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最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw



【1】


 セイバーとユウスケが向かった先にあったのは、鉄屑となったダブルチェイサーだけであった。
 バイクを預けていた千冬と、それに同行していたセシリアの姿は、何処にも見当たらない。
 この時点でユウスケは、自身の頬に脂汗が滲み出るのを抑えられなかった。
 一体どんな経緯でダブルチェイサーが破壊され、二人は姿を消してしまったのか。
 それを少し考えただけでも、恐怖と焦りを感じずにはいられない。

「俺は千冬さん達を探す。セイバーちゃんは先に教会に戻ってくれないか?」

 此処に二人がいないという事は、彼女らが何処かに移動した証拠だ。
 この場で何が起こったかは定かではないが、とにかく今は二人を探さなければ。

「承諾しかねるな。二人に何があったか分からない以上、一人で出向くのは危険すぎる」
「確かにそうかもしれないけど、教会には切嗣さん達がいるんだろ?だったらどちらかが戻らないと」

 ユウスケの言う通り、教会では鈴羽達がセイバーの帰りを待っている。
 彼女達の安全の為にも、なるべく早くあの場所に戻る必要があるのは確かだ。
 しかし、自分から危険を犯そうとしている者を見逃す程、セイバーは他人に無関心ではない。

「だが……やはり一人は危険すぎる。二人を攫った相手が分からない以上、こちらも二人で出向くべきでは?」
「でもさ、教会だってそれは同じだろ?此処は二手に分かれた方がいいと思うんだ」

 こちらの言葉を遮って、ユウスケは反論してみせた。
 どこでどんな参加者が行動しているか不明瞭であるが故、教会に隠れていても襲われる可能性があるのは明らかだ。
 状況の不確定さで言えば、千冬達の探索と教会の様子は同格であり、そう考えれば、セイバーが教会への移動を優先する理由にはなり得るだろう。

「大丈夫だって。俺、"仮面ライダー"だし」

 そう言って、ユウスケは親指を立ててみせた――サムズアップと呼ばれる動作である。
 セイバーは"仮面ライダー"が何たるものなのかを知らないが、その言葉には妙な説得力を感じた。
 同時に、彼の決心はセイバー一人の言葉は揺るがないほど堅いものだと判断できた。

「そこまで言うなら、そちらは貴方一人に任せる。ただし――」
「無理はするな、だろ?分かってるって。必ず皆を連れて帰ってくるからさ」

 セイバーは念の為にと、スパイダーショックをユウスケに渡しておく。
 その贈り物に感謝したのを最後に、ユウスケは踵を返して立ち去っていった。
 その場に残されたのは、大破したダブルチェイサーとセイバーだけである。


           O           O           O


 千冬達の不在を知った際のユウスケは、これまでに無い程の焦りを見せていた。
 あの様子から見て、彼にとって"千冬さん"という女は余程大切な存在なのだろう。
 口ではセイバーの助力を不要だと言っているが、実際には猫の手だろうが借りたい気分に違いない。

 焦りは警戒心を鈍らせる。
 鈍ってしまったそれは戦局での判断を誤らせ、そしてそのミスは死に直結しかねない。
 もし今のユウスケが、殺し合いに乗った相手に出会ってしまったのだとしたら。
 その時彼は、戦況を切り抜ける事が可能なのだろうか?
 それに、セイバーからしてみればセシリアという少女にも疑念が残る。
 自分が一度もその娘を見ていないのもあるが、果たして本当に彼女は護るべき存在なのか。
 弱者の皮を被った悪鬼が存在している可能性を、セイバーは捨てきれないでいる。
 仲間となり得る者の同行者に疑いなどかけたくないのだが、彼女の直感がそう教えているのだ。

 胸中で渦巻くのは、不安だ。
 自分の制止を振り切り一人捜索に向かったユウスケは、無事に帰ってこれるのか。
 教会で待っているであろう衛宮切嗣に、自分はどう接すればいいのか。
 様々な不安が頭を過ぎるが、何よりセイバーにとって大きな負担となっているのが、ランスロットの存在だ。
 "湖の騎士"とまで呼ばれたあの完璧な戦士が、如何な経緯でバーサーカーと名を変えて獣の如く暴れ回る事となったのか。
 未来への不安は重い足枷となり、同時にセイバーの心をすり減らしつつある。

 セイバーが進むべき道――教会への戻る為の通路の先は、暗闇に包まれている。
 それはまるで、今の彼女の心境をそのまま表しているかの様であった。


【一日目 夜】
【C-3 市街地】
※破壊されたデブルチェイサーが放置されています。

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(大)、今後の未来への大きな不安、精神疲労(中)
【首輪】20枚:0枚
【コア】ライオン(放送まで使用不能)
【装備】折れた戟(王の財宝内の宝具の一つ)@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
 1.ランスロットが気がかりだが、今は鈴羽達の元へ戻る。
 2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 3.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。
 4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
 5.ランスロット……。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
※鈴羽からタイムマシンについての大まかな概要を聞きました。深く理解はしていませんが、切嗣が自分の知る切嗣でない可能性には気付いています。
※バーサーカーの素顔は見ていませんが、鎧姿とアロンダイトからほぼ真名を確信しています。


【2】


 六二口径連装ショットガン――「レイン・オブ・サタディ」の弾丸が次々に飛来する。
 標的となっている千冬は、持ち前の戦闘技術を駆使しそれを回避していく。
 彼女にとっては、その銃撃を避ける事など造作もない事だ。
 使いこなせてない武装による銃撃など、何処に逃げれば着弾しないか容易に判断できる。

「――私も甘く見られたものだな」

 飛んでくる銃弾を回避し終えた後に、千冬は相手を睨み付ける。
 その態度が余程気に喰わなかった様で、相手――セシリアは歯軋りで不快感を示してみせた。
 彼女のその酷く歪んでいる表情は、千冬にとって初めて目にするものだ。
 そこから読み取れるのは、怒りや憎悪といった負の感情ばかりである。

「今のお前が私に勝てると、本当に思っているのか?」
「当然ですわ。貴方の様な軽い女に、私の愛が負ける筈ありませんもの」

 その言葉に根拠がまるで無いのは、誰の目から見ても明らかだ。
 ISを用いた戦闘技術において、千冬とセシリアの間には天と地ほどの開きがある。
 にも関わらず、自身の専用機ですらないISを使用して千冬を撃破しようとするなど、無謀としか言いようがない。
 しかし、セシリアはその無謀を無謀と思わないどころか、"愛"を以て勝利してみせるなどと息巻いているのだ。
 彼女が言う"愛"が誰に対するものかなど、千冬にはもう検討が付いている。

「解せんな。そこまで一夏の事を慕っておきながら、どうして凶行に走った?」
「そんなの決まってますわ!貴方みたいな人から、一夏さんへの愛を護る為ですのよ!」

 焦点の定まらない瞳を千冬に向けながら、セシリアはそう答えた。
 当然と言えば当然の反応だが、やはり嘆きを覚えずにはいられない。
 生徒の心情を理解してやるのが教師の役目だというのに、今ではその生徒に憎悪を抱かれてさえいるのだ。
 この有様では、もう教師を名乗る資格など無いのかもしれないと、思わず自嘲したくなってしまう。

 もう話す事は無いと言わんばかりに、セシリアはショットガンを乱射してきた。
 狙いの甘いそれらを千冬は容易く避けながら、千冬は思案する。
 セシリアは自身の問いに対し、"一夏への愛"を守護する為に殺し合いに乗ったと言っていた。
 彼女は故人への好意の為に、他の全てを犠牲にしようとしているのである。

 セシリアに重なるのは、かつて殺し合いに乗ろうとしていた千冬の姿。
 あの時は支えてくれる人――ユウスケがいたからこそ、道を誤らずにすんだ。
 きっとセシリアには、そういった者が何処にもいなかったのだろう。
 言うなれば、彼女は千冬が歩んでいたかもしれない可能性の一つが具現化したものなのだ。
 彼女の気持ちが痛い程分かるからこそ、同情してしまいたくなるからこそ。
 同じ末路を辿りかけた者として、千冬はセシリアを救わなければならないのだ。

「そうやってお前は立ち止まるつもりなのか……それを一夏が望んでいると思っているのか?」

 そこで、またもやセシリアの動きが止まる。
 表情にはこれまで以上に不快感が露見しており、彼女が相当頭にきている事が伺える。
 だがしかし、その程度で狼狽えてしまう千冬ではない。

「それの何がいけませんの?私は貴方みたいに、一夏さんを忘れる様な人でなくてよ」
「私が言うのも難だがな、お前がやっているのは"逃避"以外の何者でもないぞ」

 その瞬間、セシリアの形相に鬼が宿った。
 近接用ブレード――「ブレッド・スライサー」を取り出し、千冬へと襲い掛かる。
 我武者羅な軌道を描くその斬撃は、セシリアのイメージとはあまりに程遠い。
 それを自身に装備された「雪片弐型」で難なく受け流す事は、千冬にとって何の苦にもならなかった。

 故人への愛に固執し続けるという事は、つまり現実を見ていないという事で。
 そんな妄執に囚われてしまっていては、前に進む事すらままならない。
 道を間違えた子を正せるのが、大人である自分の役目だ。
 教え子を正す為に、教師である千冬はその"愛"を否定する。

「"逃げ"ですって!?一夏さんの愛を護るのが"逃げ"と言いたいのかしら!?
 この感情を"逃げ"と仰るだなんて……貴方はどこまで私を怒らせれば気が済むの!?」
「それが逃げだと言っているんだ!お前は愛を盾にして"今"から目を逸らしてるだけだ!」
「一夏さんのいない"今"なんていりませんわ!あの方をお慕いする気持ちさえあれば、例えこの世が滅びようが構わない!」
「馬鹿者がッ!まだそんな世迷言を吐くつもりか!?」

 力任せに振るわれるブレードを刃で受け止めながら、千冬はセシリアに言葉を紡ぐ。

「お前が本当に一夏を愛しているというのなら、今から逃げずに前を向けッ!」

 例えどんなに残酷であっても、目の前にある現実から目を背けてはいけない。

「アイツの遺志を受け継いで、このふざけたゲームを打ち砕いてみせろッ!」

 一夏が望むのはきっと、妄執に彩られた世界ではなく、現実で生きていく事なのだから。

「自分で這い上がるのが無理なら、私が手を掴んでやる!」

 今度は自分が、海の底にいるセシリアの腕を掴む番だ。

「だから――眼を覚ましてくれ、セシリアッ!」

 しかし、どれだけ千冬の言葉を受け止めても、セシリアの意思は揺らがない。
 接近戦は不利と認識した彼女は、鍔迫り合いを続けていた千冬と距離を取り、再びアサルトライフルを数発撃ち込む。
 だがその弾丸も、案の定"敵"の肉体に届く事は叶わなかった。

「貴方の命令に従うだなんて、御免ですわ……!」
「……ここまで言っても聞く耳を持たんか。ならば、仕方あるまい」

 千冬が持つ「雪片弐型」の切っ先が、セシリアへと向けられる。
 それはつまり、その刃を以て彼女を打倒するという宣言であった。 
 己へ向けられた刃を目にしたセシリアは、思わず吹き出してしまう。

「何のつもりかしら?貴方が私に傷を付けた事などこれまでに一度も――」

 千冬を嘲笑おうとした瞬間に、セシリアは気付いてしまった。
 これまでに彼女が、一度たりとも攻勢に出ていない事に。
 彼女がこれまで行ったのは防御か回避だけであり、セシリアに刃を振るおうとはしていなかったのだ。
 だが、今の千冬は違う――本気で自分を撃墜させるつもりなのだ。

「嫌でも正気に戻ってもらうぞ――この一撃でッ!」

 「雪片弐型」の刀身が、白い光を帯びていく。
 「白式」の唯一にして最強の能力である「零落白夜」が発動した合図である。
 エネルギーを全て無力化する白い刃に、セシリアは何度敗れた事か。
 あの特殊能力の恐ろしさを、彼女は嫌というほど理解していた。

「貴方が、貴方如きがッ!一夏さんの技を軽々しくッ!」

 近づくなと言わんばかりに放った弾丸は、一つ残らず空を切った。
 セシリアの抵抗など最初から無い物と言わんばかりに、千冬は彼女へ肉薄する。
 あの刃で切り裂かれたら最期、全てが一巻の終わりだ。
 機体にあれを直撃させる訳にはいかない――それなのに、セシリアは千冬の動きを止められない。

「織、斑――千冬ゥゥゥウゥウゥゥウゥウウゥウッ!」

 セシリアが望んだのは、停滞であった。
 ただこの身にある"愛"だけを抱きしめ、その足を止めた者。
 手放す事も求める事も放棄し、そこで立ち止まってしまった。

「織斑"先生"だろうが、この馬鹿者がッ!」

 千冬が選んだのは、前進であった。
 喪失した"愛"に慟哭し、それでも明日へ進もうとした者。
 差し伸べられた手を掴み、踏み出す事を選んだ。





 進まぬ者が、進む者に勝てる訳が無い。
 煌めきを放つ刃が、セシリアを切り裂いた。





【3】


 仮面ライダークウガの形態の一つに、「ペガサスフォーム」というものがある。
 この形態になると五感が著しく強化され、広範囲の探索が可能となるのだ。
 ユウスケはこのペガサスフォームを頼りにする事で、千冬達の探索を行っていた。

 ペガサスフォームの存在もあって、ユウスケが千冬達を発見するのにそう時間がかからなかった。
 だがしかし、探していた二人を発見するや否や、彼は困惑する事となる。
 それもその筈、ユウスケの視線の先にあったのは、跪くセシリアと、そのすぐ近くに立つ千冬の姿だったのだから。

「ユウスケか。よく此処が分かったな」
「千冬さん……これって一体どういう……」

 この短い時間の間で何が起こったのかを聞かなければ、話は始まらない。
 そう考えたユウスケは、千冬へ事情を問いかけたのだが――それがいけなかった。
 千冬が彼の方を向いたという事は、つまりセシリアから視線が外れたという事で。
 その僅かな隙を見逃さなかったセシリアは、勢いよく千冬に飛びかかった。
 戦闘が終わり安堵していた千冬の油断もあってか、あっと言う間に形勢は逆転する。
 次の瞬間には、セシリアが所持していた拳銃の銃口が、既に千冬に突き付けられていた。

「そこから一歩でも近づいてみなさい!織斑先生の命はありませんわよ!」

 それを耳にしたユウスケは、思わず愕然となった。
 セシリアが銃を千冬に突き付けているのもそうだが、何故自分に脅しをかけているのだ。
 護ると誓った筈の弱者から、どうして殺意を向けられねばならないのか。
 僅かな逡巡の後、ユウスケの脳をは恐るべき仮説を打ち出す。
 最初からセシリアは、自分達に害を加える為に近づいたのではないか。
 彼女は無害な善人として振る舞いながらも、身の内では猛り狂う殺意を抑え込んでいたのだ。
 そして、何らかの方法で千冬を殺そうと襲い掛かり、結果返り討ちに遭ってしまったのである。
 納得のいく――むしろそれ以外にあり得ない話だったが、それでもユウスケには受け入れ難かった。
 セシリアは千冬が担当するクラスの生徒の一人で、殺し合いに乗る様な奴では無いと聞いている。
 その教え子の少女が、どうして教師に殺意を向ける必要があるのだ。

「な、何やってるんだ!?どうしてこんな事……!?」
「あなた如きに説明する義理などありませんわッ!早く此処から引きなさい!」

 怒鳴る様に言いつけるセシリアの表情は、ユウスケの知る物とは一変していた。
 彼女の整った顔立ちが、今ではまるで鬼が宿っている様ではないか。
 状況をまだ完全に飲み込めないでいるユウスケは、ただ戦慄する他なかった。

「セシリア貴様!どこまで堕ちるつもりだ!?」
「何度も言わせないでくれませんこと!?私は一夏さんの為だけに生きているの!貴方達の事なんてどうでもいい!」

 セシリアの支えとなるのは、今やこの身の内にある一夏への"愛"だけ。
 だが、それだけで十分なのだ。彼女にはもう、その一つだけで事足りてしまう。
 他の何者にも替え難いこの感情だけは、何を犠牲にしてでも守り抜かねばならない。
 その為ならば、如何なる対価でも払う覚悟がセシリアにはあったのだ。

「ああ、そうですわ……ユウスケさん、貴方が身代わりになるのはどうかしら?
 片方が命を投げれば、もう片方はまだ殺さないで差し上げますわよ?」
「な……ッ!何考えてるんだ!そんな事して何になるっていうんだよ!」
「……貴方、自分が何をしているのか理解できてませんの?
 私の世界にずけずけと踏み入っておいて、よくもそんな口が利けますわね?」

 銃口を千冬に向けたまま、セシリアはそう言って嗤ってみせた。
 一夏への愛を侮辱したこの二人は、彼女にとって憎悪の対象でしかない。
 特に、真正面から自分を否定した千冬は、絶望させてから殺さなければ気が済まなかった。

「……分かった。俺が人質になるから、千冬さんは見逃してやってくれ」
「ユウスケ!?何を馬鹿な……死ぬ事になるんだぞ!」

 セシリアの言い方からして、彼女が人質を殺す気なのは明らかだ。
 それなのに、ユウスケはその役目を自身が引き受けようとしている。
 千冬の心臓の鼓動が早くなり、冷や汗が滲み出てくる。
 想起させられるのは、病院で目にした無残なまでに破壊された弟の死体。
 今此処でユウスケを見捨てれば、あの瞬間と同じ絶望を味わう事になってしまう。

「いいんです千冬さん。俺は大丈夫ですから」
「大丈夫な訳がないだろ!馬鹿な事を言うんじゃない!」
「俺にだってちゃんと考えがあります。だから心配しないで下さい」
「だが……!」

 どうしてこの二人は、一々癇に障る会話をするのか。
 そうやって苛立ちながらも、セシリアは彼らのやり取りを眺めていた。
 実を言うと、彼女は二人を生きて返すつもりなど毛頭無かった。
 元より、人質の方を殺した直後にもう片方も射殺する気でいたのである。
 彼らがどんな決断をしようがどうでもいい話であり、セシリアが望むのは相談の早期決着だけ。
 二人の会話など、片手間程度に聞いておけばいいのだ。

「私の事はどうなってもいい!だから早くセシリアを――」
「……嫌です!千冬さんを死なせる訳にはいきません!」

 いつまで下らない会話をしているのだ。
 早くその身を差し出して、大人しく殺されればいいものを。
 もし一夏が同じ境遇に立たされたのなら、すぐに会話に決着を付けるだろうに。
 やはりあの人と目の前の男は格が違う――違うに決まっているのだ。

「馬鹿者が!お前が死んだら本末転倒だろうがッ!」
「それでも――それでもッ!俺は誰かが悲しむ所を見たくないんです!俺は――――」










「誰かの笑顔を、これ以上奪われたくない!」『俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!』











「………………………………えっ?」

 その時、確かにセシリアは見てしまったのだ。
 自分を説得するユウスケの姿に、最愛の人の影が重なる瞬間を。
 憎むべき存在だった男に、掛け替えの無い人の面影を感じてしまった。
 唯一無二と思い込んでいた"愛"は、この瞬間に在り方を変えたのだ。
 代替がきかなかった筈の感情が、代替がきく感情へと形を変えていく。
 そんな感情は、最早セシリアにとって支えになり得ない。
 たった一つの支柱を喪った彼女の世界は、瞬く間に崩れ去っていく。

「ぇ……そんな……なんで……?」

 自分の一夏への愛は、千冬達と同様に軽く、そして代用可能なものだったのか?
 千冬の言う通り、自分は一夏への愛を盾にして、"今"から逃げ続けていたに過ぎなかったのか?
 ならば、もしそうなのだとしたら、自分は一体何の為に殺し合ってきたのだ?

 "一夏への愛"があったからこそ、今までセシリアは躊躇なく他者を襲う事ができた。
 愛という名の狂気に身を任せ、自分を酔わせる事でこの瞬間まで己を保ってきたのだ。
 だが、その愛すら朽ちてしまった今、何を支えにして生きればいいのだ。
 生きる為の支えが、現実逃避の理由が何処にも見当たらない。
 このままでは、自らの手で砕いた筈の心が、元の形に戻ってしまう。
 思い出してはいけない、気付いてはいけない事実が、蘇ってしまう。

「……嘘……どうして……そんな……!?」

 これまで目を伏せてきた現実が、嫌でも意識を駆け巡っていく。
 フラッシュバックするのは、シャルロットを撃ち殺した瞬間の光景。
 一方的な殺意を向けられながらも、それでも彼女はセシリアを止めようとしていた。
 どうしようもない程シャルロットは善人で、そんな彼女を殺した自分がどうしよもない程愚かで。
 そして同時に、初めて他者に与えた"死"に激しい恐怖を抱いてしまった。
 人は頭を撃たれただけで死ぬ――ISなんて無くとも、簡単に人は殺せてしまう。
 そう考えると、周りにあるもの全てが血濡れの凶器に見えてきて。
 血濡れで倒れる自分の姿が脳裏に浮かんで、そのイメージが現実となる事があまりに恐ろしくて。
 そして何より、そんな恐怖をシャルロットに与えた自分が、あまりに罪深い存在だと気付いてしまって。

「ああっ……嫌……私…………!」

 善良な人間を殺した以上、自分もきっと誰かに狙われる。
 同じ親友を殺されたラウラに、あるいは名も知れぬ正義の味方に、"死"を与えられる。
 いつ狙撃され頭を撃ち抜かれるか分からないと思うと、恐怖で一歩も動けなくなってしまう。
 だから、狂うしかなかったのだ――狂気で恐怖を緩和させる事でしか、自分の脚で立つ事さえままならなかったのだから。

 だが、もう狂う事は許されない。
 崩壊したセシリアの世界には、恐怖を払拭するものが何処にも無いのだから。
 曇りの消えた視界に映るのは、いつ"死"が襲い掛かるかも分からぬ空間。
 そこには一片の安らぎも存在せず、心中でのたうち回るのは恐怖だけ。
 今となってはもう、前に踏み出す事すらままならない。

「どうして…………なんで…………」

 どうして、狂気を晴らしてしまったのだ。
 ずっと狂ったままでいれば、甘い夢の中で生きていけたのに。
 例え狂人と罵られようが、この世界を歩く事ができたというのに。





「救われたくなんか……なかったのに…………」





 自分も"一夏のいない世界"の住人なのだとしたら。
 世界の万物に身を滅ぼす"悪意"が漂っているというのなら。
 それならもう、いっそ――――――。


【4】


 灰色のコンクリートが、赤色に染まっていく。
 流れ出ている血は、仰向けに倒れた人間の頭を中心に広まっていき、地面を少しずつ浸食していく。
 思考を司る脳を抱える頭部を撃ち抜かれたのなら、真っ当な人間は生きていられない。
 今地面に倒れ伏した者は、既に心臓の鼓動を止めていた。


 今もなお地面に広がる血液は、セシリアの頭部から流れ出ている。


 彼女は自らの手で、拳銃を自らに向けて発砲したのだ。
 とどのつまり、自分の意思で死を選んだである。
 自分が犯した罪を抱えたまま生きていくには、彼女の心は弱すぎた。
 海から引き摺りだされた魚は、地表ではものの数分で息絶えてしまう。
 狂気の奥底で眠っていたセシリアも、それと同じ事が言えたのである。
 千冬とユウスケは、そんな事を露とも知らぬままセシリアを救おうとしてしまった。
 救われてしまったら最後、彼女に残された道は一つだけだというのに。

 千冬の叫び声が、空しく木霊する。
 何度名前を呼んだところで、死者は帰って来ないというのに。
 それでも彼女は、遺体の身体を揺さぶりながら、ひたすらに名前を叫び続ける。
 今の彼女の心境を一言で言い表すのだとすれば、"絶望"が最も相応しいのだろう。

「なんだよ、これ」

 気付いた頃には、全てが手遅れだった。
 千冬の顔からは笑顔が消え、セシリアに至っては命が潰えている。
 ユウスケの目の前で、無残にも砕け散った二つの光。
 救えた筈のそれらを、"仮面ライダー"は救えなかった。

「なんで……こうなるんだ……」

 もしも自分がもっと早く動けていれば、悲劇は回避できたかもしれない。
 スパイダーショックを起動させ、セシリアを拘束してさえいれば、彼女の自殺は止めれただろう。
 そうすれば、千冬が声を嗄らして叫び続ける事も無かった筈だ。
 だが、今目の前に広がる景色は、そんな願望とは真逆のものとなっている。
 そこにユウスケが求めるものなど何一つ無く、それを払拭する力など彼には無い。
 今の彼には、ただ目の前に横たわる"結果"に、ただ絶望する事しか出来なかった。

「どうしてこうなるんだよォ……ッ!」

 小野寺ユウスケは、"笑顔"を護る事が出来なかった。
 だが、それは彼を責め立てる理由にはならないだろう。
 最初からこの場所に、"笑顔"なんて在りはしなかったのだから。




 星の光が照らす世界で、慟哭ばかりが響き渡る。
 虚空を見つめるセシリアの頬には、一筋の涙が伝っていた。




【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス 死亡】





【C-4 北西】
【一日目 夜】
※基本支給品×3、ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(4/5:予備弾丸17発)@現実、
 スタッグフォン@仮面ライダーW、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトスが放置されています。

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、精神疲労(大)、胸部に軽い裂傷
【首輪】30枚:0枚
【コア】クワガタ:1 (次回放送まで使用不能)
【装備】なし
【道具】スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 0.なんでこうなるんだよ……ッ!
 1.千冬さんと共に教会に向かう。
 2.千冬さんとみんなを守る。仮面ライダークウガとして戦う。
 3.井坂深紅郎、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 4.“赤の金のクウガ”の力を会得したい。
 5.士とは戦いたくない。しかし最悪の場合は士とも戦うしかない。
 6.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。

織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(大)、疲労(中)、左腕に火傷、深い悲しみ
【首輪】60枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品 、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木に制裁する。
 0.????
 1.鳳、ボーデヴィッヒと合流したい。
 2.一夏の……偽物?
 3.井坂深紅郎、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 4.小野寺は一夏に似ている。
【備考】
※参戦時期不明
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。


112:謀略の夜 投下順 114:時差!!
112:謀略の夜 時系列順 097:怠惰 ――Sloth―― (前編)
104:燃ゆる剣―騎士とクウガと 小野寺ユウスケ 120:This Illusion
織斑千冬
セシリア・オルコット GAME OVER
セイバー 120:This Illusion


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最終更新:2016年01月24日 12:40