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「-CROSS-想いと軌跡-」


作者:本スレ 1-710様

90 :-CROSS-想いと軌跡-:2011/08/07(日) 01:50:32
本スレ1-710です。
創作してもらうスレ52様のお子様とうちの子のスピンオフな二次SSを仕上げましたので投下します。
以下、属性表記です
 ・創作してもらうスレ52様(本スレ510様)の設定と
  うちの子の元設定(創作してもらうスレ 1-110)を足した
  ファンタジーな世界観での二次SSです
 ・今回もエロはありませんが、ストーリーは割と長め
 ・ダフネ様とエル、ディオス様とシオンでのやり取りがメインです
 ・少年組と青年組の対比と、互いへの理解と独占欲wがテーマな感じ
 ・設定準拠ではない表記を若干含みます
 ・キャラ&設定が52様の公式設定から外れている可能性あり
こんな感じですが、よろしかったらどうぞ


91 :-CROSS-想いと軌跡-:2011/08/07(日) 01:54:55

中庭の方がやけに騒がしいな。
皇子ディオスはそう思いながら、漆黒の瞳の視線をこの回廊の先にある中庭の方へと、改めて
向けた。

先程、あの中庭が見下ろせる自身の私室からこの場所へと出向くまでの間に、それ程長い時間
をかけた訳ではない。
それでも、たった今、この瞬間に中庭の方から響いてきた、その剣と剣を打ち合う音は、ただ、
それだけで、静寂に包まれた朝を迎えることが多い皇太子離宮の雰囲気を普段とは違なるもの
に変えていた。

だが、一方で、それは、響き合う剣の音と、感じる気配から察するに、その先の中庭で誰かが
刺客と斬り合いを繰り広げているという類のものでは無さそうだった。
そういった気配を瞬時に感じ取っていたディオスは、自身の方を心配そうに見上げていた少年
従者の方を振り返ることなく、歩く速度を少し速めながら、中庭へと向かっていった。

そして、ディオスがこの回廊から中庭を見渡せる場所に着いた瞬間、目にした光景は、ある程
度、予想していたものではあった。

皇太子離宮の中庭は、一般的な邸宅の場合と比較すれば、かなりの広さを誇る。
その中庭の背後にそびえ立つ邸宅の趣にあわせて、趣味良く設えられた噴水を背にした風景の
中で、ディオスが目にしたのは、薄桃色の髪と紫炎の瞳を持つ少年、しっかりとした体躯に黒
地に紅い縁取りを施した騎士服を纏い大剣を手にしているダフネ・グリンバークと、もう一人、
相対するダフネと比べると、小柄で、華奢な印象を受ける少年が互いに剣を打ち交わし合って
いる姿だった。

また、中庭には、その周りを囲むように、回廊が張り廻らされており、なおかつ、幾つかの場
所で、邸宅の中へ と続いていくように設計されている。
回廊には、偶然にも居合わせることになったのであろう、数人の女官や衛兵達が、中庭の中央
で互いに笑顔さえ浮かべながら、剣を交わし合う、少年二人へと、視線を注いでいた。

そんな風に幾人かの人々が見守る中で、相対する少年と剣の打ち合いをしていたダフネは、回
廊の端に上質な仕立ての黒い騎士服に身を包んだ、漆黒の髪と瞳を持つ端正な容姿の美青年と
いった風貌の自らの主、皇子ディオスの姿を目に留めると、目の前の少年との間合いを一度、
大きくあけて、その相手へと向かって声をかけた。

「エル! ……エル・シオン様!
 ここで、この手合わせを一度、止めにしては、いただけませんか?」
「ダフネ殿、それが貴殿の主たる御方がこの場に来られた事を気に留めての
 お言葉なら、今、この場において、手合いを止める必要は無いように思います」

ダフネにエルと呼ばれたその少年は、相手からの求めに応じて、今、正に、目の前の相手に対
して、丁度良い形で振り抜こうとしていた剣の動きを止めてから、笑顔でそう言った。

エルの屈託のない笑顔は、淡い空色の髪に、それよりも若干濃い色の瞳と、華奢で流礼な 雰囲
気を併せ持つ容姿に、白地に濃紺の縁取りを施した騎士服に身を包んだ姿と相まって、彼が明
らかに、高貴な身分の人間であることを周囲に明らかにしていた。
何よりも、ダフネの主である皇子ディオスが時折、見せる笑顔と同じように、その場に居る人々
を魅了する性質を充分に備えたものだった。

その華やかな印象を持ち合せた笑顔のまま、エルは、皇子ディオスと先程から、二人の手合わ
せの立会人を務める破目になってしまっていた、もう一人の青年の方へと振り向いた。

「シオン!
 いや、アル・シオン・エ・ヴァン・ダイク公! 立会人たる貴公に異論はおありかな?」
「ここにおわす、ディオス殿下のお許しがいただけるのなら、私は続行で構わないよ」

自らの名を呼ばれると同時に、そう声をかけられた、青年は、何か諦めたように小さく溜息を
つくと、ほんの少し、困ったような表情を見せながら言った。

ディオスは、自身に声かけながら振り返った青年の方へと改めて、目を遣った。
流れるようなプラチナブロンドと青銀の瞳に、濃紺の騎士服を纏った、このシオンという青年
が、今この時点では、帯剣こそしていないが、恐らくは、皇子であるディオス自身と同程度に
は、卓越した力量を備えた騎士でもあるのだと、あらかじめ聞いていた。

それに、もう間近に迫っている自身の婚礼の義において祝言を述べる聖霊四公からの使者とし
て、昨日、この二人を皇太子離宮に招き入れることとなった際も、ディオスは、そういったこ
とを聞かされていたし、それまでにも、もう、何度も、聖霊四公には、自分と同じ年齢の公王
がいるのだということを教えられてはいた。

ただ、昨日、実際に会うまでは、その公王とやらが、どの程度の実力の持ち主であるのかなど、
ディオスには確かめようも無かった。
また、この現世界と幻界の狭間に在り、専ら魔族の調伏と世界の均衡を保つことを目的とした
技を行使することを生業としている特異な領域に存在し、今では、 現世界へ影響力が極めて少
なくなっている聖霊領域の事などは、あまり気にもかけていなかったというのが正直なところ
だった。

ダフネがどういう経緯で、剣の手合いの相手をすることになったのかは、解らない。
それでも、この聖霊四 公のうち、北の領域を統べる公王シオンではないにしても、西の領域を
統べる公王の第二皇子であり、なおかつ、第一王位継承権を持つ、エル・シオン・ディ・ア・ル
デ゙ィアと名乗った、 同じ王位継承者としての身の上を持つ、空色の髪と瞳の少年の実力を観た
いという気持ちは、ディオスにもあった。

「今、居合わせている皆が、この余興を愉しんでいるようだし、
 この場で、すぐに手合わせを止める必要もないだろう。
 ダフネ、そのまま、エル・シオン殿のお相手を務めて差し上げろ」

先程、ディオスからの許可が、二人の手合わせの続行の条件であるといった趣旨の言葉を、シ
オンが述べていた所為で、その場に居合わせた全ての人々の視線を一瞬にして、受ける立場と
なっていたディオスは、エルから向けられた笑顔と、シオンからの言葉に乗せられたという気
がしないでもなかったが、ひとまず、手合いの続行をダフネに命じた。

「ディオス殿、ありがとう存じます!
 では、ダフネ殿、いや、ダフネ、再び手合わせを始めようか!」

エルは、ディオスから投げかけられたその言葉に、満面の笑みを浮かべながらそう言うと同時
に、自身の左手に握っていた片刃の長剣を、ダフネの方へと間合いを詰めることを敢えてせず
に、斜めに斬り上げるようにして一気に振るった。
それまで、この手合いの成り行きを言葉なく見守っていた周囲の女官や衛兵達からも、その瞬
間、再び感嘆の声があがった。

「……っ、承知いたしました! ……って、エル! 本当に容赦ないですね!」

エルが繰り出した一撃は、自身が振るった太刀筋が生み出す、斬り裂くような剣風を相手へと
叩きつける事を目途としたもので、そこから、自らの手合いの相手であるダフネの体勢をほん
の少し、崩すことを狙ったものだ。

ダフネは、エルが思っていた通りにそれをかわすと、一度、崩しかけたその体勢のまま、こち
らも、容赦なく相手に向けて大剣を振るう。
それを受けて、エルは自身の剣にかかってくる圧力を加減するために、その間合いを上手く計
りつつ、相手の剣を受け止めた。
それから、相手の剣を押し返すように力をかけると、目の前に対峙するダフネの紫炎の瞳へと
空色の瞳の視線をあわせて、ダフネを見つめながら、小声で言葉をかけつつ、微笑んだ。

「当然だろう。これから対等な立場での友人となる僕等なのだから。
 お互いに、本気でいこうじゃないか。
 こんなに力量が拮抗する相手となんか、滅多に手合わせ出来ないだろう?」

そう言い終えると同時に、エルは、相手の剣を弾くようにして、互いに剣を交わし合うことで
均衡を保っていた体勢を崩しながら、間合いをあけた。
そのエルの動きに合わせて、次の攻撃の機会を見逃すことなく、ダフネは目の前の相手へと、
素早い動作で一撃を繰り出していく。

予想していたタイミングよりも、少し早い時点で繰り出された相手の反撃を寸前のところで避
けたエルは、相手からの更なる攻撃を受け止めるために、息を整えながら、自分自身の構えを
立て直すと、相対するダフネの方へと一度、鋭い視線を送りながらも微笑む。

「ダフネ、君、本当にやるなぁ……こんなに楽しいのは久し振りだ!」
「そんな風に誉めていただけるとは、光栄ですね」

二人は、短く言葉を交わし合うと、先程よりも一層激しく、互いの剣を打ち込んでいく。
それは、この試合が始まる前に、彼らが親しげな様子で、互いに打ち解け合い、談笑している
かのようにさえ見えていた頃の様子を目にしていた為に、却って、こんなにも激しくぶつかり
合う二人を想像することが難しかった、女官や衛兵といった人々からすれば、周囲を圧倒させ
る程の雰囲気を持つものとなっていった。

また、相対するこの二人が、まるで真剣な果たし合いをしているかのようさえ、見えたかもし
れない。

そして、その光景は、それぞれが、対照的な印象を持つこの二人だからこそ、今、この場で立
ち合っている全ての人々の目に、世間一般でも行われている、ただの剣技の手合わせでしかな
い筈のものが、何かこの世ならざる光景であるかのような錯覚さえ、与えていた。

ダフネが持つ、紅と黒の色合いと、屈強な少年騎士としての印象と、エルの蒼と白の色い合い
と、その年頃の少年のみが持ち合せている、幾分華奢で流礼な雰囲気とは、全く相対する性質
ものだ。

互いの得物に至っても、どちらも、彼ら自身の身の丈からすると、若干不釣り合いなものを使
用している点では、同じだが、エルがその左手に持つ、相手を斬り殺すという目的を達するた
めの機能のみを残したまま、極限まで重量を削ぎ落した片刃の剣と、ダフネが右手に構えてい
る強靭ささえも、限界まで兼ね備えることを目途にした大剣といい、其処から生み出される剣
技の型を含めて全く異なる。

それでも、そんな相対する印象を持つ二人だからこそ、その場に居合わせた全ての人々に、こ
の二人が打ち合う剣技の組み合わせによって、まるで、ひとつの神聖な領域を創りだしている
かのような強い印象を与えていた。

ディオスは、互いに笑顔を見せながらも、真摯に剣の打ち合いに没頭していく二人の様子を大
きく表情を変えることなく、ただ、その場で眺めていた。
しかし、それを眺めているうちに、自身の心の内に、小さな痛みを伴うような感情が芽生えて
いたことに気付くと、そのことに、ほんの少だけ驚きながら、表情を変えた。

だが、その場で、それに気付いたのは、ディオス自身のほかには、シオンただ一人だけのよう
だった。
それは、あまり誉められた類の感情ではないが、大切にしたい誰か特別な存在を自身の心の内
に持つ者なら、誰にでも、身に覚えのある感情だったからだ。

今、この場で繰り広げられているこの手合わせは、ディオスやシオンのように、自身も高い剣
技を習得している者からすれば、互いの剣技を以って、全身全霊を賭けて打ち合っていくこと
で、 相対する者同士がその心の内を隠し事など何も無く明かしあい、なおかつ、互いの心を通
わせていく儀式を行っているようさえ、見えたのだ。
そんな複雑な胸中と、その痛みにも似た感覚を共有することが出来たのは、恐らく、この場に
おいては、シオンとディオスのただ、二人だけだった。

シオンは、だからこそ、そんな表情を見せていたディオスの方に、一度、振り向いて、僅かに
微笑むと、今、目の前で、繰り広げられていく、この打ち合いを、強く揺るぎない視線をもっ
て、言葉無く、ただ、見つめていた。
そのシオンの様子を目に留めたディオスも、同じように、ただ、黙したまま、二人手合わせの
行く末を見守っていた。

一方、激しく互いの剣の打ち合いを重ねていた当事者のうちの一人であるエルの方は、自身の
体力の限界の方が、今、対峙しているこの相手、ダフネよりも早く訪れることなどに思案を巡
らせ始めていた。

そうなのだ。
相対する相手とは、剣技そのものは、拮抗しているが、絶対的な体力と持久力ともなれば、ど
う考えても自分の方が不利だ。
この手合いは、長引けば長引く程、全くもって自分には不利なのだ。

そろそろ、潮時かな……互いの力がほぼ、拮抗しているから、本気でやれば、勝機はあるかも
しれないけど。
今回は、相手方の祝事の客人として、招かれているんだし、ここで勝っちゃう訳には、絶対に
いかないし、でも無様には退けないし……さて、どうやって引き退がるかな……。

「エル、甘いですよ! 何を考えてるのかは、知りませんが、思いっきり、隙が出来てますよ」

そんな風に、今、目の前で対峙しているダフネ以外の事に気を取られていたエルの隙を、自身
と同じように拮抗する力を持つダフネが見逃す筈もなく、その言葉とともに、より鋭さを増し
た一撃が、ダフネから繰り出された。
エルの方も、そうなる事はある程度、見越していたようで、その一撃を際どいところで避ける
と、無意識のうちに、もう一歩だけ、後ろへと退き下がった。

「って、うゎ、後ろっ!!」

次の瞬間、エルは、自身の足場が、この中庭に設えられた噴水の淵にあった事に気がつくと同
時に、大きく体勢を崩し、背後に在る噴水へと背中を向けた姿勢のまま、派手な水音を立てな
がら落ちた。

残されたダフネと、その場をずっと見守ってきた青年二人が、エルの様子に、それぞれの反応
を見せた後、それから僅かに遅れて、其処に居合わせた女官や衛兵達からも、声が上がった。
そして、そのまま、その場の誰もが、いや、正確には、シオン一人を残し、噴水の水場へと落
ちていったエルの身を案じて、言葉を無くしていた。
ただ、シオンも驚きと、ある種の諦めに似た気持ちから、言葉を無くしていたという意味では、
その場に居た誰一人、言葉を発する者は無く、一瞬の静寂が辺りを包んだ。

「……ぅ、ダフネ殿、ごめん……」

エルは、皆の視線を一身に集める中で、比較的水位の浅かった噴水の水場から自身の上半身を
ゆっくりと起こした。
その瞬間に、周囲の人々からも、一斉に、ほっとしたような安堵の声があがる。

彼の手元には、先程まで、使用していた剣はもう無い。
それは、そもそもエルが魔導力を以って、この場に呼び出していた物であったので、気が逸れ
た瞬間に、消失したのだろう。

そうして、エルは、水場に座った姿勢を保ったまま、一度、自分の額に右手をあてると、身体
の調子を確認するように、空色の瞳をほんの少しの間だけ、閉じた。
その後で、エルは改めて、ダフネの方へと向き直ると同時に、居合わせた全ての人々に向ける
ようにして、先程よりも、一層、華やかな表情で微笑みながら、この手合いの勝者が誰である
のかを知らせるために、宣言を述べる。

「ダフネ殿、本当に済まなかった。とりあえず、これで勝負あったね。
 勝者はダフネ殿だ。ダフネ殿、いや、ダフネ、お手合わせありがとう」

エルの宣言と同時に何処からともなく、周囲から歓声と拍手があがった。
どうやら、周囲には、エルが当初想定していたよりも、多くの観客が集まっていたようで、
その様子を見て取ったエルは、水辺に座ったまま、試合を見守ってきた人々の方へと、手の平
を向けるようにして、片手を顔の辺りにまで上げ、再び微笑みながら、拍手と歓声に応えた。

ダフネは、エルの立ち振舞いと、未だに自分達二人に視線を留めているままの周囲の人々の様
子などにも気を配りつつ、噴水の淵へと片膝をつくと、片方の手をエルの方へ差し出しながら、
目の前の相手へと騎士としての礼を踏まえた所作を以って、声をかける。

「エル、本当に申し訳ありませんでした。どうぞ、手をお貸しします」
「いや、こちらこそすまない。
 大丈夫だよ、それには及ばない……って、大丈夫……じゃないか」

手を差し伸べてくれたダフネの衣服を水に濡らすことなどせずに、出来れば、自分の力だけで
立ちあがるべきだと思ったエルは、ダフネからの申し出を断わりながら、再び身体を起こしか
けた瞬間、軽い眩暈を覚えた。

「シオン! 済まないが、手を貸してくれないか」

目の前に差し伸べられていた手を取って、引き上げてもらうだけでは、上手く起き上がること
が難しい可能性があると判断したエルは、ダフネの更に後ろの方で、先程から立ち位置を変え
ることなく、事の成り行きを見守っていた、その青年の方に向かって、声をかけた。

「判った」

エルにそう呼ばれたシオンは、まるで、こうなることを予測していたかのように、表情を大き
く変えることもなく、短く返事を返すと、そのまま、エルのいる噴水の方へと歩いていき、足
元を濡らすことも厭わず、水場へと入っていった。
そうして、シオンは、上半身を起こしたその姿勢のまま、こちら側を見上げるようにしていた
エルの傍へと片膝をつき、自らの腕で、幾分華奢でしなやかな線を描く、エルの身体を引き寄
せる。

「エル、大丈夫か?」
「う……済まないね。シオン……ありがとう」

優しく囁くような声で、自身の耳元で、そう声をかけられたエルは、その言葉の意図に従うよ
うにして、両腕をシオンの首筋へと添わせるようにして置きながら、相手の肩に摑まった。
それと同時に、シオンは、エルの身体を慣れた所作で抱きかかえながら、その場から立ちあが
った。

一連の所作があまりにも自然に行われた所為で、本来、エルを補佐するその役割は、彼の一番
近くにいた自分が引き受けるべきなのだということを、再度、申し出る機会がないまま、事の
成り行きを見守ることになってしまっていた、ダフネを目の前にして、シオンは、改めて軽く
微笑みながら言葉をかけた。

「ダフネ殿、私の友人が幾分礼を欠いた真似をして済まなかった。
 いつかまた、この私自身を含めて、本当の友人として付き合ってもらえるかな?」

先程と変らずその腕の中で抱きか抱えられたままでいたエルは、シオンの言葉に対して、敢え
て口を挟むことをせず、シオンと同じように穏やかかつ、真摯な眼差しをもって、ダフネの方
を見つめていた。
多分、彼自身にも言いたいことは、あったのだろうが、今、ここで自分が割って入れば、却っ
て面倒になると判断したのだろう。

「こちらこそ失礼をいたしました。
 お気持ち、有難く頂戴いたします。いつの日にか、また、友人としてお付き合いを」

ダフネは、目の前で相対するシオンとエルの気持ちを汲んで、騎士としての礼をもって応えた。
それを目に留めたシオンは、その場で立ち止ったまま、この場所から更に奥の方に位置する所
で、それまでの三人の遣り取りを言葉なく、見守っていたディオスの方へと視線を移した。
そうして、そのまま、ディオスに対しても、改めて詫びる言葉を述べる。

「ディオス殿にも、心よりのお詫びを申し上げる。
 我が友人の礼を欠いた振舞いをご容赦願いたい」

「いや、大事ない、貴殿が気になさる程の事は何も無い。
 それよりも、我が臣下の為に、このような機会を与えてくださったことに、御礼申し上げる。
 また、貴殿のご友人も、ご自身の体調をご自愛召されよ。
 後程の式典にて、またお会いできることを楽しみにしております」

ディオスは、シオンが発した、短い言葉の意図するところから、エルに対する彼の心の内を想
うと、自身にも多少は身に覚えのある、その感情を思い起こしていた。
それでも、ディオスは、表面上は普段と変わらない、当たり障りのない笑顔で、シオンに対し
て、儀礼的な返事を返した。

一方、シオンの腕で、抱きかかえられたままのエルは、シオンの肩へと廻していた掌に一瞬、
強く力込めた。
だが、エルは、それ以上、その場で、身動きひとつすることなく、敢えて一言も発言せずに、
二人の遣り取りが終わるのを、ただ、待っていた。

「その御心づかいに心からの感謝を。では、また後程」 

シオンは、ディオスからの返事を受けて、自身の意図するところが伝わっていたことを確信す
ると、先程よりも大きく微笑みを返した。
それから、此処に居合わせた、ほかの誰が見ても、今、この一瞬だけは、彼にとって、 唯一の
愛しい存在を抱きしめているのだということが、わざと解るような所作を以って、エルのこと
を強くかき抱くように、抱え直してから、その場から立ち去っていった。

ディオスも立ち去る二人の様子を目にして軽く微笑むと、それ以上は何も言わずにその場から
背を向けて立ち去っていく。
そして、ダフネもディオスと同じように、二人が去っていく様を見届けると、ディオスに付き
従うようにして、その場を離れた。

その後には、つい先程まで、ある意味、緊張感に満ちた、この遣り取りまでも含めて、見守る
ことになってしまった女官や衛兵達だけがとり残された。
ただ、中庭の噴水だけは、もう既に、普段と変わらぬ水音による涼しさと、静寂のみをこの場
所へと届けるようになっていた。

【END】

お付き合いいだだき、ありがとうございました。
結局、あんまり予定どおりにいかなったという気もするのですが、
硬派な二人と以外と軟派な二人のそれぞれの対比と、
お互いがお互いの良い所を取り入れつつ、やり取りを繰り広げて欲しいな-
という目論みの基で書きました。
SSには書ききれなかったのですが、
このエピソード後の各ペアでのやり取りなんかも想像していただければ幸いですw

※wiki収録後に、一部修正を加えました。
※続きは、創作してもらうスレ 1-125

※以下、wiki掲示板「創作してもらうスレ」より

143 :本スレ710:2011/08/13(土) 03:09:32

続編(創作してもらうスレ 1-125)の投下、本当にありがとうございました!
姐さんのお子達の絆の深さと思慮深さに当てられまくりで、こんなに萌えたのは久しぶり!
という位、萌えました-!!

以下、
お書きいただきましたSS(本スレ1-510様による本作の続き:創作してもらうスレ 1-125
の感想兼、当初SS(創作してもらうスレ 1-090)のシナリオ設定の補足?です
少し長くて申し訳ないのですが、よろしかったらどうぞ

 ・ダフネ様、ディオス様のこと
 今回、二人の絆の強さが本当に素敵で、また惚れ直してしまいましたw
 私のSSの中では、お二人には、エルとシオンにないものを持つ二人としての役回りに
 立っていただいています。

 実は、エルとシオンは、その立場上、お二人程、共に過ごす機会はないので、互いに
 強く導き合い、自分達が望む関係性と、その立場を確固たるものにしつつあるお二人
 のことを羨ましく思い、ある意味、眩しい存在として認識してたりします。

 が、そのために、自分達よりも、かなり多くの犠牲を払っていることも理解している
 ので、(政略結婚とか、自分の想いを立場上、殆ど表すことさえも叶わないとか…)
 彼らもまた、ダフネ様、ディオス様に複雑な想いを感じている…というのが行動の
 ベースです。

 ・エルのこと
 ここで白状しちゃうと、彼は表面上、素直な良い子に見えますが、少々複雑な背景の
 ある子で、ダフネ様と同じく、必要があれば笑顔のまま、平気で人を殺せる子です

 おまけに、皇太子として常に人に視られるということを意識しているので、作り笑顔
 なんかも、無意識かつ、ごく自然に近い形で平気でやってのけてます

 なので、彼は、実は、公の場では、ある程度、自身の元々の容姿の特性が持つ印象も
 意識した上で、常にその場の状況に合わせて最も効果的に映る笑顔とか、表情を作っ
 てたりします

 周りから愛されて育っているので、根は素直ですが、結構、腹黒いw
 という感じの一面を持つ子なので、

 ダフネ様にも、ディオス様にも、ある意味、すごく親近感を持っているし、
 自身の想いに冷酷かつ忠実に対峙していくという姿勢は、彼自身も同じなので、
 お二人のことを物騒な思想を持っている類の人だとかは、全く思っていないです
 うん、むしろ、同じような立場に在る方として、敬意を払うべき相手だと思っている
 かな…という感じの思考の基に行動してます

 ・シオンのこと
 彼もまた、エルとは生い立ちが違いますが、割と平気で人も殺しますし、色々思考を
 重ねて行動するタイプなので、腹黒い部分も多分にある人ですw
 彼には、エルのように、愛されて育った人が持つ素直さみたいなものは無いんですが、
 心根の優しさみたいな部分が芯にあるので、そこにエルが惹かれてたりします

 エルと違うのは、ダフネ様、ディオス様の硬派で互いに素直になりきれない部分が、
 微笑ましいと感じていて、二人とも、もう少し素直になったら良いんじゃないの?
 という思いと、それ故に、お二人を少々煽りたいという意識が行動の軸になってます

 あと、お二人の硬い絆を目の前にして、お二人とは違う意味も含めて、相手の事を
 想うあまりに、実は、エルに想いを伝えきれていない自分を実感させられていて、
 複雑な気分になってたりもしてます。

うちの子の想いがこんな感じなので、今回、姐さんがSSに書いてくださった
ダフネ様、ディオス様のうちの子への想いが正にビンゴ!!
(この二組、やっぱり、互いに、同じようなことを考えてるよ!!)

という感じで、すごく萌えました!!
おまけに、エルが傍から解る位に、幼さが残るような形でシオンに甘えてるように
見えるんだなぁ…というのが、私にとっては、結構、新鮮で、新たな二人の側面が
垣間見えたような気がしてますw

以上、長々と失礼いたしました
また、本スレ1-510姐さん、素敵なSSを投下してくださって、本当にありがとうございました!


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最終更新:2012年09月06日 20:27