという選択肢はまだ取ることはできない。どうして彼が襲い掛かってきたのか、何者かに操られているのではないか。
その判断がつかない以上、踏ん切りがつかずにいた。
しかし、ユウスケがいかに迷おうと、バーサーカーはお構いなしに攻撃を続けてくる。
そして今、ユウスケはここにきてバーサーカーを取り押さえるのを諦めつつあった。
目の前の黒き騎士は手加減をして取り押さえられる相手ではない。それをこの身をもって実感したのだ。
殺す殺さないは後にしても、全力で戦わねば勝てない。
斧の一撃を、敢えて肩の部分で受け止める。
鎧に亀裂がが入るが、それだけ。しかし逆に言えばタイタンフォームの堅牢な鎧に亀裂が入ったのだ。
おそらくこの攻撃はタイタンフォーム以外で受けられるものではないだろう。
「おおおおおおお!!」
攻撃のために急接近したバーサーカーに対し、攻撃を受けたことで空いたタイタンソードを下から振り上げる。
その一撃はバーサーカーの身を纏った黒い霧に一瞬だけ切れ目を入れ、鎧を切り裂く。
バーサーカーはその反撃に一旦クウガから距離を取る。
空いた距離の元、ユウスケは瞬時にドラゴンフォームに変身。地面に刺さった槍を手に掴む。
そのまま一気に距離を詰め、バーサーカーの体にドラゴンロッドの連撃を叩きつける。
素早く、一撃一撃を確実に。相手に反撃の暇を与えないほどの勢いで。
宝具を射出する暇も、その手の斧を振りかざす隙も与えないように、関節部、そして先の攻撃の成果である、鎧に入った切れ目を攻撃。
パキッ
やがてバーサーカーの鎧に、さらなる亀裂が入る。
後ろに一歩下がったバーサーカー、それを見逃さず攻撃を加えようとしたところで―――
彼の手に、1本の剣が顕現する。
黒い西洋剣。
それは彼自身の宝具、無毀なる湖光(アロンダイト)。
解放させた代わりに、バーサーカーの他二つの宝具は封じられ、身を包んでいた黒き霧は消滅、斧も地面に投げ出される。
アロンダイトにより補正がかかったランスロットの一撃は、ドラゴンロッドを粉砕、それだけでは止まらずユウスケの体を袈裟懸けに切り裂く。
「ガ…!」
防御力は低めとはいえ、胸部の装甲をも切り裂いて中の肉体を損傷させたその一撃。
吹き飛んだユウスケは、背中を地面に打ち付ける。
起き上がろうとしたその時、バーサーカーは駆け出し、その手の剣をクウガに向けて振り下ろした。
タイタンフォーム―――ダメだ、武器がなければ受けきれない。
バーサーカーが発射した宝具は―――今となってはほとんどが回収され、僅かに残った武器も手元にはない。
起き上がって回避―――間に合わない。
「…――姐さん、千冬さん―――」
と、諦めかけた、その瞬間だった。
振り下ろしたバーサーカーの剣を、突如目の前に現れた金髪の少女が受け止めたのは。
「………何故だ」
「■■■■!!」
バーサーカーにもその登場は予想外だったようで、意志は見えずともその動揺は見て取れた。
しかし、それ以上に、現れた少女は目の前に立つその存在に大きな動揺を隠しきれていなかった。
「―――バーサーカー。何故、貴様がその鎧を、そしてその剣を持っている?」
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
「答えろ!答えてくれ、ランスロット!!!」
そう叫んだと同時、金髪の少女はバーサーカーに蹴り飛ばされ、後ろに大きく後退する。
怯んだ彼女の元へ、叫び声を上げながら斬りかかるバーサーカー。
対してセイバーは、バーサーカーへの動揺からか対応が遅れてしまった。
「A――urrrrrrッ!!」
構えた戟は柄の部分で切断され、そのまま剣はセイバーの胸を切り裂こうと突き出され。
「うおおおおおおお!!」
次の瞬間、向かい来るバーサーカーの頭部の鎧を、紫の拳が対面から殴りつけた。
セイバーに完全に気を取られてしまったバーサーカーは、体勢を立て直したクウガの拳を正面から受けてしまったのだ。
クロスカウンターをまともに受けたことで、脳を揺らしたバーサーカーは一時的に体をふらつかせた。
「はぁ、はぁ…。あんた、セイバー…ちゃんだろ?」
「…あなたは…?」
「俺は小野寺ユウスケ。あんたのことは切嗣さんから聞いてる」
「キリツグから…?」
金髪の少女、セイバーは一瞬意外そうな表情でユウスケを見て、すぐに納得したように頷いた。
「キリツグは……、いえ、今する話ではない。それよりも、あのバーサーカーは――」
「切嗣さんに従っていたはずなんだけど、川に沈んでたのを助けたら襲い掛かられたんだ。何か知らないか?」
「な…、キリツグが彼を?!」
「セイバーさんは、切嗣さんがどこにいるか、知らないか?」
バーサーカーを切嗣が従えていた。
その事実は驚きはあったが、そこまで意外というわけでもなかった。
もし他のマスターから令呪を奪ったことで彼がバーサーカーを御しえたのなら、意志がない分彼の手駒としては最適なのかもしれない。
だが、それを他者が認識しており、なおかつ信頼関係を作っているというのは意外であった。
自分の知っている彼は、他者というものを信用しない。常に効率を選んで行動している。
情報が欲しければ、少なくともその名前や姿まで明かすことはそうそうないはずだろうし、最悪記憶操作や暗示という手段も用いたはず。
彼の言う切嗣が別人である可能性も考えたが、自分のことを知っている者は今となっては切嗣、鈴羽、ラウラという少女、そしてあの”織斑一夏”しかいない。
(キリツグ、やはり、あなたは私の知るキリツグではないのか…)
しかし、その事実に思いを巡らせる暇はない。
バーサーカー―――ランスロットは既に脳震盪から立て直し、二足での直立を果たしていたのだから。
「キリツグは――教会で襲撃を受け、重傷を負っている。今も意識がない」
「何だって?!それは本当なのか!?」
「ああ、私の仲間もいる。だから――先に向かってほしい。彼は、………彼は私が――」
短くなった戟の柄を持ち、風を纏わせて透明化させるセイバー。
しかし、そんなやる気を表すような姿勢とは裏腹に、セイバーの声は、手元は震えている。黒い鎧が一歩近付いてくる度に、彼女の足後ろに下がりそうになっている。
そんな体勢でバーサーカーの一撃を受けられるはずもなく、アロンダイトの一振りでセイバーは吹き飛ばされる。
「く…」
セイバーの中には、まだバーサーカーの正体を知ったことへのショックが抜けきってはいない。
そんな精神状態で、セイバーを越える技量を持ちなおアロンダイトの補正がかかったバーサーカーは押さえられない。
だが、今この場にはユウスケがいた。
横からバーサーカーを押さえつけ、下ろされる剣を受け止める。
「な…、これは私の戦い、あなたが戦うことなど…――」
「事情は分からないけど…、そんな辛そうな顔した女の子に、戦わせられるわけがないだろ!」
「A――urrrrrrッ!!」
「こいつは俺がおびき寄せる。だから千冬さんと…セシリアちゃんを連れて、教会まで―――」
体を押さえたユウスケは、その背にバーサーカーの肘撃ちを受け力を緩めてしまう。
そのまま空いた手を打ちつけ、そのまま体から引き剥がして思い切り投げつけた。
投げ出されたユウスケを、セイバーは後ろから受け止めた。
「……確かに迷いはある、何故彼が狂気に落ちたのか、確かめたいという思いも。
しかしそれでも、己の戦いを投げ出すことは、決してしない。それが王たる者の勤めだ」
何故彼がああなってしまったのか。そんなにも私のことを憎んでいるのか。
聞きたいことはたくさんあった。
しかし、今は戦うことに集中しなければ、きっと彼はもっと多くの犠牲者を出すだろう。
それだけは、なんとしても止めなければならない。
「切嗣不在の今、バーサーカーを制御することはおそらくできないだろう。これまでのことは忘れて、バーサーカーを倒すことだけを考えてほしい」
「あんたは、それでいいのか?」
「もし彼が狂気に落ちたのなら、かつての友として私が止めなければならない。
だから、今だけその力を貸して欲しい」
ユウスケに断る理由はない。ただ一つ、どうしても気になってしまったことを言う。
「もちろんだけど、そんな辛そうな顔で戦おうとはしないでくれ。可愛い顔が台無しになるだろ」
「…私を女扱いは止めてもらいたい」
駆け抜けてくるバーサーカー。
クウガは、周囲に僅かに散らばるバーサーカーが回収しそこねた剣の1本をタイタンソードへと変化させ、セイバーの目前でアロンダイトを受け止める。
セイバーは、その隙に横から飛び掛り、短くなった刃をバーサーカーに叩きつける。
しかし、それも見通していたのかバーサーカーは片腕でそれを受け止める。
篭手が割れ、腕は後ろに大きく吹き飛んで体勢を崩した。
そのまま剣を地面に突き立て、クウガは後ろに下がる。
セイバーはそのタイタンソードを引き抜き、バーサーカーに振りかざす。
対するバーサーカーはその一撃を、アロンダイトで受け止めた。
しかし、相手の持っているのは竜殺しの属性を持った魔剣。そしてセイバーは竜の血を持った騎士。セイバーの斬撃は数回で見切られ、タイタンソードは消滅する。
素手になったセイバーに、ここぞとばかりに襲い掛かるバーサーカー。
その時、セイバーの手の中に風が巻き起こる。
それまでに持っていた、戟の刃部を風王結界で隠したもの。それを取り出したのだ。
向けられた刃を防ごうとしたバーサーカーは、勝手知ったるセイバーの聖剣ではない武器の間合いを見誤り、手で受け止めようとするも掴み損ねてしまう。
掴み損ねた刃は体に密着させられ―――
「風王鉄槌(ストライク・エア)!!」
纏わせた風を、暴風として打ち付けた。
ゼロ距離からの風王鉄槌。その衝撃はランスロットを宙へと吹き飛ばす。
そして、
「うおりゃああああああああ!!」
宙に浮いたバーサーカーの体目掛けて、クウガは駆け、飛び上がり。
赤く燃える右足を、マイティキックをバーサーカーの胴体に向けて叩き込んだ。
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
クウガが着地すると同時、吹き飛んだバーサーカーは地面に叩きつけられる。
しかし、それでも未だ立ち上がる力を持っているバーサーカーは起き上がり。
次の瞬間、鎧の切れ目の罅が広がり、体を纏っていた黒き鎧は大きく割れ、地面に落ちた。
「……A……he……、■■■■■■■■ーーー!」
上半身の防具を失ったバーサーカー。
肉体に受けたダメージが大きかったためか、セイバーを前にしてバーサーカーは撤退を選んだ。
アロンダイトを収容し、全身に黒い霧を纏わせるとふらつく体を無理やり起こし、二人に背を向け跳び去った。
最終更新:2013年07月01日 19:39