クーヴァンタインの独り言の書き起こし(ブラックシープ商会)

バクハーン国の要請したとある大きな犯罪ギルドの討伐作戦。
作戦参加者の集合場所で、偶然俺はかつて出会ったとある少女と再会する事となった。

「げ…あのときのバカじゃない」

開口一番、眉間に皺を寄せながら彼女の発したセリフはこれだった。
まあ無理もない。過去に俺は彼女を魔族と見間違え、斬り殺しそうになった事があるのだから。



俺が彼女と出会ったのは、冒険者となって間もない頃であった。

今思えば恐らくは仕事の合間の休憩だったのであろう。
彼女は木の枝に腰掛け、小さなグラオザームイェーガーを頭から食らっていたのだ。
あれをゾルダートクーヘンのように齧る時点で既に真っ当な存在とは思えないが、
それに加えて黒髪と黒い翼を持っていれば―――
遠目に見ればどう見ても何らかの魔族か魔物と見えてしまうだろう。

放浪を続ける身とはいえ、帝国臣民としての誇りと忠誠心は死んでも離すつもりはない。
それに則るならば魔族の存在など許す訳にはいかない。
相手を確認するよりもそっちの方で頭が一杯になった俺は、問答無用で彼女に斬りかかった。

有翼人だけあって人間を軽く凌駕する身のこなしに俺は翻弄されていたが、持ち前の持久力で疲労が見えてきた彼女を追い詰めていった。

ついに動きが止まった彼女を斬りつけようとしたその時である。

「おい、そいつは魔物じゃないぞ?ただの有翼人だ」

ドラゴネクウスを駆る男に俺は引き止められた。
…ここでようやく彼女が単なる有翼人に過ぎないと気付いた。
若さ故の過ち…では明らかに済まされない事をやらかす一歩手前であった。

『「帝国の冒険者はこんなオーク並の頭の奴しかいないのか』とか、とにかくそんな捨て台詞を吐きながら彼女は仕事に戻っていった。

その後、彼女の『同業者』たるこの男、エルアーズから彼女の事を幾つか聞く事になった。
勢い任せで斬りかかってしまったが、これもある意味で重要な『経験値』なのかもしれないと、今更ながら思う。


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最終更新:2022年08月05日 16:48