天空のエスカフローネの最終回

【あらすじ】
神崎ひとみは憧れの先輩・天野進とのファーストキスを賭けた短距離走の最中に見た幻の中に現れた若者バァン・ファーネルに導かれ、異世界ガイアに旅立った。
そして旅の途中、天野によく似た剣士アレン・シェザールに出会い、二人の間で揺れる想いを秘めながら冒険の旅を続けるのだった。

ガイアの支配を企むザイバッハ帝国についていたバァンの兄・フォルケンは、部下ナリアとエリヤの死をきっかけに帝国から離反しアストリア王国へ亡命する。
その一方、アレンから求婚されたこととバァンの戦いの感覚を共有したことで、ひとみは感情を爆発させ地球に帰還してしまう。
天野に告白する前の日の故郷で、親友・内田ゆかりの天野への想いと、自身のバァンへの想いに気づいたひとみは再びガイアへ向かう。
そして、残された時間が少ないことを悟ったフォルケンは、単身ドルンカークに決戦を挑むものの彼と刺し違えてしまう。
その最後を目の当たりにしたひとみの感情に反応し、運命改変装置が作動してしまうのだった。



ザイバッハ帝国首都。
中央に位置する城から、運命改変装置より放たれた絶対幸運圏の光が天へと上昇し、そしてガイア中の空を包んでいく。
その様子を見つめる同盟諸国の兵士たち。

「何だあの光は…」
「帝国の首都方向からだ…」
「まさか…」
「終わりだ…帝国が滅びた…」

城内中枢部。

ひとみ「絶対幸運圏?」
ドルンカーク「そう…運命改変装置の最終的起動による運命改変。全ての人の想いを叶え、絶対なる幸福を作り出す。アトランティス・マシンの真価が今、試されるのだ」
ひとみ「そんな…アトランティスは、それで滅んだんでしょ!?」




永遠の





「ザイバッハ軍、退いていきます」

同盟国の1つだったバスラム共和国軍の兵士が、将軍に状況報告をする。

将軍「ふむ。本隊が壊滅した今ザイバッハはもう終わり…この勝利の後が、我が国バスラムにとって大事よのう…前進!! ノルテの方角!!」
バスラム兵「は?」
バスラム将軍「同盟のブタ共も、今の内に叩いておく!!」

一方その頃…。

「デイダラス軍だ!! デイダラスの奇襲だ!!」
「戦の勝ちが見えた途端これか!! 返り討ちにしてくれるわ!!」
「今こそチェザリオ王国が、ガイアの盟主になる絶好の時!! 叩き潰せぇぇ!!」
「浅ましい奴らめ! 我らの力無くして勝利は無かったものを!! …構うことは無い!! 攻め滅ぼせぇぇ!!」

バスラムに続きエグザルディア王国、チェザリオ王国、そしてデイダラス王国…それまで同盟だった国々が、絶対幸運圏の影響でガイアの覇権をめぐり争いを始めてしまった。

「敵襲ー!! 敵襲ー!!」
アストリア兵「バスラム軍が…うわぁっ!!」

バスラム軍は、アストリア軍に狙いを定めた。
襲い来るチェザリオ軍のメレフを、アレンのシェラザードが迎え撃つ。

アレン「くっ…同盟の絆は断ち切れたのか!」

クルゼードのブリッジから外を見下ろすガデス。

ガデス「何やってんだよ…仲間割れしてやがる…!」
リデン「軍曹!! バスラムの浮き船が!!」
ガデス「ぬ!?」

クルゼードの背後に巨大なバスラムの浮き船が出現。

バスラム将軍「アストリアの腰抜け共が!! 叩き落とせ!!」

クルゼードとバスラムの浮き船の間を飛んできた浮き船が、バスラムの浮き船に追突される。

ガデス「高度下げろ!!」

しかし浮き船を振り切れず追突され、船体右側の浮遊石が破損。

キオ「やられた!!」
テオ「岩が吹っ飛んだ!!」
ガデス「地上へ逃げろ!!」

そのままクルゼードは不時着。

エグザルディアのガイメレフとエスカフローネが斬り合う。

バァン「何!?」

バァンの眼下でチェザリオ兵がバスラム兵に倒されている。

バァン「俺たちの敵は、ザイバッハじゃないか!! …やめろぉぉぉ!!」

ペンダントが揺れる。

ひとみ「何、これ…!」

~城内中枢部~

ひとみ「どうして味方同士が戦ってるの!?」
ドルンカーク「人の想いがそうさせている」
ひとみ「え?」

~戦場~

ザイバッハ残党のアルセイデスが、バスラムのメレフに倒される。

バスラム兵「残党狩りなど造作も無ぇや……!?」
噴煙を裂いて現れた赤いガイメレフ…ディランドゥのオレアデスがそのメレフを、そして近くにいたガイメレフをも破壊。

バスラム兵「おあぁぁぁぁっ!!」

クリーマの爪で相手メレフを串刺しにしたまま、左腕を高く掲げる。

ディランドゥ「フフフ…僕の戦はまだ終わっちゃいないんだよ、バァン!!」

~城内中枢部~

ドルンカーク「想いを叶えるこの絶対幸運圏が争いをより巨大にした。人は戦う運命からは逃れられぬか…人は戦いを求めているのか…」
ひとみ「そんな…」

~戦場~

バスラムのメレフを撃破するジャジュカのオレアデス。

ジャジュカ「ディランドゥ様を見失ってしまったか…!」

~回想~

魔導士「ジャジュカ。貴様にまた子供の世話を任せる。我らの実験のことは、内密に…」

部屋の隅で、少女が泣いている。
運命改変の実験台としてザイバッハにさらわれた、アレンの妹セレナ。

セレナ「一人にしないで…お家に帰して……」

ジャジュカが食事を持って来た。

ジャジュカ「少しは食べろ。お前に死なれると困る」
セレナ「…」
ジャジュカ「可哀想に…髪を切られたのか」
セレナ「…?」

~戦場~

ジャジュカ「早く探さねば…!」

オレアデスが飛行形態に変形して飛び去っていく。

~城内中枢部~

ひとみ「お願いです。あの機械を止めて! 戦いをやめさせて!!」
ドルンカーク「無駄だ。動き出した運命は誰にも止められはしない」

戦場の空を暗雲が覆いだし、稲妻が走る。

ドルンカーク「滅びが人の運命ならば、受け入れる他あるまい」

エスカフローネはバスラムのメレフと戦っていた。

バァン「くそぉ……!?」

バスラムのメレフが、クリーマの爪に背後から刺し貫かれる。
更に、爪は周囲の兵士をもなぎ倒す。

バスラム兵「うわぁっ!!」

爪が引っ込んでいき、、メレフが崩れ落ちる。
その背後にはディランドゥのオレアデスが。

バァン「赤いガイメレフ…」
ディランドゥ「フフフ…やっと見つけた…随分探したよ、バァン!!」

射出された無数のクリーマの爪を切り払うエスカフローネ。
その一部は、同時にチェザリオのメレフを刺し貫く。

バァン「くっ…ディランドゥ!!」
ディランドゥ「いくよぉ!!」

剣状に収束された爪を受け止める。

ディランドゥ「いいねぇ!」

オレアデスの繰り出す突きに対し、エスカフローネは真っ向から斬りかかる。
剣がオレアデスの右腕に食い込み、そのまま斬り捨てる。

ディランドゥ「!!」

更に右足をも斬られ、ダウンするオレアデス。

ディランドゥ「!!」

残った左腕からクリーマの爪を射出。
エスカフローネはそれを切り払って左腕を斬り捨てる。

バァン「たぁぁぁぁぁぁ!!」

大上段に剣を掲げる。

ディランドゥ「…!」

戦意を失いかけているディランドゥ。
エスカフローネが剣を振り下ろしたその時、両者の間に割って入ったジャジュカのオレアデスが身代わりとなって攻撃を受ける。

バァン「!?」

ジャジュカ機の左肩部から流体金属が噴き出す。

ディランドゥ「ジャジュカ!!」
ジャジュカ「ディランドゥ様、お逃げ下さい!!」

セレナとの思い出が、ジャジュカの脳裏に蘇る。

ジャジュカ「もう良いのです! セレナに戻っても! あの優しきセレナに!!」

青い炎を噴き上げ、崩れ落ちるジャジュカ機。

ディランドゥ「ジャジュカ…!」
ジャジュカ(回想)「怖がることは無い。私の名はジャジュカ」

封じられていた記憶が蘇ろうとしている。

ディランドゥ「何だ…」

~回想~

ジャジュカがザイバッハ兵から暴行を受けている。
セレナも魔導士に取り押さえられている。

ザイバッハ兵「獣人の分際で!!」
セレナ「ジャジュカぁぁぁ!!」
ジャジュカ「やめろぉぉぉ!! その子を連れて行くな!! セレナぁぁぁ!!」

ディランドゥの瞳孔が赤と青に入れ替わりを繰り返す。

ディランドゥ「ジャジュカ…一人に…しないで…」

髪の色も銀からブロンドに変わり、元のセレナに戻りつつある。

バァン「とどめぇぇぇ!!!」

剣を正面に構え、突撃するエスカフローネ。
その時…。

ひとみ「ダメぇぇぇ!!」

ペンダントが揺れ、バァンの脳裏にひとみの声が。

バァン「何!?」

上空から降りてきたシェラザードが、エスカフローネの剣を受け止める。

バァン「アレン…」
アレン「やめろバァン!! 剣を引け!!」
バァン「そいつは戦いに魅入られた男! 奴を殺し、ガイアの禍根を絶つ!!」
アレン「違う!! ディランドゥを一人斬り捨てたところで、人の憎しみは終わりはしない!!」
バァン「何ぃぃぃ!? 」

後退するシェラザード。エスカフローネの剣は虚しく空を切る。

バァン「お前に国を滅ぼされた、俺の悲しみが分かるものか!!」
アレン「私が相手になる!」
バァン「!?」
アレン「ディランドゥは私の妹だ!!」

斬りかかるエスカフローネ。しかし、止められてしまう。

バァン「く…アレン、気でもふれたか!!」
アレン「あやつの罪は私の罪! 例えザイバッハの魔術に操られていたとしても、遠慮はいらん!! 私を斬れ!!」
バァン「…」
アレン「いざ勝負、バァン・ファーネル!!」
バァン「はぁっ!!」

切り払う。

アレン「天空の騎士アレン・シェザール、力の限りお相手致そう!!」

シェラザードは自身の剣を空中に放り投げ、そしてキャッチしてエスカフローネと切り結ぶ。

ガデス「…!? シェラザードとエスカフローネ!」
リデン「…お頭と王様が!」
ガデス「ありゃマジだな…どちらか死ぬまで、終わりそうもねぇ…」
リデン「軍曹…!」

2人の戦いを見つめるひとみ。

ひとみ「どうして、バァンとアレンさんが…」
ドルンカーク「これが彼らの想い」
ひとみ「そんな…やめてバァン!!」

互角に渡り合う両者。

アレン「驚くほど腕を上げている。嬉しいよバァン!!」
バァン「くっ!!」

シェラザードの繰り出した突きに対し、その剣にエスカフローネは自身の剣を滑らせ、そして弾く。

バァン「ここまでガイメレフを操れるとは!」

シェラザードに押され、そして押し返すエスカフローネ。

バァン「強い! 流石はアレン!」

斬り合いは尚も続く。

アレン「これほどの使い手になろうとは! バルガス殿を思い出させる!!」
バァン「この男、倒したい!!」
ドルンカーク「何と楽しげな若者たち…この絶対幸運圏の中、二人の想いは叶ったのか…」

オレアデスを降り、ヘッドギアを外して戦いを見つめるディランドゥ=セレナ。
次第に若き日のアレンの姿が脳裏に浮かぶ。

若き日のアレン「セレナ!」
セレナ「お兄様…」

戦いを止めようと歩き出すセレナ。
両者が振りかぶった剣がぶつかり合う。
シェラザードが剣を弾いて踏み込んだその時…。

セレナ「お兄様ぁぁっ!!」

叫び声に気づいたアレン。

セレナ「お兄様ぁっ!!」
アレン「セレナ!」

隙をついてエスカフローネが斬りかかる。

バァン「アレェェェン!!」

振り返るアレン。
ペンダントが揺れる。

ひとみ「ダメぇぇぇぇぇ!!」

そして勝敗は決した。


静止した両者。
エスカフローネの剣がシェラザードの顔面にめり込んでいた。

ひとみ「やめてバァン…!」
バァン「…」
ひとみ「戦っちゃダメ…」
バァン「何!? …ひとみ!?」

暗闇の中、ひとみがバァンの右腕を掴んでいた。

ひとみ「ドルンカークの機械のせいなの」
バァン「ドルンカーク!?」
ひとみ「悪い運命が止まらない…このままじゃ、ガイアもアトランティスみたいになっちゃう」
バァン「…だからアレンとの決着をつけ、ドルンカークを倒す!」
ひとみ「違う! バァンは戦うことなんてないの!」
バァン「俺がこの戦いを終わらせる! 兄上の敵を討ち、お前を助け出して…」
ひとみ「違うの! その想いが、戦いを呼びこんじゃうの!!」
バァン「俺はお前を守るために戦っている!」
ひとみ「誰もそんなこと頼んでない!! 戦っちゃダメ!! アレンさんと戦うことなんてないのよ!!」
バァン「俺はアレンのことが心配なだけなんだ!」
ひとみ「違う! 私の言うことが何で分からないの!? こんなにバァンのこと心配してるのに、こんなにバァンのこと想ってるのに、どうして分かってくれないの…」
「大丈夫…」

背後に現れたのはフォルケン。

フォルケン「君が信じていれば…」
ひとみ「フォルケンさん…」

二人は断崖の上にいる。

フォルケン「人の想いは、時に天空をも動かす。しかし、その想いと想いが重なる時、大きなわだかまりが生まれる。それを消し去ることができれば、人は変われる…」
ひとみ「わだかまり…想いが重なる…」

フォルケンと共に断崖が消え去った後、辺りは再び暗闇に。

ひとみ「私の想いが、バァンを縛り付けてる…」

周りをロープに囲まれていたひとみ。
掌の上のペンダントを見つめながら…。

ひとみ「本当にバァンを想うって…信じるって…私は…」

目の前のバァンは、時が止まったように動かない。
その時、ペンダントが揺れ、ロープが断ち切られていく。

ひとみ「私は、バァンのこと好きだから…ほんとに好きだから…」

草原に立つひとみ。

ひとみ「草原の香り、バァンの香り……バァンのこと、好きだから…」
バァン「ひとみ…」
ひとみ「ごめんね。分かってないの、私の方だった…」


そして戦場。
シェラザードが後ろのめりに倒れ、アレンが操演宮から降りる。

アレン「セレナァァァァァ!!」
バァン「?」
アレン「セレナ!」
セレナ「お兄様…」

その場に崩れ落ちるように倒れるセレナをアレンが抱きとめる。

アレン「セレナ! 私が分かるのか?」
セレナ「お兄様…会いたかった…」
アレン「セレナ…よく戻ってきてくれた…もうお前を一人にはしない…」
バァン「セレナ…アレンの妹?」

立ち上がるアレンとセレナ。

アレン「バァン、ひとみの声が聞こえた…ひとみが待っている」
バァン「…ああ」

エスカフローネを飛竜に変形させ、バァンはドルンカークのもとを目指して飛び立つ。

アレン「バァン…」
セレナ「白い…白い竜が…」
ガデス「隊長~!!」

ガデス以下クルゼード隊が一斉に二人に駆け寄る。

~ザイバッハの城~

ドルンカーク「遂に最後の時が…錬金術で黄金が生み出せなかったように、運命も操ることはできなかった…」
ひとみ「諦めたの?」
ドルンカーク「?」
ひとみ「私は信じてる。決められた運命なんかないって」

城に肉迫するバァン。

バァン「荒ぶる心が竜を呼ぶ…憎しみと恐怖が、争いを生む…」

ドラグ・エナジストが輝き、エスカフローネが暴れだす。

バァン「エスカフローネ!!」

彼の脳裏にひとみが浮かぶ。

バァン「! ひとみ……ひとみぃぃぃぃぃ!!!」

絶叫と共に背中の羽根を広げ、同時に上着が破れて半裸になったバァンはエスカフローネから離れて飛び立つ。
その時散った羽根が、地上で戦っている兵士たちのもとに舞い落ちていく。

チェザリオ兵「竜が…白い竜が、飛んでいく…」

持っていた槍を捨てる。

バァン「…あれか!」

ひとみの幻に導かれるまま城に近づき、そして光の柱に飛び込む。
そのエネルギーの流れに押されながらも、バァンはひとみを探して飛び続ける。

バァン「ひとみぃぃぃぃぃぃ!!!」
ひとみ「バァン!! …バァンが来る…迎えに来てくれる…」
ドルンカーク「バカな…一たび動き始めたアトランティス・マシンは…」
ひとみ「バァン!!」

バァンがマシンの一部を壊して侵入し、ひとみを抱いて上昇する。

ドルンカーク「惹かれ合う二人の想いが、彼らの想いが、争う定めを背負わされた人の想いを凌駕したのか…しかし移ろいやすい人の心が織りなすその一瞬が、永遠となり得るのだろうか…」

ドルンカークが消滅し、運命改変装置も停止する。
光の柱が消え、雲間から光が差し込む。
争いは鎮まり、各国の兵士たち、アデルフォス、アレンとセレナ、そしてガデスたちは空を見上げていた。

アレン「ひとみ…」


全てが終わり幾ばくかの日が流れた。
鎌倉北高校最寄りの駅で電車を待ちながら語らう女生徒たち。

「彼あたしに気があるのかな~なんてね~」
「え~? それ自信過剰ってヤツじゃない?」
「うふふ…」
「も~、ナオのイジワル。占ってもらえば? タクヤくんがサチコに気があるかどうか」
「え~」
「あ、神崎せんぱーい。占い得意なんですよね。恋占いして頂けませんか?」

電車を待つひとみ。

ひとみ「やめちゃったの占い。ごめんね」

話は遡り、ファーネリア王国。
街の人々は都市の復興に勤しんでいた。

メルル「お食事持ってきました!」
大工「おう! ありがとよ!」

森の中。ファーネリア先王にしてバァンの父・ゴオウの墓前にて…。

バァン「兄上。やっと帰ってきたよ。俺たちの故郷ファーネリアに。どうか、ここから国の行く末を見守っていてくれ…」
ひとみ「随分昔のような気がする。あたしが初めてこのファーネリアに来たのも…これからどうするの?」
バァン「みんなの想いが、ガイアを創っていくんだ」

立て膝の状態で静かに佇むエスカフローネ。
バァンはそれを見つめた後、膝の上に乗って左胸の宝石からドラグ・エナジストを外して封印し、飛び降りる。

バァン「ありがとう。エスカフローネ…」
ひとみ「…? バァン…」
バァン「エスカフローネは眠っていた方がいいんだ。あいつに頼らないファーネリアが、ガイアが、兄上の想いなんだ。俺は、その世界を見てみたい」
ひとみ「あたしもバァンと見たい。ダメかなぁ? あたし、このガイアが、ファーネリアが好き」
バァン「構わないさ。ひとみがそうしたいのなら」
ひとみ「え?」
バァン「でも、俺たちはいつでも会えるだろう? 想いが通じていれば」
ひとみ「バァン…」

瞳から涙がこぼれる。

ひとみ「これ…持っててね。バァン」

ペンダントを差し出してバァンに渡す。
そして、バァンはひとみを抱きしめる。

ひとみ「あたし忘れないから…」

抱き返す。

ひとみ「おばあちゃんになっても…絶対に、忘れないから…」

ゴオウ、ヴァリエ、フレイド、マレーネ、フォルケン、ナリア、エリヤ、そしてバルガスの魂もそれを見つめていた。
天使たちの幻が二人を取り巻き、バァンがドラグ・エナジストを上空にかざす。
光の柱に包まれ上昇するひとみ。

ひとみ「あたし、忘れないから…」
バァン「ひとみ…」

人々は森から伸びる光を見ていた。

メルル「ひとみ~!!」

アレンとセレナも、ガデスたちも。

ミラーナ「さよなら、ひとみ…」

ミラーナに寄り添うエリーズ。

ドライデンも、シド王子とフレイドの民たちも。その光を見届けていた。

モグラ男「さいなら~娘さん!」

光は幻の月=地球に繋がっていた。


~鎌倉~

「ゆかり先輩いいよね~」
「そうそう! 天野先輩とものすごくお似合い! 運命の相手って感じだよね~」

ひとみ「…!?」

消波ブロックの上、翼を広げて佇むバァンの姿が見えた。
彼はひとみにそっと微笑みかける。

ひとみ「バァン…あたし、元気だよ」

バァンの姿は消えていた。
空には月に寄り添うようにガイアが映っている。
舞い落ちる一枚の羽根。





<終>

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最終更新:2024年07月13日 13:51