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さらばアポロガイスト!男の涙は一度だけ!! ◆qp1M9UH9gw



【1】


 ふと気付けば、ガイの視界は黒一色に染まっていた。
 漆黒が四方を取り囲む空間の中で、彼は一人立ち尽くしていたのだ。
 あらゆる方向を向いてみても、ガイの景色に黒以外の色が混ざる事は無い。
 此処は何処なのか。何が原因でこんな場所に飛ばされたのか。
 置かされた状況にひどく困惑した直後、ガイが背後から感じ取ったのは他者の気配。
 弾かれたように振り返ってみれば、そこにいたのは彼の同僚であった。
 明かりの無い空間にも関わらず、ガイは死神博士の相貌をはっきりと確認できた。

『残念だ、アポロガイストよ』

 悲しげにそう呟いてみせた死神博士を、ガイは訝しげに見つめる。
 一体何が"残念"なのかと問い詰めようとした所で、急激に視界がぐらついた。
 地震でも起きたのか錯覚する程に眩暈は酷いもので、思わずその場に座り込んでしまう。

『まさかパーフェクターを破壊されてしまうとはな……あれ無しではお前は生きてけまい』
『我ら大ショッカーの技術を用いても、あれを復元するのは不可能なのだよ』

 横から聞こえてきた声は、月影ノブヒコのものであった。
 死神博士と同じく大ショッカーの大幹部である彼が、何故こんな場所に。
 そう考えている間にも、ガイを苛む眩暈はさらに激しくなっていく。

『お前に残された寿命は残り僅か……だが、我々ではもうどうする事もできんのだ』

 死神博士のその言葉を聞いた瞬間、ガイは自分の身に何が起きたのかを悟った。
 パーフェクターを破壊された事で命の炎を吸えなくなり、そのせいで生き長らえる事が不可能になってしまったのだ。
 つまり、この眩暈の原因は命の炎の枯渇であり、その果てにあるのは"死"以外に在り得ない。

『もういいですかな?死神博士。これ以上情けをかける必要もない』
『うむ。では頼んだぞ、シャドームーンよ』

 眩暈に耐えながらも視線を移してみれば、ノブヒコの本来の姿――シャドームーンが立っているではないか。
 緑色の双眸はじっとガイを見つめており、同時に刺々しい程の殺気が感じ取れた。
 頭で深く考えずとも、彼がこれから何をするつもりなのかが嫌でも理解できる。

『死にぞこないに大幹部は務まらない……そう思わないか?アポロガイストよ』

 ガイに向け翳された右手から、瞳と同じ緑色の光が迸る。
 この技はシャドービーム――至近距離から当てれば、確実に相手を絶命させれる。
 立ち上がる事さえままならない今のガイでは、どれだけ足掻こうが回避など不可能だ。

「やめろ……やめるのだ……ッ!」

 如何に懇願しようが、シャドームーン達は無言を貫いている。
 それはつまり、彼らがガイの要求を呑むつもりは一切ないという意思表示だ。
 最早"死"は必定であり、それを覆す方法はもう何処にもありはしない。
 数秒後に齎されるであろう絶命の一撃に、最大限まで高ぶるのは死の恐怖。
 湧き上ったそれは絶叫となり、否応なしにガイの口から飛び出すのであった――――。


         O          O          O


「やめろおおおおおおお……お…………お、お?」

 声を上げた瞬間には、もうガイの前からシャドームーンの姿は消えていた。
 彼だけではない――死神博士も消え失せ、空間も一般的な家屋へ移っている。
 数刻ほどの空白の後、ガイは自分がそれまで夢の世界にいた事に気付いた。

「何時の間に……私は……」

 アンクから撤退した後、休息を取ろうと民家に潜り込んだのだが、どうやらそこでうたた寝をしてしまったらしい。
 居眠りなどするつもりは無かったが故、これは予想外の事態である。
 幸い放送の前に目覚めれたが、しかし時間を無駄にしてしまった事に変わりは無い。

 手で額を拭ってみると、尋常ではない量の冷や汗が手に付着する。
 睡眠の最中に観た悪夢は凄まじいもので、今でもあの死の瞬間が鮮明に思い出せた。
 思い返す度に恐怖が蘇り、身体が震えそうにさえなってしまう。

「おのれアンク……それもこれも奴のせいなのだ……ッ!」

 居眠りで時間を潰してしまうのも、あの様な悪夢を見る羽目になってしまったのも。
 全てアンクが――パーフェクターを破壊したあの男が発端なのだ。
 奴にさえ出会わなければ、無様に冷や汗を流す事も無かったに違いない。

(パーフェクター……あれが無ければ私は……ッ!)

 改造手術を受けたアポロガイストには、致命的な弱点が一つある。
 それは、改造時点で残された寿命が僅か一か月と極めて短い事だ。
 捨て駒として扱われる戦闘員ならまだしも、アポロガイストは幹部級の怪人。
 たったの一か月程度の寿命だけでは、幹部としての活躍など見込めはしない。
 そんな欠点を解決する為に作られたのが、彼の頭部に取り付けられたパーフェクターである。
 それには命の炎――言い換えれば生命力を奪い取る効果があり、アポロガイストはこれを使う事で、寿命を延ばし今日まで生き長らえれていたのだ。
 命の炎を奪い続けている限り、彼が寿命によって息絶えるのはまずあり得ないと言ってもいいだろう。
 だが、そのパーフェクターはアンクの手によって破壊されてしまった。
 もう"命の炎"を吸う術は無く、無限に延ばせる筈だった寿命はもう手に入らない。
 それまでぼやけていた"死"の概念が、確固たる形を持って顕在した瞬間であった。

 これまでは、自分は死なないという確信めいた感情があった。
 何度仮面ライダーに敗れようが、必ず生き残れるという自信。
 自分は決して死にはしないという、そもそも己の死について考えてなかったが故の慢心。
 だがその自信は、パーフェクターの喪失と、悪夢という形で体験した"死"によって脆く崩れ去ってしまった。

「許さんぞアンク……!貴様は必ずこのアポロガイストが直々に引導を渡してやるのだ……ッ」

 それもこれも、全てアンクに責任がある。
 必ずやアンクをこの手で抹殺し、その上で陣営を奪い取らなければ。
 そう目標を立てる事で自らを奮い立たせ、未だ続いていた身体の震えを止める。

 「善は急げ」ならぬ「悪は急げ」だ。
 早く此処から出発し、行動を開始しなければ。



【2】


 ウェザー・ドーパントに変身している井坂の前にあったのは、地面に突き刺さった一振りの大剣と、腹部をそれに食い破られた少女の遺体である。
 具体的に何が起こったのかを推し量るのは出来ないが、遺体の損傷具合からして相当凄まじい戦闘があったのだろう。
 それの近くにあった原型を留めていない死体も、その過程で出来たものに違いない。

 井坂は大剣の柄を掴み、地面に刺さったそれを抜き取ろうと試みる。
 が、いくら力を加えてみても、剣は一向に持ち上がる気配を見せなかった。
 ドーパントと化し超人となった肉体でも、この黄金の剣を抜き取る事は叶わない。
 こうなると、剣そのものに何らかの細工が施されていると考えるしかないだろう。
 見惚れる様な美しいそれを手に入れられないのは残念だが、現状でどうにもならない以上諦めるしかあるまい。

 大剣から少女の亡骸に視線を移動させた後、すぐさま彼女の首元に向けて手刀を振るう。
 瞬く間に彼女の首は跳ね飛ばされ、首輪と生首が地面に転がった。
 かつて少女に嵌められたその首輪を拾い上げ、井坂は満足げに笑みを浮かべる。
 嵌められた首輪を解析する為にも、何処かに参加者の死体の一つでも転がっていないかと探していたが、ここに来てようやくそれに巡り合えた。
 原型を留めていない死体からも首輪を回収しておいたので、これで所持している首輪は二つになる。
 一つあれば十分ではあるが、もしもの時に備えて複数個持っておいても損はないだろう。

「あ、先生先生!その娘ちょっと貸してよ!」

 変身を解いた直後に、はしゃいだ声が飛んでくる。
 ふと見れば、龍之介が瞳を輝かせている姿が目に入ってきた。
 彼の視線は井坂ではなく、彼のすぐ近くを転がっていた頭部に注がれている。
 龍之介の意図を理解した井坂は、生首の毛髪を掴み上げ、そのまま龍之介に放り投げた。

「サンキュー先生!これでもっともっとスッゲーやつが作れるかも!」
「随分と意気込んでますが、何を作るつもりで?」
「そりゃもう、こいつで最ッ高にCOOLなアートを作るんだ!今ならトビきりの上物が作れるって、俺の直観が言ってるんだよ!」

 これだけじゃないんだと、龍之介は井坂に"素材"を差し出してきた。
 それは紫色の瞳の眼球だったり、頭蓋骨の欠片だったり、先程の少女のものであろう腕だったり。
 常軌を逸するグロテスクな素材達を、彼は嬉々としながら井坂に紹介していく。
 真人間であれば咀嚼物を吐き出しかねないそれらをアートと称する辺り、流石としか言いようがない。
 "素材"の発表会の合間に発した「できれば生きてる子が欲しいんだけどさ」という言葉から、どうも完全に満足してはいない様なのだが。

「成程、それが君の見つけた"最高のCOOL"というヤツですか?」
「そんなんじゃないよ。これはその、アレだよ、旦那への墓代わりってヤツ?
 旦那は俺に色んな事教えてくれたしさ、ちゃんと弔わなきゃ失礼かなって」

 死者を弔う為に死者を冒涜するとは妙な話であるが、これも彼なりの美学に基づいたものだろう。
 井坂にとって「旦那」など心底どうでもいいのだが、それで龍之介の気が良くなるのなら放任するとしよう。
 それが彼が前進する気力を見せる物であれば、出来る限りの協力はしてあげたいものだ。
 まだ龍之介には、生き残るだけの気力を常に持ってもらわなければ困るのだから。

「それでさ、作ったアートの前で、旦那がしたかった"最高のCOOL"ってヤツを成し遂げてやるんだ!
 旦那、きっと喜んでくれるだろうなァ……そうだ、先生も協力してくれない?」
「勿論ですとも……と言いたい所ですが、その前にやるべき事を済まさなければなりませんね」

 そう言うと、井坂は龍之介に背を向ける。
 自分の丁度後ろから、何者かの気配を感じたのだ。

「そこにいるのは分かってます。隠れてないで出てきたらどうです?」

 井坂がそう呼びかけてみると、物陰から現れる影が一つ。
 白いコートを着たその男とは、これで二度目の遭遇となる。


【2】


「いやはや、また御会いするとは奇遇ですねェ」

 視線の先にいる紳士服の男とは、数時間前に出会ったばかりだ。
 面倒な相手と出くわしてしまったと、ガイはばつの悪い表情を浮かべる。

「調子づきおって……お前の相手をするほど暇ではないのだ」

 口ではそう言ったものの、それで彼等が引くとは想定していない。
 何しろ、最初に遭遇した時点で襲い掛かってきた男なのだ――今回も牙を剥いてくるに決まっている。
 憎きアンクを打倒する為にも、セルメダルは可能な限り温存しておきたいのだが。

「誰かと思ったらあのエラソーなオッサンじゃん。何やってんの?」
「相変わらず口の利き方を知らん小僧だ、そんな事私の勝手であろう。分かったなら早く道を開けるのだ!」
「そうですよ龍之介君。人には人の事情があるのですから」

 そう言って龍之介を宥めながら、井坂は一歩前に出る。
 その手にはガイアメモリが握られており、これから彼が何をするのかも予測できた。
 井坂に出会った時点で確定してしまった未来であり、なおかつガイにとっては最悪の展開。

「まあ、貴方の都合なんてどうでもいいのですがね」

――WEATHER!!――

 起動したガイアメモリは一人でに浮遊し、そのまま彼の耳元に吸い込まれていく。
 メモリが完全に体内に吸収された頃には、既に井坂の肉体はドーパントのものに変異していた。
 ガイがウェザー・ドーパントを目にするのは、これが二度目である。
 ただ、あの時はリュウガの横やりが入ったせいで戦わず終いだった為、刃を交えるのは初となる。

「ここで会ったのも何かの縁です、ちょっと私の相手をしてくれませんか?T2ウェザーメモリの力、もう少し調べておきたいのですよ」
「貴様……この大ショッカーの大幹部たる私を実験台扱いするつもりか?」
「まあ、そういう事になりますね。察しが良くて助かります」
「舐めおって……ッ!小物如きで変身した所で、純正の改造人間である私に勝てるものか!」

 「アポロチェンジ」と嘯くと、ガイの肉体が戦闘用――アポロガイストのそれへと変化する。
 象徴たるパーフェクターは喪われているものの、戦闘行為自体には何ら支障はない。
 この姿で目の前の怪人に対処する事も、当然ながら可能であった。

「おや、仮面ライダーに変身しなくても良いのですか?」
「貴様などライダーの力を使うまでもない!このアポロガイストの力だけで十分なのだッ!」

 こうは言ったものの、アポロガイストとして戦うのにはちゃんとした理由がある。
 以前出会った際に、井坂は龍騎とリュウガの戦闘を目にしているのだ。
 手の内を知られている以上、龍騎に対し既に何らかの対策が練られている可能性は十分考えられる。
 それ故にガイは、井坂のまだ知らぬアポロガイストとしての能力で戦うべきだと判断したのだ。

「これはこれは、随分と舐められたものですねェ。まあいいでしょう、頑丈である事を祈りましょうか」

 ドーパントとなった井坂からは一切の恐怖を感じ取れない。
 それどころか、半ば慢心にさえ似た余裕さえ持っているではないか。
 舐められているも同然な態度を取られ、武器を持つアポロガイストの指に力が籠る。

「言いおったな……後悔しても知らんぞ!大ショッカーのアポロガイストの名前、その身に刻み付けてくれるわッ!」

 そう意気込んで、アポロガイストは自らを鼓舞する。
 未だ脳裏にこびり付く悪夢を振り払い、意識を戦闘に集中させる為だ。
 しかし、如何に戦意を高めようと自己暗示をかけたとしても。
 一度染み込んでしまった死への恐怖は、そう易々と取り除けはしないのだ。


【3】


 この殺し合いの原因となった主催者達は、舞台の駒達の情報を全て把握している。
 何時に誰と出会い、何時に何処へ向かい、何時に誰と戦い、そして何時に死んだのか。
 ゲームが開始された後の行動は、何から何まで主催者に見透かされてしまっている。
 だから、井坂とアポロガイストの闘いの幕が切って落とされた事さえも、彼らは知っていた。

「アポロガイスト……彼は確か、コアメダルと融合していたよね?」

 インキュベーターがそう問うと、隣にいた真木は抑制のない声で「そうです」と答えた。
 いつも通り彼の視線は白い小動物ではなく、肩にちょこんと座った人形に向けられている。

 そう――アポロガイストの肉体は既に、コアメダルと融合を始めていた。
 何時頃から融合を始めていたかは定かではないが、既に彼とメダルはかなり同化している。
 この調子なら、そう遠くない内にアポロガイストはグリードに変貌するだろう。

「融合してまだ時間は経ってませんが、彼の欲望は十分な程に大きい」
「首輪のお陰だね。通常ならここまで早くグリードは生まれないよ」

 首輪には、コアメダルと肉体の融合を促進する効果がある。
 これがあるお陰で、本来数日経たなければ発生しないグリード化が早期段階で起こるのだ。

「"生まれる"……あまり喜ばしい言葉ではありませんね」
「終わりの始まりと考えればいいさ。それよりアポロガイストの事だけど、井坂深紅郎と戦って生き残れるのかな?」
「それは彼次第でしょう。彼の欲望が運命を決めると断言していい」

 そう、全てはガイの欲望次第なのだ。 
 首輪にはコアメダルと肉体の融合を促進する効果があるが、補足すべき点が一つある。
 それは、参加者がメダルと融合している場合、その欲望の大きさによって融合の速度が上昇するというものだ。
 彼等が激しく求めれば求めるほど、その肉体はさらに人外に近づいていく。
 コンドルメダルと融合した怪盗Xが、感情の爆発によって自身の一部をグリードさせたように。
 人を助けたいと望んだ鹿目まどかが、コアメダルの力を僅かだが引き出していたように。
 そしてそれは、クジャクメダルと肉体が融合しているアポロガイストも例外ではない。

「彼がもっと激しく、もっと強く望めば……新たな"器"が誕生するかもしれません」



【4】


 戦闘が始まって数分後、その場に立っていたのは井坂一人であった。
 アポロガイストの方はと言うと、傷だらけの状態で地べたに這い蹲っている。

 二人の戦いは、終始井坂がアポロガイストを圧倒していた。
 ガイが逆転の兆しを見せた場面は数あれど、それら全ては井坂の強さを証明する為の引き立てにしかならず。
 どう挑もうと、彼はウェザー・ドーパントという強敵の噛ませ犬にしかなり得なかったのである。

「あれだけ息巻いておきながら、実に無様ですねェ。アポロガイストの力を見せてくれるのではないのですか?」

 アポロフルーレを杖にして立ち上がるガイを見据えながら、井坂はそう挑発する。
 それが未だ残る闘志に火を付けたのか、アポロガイストは今一度目の前の敵に挑みかかった。
 が、そうして振るわれた剣も呆気なく躱されてしまい、その代わりと言わんばかりに井坂はガイの顔面を掴み上げる。

「ぐおっ……貴様……やめ――――」
「止めませんよ、勿論」

 その言葉と同時に、ガイの顔面を掴む井坂の手が赤く染まっていく。
 掌が著しい程の熱を帯びたのだ――あらゆる天候を操る彼には、この程度造作もない事である。
 その高熱の手に顔を掴まれたアポロガイストの口からは、形容し難い程の悲鳴が漏れ出ていた。
 彼の悶絶を数秒ほど耳にした後、井坂は空いていたもう一方の腕でアポロガイストの腹を殴りつける。
 カマイタチを伴ったその一撃は、彼を後方に吹き飛ばすのには十分すぎた。

「うおおおお!先生やっぱスゲー!」

 賞賛を送る龍之介を尻目に、井坂は顔を抑え悶えるアポロガイストに詰め寄る。
 そして、未だ敵の接近に気付かない彼の横腹を、何の躊躇もなく踏みつけた。

「弱すぎる……正直がっかりですよ、貴方には」

 井坂が知るアポロガイストという男は、果たしてここまで歯ごたえのない相手だったか。
 こんな弱者が、龍之介と対峙した「大幹部」の名に恥じぬ男だというのか。
 思えば、今井坂が見下ろしている男には、以前感じた様な覇気がまるで感じられない。
 まるで大切なものを何処かに落としてしまったかの様で、それが戦闘にさえ支障をきたしているのだ。

 井坂から見れば、アポロガイストもまた魅力的な力の一つであった。
 何の道具の力も借りずに怪人に姿を変える術など、興味を持つなと言う方が無理である。
 そして、その怪人の力量は如何なるものか、実に探求心をそそられたのだが……今となっては興冷めだ。

「もう結構です。ここでお別れとしましょうか」

 アポロガイストに止めを刺す為、掌に紫電を纏わせる。
 超高電圧の一撃をまともに喰らえば、改造人間とて一溜まりもない筈だ。
 一抹の失望を感じながらも、井坂は敵の命を刈り取らんと電撃を放ったのだった。


          O          O          O


 死ぬ。
 あと数秒もしたら、井坂は電撃を叩き込むつもりだ。
 見るからに電圧が高そうなそれをまともに浴びたら、命を保っていられる保証はない。
 運が良ければ瀕死で済むが、悪ければそのまま自分は落命するのだろう。

 そういえば、この情景はつい先程見た悪夢と驚くほど似通っている。
 相手こそ違うものの、右手に光を迸らせる点などそっくりではないか。
 嫌でも悪夢を思い出させる光景を目の当たりにしたせいで、また全身が震えだす。

(死ぬ……!?死ぬというのか、このアポロガイストが……!)

 そう、自分は死ぬのだ。これまで想像した事もない"死"が、すぐ目の前まで近づいてきている。
 しかもこれは悪夢の中の出来事ではなく、れっきとした現実の話だ。 
 今此処で命を落とせば、この世界からアポロガイストという男の魂は消滅する。
 もう二度と身体を動かせず、それどころか思考する事さえ出来なくなるのだ。

(し、死にたくない……私は……死にたくなどない……!)

 怖い、怖い、怖い。
 全身がさらに激しく震え、恐怖で他の感情が塗り潰されていく。
 こんな場所で死にたくない。まだ仮面ライダーを一人も狩っていないのに。
 こんな無様に死にたくない。まだアンクに何も仕返しが出来ていないというのに。

(まだだ……まだ終われん!こんな所で死ねんのだ……死んで終わらせる訳には……ッ!)

 恐怖は極限まで増大し、今や脳を埋め尽くしてしまっている。
 死にたくない。死を回避できるなら何をしたって構わない。
 ディケイドをこの手で倒す為に、そしてこの先も大幹部で在り続ける為にも――。

(私は、私は……!生きなければならんのだ……ッ!)

 『生きたい』。
 死ぬのが恐ろしくて仕方がない――だから生きたい。
 大ショッカーの幹部として戦いたい――だから生きたい。
 仮面ライダーにとって大迷惑な存在で在り続けたい――だから生きたい。
 いや、生きたいのではない。生きなければならないのだ。
 どれだけ哀れで惨めでも、そこに一寸でもチャンスがあるのだとすれば。
 あらゆる手段を用いてでも、目の前で燦然と輝く"生"にしがみ付いていたい。

 全身の震えが収まっていく。
 恐怖は鳴りを潜めていき、代わりと言わんばかりに激しい欲求が沸き出てくる。
 何としてでも生き残れと、この殺し合いを生き延びてみせろと。
 命を繋げと轟き叫ぶ、その欲望の名は「生存本能」。
 「死にたくない」の反対は「生きたい」であり、彼がその原始的な欲望を滾らせるのは当然だ。
 そして、湧き起こる欲望はコアメダルと激しく引き合い、アポロガイストの肉体をも変化させていく。

 これ以上に無い程激しい欲望によって、彼の肉体は未知の領域に踏み込もうとしている――。


          O          O          O


 アポロガイストの周囲に、突如として熱風が巻き起こる。
 熱風に煽られた井坂は思わず仰け反り、雷撃もあらぬ方向に飛んでいく。

「ぬっ……何が……ッ!?」

 動揺を隠しきれない井坂が、アポロガイストの姿を見据える。
 そして、ゆっくりと立ち上がる彼の全貌を目にし、さらに驚愕した。
 今井坂の目の前にいたのは、アポロガイストとも龍騎とも異なる新たな異形だったのである。

「待たせたな……ここからが本番なのだ」

 声からして、目の前にいるのがアポロガイストなのに間違いはない。
 だがあの姿は――鳥類をモチーフにした様な赤い怪人は一体何なのだ。

 井坂が知る由も無いが、この姿はアポロガイストが今しがた手にした力である。
 コアメダルと肉体との融合。それが極まった瞬間に発生するのが「グリード化」だ。
 対象の肉体の状態に関係なく、その身は欲望の化身へと姿を転じてしまうのだ。
 本来であれば、例え首輪の影響下であったとしても、グリード化は数時間程度で起こるものではない。
 しかし、極まった生への渇望に首輪が反応した結果、驚異的な勢いで融合が進行したのである。

「これまでの私とは一味違うぞ――――受けてみろォッ!」

 アポロガイストは火球を成形し、井坂を燃やし尽くさんと直線状にそれを発射する。
 それに対し井坂は、竜巻を巻き起こす事で火球の軌道を逸らした。
 あらぬ方向に進んでいく熱の塊を尻目に、彼はアポロガイストの様子を観察する。
 これまでに火球など使ってこなかったというのに、どうして突然あんな攻撃をしてきたのか。
 井坂に再び湧き上がるのは好奇心――相対する謎の力を前に、欲望が湧き上っていく。

「ちょっと驚きましたよ。一体どこにそんな力が?」
「貴様には分からまい……これこそが私が手に入れた新たな力!」

 アポロガイストが、グリード態から本来の怪人態へ変化する。
 グリード化の影響を受けてか、かつてパーフェクターが配置されていた箇所には、パーフェクターを象った真紅の物体が取り付けられていた。
 そして、以前と違う点はもう一つ――今のアポロガイストには、大幹部の名に相応しい威厳が備わっていたのである。

 今やアポロガイストの心中には、恐怖など残っていない。
 あるのは頂点に達した生存本能と、それを満たさんとする為の激しい闘志。





「たった今名を改めよう……死に怯えていたかつての私は死んだ。
 今此処に立っているのは『ハイパーアポロガイスト』……!
 貴様らにとって!更に!更に!!さァらァにィッ!大ッ迷惑な存在なのだッ!」




【一日目-夜中】
【D-4 北東】
※キングラウザーにかけられたハッキングはまだ解除されていません。
 何時までハッキングの効果が持続するかは不明です。

【全体考察】
※首輪にはコアメダルと肉体の融合を促進させる機能がありますが、コアメダルと肉体の融合速度は抱いた欲望の大きさに比例します。
 一時的でも欲望が肥大化すれば、肉体のグリード化は加速的に高まるでしょう。


【ハイパーアポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(小)、ダメージ(中) 、精神疲労(大)
【首輪】60枚:0枚
【コア】パンダ、タカ(十枚目)、クジャク:1
【装備】龍騎のカードデッキ(+リュウガのカード)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本:生き残る。
 1.ウェザー・ドーパント達に対処する。
 2.リーダーとして優勝する為にも、アンクを撃破して陣営を奪う。
 3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
 4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※龍騎のデッキには、二重契約でリュウガのカードも一緒に入っています。
※パーフェクターは破壊されました。
※クジャクメダルと肉体が融合しました。
 グリード態への変化が可能な程融合が進んでいますが、五感の衰退にはまだ気付いていません。

【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】健康、肩に斬り傷
【首輪】50枚:0枚
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、DCSの入った注射器(残り三本)&DCSのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料
【思考・状況】
基本:自分の進化のため自由に行動する。
 0.アポロガイストに対処する。
 1.インビジブルメモリを完成させ取り込む為に龍之介は保護。
 2.T2アクセルメモリを進化させ取り込む為に照井竜は泳がせる。
 3.次こそは“進化”の権化であるカオスを喰らってみせる。
 4.ドーピングコンソメスープに興味。龍之介でその効果を実験する。
 5.コアメダルを始めとする未知の力に興味。特に「人体を進化させる為の秘宝」は全て知っておきたい。
 6.そろそろ生還の為の手段も練っておく。念の為首輪も入手しておきたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。それによってどのような影響があるかは、後の書き手に任せます。


「なんかスッゲー事になってんなぁ……にしてもいつ終わるんだろ、コレ」

 傍観者となっていた龍之介が、不満げに呟いた。
 最初の頃は興奮しながら観戦していたものの、そろそろ決着をつけて欲しいのが本音であった。
 アートの作製に取り掛かる為にも、井坂には早くアポロガイストを始末して欲しいのだが。
 手に持った少女の生首――井坂に頼んで譲り受けたものだ――に目を向ける。
 所々に傷が付いてしまっているものの、顔の造形は見る者を魅了する程美しい。
 水色の毛髪も同様に汚れてしまっているが、その感触は今まで触れたどの髪より上質だ。
 これでどんなアートを造ろうか、想像を巡らせるだけで思わず笑みが零れてしまう。

「ホント綺麗だよなぁ……ああ……早く作りたいなぁ……」

 でも、やっぱり生きたままアートにしたかったなぁ、と。
 もう満たされぬであろう欲求に、龍之介は溜息をつくのであった。


雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、深い悲しみと決意、生命力減衰(小)
【首輪】70枚:0枚
【コア】コブラ
【装備】サバイバルナイフ@Fate/zero、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO、螺湮城教本@Fate/zero、アートの素材
【思考・状況】
基本:旦那が言っていた「最高のCOOL」を実現させる。
 0.何かスゲェ事になってる……。
 1.しばらくはインビジブルメモリで遊ぶ。
 2.井坂深紅郎と行動する。
 3.オレに足りないものは「覚悟」なのかも……?
【備考】
※大海魔召喚直前からの参戦。
※インビジブルメモリのメダル消費は透明化中のみです。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介はインビジブルメモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。
※アポロガイストの在り方から「覚悟」の意味を考えるきっかけを得ました。
 それを殺人の美学に活かせば、青髭の旦那にもっと近付けるかもしれないと考えています。
キャスターが何をするつもりだったのかは把握していません。
※「アートの素材」とは紅莉栖とニンフの死体の一部です。

121:死【ろすと】 投下順 123:欲望交錯-足掻き続ける祈り-
119:今俺にできること 時系列順 120:This Illusion
110:59【ひづけ】 アポロガイスト 125:Gの啓示/主はいませり
108:上を向いて歩こう 井坂深紅郎
雨生龍之介
 
116:明かされる真実と欲望と裏の王 真木清人
インキュベーター

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最終更新:2016年08月19日 22:18