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勇者と
魔王の戦いを残した伝記を
世の中の童のほとんどが読んで育ったとされている。
しかし、その伝記を読み進める中で
「勇者」に憧れる少年は星の数ほど存在しえど、
魔の軍勢を束ね世界を手中に収めんとする
「魔王」に憧れを示す少年はかなり珍しい。
パンドーラこそまさに
その珍しい少年の一人だった。
大いなる力とカリスマ性で屈強な軍勢を束ね
自らの地位と命が勇者によって崩れ去る際においても
尊厳と
魔族の誇りを貫き通す魔王の御伽噺は
圧政により奴隷生活を強いられていたパンドーラにとって
唯一の救いであり道導となっていた。
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そんなパンドーラが
いつもの様に
奴隷生活を過ごしていたある日、
敷地内に一匹の
グミーを見つける。
そのグミーは酷い飢えと傷によって
虫の息だったが、パンドーラはそんな哀れな
グミーにパンを与える。
かくして一匹のグミーとパンドーラは
親友となった。
こっそり敷地内に潜り込んでくるグミーと
奴隷生活の合間を縫って遊ぶことがパンドーラにとっての唯一の癒しだったが
小さな幸せはそう長くは続かなかった。
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パンドーラの住む国は
国総出で呪術やら黒魔術やらの研究を
行っており、大いなる飛躍を目指す節目には
多くの罪のない奴隷が生贄に捧げられる。
パンドーラは幼くして生贄の一人として
祭壇に縛り付けられることとなった。
儀式の準備は淡々と進むが、
非力なパンドーラはそれをただ
眺めることしか出来ずにいた。
頭に思い浮かぶのは幼き頃から憧れ続けた
魔王の御伽噺と唯一無二の親友グミーの姿。
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―――――――
生贄の儀式が終わるや否や
国中があっという間に大騒ぎとなった。
生贄の祭壇で儀式の魔術を身に浴びた人間は
いかなる強者であったとしても抗うことは出来ず、魂は抜かれて肉体は朽ち果てる。
今回の儀式においてもそれは例外ではなく
数多くの奴隷達がその儀式の生贄として
朽ち果てていった。
幼きパンドーラを除いて――――――
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パンドーラは生贄の儀式に打ち勝った。
前代未聞の出来事である。
儀式によってもたらされる未曾有の苦しみを
耐え抜いたのは幼き頃から憧れ続けた
「魔王」への執着と親友グミーへの想いだった。
儀式の魔術を受けた副作用によって
パンドーラの肉体に魔術的な変異が発現。
その魔力と怒りに身を任せ、
圧政を強いる王を打ち滅ぼしたパンドーラは
奴隷を解放した後にグミーと共に旅に出る。
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覚醒を遂げたパンドーラは
グミーと共に旅をしていたが
彼には夢があった。
「幼き頃から憧れ続けた 魔王 になる」
という夢が。
その覇道を叶える為にパンドーラは
更なる高みへと精進することを決意する。
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国を出てから数年後。
パンドーラの構える砦には
ありとあらゆるモンスター達が居座っている。
魔王を目指し始めたパンドーラは
修行によって強さをつけながら
各地で暴れるモンスター達を打ち倒し、
仲間として迎え入れる日々を過ごしていた。
幼き頃に夢見た魔王への旅は今もまだ
続いている。
最近はディックという少年が率いる
秘宝探索隊にも参加中である。
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最終更新:2023年04月10日 06:01