上を向いて歩こう ◆qp1M9UH9gw
【1】
井坂にとって、最初の放送は朗報以外の何物でもなかった。
何しろ、忌々しい仮面ライダーの片割れである
左翔太郎の死が、真木の口から語られたのだ。
自分の前に立ち塞がるであろう敵の一人が消えたと聞いて、喜ばない道理などあるものか。
半身を失ったWなど、今の自分なら赤子の手を捻るように殺せてしまうだろう。
「彼らも生き残っていましたか。いやはや、まだまだ楽しみは尽きませんねェ」
あの放送では、これまで戦ってきた相手――
小野寺ユウスケや
カオス――の名は呼ばれてはいなかった。
つまりは、まだ彼らの力を堪能し、そして食らうチャンスが残されているという事である。
彼らと次に会ったその時こそは、戦いに勝利しその力をじっくりと堪能させてもらうとしよう。
ガイアメモリとは全く異なる超常の力とは、果たして如何なる原理で機能するものなのか。
それを想像するだけで、思わず表情に光悦感が滲み出てしまいそうだ。
(……おっと、その後も考えねばなりませんね)
"その後"というのは、この地に存在する力を全て喰らい終えた時を指している。
いくら此処で欲望を満たしても、最終的にこのゲームから生還しなければ意味がない。
未知の力には大いに興味があるが、一番大切なのは元の世界での目的を果たす事なのだ。
脱出だろうが優勝だろうが、とにかくこの殺し合いから生きて帰らなければならないのである。
仮に優勝を目指す場合、井坂は自分が属する陣営を優勝させなければならない。
そうするとなれば、やはりリーダーのグリードに従って他の参加者を殲滅するのが最も手っ取り早いのだろう。
しかし、その「リーダーのグリードに従う」というのが井坂にはどうにも気に食わない。
腹の内を読めない者に従うのには不安が残るし、何より「最終的な生還者はリーダーが決める」という
ルールがあるのだ。
仮に優勝したとしても、自陣営のリーダーの一言で生首が宙を舞う可能性だってあるのである。
そんな危険要素を抱えた選択肢を選ぶほど、井坂は博打好きではないのだ。
とはいえ、それで優勝への道は閉ざされたという訳ではない。
リーダーに従うのが嫌なら、自分がリーダーに成り代わればいいだけの話だからである。
グリードを見つけ次第狩ってしまえば、容易く陣営の王の座に就けてしまうのだ。
主催の刺客である以上、奴らも並大抵の相手では敵わない様な実力者なのだろうが、今の井坂だってT2ガイアメモリの恩恵を受けている。
今まで以上の力を得ているのだから、こちらも遅れを取る事は無い筈だ。
もう一つの手段である脱出は、優勝よりも遥かに難易度は高くなるだろう。
何しろ、手の内を見せていない主催の目を掻い潜りながら、首輪の解除を始めとした様々な面倒事を解決しなければならないのだ。
脱出を目指す者はそれなりに存在するだろうが、だからと言ってそれが成功率の上昇に繋がる訳でもない。
それに彼らと共闘しようにも、自分の危険性を仮面ライダー達が広めているだろうから、拒絶される可能性が高い。
井坂にとっては、脱出という手段は他の参加者以上に厳しいものとなっているのである。
とはいえ、やはり真木が完全に信用ならないのもまた事実。
もしもの場合に備えて、首輪の解除方法くらいは把握しておいても損はないだろう。
仮に敵対されようが、この情報を握っていれば上手く相手を利用できるかもしれないからだ。
セルメダルを吸収する技術にも大いに興味があるし、これの謎は是非とも解いてみたい。
「……そういえば」
放送直後の同行者の様子を思い返す。
彼は放送が終わった直後に天に向かって慟哭し、井坂には一人にして欲しいと懇願していた。
自分の気持ちに整理を付けようとしていたようだが、あの様子ではそれにもかなり時間がかかりそうだ。
赤の他人ならまだしも、ガイアメモリを育てている真っ最中の彼があのままでは困る。
流石にこれ以上油を売っている訳にもいかないし、ここは一つ、医者らしく彼を診てやる必要があるだろう。
【2】
案の定、龍之介は未だに頭を垂れたままだった。
井坂を前にしても微動だにせず、ただ絶望感に打ちひしがれるばかりである。
慕っていた男――「青髭の旦那」だったか――の死に、相当参ってしまっているようだ。
「
キャスターさんの死でかなり困憊している様ですね」
「…………」
「お気持ちは分かります。慕っていた師を喪うというのは実に耐え難い」
「…………」
井坂の言葉に、龍之介は反応を示さない。
下を向いているから表情を伺えないが、きっとこの世の終わりの様な顔をしているのだろう。
普段の無気力な彼からは想像も付かない様な深い落胆から、彼にとってキャスターが余程重要な人物だったかが把握できる。
やはり、彼一人だけでは元に戻るのにかなり時間を費やしてしまいそうだ。
井坂としては、早く彼に立ち直ってもらいたいのだが。
「どうです?そのキャスターさんの話、私に聞かせてはくれませんかね?」
何はともあれ、龍之介の心境を理解しない事には始まらない。
改めて彼と向き合い、その心に何を抱えているのかを見定めるのである。
少しばかりの沈黙の後、口を開いたのは龍之介の方であった。
「すっげぇCOOLだったんだ……旦那は…………」
それから、龍之介はぽつぽつとキャスターとの思い出を語り始めた。
儀式殺人の場での出会い、初めて目にした奇怪な魔術、そして彼の「COOL」な趣向の数々……。
これまで青髭の話など片手間程度にしか聞いていなかったが、こうしてしっかりと耳に入れていると、如何に彼が異常な存在だったかが理解できる。
なるほど、道理で龍之介の様な凶悪犯から感銘を受ける訳だ。
「ひでえよ旦那……オレに"最高のCOOL"ってヤツを見せてくれるんじゃなかったのかよォ……」
龍之介の話によれば、キャスターは彼の目の前で何か大それた事を為すつもりだったらしい。
それが実行されようとする直前にこのゲームに連れてこられたが故に、一体何をするつもりだったのかは龍之介も知らないそうだが、
異常者の思いつきという大前提がある以上、恐らく碌なものではないのだろう。
尤も、井坂としてはそんな事どうでもいい話なのだが。
「……そうですか。それなら話は早い」
何はともあれ、龍之介の事情は把握できた。
この情報さえあれば、彼を立ち直らせるのは容易い。
「あなたが敬愛したその青髭の旦那……さぞやその"最高のCOOL"をお披露目したかったのでしょうねェ」
「うん……あの時の旦那すっげえ張り切ってたし……」
「ではその"最高のCOOL"、君が代わりに行うというのはどうでしょうか?」
「……は?」
ここに来て、龍之介が今まで伏せていた頭を井坂に向けた。
今の彼の表情は、何を言っているのか分からないと言わんばかりである。
鋭い者ならこの時点で気付きそうなものだが、どうやら彼はそうではないらしい。
それならば、井坂自身が龍之介に教えを説く必要があるだろう。
「死んだ彼の遺志を継ぐのですよ。話を聞くに、あなたはキャスターさんの師であり仲間だったのですよね?
それなら、彼の思いを汲んであげられるのは弟子であり同時に相棒である君しかいない筈です」
異常者と意思を交わせるのは、同じ異常者しかいない。
キャスターの思惑を理解できるのは、彼の仲間であった龍之介だけなのだ。
そして、そのキャスターの目的を継げるのもまた龍之介以外にありえないのである。
生粋の殺人鬼が持っていなかった"最終目標"――井坂はそれを、龍之介に与えたのだ。
「でも……旦那が何するかなんて……」
「何も再現する必要はありません。自分で考えた中で"最高のCOOL"を実践すればいいんですよ。
君の熱意が本物なら、きっとキャスターさんも満足してくれるでしょう」
そう指摘されると、龍之介はデイパックから本を一冊取り出した。
どういう運命の導きか、螺湮城教本はキャスターの相棒であった彼の手の中にある。
「大事なのは内容ではなく目的に見合うだけの熱意――つまりは、君の言っていた"覚悟"なのです。
覚悟さえあれば、君にもきっと"最高のCOOL"を演出できるでしょう」
今は亡き師に思いを馳せているのか、龍之介の視線は螺湮城教本に釘付けになっている。
これまで虚ろだったその瞳には、少しずつではあるが活力が戻りつつあった。
「そんな事……オレ……できるかな……」
「できますとも。もし一人が心配なら、私が協力してあげましょう」
「……先生」
井坂に向けられた龍之介の顔は、既に仲間の死を悲しむ者のそれではなかった。
大きな決心をしたような今の彼の表情からは、彼が"覚悟"を決めた事を意味していた。
これから自分が何をするべきかを見定め、そしてそれを達成してみせるという"覚悟"。
今の彼の瞳には、これまでには無かった強い意志が感じられた。
「……オレ……まだ旦那みたいにはなれないけどさ……それでもやってみるよ」
「そうですか。その決意、青髭さんもきっと喜んでいるでしょう」
そう言って、井坂は龍之介に微笑んでみせた。
それに釣られたのか、龍之介も小さく笑ってしまう。
その笑顔には、嘆きなど何処にも見当たりはしなかった。
【3】
龍之介が自信を取り戻したのを見て、井坂も胸を撫で下ろす。
ここで腐ってしまっては、体内のガイアメモリが育つ前に命を落としてしまうだろう。
雨生龍之介の死因は、「生命力減衰による衰弱死」でなくてはならないのだ。
まだ彼には希望を――生への渇望を抱いてもらわなければ困るのである。
これから先、龍之介が理想を求めたが故に何人もの参加者が被害を被るだろう。
彼が定めた"目的"はそのまま殺人に直結するのだから、当然と言えばそうである。
だが、それで何人の犠牲が出ようが井坂にとっては知った事ではない。
最終的に龍之介の体内に眠るメモリが手に入ればいい話であり、その過程で誰がどう死のうが関係ないのである。
自分の目的の為なら他者の命を平然と踏み躙る――
井坂深紅郎とは、そういう男なのだ。
とはいえ、龍之介の"覚悟"が行き付く先が気にならないかと言うと、それは嘘になる。
彼の様な稀代の殺人鬼には少しばかり親近感が沸いていたし、彼なりの「最高のCOOL」にも興味がある。
まだ生命力を吸い尽くすまで時間はあるし、今はゆっくり彼の成長を見届けるとしよう。
(尤も、結末は同じなのですがね)
どう足掻いた所で、龍之介は生き残れない。
インビジブルメモリに生命力を提供し終えた後に、自分でも理解できないまま息絶えるのだ。
そして最後に、井坂がそのメモリの力を食らって更なる力を得るのである。
前回は仮面ライダーの介入のせいで果たせなかったが、今はその邪魔な敵もいない。
今度こそ、インビジブルメモリの力を我が物にしてみせようではないか。
メモリを植え付けられた龍之介は、まだ何も知らない。
自分がメモリの養分となっているなど露とも思わずに、これからも元気にはしゃいでいるのだろう。
間接的に自身を苦しめているのが同行者である事など、最後まで気付かないに違いない。
「では龍之介君、そろそろ移動しましょうか」
「そうだね……でも先生、中央ってもう禁止エリアだったんじゃ……」
「正確には二時間後ですが……まあ同じ事でしょうね。さて、何処に行きましょうか……」
中央部は禁止エリアに指定されてしまったし、次の目的地を新たに探さなくてはならない。
別にどこに移動しても良いのだが、ここは他の参加者と出くわす可能性が高い、名有りの施設を目指すとしよう。
シュテンビルトなる都市に行ってみるのもいいし、教会の近くにあった衛宮邸に向かうという選択肢もある。
何処へ向かえば新たな異能と巡り合えるのか――そして、その異能とは如何なるものなのか。
身の内で暴れ回るこの興奮は、まだ龍之介には悟られてはいない。
【一日目-夜】
【C-5 南部】
【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】肩にエンジンブレードによる斬り傷
【首輪】50枚(増加中):0枚
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、DCSの入った注射器(残り三本)&DCSのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料
【思考・状況】
基本:自分の進化のため自由に行動する。
1.インビジブルメモリを完成させ取り込む為に龍之介は保護。
2.T2アクセルメモリを進化させ取り込む為に
照井竜は泳がせる。
3.次こそは“進化”の権化であるカオスを喰らってみせる。
4.ドーピングコンソメスープに興味。龍之介でその効果を実験する。
5.コアメダルを始めとする未知の力に興味。特に「人体を進化させる為の秘宝」は全て知っておきたい。
6.そろそろ生還の為の手段も練っておく。念の為首輪も入手しておきたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。
それによってどのような影響があるかは、後の書き手に任せます。
※二人が何処へ向かうかは次の書き手にお任せします。
【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、深い悲しみと決意、生命力減衰(小)
【首輪】50枚(増加中):0枚
【コア】コブラ
【装備】サバイバルナイフ@Fate/zero、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO、螺湮城教本@Fate/zero
【思考・状況】
基本:旦那が言っていた「最高のCOOL」を実現させる。
0.先生……オレ、頑張ってみるよ。
1.しばらくはインビジブルメモリで遊ぶ。
2.井坂深紅郎と行動する。
3.オレに足りないものは「覚悟」なのかも……?
【備考】
※大海魔召喚直前からの参戦。
※インビジブルメモリのメダル消費は透明化中のみです。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介はインビジブルメモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。
※
アポロガイストの在り方から「覚悟」の意味を考えるきっかけを得ました。
それを殺人の美学に活かせば、青髭の旦那にもっと近付けるかもしれないと考えています。
※キャスターが何をするつもりだったのかは把握していません。
※二人が何処へ向かうかは次の書き手にお任せします。
最終更新:2014年05月14日 02:16