#center(){&big(){&bold(){ジェイガンと合流したマルスたちは&br()ひとまず国外へ脱出をはかるため&br()郊外の森に潜伏し&br()機会をうかがっていた。&br()やがて、敵軍の警戒がゆるやかになり&br()絶好の機会が訪れるが&br()マルスの心は、姉エリスへの思いで深く沈んだままだった。}}} モロドフ「王子。」 マルス「……。」 モロドフ「王子!マルス王子!!」 マルス「え?あ、モロドフか…」 モロドフ「しっかりなされよ!お気持ちはわかりますがまだ戦場にいるのですぞ。グラの大部隊が後ろから追ってきたおります。先を急がねばなりません。」 マルス「すまない。つい……」 モロドフ「これよりアリティアを脱出いたします。よろしいですな。」 マルス「…どこに行くの?」 モロドフ「タリスです。」 マルス「タリス・・・聞いたことがある。確か東の島国……」 モロドフ「はい。タリス王は王子のお父上の古い友人。信義に厚い方でもあります。いざという時はタリスへ落ちよとのエリス様からのご指示でした。」 マルス「姉上の…」 モロドフ「ここから北へ抜けましょう。北東の港に船を用意してあります。ただ、そのためには途中で牢獄を抜けねばなりません。そのカギを1つ入手しましたのでお渡ししておきます。」 マルス「ありがとう。じゃあ、北へ向かおう。」 モロドフ「途上、心ならずともグラ軍に味方している者たちがおるやもしれません。そういった者を見かけたら話しかけてみるのも一つの方法ですぞ。」 ・ ・ ・ グラ軍隊長「牢の南に敵が現れただと?」 兵士「はっ、少数ですがかなり手ごわいとの報告です。しかも、その一人の風体が…」 グラ軍隊長「・・・マルス王子らしいというのか?」 兵士「はい。いかがいたしましょうか?軍の主力はまだ到着しておりません。今のわれわれの戦力では…」 グラ軍隊長「なあに、手はあるさ。敵を罠にはめればいい。」 兵士「罠…ですか?」 グラ軍隊長「おまえたちはわしに言われたとおりに動けばいい。アリティアの王子はわれらの獲物だ。後から来た本隊に、手柄を奪われるのもしゃくな話だからな、ククク…」 ・ ・ ・ ならずもの「おら、ここに入ってろ!」 ゴードン「ング…」 ならずもの「へっ、英雄アンリの開いた国っていうからどれだけ強いと思えばたった数日でこのザマだ。アリティアも大したことねえな。悔しかったらなんとか言ってみな。」 ゴードン「ンググ…」 ならずもの「ま、言い返したくとも猿ぐつわをかまされてりゃ無理だわな。へへへ…いいことを教えてやろうか。アリティアの王子様がよ、こっちに進軍中だとよ。」 ゴードン「!!」 ならずもの「だが、このグラ軍の格好じゃ味方だと思ってくれねえかもな。おまけに、この位置じゃ遠目からみりゃ敵の待ち伏せ以外の何者でもねえぜ。」 ゴードン「ググウ…」 ならずもの「で、おまえが王子たちにやられりゃこっちは味方殺しの王子様って格好の宣伝にできるってわけだ。せいぜい派手にやられてくれや。」 ゴードン「グ…」 ならずもの「ま、味方に殺されないように神様にでも祈るんだな。じゃ、あばよ!」 ・ ・ ・ マルス「むっ、敵!」 ゴードン「ングググ…」 マルス「!!猿ぐつわ!?おい、大丈夫かい?」 ゴードン「ぷはっ!あ、ありがとうございます、マルス様。」 マルス「!?君はたしか弓兵部隊の…」 ゴードン「はい。アリティアの弓兵部隊に所属するゴードンです。不覚にも敵に捕らわれてしまいこのザマに…」 マルス「そうだったのか…でも無事でよかった。まずここから脱出しないと。」 ゴードン「はい。私も弓さえあれば戦うことができます。もし弓をお持ちでしたら私にお貸しください。」 ・ ・ ・ ジオル「よいな、狙いは王子だ。アリティアの王子を仕留めよ!奴の首をわしに差し出せ!」 マルス「あれは……!」 モロドフ「なんということ。ここで追いつかれるとは……王子、あれはグラの本隊。それに、グルニアの黒騎士団もいるようです。今の我々では残念ながら勝ち目はうすく、かりに倒せたとしてもこのままでは逃げ切れませんぞ……」 マルス「だが、他に道は…」 モロドフ「1つ…策がございます。本隊に追いつかれた時のため、囮の備えをしておきました。」 マルス「囮?」 モロドフ「敵の狙いは王子です。王子の格好をした者がたった1人で逃れようとすれば敵は追うはず。そのスキに王子と残りの者は脱出することができましょう。誰かがあの南の街道まで行くのです。その者が囮となって王子を装い、敵本隊を引きつけます。」 マルス「だが、それでは囮となった者は…」 モロドフ「はい…生きては帰れないかもしれません。味方を1人失うことになるのでしょうが他に手段がございません。」 マルス「…だめだ。やはり、それはだめだ。みすみす仲間を死なすことなんかできない。ここは、やはり戦うしか……」 モロドフ「…王子、お許しください。この国のため、未来のためここで、あなたに倒れられるわけにはいかないのです…」 ・ ・ ・ フレイ「ここか。王子、役目は私が…」 兵士「あれは…マルス王子!?」 兵士「いや、あちらにも王子らしき格好の者が…どちらが本物なのだ?」 ジオル「ばか者が!少しは頭を使え!見ろ!今逃げた奴とは違い、あちらの奴は逃げようともせん。なぜだ?理由は1つ逃げた王子の時間をかせぐためだ!そんなこともわからんのか!」 兵士「で、では今逃げた方が…」 ジオル「本物に決まっておる!全軍、追え!逃げた王子を仕留めよ!」 マルス「フレイ!?待つんだ!フレイ!南へ向かおう。フレイを助けなければ。」 モロドフ「なりません王子、我々は先へ…」 マルス「先に?そんなことできるはずがない。フレイはぼくのために犠牲なろうとしてるんだ!」 モロドフ「そうです。だからこそ我々は進まねばならないのです!彼の思いを、彼の命を、無駄にせぬために。」 マルス「……フレイ…… …… ……行こう。ぼくたちは、前へ進む。」 ・ ・ ・ グラ軍隊長「王子は南へ逃げただと?ちっ、手柄は本隊のものか…北の扉を開け。我らは残った残党を仕留めるぞ!」 ・ ・ ・ モロドフ「王子、あちらに村があります。ひょっとしたら協力してもらえるかもしれません。訪ねてみてはどうでしょう。」 ・ ・ ・ ドーガ「マルス王子!お急ぎください!」 マルス「ドーガじゃないか。どうしてここに…」 ドーガ「モロドフ殿の連絡を受けてひそかに脱出する船の準備をしておりました。国境をこえた敵が西から追っているようです。さ、早く!」 ・ ・ ・ ジオル「囮だと……くそっ!このわしをコケにしおって…殺せ!殺せぇ!」 フレイ「我が役目…これで果たすことができた。マルス王子…強くなられよ…。」 #center(){&big(){&bold(){こうして、マルスたちは&br()アリティアからの脱出に成功した。&br()しかし}}} ジェイガン「王子、ここにおられましたか。」 マルス「……」 ジェイガン「アリティアが小さくなっていきますな。」 マルス「…ょくだ…」 ジェイガン「?今、何か…」 マルス「無力だ…姉上を救うこともできず、滅びゆく国も、そこに住む人々も救うことができなかった。ぼくは、ぼくはなんて無力なんだ……」 ジェイガン「…他に方法がなかったのです。いつの日か、きっと報いることができる日も来ましょう。」 マルス「…だめだよ、ジェイガン。」 ジェイガン「?」 マルス「『きっと』じゃだめだ。必ず…いつの日か必ず彼らの働きに報いてみせる。アリティアを取り戻しドルーアを倒してみんなの無念を晴らしてみせる。だから、今は思いっきりこの悔しさにひたるんだ。忘れたくても忘れないくらいに。」 ジェイガン「王子……」 マルス「ぼくは絶対に忘れない。絶対にあきらめない。そして、絶対に帰ってきてみせる。この国に…わが祖国アリティアに!!」