謀略の夜 ◆qp1M9UH9gw



【1】


 橋田至が、死んだらしい。
 ラボメンの一人であった彼が、故人となったというのだ。
 放送で嘘をつく必要性など無いし、きっと真実なのだろう。

 まゆりに続いて、また一人ラボメンが命を落とした。
 たったの六時間の内に、萌郁の“世界”に暗い穴が二つ空いたのだ。
 本来ならば、彼女はその事実に嘆いていただろう。
 手を差し伸べてくれた者達の死に、言い様の無い痛みを覚えた筈である。
 だが今の萌郁には、生憎その痛みを感じる余裕さえありはしなかった。

「なんで……どうして……!?」

 放送を終えたにも関わらず、萌郁は未だに少女を探し出せてはいなかった。
 昼の時点でカンドロイドが一度少女を発見したようだが、彼女が到達した頃には既に少女はおらず、
 代わりに妙な格好をした男の死体が横たわっているだけだったのである。
 それ故に、今も少女と合流できておらず、カンドロイドと共に探索を続けているのが現状だ。

「捨てられる……FBに捨てられる……FBに捨てられる……!」

 少女が発見できなければ、FBから与えられた指令を果たせない。
 それはすなわちFBに対する裏切りと同義であり、彼女を失望させかねない行為だ。
 FBはいつもの様に優しく接してくれているが、その調子がいつまで続くか分からない。
 もし唐突にメールが途絶えたら、もしFBに見捨てられてしまったとしたら。

「嫌、嫌、嫌、嫌、嫌……!」

 FBからの否定は、世界そのものからの否定だ。
 世界から拒絶される恐怖など、想像するまでもない。
 もしそんな時が来たとしたら、それが意味するのは萌郁の死だ。
 自分の世界を失って絶望しない程、彼女は強くできていない。

 全身が震えてもなお身体が動かす萌郁のその様は、まるで迷子の子供の様であった。
 頭の中にあるのは、FBが探す少女の特徴と、FBから見放される恐怖だけ。
 かつて居場所を与えてくれた仲間の事を考えている暇など、今の彼女には無いのだ。
 "一部"を削られるより"全て"を失う方が、もっとずっと恐ろしいのだから。

 そんな萌郁を、運命の女神が見かねたのか。
 震える彼女の目の前に、探索に向かわせていたタカカンドロイドが飛んできた。
 これはつまり、この機械が再び少女を発見できたという事である。
 またしても見逃す訳にはいかない、今度こそ彼女に合流しなければ。
 FBの――引いては自分自身の為に。


【2】


 園咲冴子は思考する。
 どうして過去の自分は、弱者の皮を被ろうなどと考えてしまったのか。
 そして、何故よりにもよって、こんな使えない男を利用しようと思ったのか。
 考えど考えども、出てくるのは後悔の念と溜息ばかりである。

 上手くいく筈だったのだ。
 弱者を装う事で集団に潜り込み、彼らを利用する事で身の安全と情報を入手する。
 そして、相手が用済みになったら裏切り、確実に参加者の数を減らしていく。
 これこそがゲームで勝利を掴む為の最良の手段だと、当初はそう高を括っていたのだ。

 しかし、現実は全く異なるもので、今の冴子はその作戦に自分の首を絞められていた。
 最初に利用すると決めた同行者――後藤慎太郎の存在が、その大きな原因である。
 過剰なまでに自分の力を誇示し、一丁前に無力な人間を護るなどとのたまうこの男は、ただ冴子に苛立ちを募らせるばかりで、利益となる事など何一つしてくれないのだ。
 当の本人は、それが冴子の為になると本気で思い込んでいるようだが、実際はその真逆であり、彼の行動は彼女にとって害悪以外の何物でもない。
 一秒でも早く別れてしまいたいのだが、現在の冴子が"何も知らない弱者"を演じている限りは、あの強者気取りは彼女にお節介をかけ続けるつもりなのだろう。

 そしてその役立たずは、現在進行形で冴子達の障害となっている。
 冴子と協力者であるメズールはキャッスルドランへ移動したいのだが、後藤がそれに断固として反対しているのだ。
 あの施設には、井坂が所属している白陣営のリーダーの鹿目まどかが居る可能性が高い。
 今から彼女の元を強襲すれば、白陣営を一時的に消失させる事ができるのだ――このチャンスを逃す訳にはいかない。
 しかし、冴子達の事情など露とも知らない後藤は、彼女達の安全を気にしてオーズから離れようとしているのである。

「確かに火野が……オーズが暴れてるのなら止めるべきだ。
 だが……だからといって、君達を危険に晒す訳にもいかない」

 民間人の安全を優先しての考えだろうが、冴子からしたら余計なお世話である。
 三人の中で最も無力なのは、ただ正義感が強いだけの後藤だというのに。
 もし冴子かメズールのどちらかがその気になってしまば、この男など三秒で亡骸にできてしまえるだろう。
 大体、碌な武装も所持していない癖によくも「オーズを止める」などと言えるものだ。
 そのオーズとやらは、あの忌々しいダブルと同じ"仮面ライダー"と同種と聞くではないか。
 そんな相手に、ショットガン一丁で立ち向かうなど馬鹿としか言いようがない。

「ですけど、そのオーズをどうにかしないともっと沢山の犠牲が……」
「駄目だ!俺には君達を護る義務がある。君達の安全が第一だ」

 どうしてこうも、この男は頑固なのだろうか。
 正義感が強いのは結構だが、それを無理やり押し付けないで欲しいものだ。
 いっその事、ここでナスカに変身して一思いに殺してしまおうか。
 同行しているメズールには既に正体が割れているし、此処で本性を現してもデメリットはほとんど無い。
 無意識の内に、隠し持っていたナスカメモリに手が伸びる。
 このメモリを肉体に差し込めば、ものの数秒で後藤の息の根を止められるだろう。

「……分かってくれ。君達に危害を及ばせる訳にはいかないんだ」

 他人の為だと言いながら、自分が定義した正義を押し付けるだけの無能。
 超人同士の闘いになどまるで付いていけないであろう、真の弱者。
 自分の感情を押し殺してまで接する程の価値が、果たしてこの男にあるのだろうか。
 そんな問い、考えるまでも無い――そんな訳がないと即答できる。
 こんな役立たずをこれ以上生かしてやる情など、冴子には残されてはいない。
 メズールが何を考えているかは知らないが、もう我慢の限界だ。

「――行ってあげて下さい」

 ナスカメモリを握りしめ、接合部をコネクタに叩き込もうとするその直前。
 冴子の心で成長を続けていた殺意という名の蕾が、今まさに開花しようとしたその時。
 同様に弱者を装っていたメズールが、後藤の意に反したのである。

「私達を護ってくれるのはありがたいです。でも、そのせいで誰かが犠牲になるなんて……そんなの堪えられません」
「だが……!だからと言って君達まで危険に晒したら本末転倒だ!」
「私達だって逃げる事くらいできます!馬鹿にしないで下さい!」

 保護対象に強く反抗されて、後藤は僅かながらも動揺していた。
 自分に護られている弱者は、常に自分の意思に従うのだとばかり思っていたせいだろう。
 この反応一つだけでも、後藤が翳す正義の傲慢さが容易く見て取れる。

「……お願いします後藤さん、オーズを止めて下さい」

 どうやらメズールは、このまま後藤をオーズの元に向かわせるつもりらしい。
 こんな役立たずが仮面ライダーに関わっても何の意味もないと思うが、そこは彼女なりの思惑があるのだろう。
 少なくとも、その発想は冴子には理解し難いものではあるのだが。

「後藤さん、"紅莉栖ちゃん"がこう言ってるんですし、行ってあげたらどうです?」
「しかし……君達が……」
「私達の事は心配しないで下さい。それに、貴方だってオーズを止めたい筈でしょうし」

 理解し難い発想ではあるが、メズールとは同盟を結んだ間柄だ。
 彼女の意にそぐわない行動は"まだ"控えるべきだし、ここは相手に同調するとしよう。
 こうやって下手に出る事自体、今となっては不愉快極まりないのだが、そこはもう耐えるしかない。

「行って下さい――きっと、あなたの助けを待ってる人がいる筈です」

 メズールのその言葉が決め手となったのか、後藤はしばらく黙りこくる。
 そして、しばらく思案するような素振りを見せた後、二人を見据えてこう言った。

「キャッスルドランへは俺一人で向かう……君達は此処で隠れていてくれ」

 それだけ言い残して、後藤はキャッスルドランの方向へ走り出した。
 一度も振り返る事なく闇の中に消えた彼には、背後で"非力な女性"が溜息をついている事など知る筈もない。


【3】


 地図では目と鼻の先にあるように思えるが、それは単に地図の縮尺が小さいからであり、実際にキャッスルドランへ辿り着こうとなると、それなりの時間が必要となる。
 少なくとも、徒歩では移動だけで相当な時間を費やしてしまうだろう。
 ライドベンターがあればかなり時間を短縮できただろうが、それが見当たらない以上、後藤は今は自分の足に頼るしかなかった。

 内心で成長を続けるのは、焦りである。
 自分が未だそれらしい"正義"を行えていないという事実が、それの成長に拍車をかけているのだ。
 世界を救うという大義名分を背負っておきながら、後藤はまだそれに見合った活躍をしていない。
 せいぜい弱者一人の護衛役になれた程度であり、それだけで満足できる程、彼は謙虚ではなかった。

 ――どうして、自分には"何も無い"のだろうか。

 火野映司は、オーズドライバーを用いてオーズに変身し、ヤミーを倒していた。
 "牧瀬紅莉栖"から聞いた"ヒーロー"なる存在は、超能力を駆使して悪と戦うのだという。
 後藤にはそういった"ヒーロー"の様な超能力を所持していないし、強力な兵器も支給されてはいない。
 一応ショットガンなら支給されたが、グリードを始めとする未知の相手に通用するかは不明である。
 か弱い一般人を危険から護る為なら、こんな銃よりも超常の力の方が役立つのは言うまでもない。
 そういう意味では、後藤は映司や"ヒーロー"達よりも遥かに劣っていた。

 どうして自分には、護る為の力を持っていないのか。
 弱者を救いたいという意思は同じなのに、何故自分だけが何の力も与えられないのだ。
 力さえあれば、もっと多くの参加者を、より安全に護れるというのに。
 強い意志を持つ自分ならば、グリードの様な馬鹿共を一体でも多く葬れる筈なのに。

(……どうして、お前なんだ)

 オーズドライバーは、何故火野の手に渡ったのだ。
 世界を救いたいと願っている自分ではなく、あの素性の知らない男が力を手に入れた理由とは一体何だ?
 たまたまその場に居合わせていたからか?
 それとも、単にヤミーと戦ってみたかったからか?
 そんな下らない理由で、あの男がオーズになったとしたのなら。
 そして、その結果暴走して人を殺めているというのなら。

(オーズになるのは……俺が相応しいんだ)

 ――その力を、後藤慎太郎という正義漢が奪い取っても、仕方のない話で済むのではないか?


【一日目-夜】
【C-6 路上】

【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、さらに強い苛立ち、映司への怒り、力を持つ者への嫉妬?
【首輪】100枚:0枚
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊としての責務を果たさないと……。
 1.キャッスルドランに向かう。
 2.今は園咲冴子と牧瀬紅莉栖を守る。協力者が見つかったら冴子達を預ける。
 3.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
 4.火野映司が本当に参加者を襲ったのなら倒す。
 5.もし力を得られるのだとしたら……。
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。


【4】


「あんな男、殺しておけば良かったのに」
「駄目よそんなの。勿体ないじゃない」

 後藤が去った後、屋内の空気は一変していた。
 冴子は不愉快そうに眉を顰めており、メズールは妖艶な笑みを浮かべている。
 これこそが彼女らの本性であり、後藤に見せた顔は偽りのものでしかないのだ。

「あの坊やは"正義"に恋してるのよ。それこそ、盲目になる程に」
「要するに自分に酔ってるだけって事でしょ?……ホント、気持ち悪い男ね」

 不快感の籠った声で、冴子が文句を垂れた。
 それを見たメズールは、彼女が抱えたストレスの大きさを察する。
 きっと後藤と同行している間、彼女はずっと苛立っていたのだろう。
 もし自分が合流していなければ、次の放送で呼ばれる名が一つ増えていたかもしれない。

「何にせよ、彼を利用しない手は無いわ」

 対象が概念であれど、後藤が抱く感情もまた"愛"の一種。
 "愛"に飢えたグリードが、それを黙って見過ごす訳がない。
 彼に植え付けられた"卵"は、もう既に孵化しかかっている筈だ。
 卵が孵ったその瞬間に何が起こるか――想像に難くない。

「それで、これからどうするのかしら?まさか黙って待つつもりじゃないでしょうね」
「……確かに、これ以上付き纏われるのは面倒ね」

 これ以上後藤に拘束されると、殺し合いを有利に進めるのが難しくなる。
 ここは彼を置いて別の場所に移動し、独自に行動を取るべきだろう。
 少なくともメズールはそのつもりだったが、どうやら冴子もそのつもりらしい。
 その証拠に、彼女は後藤が消えていった方向をじっと睨みつけている。

「先に聞いておくけど、貴方の正体をアイツは知らないのよね?」
「そんな事、坊やとの会話を聞けば一目瞭然じゃない」

 後藤慎太郎は、今まで保護していた二人の正体を知らない。
 "牧瀬紅莉栖"の実態は、真木清人の仲間であるグリードの一体。
 そして園崎冴子の本性は、「ガイアメモリ」を売り捌く死の売人。
 双方共に善意とは無縁の悪人である彼女らには、怪人としての姿を持ち合わせている。
 仮に今からキャッスルドランを襲撃したとしても、後藤の目に映るのは二体の怪人だけだ。
 尤も、どうやら冴子はその時点で後藤を殺すつもりだろうし、そんな事は何の問題にもならないのだが。

「行きましょうか、私達の"愛"の為に」

 後藤の頑固さのせいで若干状況が変わってしまったが、順調な事に変わりは無いのだ。
 全て予定通りに事は進んでいるのだ――何も不安がる様子などありはしない。
 二人はそれまで被っていた弱者の面を剥ぎ取ったまま、ヘリオスエナジー社を離れていく。
 自分達を縛り付けた無能の言いつけなど、守る訳も無かった。


       O       O       O       


 メズール達にミスがあるとすれば、彼女らを付け狙う影に気付けなかった事か。
 二人を発見した桐生萌郁は、既に二人の姿を携帯電話で撮影し、それをFBの元に送っている。
 さらに現時点でも、彼女はFBの命によってメズール達を追っているのだ。
 そして萌郁すら知らない事だが、現時点でのFBの正体はメズールの天敵の一人。
 彼女らの知らない内に、既にもう一つの卵は胎動を始めている。
 その卵が孵った瞬間に何が起こるかは――それはまた、別の機会に。

【一日目-夜】
【C-6 ヘリオスエナジー社】

【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、スパイダーメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、メモリーメモリ@仮面ライダーW
    IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
 1.キャッスルドランに向かい、鹿目まどかと後藤慎太郎を始末する。
 2.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
 3.井坂と合流し、自分の陣営に所属させる。
 4.メズールとはしばらく協力するが、最終的には殺害する。
 5.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用するべきではなかった。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。

【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青・リーダー
【状態】健康
【首輪】195枚:0枚
【コア】シャチ:2、ウナギ:2、タコ:2
【装備】グロック拳銃(14/15)@Fate/Zero、紅椿@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利。全ての「愛」を手に入れたい。
 1.キャッスルドランに向かい、鹿目まどかとオーズを始末する。
 2.鹿目まどかを殺害し、白陣営を乗っ取る。
 3.可能であれば、コアが砕かれる前にオーズを殺しておく。
 4. セルと自分のコア(水棲系)をすべて集め、完全態となる。
 5.完全態となったら、T2オーシャンメモリを取り込んでみる。
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
※自身に掛けられた制限を大体把握しました。
※冴子のことは信用してません。

【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】140枚(増加中):0枚
【装備】アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、桐生萌郁の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0~1(確認済)
【思考・状況】
基本:FBの命令に従う。
 0.やっと、見つけた。
 1.ラボメンと会った場合は同行してもらう。
 2.アビソドンはかわいい。アビスハンマとアビスラッシャーはかわいくない。分離しないように厳しく躾ける。
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。


111:夢の終わり 投下順 113:最期の詩-Blue tears-
110:59【ひづけ】 時系列順 113:最期の詩-Blue tears-
091:Mの侵略/増幅する悪意 メズール 114:時差!!
園咲冴子
後藤慎太郎 119:今俺にできること
061:目前のデザイア 桐生萌郁 114:時差!!


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最終更新:2014年01月16日 23:50