第二回放送と蠢く悪意と怒りの悪魔 ◆VF/wVzZgH.
──カラン、カラン、カラン。
秒針、分針、時針。
全ての針が12を指したその瞬間、どこからともなく西洋の鐘の音が鳴り響く。
全ての参加者に平等に、しかし何人集おうと決して耳障りに重なることなく、その音は数度繰り返される。
全てが、六時間前と同じだった。
いや、違う点は少しあるか。
──この放送を聞くものが、前回より確実に減っているという、揺るぎない事実が。
気を失っているものを除けば、全ての参加者の意識が今から始まる定時放送に向けられた、その瞬間。
再び、放送が、始まった──。
◆
皆様、定時放送の時間になりました。
これを聞いているということは、皆様は前回放送からのこの六時間を無事生き延びたということですね。
前回の放送の際、私の言った“進化"を皆様が遂げたということでしょうか。
或いは、周りの者に守られたまま、或いはただ単に運がよく生き延びてしまった参加者の方もいるかもしれませ
ん。
しかしこの状況でよりよい“進化"を遂げない者は必ず淘汰されます。
──とはいえ、欲望に身を任せ暴走してばかりでは生き残れないのも、また事実ですが。
……前回の放送から六時間が経過しました。
ただいまより、放送を開始いたします。
初めに死者の発表を。
前回と同じく、私が読み上げるのは一度限りです。
聞き逃してももう一度は無いので、よくお聞きください。
以上、15名。
あるものは美しいまま終わりを迎え、あるものはその欲望を膨れ上がらせ、醜い終末を迎えました。
彼ら彼女らの死を受け、今生きている方々も、より美しい終末を迎えられることを、祈っています。
では次に「禁止エリア」を発表します。
前回のものと同様、この放送から二時間後に作動し、その場にいる参加者の首輪を爆発します。
もちろん前回発表の禁止エリアも引き続き作用していますので、目的地へのルートは良く考えるべきでしょう。
【G-6】
【D-2】
【F-2】
以上、3エリア。
今まで首輪の爆発で死亡した参加者は確認していませんが、皆様はくれぐれも、禁止エリアにはお気をつけを。
不注意より生まれる不本意な死など、我々は望んでいませんから。
では続いて、各陣営のメダル所有数の発表です。
この場に存在するコアメダルの合計は64枚。
そのうち、
18枚を緑陣営が。
15枚を黄陣営が。
11枚を赤陣営が。
8枚を青陣営が。
12枚を無所属が所持しています。
引き続き、緑陣営がトップです。しかし黄陣営も着実にその勢力を拡大しています。
また、白陣営は現在リーダーが存在しない状況ですので、陣営自体が存在しません。
次の放送までにはこの陣営戦に復帰できるよう、祈っております。
また、前回の放送よりメダルの総数が減っていますが、間違いではありません。
一枚のコアメダルが、とある参加者により砕かれました。
皆様のもつコアメダルは知っての通りこの殺し合いを生き抜くのに大切なもの。
どうかくれぐれも、これ以上砕かれることの無いよう、お大事になさって下さい。
……それでは以上で、第二回放送を終了させていただきます。
六時間後にまたこの放送を聞けるよう、皆様が“進化"することを、我々は祈っています。
──それでは、皆さん、良き終末を。
◆
「フフフ、死者の名前に、脳噛ネウロを連ねるとは……、なるほど蘇ったからと言って死亡したことに代わりは無いからね」
放送を自身の部屋で聞きながら、男は笑う。
男が言うのは、放送で呼ばれた、現在は蘇りその肉体で活動する脳噛ネウロの事である。
彼は第一回放送の後、確かに一度死に、そして第二回放送の前に蘇った。
考えれば、第二回放送時点で死亡していない彼を放送で呼ぶ意味は薄い。
だが、放送で発表されるのは、“死亡者"のみで、“蘇生者"の名を発表する義務は主催者にはない。
放送時点で状態がどうであれ、主催が一度でも首輪を通して死亡を確認したならば、その名は放送で呼ばれるのであった。
……何故ならば、第一回放送、第二回放送そのどちらで呼ばれた参加者の中にも、その生を再開させかねない参加者は数多く存在するため。
この殺し合いにおいて、放送で呼ばれたからと言って、永久の脱落を意味しない者も数多くいるということは、読者諸君も知っているだろう。
故に放送で既に名を呼ばれた
ガメルやウヴァを初めとするグリード、そして
佐倉杏子のような魔法少女、そういった蘇生の可能性のある参加者も、放送で名前を呼ばれているのである。
これは、主にそういった蘇生する可能性のある参加者への特別措置という面が多く含まれる。
元々、条件さえ揃えば、この殺し合いにおいて、ある種無敵とさえ言える参加者達なのだ。
放送でその名前が呼ばれると言うことは、「現在生き、動いてその名を騙る者は偽物かもしれない」と他の参加者に思われることに繋がる。
それでも先程の放送で呼ばれるのは“死亡者"のみであり、蘇生の可能性のある参加者も放送で呼ばれているという点などに気付けば誤解を解く事は出来るだろう。
しかしそれでも一時の疑惑に繋がる事は事実。
殺し合いに否定的な参加者ならばそういった参加者の集いでは少なからず疑惑の目を向けられ、逆に殺し合いに肯定的な参加者ならば、他者の不意をつける。
これは所詮突き詰めてしまえば、殺し合いに消極的な参加者には多くのデメリットが、殺し合いに積極的な参加者ならば蘇生にメリットが生まれる仕組みなのであった。
「しかしまぁ、“私が担当する陣営"に、“君がいる"とは……、これも、運命という奴なのかな」
言ってニヤリと口角を吊り上げたその瞬間、男の顔がモニターの光に照らされる。
余りにも不気味に威圧感を発しながら楽しそうにモニターを見つめる男の名は、“シックス"。
彼の手にはライオン、トラ、チーター、所詮、ラトラーターコンボのオーラングルの形をした痣──令呪──が、刻まれていた。
それが意味するものはつまり。
彼が、黄色陣営の裏リーダーであると言う事。
その強烈な悪意と強い欲望は、欲望の大聖杯に裏リーダーと認められるに足るものである事は、最早言うまでもない。
そして今、彼の目は、そう多くない参加者、事象しか捉えていない。
殺し合いの途中経過で起きる些細な事象や脱落するであろう存在に興味は無いのか、ともかく彼の目は、この殺し合いが始まってからずっと大きな事柄や数人の参加者しか監視していないのである。
そうして彼は、その中でも特に長く監視している三人の参加者を再び捉えた。
一人目、
笹塚衛士。
今や自身の陣営の人間であり、この殺し合いに自分が関わっていると見て、精力的にその力を発揮している。
全くもって恐れ入る復讐心と洞察力である。
こんな悪趣味な殺し合いに自分は必ず関わっているだろうという彼の推測は──笹塚の考えているものよりずっとシックスの関与は少ないと言え──、実際当たっているのだから。
シックスはこの殺し合いが始まる前に彼の復讐心を見、自身が見てきたなかでも特に強い彼のそれに、強く惹かれた。
そう、彼の支給品に復讐に捕らわれる前の彼と離別できるように、特製のシナプスカードを忍ばせ使用させたのも。
特別な力を持たぬ参加者ならば簡単に殺せるように、自身の指の一つであったヴァイジャヤのカプセルを
カザリに与えさせたのも。
全て──笹塚やカザリ本人は忘れたとはいえ暗示を掛け──カザリという仲介役を通して彼に施した、シックスの差し金であったのだ。
自身が復讐を誓った男から与えられた支給品をありがたく重宝し、必死に生き抜く男の姿、彼にとっては実に滑稽で見ていて好ましいものであった。
そう、これは彼が自身の下に来ても、自身を殺せる可能性がゼロだからこその、遊び。
シックスの、他人の人生を使った残酷すぎる、彼にとっては当たり前のゲームの一環であった。
そうして知恵を練り生き抜かんとする男から目を離し、シックスの目は次の参加者に移る。
それはシックスの監視対象の二人目、脳噛ネウロ。
一度情けなく死亡し誰から見ても明らかなほど、たかが一人の小娘の死に嘆く。
やっと本調子を取り戻したかと思えば、やったことは一人の少女を、死んだ相棒に重ね叱咤すること。
全くもって情けない姿だが、仮にも自身の指を全て倒した男が、情けない死にざまを晒しながら死ぬだろう事は、彼にとって一時の暇つぶしとしては、監視するに足るものであったのだった。
だが、彼が一番の注目を向けているのは、最後のモニターに移った一人の参加者。
それはかつての同胞の葛西でも、自身の息子とも言える存在になりうるXでもなく。
シックスがこの場で監視し続けるに足ると判断した最後の参加者、それは──カザリ。
現黄陣営のリーダーであり、他のリーダーと比べても臆病すぎるほどの作戦で動いている彼。
生きるために臆病で、生きるために他者を殺す事を戸惑わない。
利己的で、賢いその頭脳を自身に利益のために使う事しか考えない。
そんな“悪意"に満ちたカザリは、自身の友であった葛西──自分の期待を裏切った、会場にいる同名の“誰か"ではなく──と重なり、彼の暇つぶしに一役買っていた。
──ちなみに、カザリのこの場での活躍を全てシックスによる物と解釈されかねないので追記しておくが。
シックスが、カザリに仕向けた暗示は笹塚を黄陣営に取り込ませる事、ヴァイジャヤのカプセルを渡すよう仕向ける事、それだけである。
それ以外の、
海東大樹や
イカロスを自陣営に入れ、上手く活用するなどの活躍はすべて、カザリの実力によるものであることを、ここに記しておく──。
さて、気になっている読者もいるだろうから補足しておくが、笹塚の所属陣営は本来無所属。
しかしそれを黄陣営に取り込むようカザリに暗示をかけるなど、容易い事。
だが、幾ら彼が裏リーダーで、様々な権限を持つとはいえ、多くの参加者への不必要なほどの干渉は禁じられている。
故にシックスが手をかけた参加者はつまるところ自陣営、無所属含めてこれだけなのである。
彼の悪意は既に殺し合いに大きな影響を与えてはいない。
彼の息子とも言えるXが、事実上殺し合いの間半永久的にISを使えることに比べれば、寧ろ干渉は少なすぎると言っても良い。
そしてもう一つ。
無所属である笹塚の支給品にシックスが手を加えられたことに疑問を持つものもいるかもしれない。
しかし、無所属とは所詮、多陣営に取り込まれる前提の陣営。
自身が全体の支給品の調整を行う前、大きくバランスを壊さないのならと、自陣営の参加者の他に少数なら無所属の者の支給品にも裏リーダーは関与していい、と真木は言ったのである。
故に他の裏リーダーはともあれ、シックスは笹塚の支給品を操作する事が出来たのだった。
また、天敵のオーズから離れ、支給品の関係上最初から自身に従う
桐生萌郁と無所属の笹塚の近くというカザリの初期位置。
これもまた、シックスが期待するカザリに対し送った、戦いを生き抜くための最後のアドバンテージであったのだった。
これだけ彼が手をかけたのだから、カザリの性格も相まって無様な真似はするはずもない。
そう現状黄陣営が着実にその勢力を延ばしつつあるのは、最早当然と言ってもよかったのだ。
この強すぎる悪意に、その加護を受けているのだから。
……ここで、そもそも何故シックスがここまでカザリに手を尽くしているか疑問に思うものもいるだろう。
答えは簡単、彼の願いは、欲望は、突き詰めてしまえばシックスと同じだからだ。
カザリは百獣の王であるライオンすら従える王であり、シックスは生態系最強の存在と言える新しい血族を纏める王である。
カザリの欲望は策略をめぐらせ他者を上手く弄ぶことであり、その為に自身に信頼を向ける存在を切り捨てることを戸惑わない。シックスも同様。
カザリの最終的な目標は頭脳で全ての考えを読み、あらゆる目論見を潰し、全てにおいて自身に敵わないと分からさせ、支配したいという欲望にある。
シックスもまた誰も敵わぬ悪意で以て全てを支配したいという欲望に満ちている。
──そう、カザリとシックスは、似ている。
色々言いくるめて信頼しているように見せかけて、最終的には自分と並ぶものなどいないと、そう確信している部分も。
そういった面を記憶を消される前のカザリとの交流でこれ以上なく察したシックスは、だからここまでカザリに手を尽くしたのだ。
もしかしたらそれが、私がこの陣営の裏リーダーに選ばれた理由なのかもしれないねと、彼は薄く笑って。
「頑張って生き残ってくれ、そうすれば、私の次くらいには長生きできる」
もしかしたらグリード以上に利己的なのではとすら思える言葉を吐いて、彼は椅子に深く腰掛けた。
◆
「白陣営が消滅……、全く
巴マミが
後藤慎太郎にコアメダルを全て渡していればこんな事には……!」
幾つかのモニターに照らされただけの、薄暗い部屋で一人ごちるのは一人の少女。
彼女の独り言の内容やその手に印されたサイ、ゴリラ、ゾウから成る所詮サゴーゾコンボの痣が、彼女が白陣営の裏リーダーである事を示していた。
陣営が無くなってしまえばそのリーダーを操れる効果を持つ令呪も意味を持たない上、聖杯を手にできる可能性は無くなる故、彼女の怒りはもっともだと言えるだろう。
ハァハァと動悸を荒くした彼女は、何に思い至ったか何も存在しないように見える空間に手を伸ばす。
するとそこから現れ出でたのは、彼女に私的に渡された──その皮が剥がれ赤い身が露出してしまっている──インキュベーターであった。
いつにも増して虚ろな目をしたそれを、彼女は殴りつけ、踏みつけ、撃ち抜き、しかし殺さず。
正にそれの扱いを、どこまでやれば死んで“しまうのか"を正確に理解しているかのように彼女はそれを数瞬弄び──。
やがて飽きたのか、或いはもう満足したのか、どちゃっ、と鈍い音を立ててそれを地面に叩きつけた。
先程までの動悸は落ち着き、彼女は平静を取り戻した事を示すかのようにその長い黒髪を撫でる。
そうしてモニターの光にさらされたその表情は、笑顔。
まるで今まで溜めてきた鬱憤を晴らすのが楽しくてたまらないと言わんばかりに口角を吊り上げた彼女の名は、
暁美ほむら。
しかし、彼女を殺し合いに参加している暁美ほむらと同一と思うなかれ。
彼女は会場にいる暁美ほむらが、遠い未来、もしかすれば辿り着いただろう真実を知り、神を弄ぶことの出来る“悪魔"となった存在なのである。
そもそも会場にいるほむらは、“この"ほむらが聖杯に裏リーダーに足ると判断された後、異なる平行世界より召還されたもの。
何、おかしいことは何も無い、巴マミが連れてこられた時間軸から連れてこられた鹿目まどかが問題なく存在する時点などで、既に幾つも平行世界があることは分かりきったこと。
それが今度は、同一人物にも起こったというだけなのだ。
──さて、もしかしたら、“愛"の力で現在の限りない力を手にした(と考えている)彼女は、青の裏リーダーが適任なのではと思うものもいるかもしれない。
しかし、彼女のそれは親愛、友愛、恋愛……何れにも当てはまらぬ、自身の想像が多分に入り交じった“妄信"とでも言うべきものなのである。
彼女は鹿目まどかの事を深く理解していると言い難く──まどかがそれを受けてどう思うかどう行動するかを踏まえず
美樹さやかを殺そうとしたり──彼女のまどかに向ける感情は、最早狂信者のそれに近い。
神としての記憶を失ったまどかがぽつりと洩らした「皆と一緒が良い」という言葉を彼女の総意と思い込み、彼女の願いだからと無理やり望む世界を作った──まどかではなく自身の望む世界を。
そんな“自分中心"な欲望を抱く彼女は他の適任者を押し退け──或いは、その陣営にいた鹿目まどかに引きつけられるように──、白の裏リーダーとなったのであった。
「ごめんね、まどか、怖かった?」
そう薄く笑って彼女が語りかけるのは、これもまた会場にいた鹿目まどかとは大きく異なる高次の存在、円環の理というシステムそのものであった。
辛うじて鹿目まどかの形を取り続ける円環の理だが、しかしそれに鹿目まどかとしての意識は存在しない。
そういう様に成る様“鹿目まどかという少女"と“円環の理"を切り離したのは、他ならぬほむらなのだから。
彼女に声をかけたほむらだが、返事は得られない。
元より期待していないのか、さして気にする様子も無く彼女の頬を撫で、そのままモニター前の椅子に腰掛ける。
ふと目を上げたとき彼女の視界に入ってしまったのは、この会場において最も視界に留めたくない参加者が、監視用インキュベーターが殺された故に画面上で止まり続けている映像だった。
──それは、自分。
正しくは、過去の、自分。
まどかの為にとのたまいながら、得体の知れない男と同行し、そしてその男に情を抱きつつある。
まどかの事を真に思う“今の"自分なら、遭遇した瞬間あの男を殺し、メダルを補給して、Gトレーラーと時間停止を駆使して即座にまどかを保護する。
例え場所がわからないからと言ってこんな状況でまどかを放置し続けるなど、自分ならば耐えられないだろう。
故に。
そんな状況に耐え悠々と下らない考察など重ねるこの女は、自分ではない。
自分でないのに自分の体験を語り、鹿目まどかとの思い出を思うこの女が“ほむら"にとっては一番憎かったのだった。
「どうせ今回の放送でまどかの死を聞いて嘆くんでしょう?或いはもう行動してるかしら?その時に精々今までの自分を責めなさい、まぁどうあったってあなたの罪は消えないけど」
そう言って笑った彼女だが、しかし読者諸君は気にならないだろうか?
何故彼女が、執着していた筈の鹿目まどかの死に嘆いていないのか。
その答えは実に簡単、それは──。
「まぁいいわ、まどか“達"に会いに行こうかしら」
そう言って立ち上がり、部屋に取り付けられた黒い何かが漏れだす亀裂──彼女の良く知る魔女の結界の入り口のような──の前で手を広げる。
するとそこにあったのは──辺り一面の、桃色の髪。
「あ!ほむらちゃんだー!」
「ほむらちゃん、会いたかったんだよ!」
まるで教室の様な部屋に移動した彼女を迎えたのは、皆同じ桃色の髪、丸い頬──鹿目まどかの、大群であった。
自身を取り囲みキャイキャイと再開を喜ぶ声を各々に浴びせられながら、ほむらは恍惚とした表情を浮かべる。
彼女が会場の鹿目まどかに執着しない理由、それは、自身の部屋に、無限のまどかと会える部屋があるから。
無論会場のまどかにも一定の興味はあった。
グリードであるガメルを母性と善意で保護し、数多の悪意に晒されながらしかし自分を見失わず逝った。
これが真木の言う美しい終末なのかと思うほど美しいその生きざまにより一層“鹿目まどか"への想いを強くし──しかしそれだけだった。
彼女の、“まどかルーム"とでも言うべき部屋には、ありとあらゆる時間軸、世界のまどかが集められている。
そこにいるまどかから無造作に選んだ一人の鹿目まどかの死は確かに悲しいが、しかし度重なるタイムループによって彼女の死にすらほむらの感覚は麻痺してしまった。
故に無限に存在する彼女が一人減ったところで、“今"のほむらには大きな悲しみには繋がらなかったのだ。
まどかのいない世界に比べればこの程度我慢できるとそう考えたところで。
「ほむらちゃん、大丈夫……?さっきから難しい顔してる……、保健室連れて行ってあげようか?」
部屋に入ってきてから何も喋らない自分を怪訝に思いまどかが心配してくる。
心配させてしまった自分を責めつつ、ほむらは前以上にぎこちない笑みを浮かべる。
「ええ、大丈夫よ、まどか。それよりも今は楽しみましょう?不本意だけれど、少し時間が出来たの」
「……?うん、わかったよ、ほむらちゃん!」
自分に都合のいいことしか言わないまどか──ほむらが洗脳したのか、他者にされたのか、或いは何らかの考えがあるのか──をその視界いっぱいに留めながら、彼女はまどか達の輪に入っていった。
(あぁ、たまらない。……でも、まだ足りない。まだ私は、全てのまどかを愛せていない、満たされてない。大聖杯を手に入れて、まどかとの永遠を──)
鹿目まどかに囲まれながら、今以上に甘い世界を望んで、ほむらは今一度大聖杯への願いを思い描く。
まどかとの真の永遠。
宇宙など終わろうと、構うものか。
老いず歪まず、色あせず。
もし今の世界が終わりを迎え、新しい世界が生まれ、また滅びそれを繰り返したとしても。
ずっと続く、愛しい人との永遠、それを望んで、彼女、“暁美ほむら"はこの欲望の殺し合いを勝ち抜くのだ。
裏リーダーが消え、より薄暗くなったその部屋の隅で。
“鹿目まどか"から切り離され感情の無いシステムと化したはずの円環の理の、その金色の瞳から。
一滴の水滴がこぼれたように見えた事を、恐らく知ることもないまま。
◆
会場に現れた、電人。
彼の目的とは一体何で、果してどういった存在なのか。
何よりその存在を彼ら彼女らは、真木は把握しているのか。
全ては未だ、欲望の中。
それが掻き分けられるのは、まだ先の話──。
【二日目 深夜】
【? ? ?】
【シックス@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄 裏リーダー
【状態】健康
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:欲望の大聖杯を手に入れる。
0:現状は殺し合いを静観する。
1:カザリ、笹塚、ネウロの順に興味、監視を続ける。
【備考】
※連れてこられた時期は少なくとも自分が死ぬ前、五本指が全て倒された後の模様です。
※戦力や配下がいるのか、大聖杯に何を望むのかは不明です。
※シックスが“彼"なのかは不明です。
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ劇場版 叛逆の物語】
【所属】白 裏リーダー
【状態】健康、恍惚
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】ダークジェム@魔法少女まどか☆マギカ劇場版 叛逆の物語
【道具】インキュベーター@魔法少女まどか☆マギカ
【思考・状況】
基本:大聖杯を手に入れ、まどかとの永遠を願う。
0:あぁ、まどか……。
1:会場にいる“暁美ほむら"に嫌悪感。
2:白陣営が消えて時間が出来た分、まどか達と戯れる。
【備考】
※参戦時期は叛逆の物語終了後です。
※彼女の持っている、真木から私的に渡されたストレス解消用のインキュベーターに監視性能が備わっているのかは不明です。
【円環の理@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】なし
【状態】健康?
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
基本:不明
【備考】
※鹿目まどかの姿をしていますが、彼女の心がどうなっているのかは不明です。
※目から涙がこぼれたように見えたのは彼女に鹿目まどかの心が残っており実際に流したのか、或いは何ら関係ない理由なのか、実際は流していないのかは不明です。
※彼女の本来の役割である「魔女化を未然に防ぐ」が会場に影響するのかは不明です。
【全体備考】
※ほむらのいる白裏リーダー用の部屋に結界があり、中にはあらゆる時間軸、世界から連れてきたまどかがごった返しています。
※まどか等は不自然なほどほむらに懐いていますが、これが本人たちの何らかの考えによるものなのか、ほむらか或いは他の人物に洗脳されたものなのかは不明です。
※“まどかルーム"を作ったのがほむらなのか、真木や他の主催陣営の人物なのかは不明です。ほむら以外の人物が作ったとして、その意図は現状不明です。
※“電人HAL"のことを真木や主催陣が把握しているのか、していた場合裏リーダーに情報は行っているのかなどは不明です。
【第二回放送 終了 残り人数 33人】
最終更新:2015年02月11日 11:13