Top > 創作してもらうスレまとめ 1 > 1-194 「-EGOTISM-生命の意味-」

「-EGOTISM-生命の意味-」


作者:本スレ 1-710様

194 :-EGOTISM-生命の意味-:2011/11/03(木) 18:14:18

本スレ1-710です。
さて、設定スレにて告知していた、うちの子(wiki設定スレ1-036)のSSが
仕上がりましたので、投下します

以下、属性等の告知です
 ・そんな描写はあんまり出てこないけど、現代風ファンタジー(獣人変化もの)
 ・青年×少年(エイシア×シルヴィア)です
 ・ヤンデレな理由を書いたら、結構シリアスな展開になったよ!
 ・残酷描写少々、エロ成分微小
こんな感じですがよろしかったらどうぞ


195 :-EGOTISM-生命の意味-:2011/11/03(木) 18:16:38

冴え冴えとした蒼い月の光の中で、彼は袖を肘の辺りまで捲りあげていた自身の左腕から
滴り落ちる紅い血を掬い取るように舐め取って、微笑んだ。
その端正な面ざしには、今も彼が冷酷な心境にあるのだろうということが見て取れる怜悧
な表情が浮かぶ。

そうした何気ない表情や仕草が、短く整えられた白銀の髪に鋭く光るアイスブルーの瞳を
持つ冷たい印象をもたたえた美青年といった風貌の彼と、彼自身が身を置くこの場所の印
象をより一層、苛烈なものに変えていた。
それは、見ている者の背筋に寒気がはしるかのような、何か本能的な危険を意識させるよ
うな類のものだ。

彼は、何処かの軍属の兵士が着込む戦闘服のようにも見て取れる服装と多分、これもその
服に合わせて揃えられたのであろう、デザートブーツの様な靴を履き込み、オフホワイト
とサンドベージュの淡い色彩で纏めた出で立ちに身を包んでいた。
それは、しなやかな均整のとれた体型をしている彼をより美しく見せるように、恐らくは、
わざわざ彼の為だけに誂えられたものだろう。

その衣服と、それに合わせた淡い色合いの手袋を、腕から流れ落ちる正に深紅と表現する
に合い相応しい色の血液で、数か所にわたり染めた姿のままで、青年は、この場所に立っ
ていたのだ。

青年は、その場に立ちつくしたまま、自らの左腕に流れる血を拭うことを一旦、止めた。
彼は、少年らしさをほんの少しだけ残す面差しを上げると、頭上に輝く蒼い月を仰ぎ見る
ようにして、怜悧な輝きを放つアイスブルーの瞳で濃紺の夜空を見つめていた。

そうして、暫くの間、蒼く冷たい光を放つ月と周り暗闇を鋭い眼差しをもって眺めた後で、
彼は瞳をゆっくりと閉じる。
それから、暫くの間、彼は一言も声を発すること無く、彼はこの場所に、そのまま立って
いた。

そんな青年のことを先程から、ほんの少しだけ離れた場所から声も無く、ただ黙って見つ
めていた艶やかな黒髪の少年は、今ようやく、目の前の惨状を理解しはじめていた。

少年自身がそのサファイアブルーの瞳の視線を再びゆっくりと、周りの景色へと移してい
けば、今もこの場所に在る、凄惨な光景が改めて実感を伴うような感覚をもって、その目
に映る。

其処には、大量の血を流しながら、事切れている人型の「それ」が、十数体程、横たわっ
ていた。
あるものは首を撥ねられ、あるものは腹部を引き裂かれながら、倒れ込むようにして横た
わっているそれらは、どれも、この目の前の青年の手元から繰り出された能力によって、
一撃で仕留められたものだろう。
それは、少年が先程、この惨状を目にした瞬間に、もう既に理解していた事だ。

「エイシア」

少年は、それを再び理解した途端に、つい先程まで、この状況下で、自身の腕から零れ落
ちる血液を舐め取り、恍惚としているかのような表情さえ垣間見せていた、その青年の姿
を改めて目に留めると、震える小さな声で、彼の名を呼んだ。

その小さな声に呼応するように、青年の肩が僅かに震え、反応を返す。
それから、ややあって、青年は、その場所に留まったままで、少年と真正面から向き合う
ように振り向いた。

振り向いた青年は、先程とは全く異なる遣り切れない程の深い悲しみを湛えた表情を見せ
ながらも、未だに残る気高さと気丈さをもって、微笑んでいた。
それは、まるで、何時かこんな時が来ることを、予見していた上での立ち振舞いのように
も見えた。

「ごめんね」

自らがエイシアと呼んだ青年が、なんとも複雑な心境にあることが見てとれる表情を残し、
小さな声で呟くように、そう言った瞬間、少年は彼の許へと駆け出していた。
その少年の動作は、並みの人間とは、比べものにならない程に早い。
彼は、目の前に拡がる紅い血の海と、その場に横たわる数々の遺体を、軽々とした跳躍で
音も無く、一瞬にして飛び越えていく。

そうして、少年は、その先に佇むようにして立っていた青年の方へと、躊躇いを全く見せ
ることなく近づいていき、相手の右腕を掴み、彼の身体を自分の方に強く引き寄せた。
その所為で、青年は予期せぬ形で、目の前の自分よりも若干背が低く、華奢な少年に強く
抱きしめられるような格好となった。

「エイシア、嫌だよ、何処にも行かないでよ」

突然の言葉と行動に驚きながら、エイシアは自分の事を抱き留めてくれた少年の背中に、
手傷を負っていた自身の左手をそっと添えると、華奢な少年の身体を抱き返していた。
それから、掴まれていた右腕を軽く捻り、相手の腕をゆっくりと振りほどくと、両腕で強
く少年の身体を抱きすくめながら、自らの両腕の中の存在を確認するようにして、彼の名
を呼んだ。

「シルヴィア」

エイシアのその声に、シルヴィアは、自分を抱きしめる青年の身体を強く抱き返すように
することで応えた。
今、目の前のこの青年に、これ以上、どんな風に声をかけて良いか解らなかったからだ。

「エイシア……本当にごめん……」

青年の腕の中で、シルヴィアは、遣り切れない想いを抱えながら、小さな声でそう言った。
自分にとって、とても大切な存在であるこの青年が、自らの肩代わりをして、この役割を
引き受けたのだということは、もう、痛いほどに解っている。
同胞を屠る事を躊躇っていた自分の所為で、目の前のこの青年が全てを引き受けたのだか
ら。

しかも、「君は見なくていい」とまで言ってくれていた、エイシアからの配慮さえも、結局、
彼のことを後から追っていった、自分の中途半端な気持ちが、全てを無駄にさせた。

自分達は、魔獣と呼ばれる生物兵器なのだ。
人ならざる圧倒的な殺傷能力と、エイシアは純白の豹に、自分自身は、黒い狼へと姿を変え
る能力を備える半獣の人工生命体でしかない。

それに、自分達は、その成長過程の大半を人工培養槽で成育される事もなく、それなりの
年数と手間をかけて育てられた。
他人から言わせると、それだけでも希少価値が高いとされる、最新型の試作版だ。

だから、この手を血で染めずに、ずっと平穏に過ごせる筈などないのに。
自分の頭の片隅には、ずっと、誰かの命を手にかける事なく、この領域を切り抜ける事な
ど叶わないのだという認識があった筈だ。

それなのに、エイシアに殺傷行為の全てを任せた自分を許すことなど出来はしない。
それに、今は、ほかの誰かの命を屠る事よりも、自分の前からエイシアが居なくなること
の方が怖い。そんなのは、絶対に嫌だ。

そんなシルヴィアの想いは、彼の背中へと伝わってきた、生温かい、深紅の液体の感触に
よって、一瞬にして遮られる。

「……っ! エイシア、腕!」
「大丈夫だから」

シルヴィアは、自らの白い衣服の背中に、エイシアの左腕から流れ続けていた血の感触を
改めて感じ取った瞬間、涙に濡れた自らの面差しを青年の方へと即座に向けた。
目の前の少年の言葉にエイシアは、穏やかな口調で短く返事を返しながら、シルヴィアを
抱きすくめる腕の力を強めた。

今は、まだ、この少年の身体を放したくはなかったからだ。
先程、左腕に負った傷は熱をもって痛み、指先の感覚は無いに等しかったが、今のエイシ
アには、そんなことは、全くといって良い程、気ならなかった。

自分のこんな姿を見咎められたら、恐らくは失う事になるだろうと思っていた、目の前の
相手が自らの名を呼び、自分のことを抱き留めてくれたのだ。
その事実を確認できる腕の中の温もりをまだ手放したくはない。

それに、もうじき、少なくとも、ウィルがこの場に来るだろう。
これ程の殺気と血の薫りを帯びた気配を漂わせたのだから、自分と同等の、正確にはそれ
以上の能力を持つアルやウィルが気付かない筈がない。
ただ、シルヴィアと比べれば、それなりの耐性はあるにしても、自分やウィルと比べると、
やはり、こうした殺傷沙汰への免疫の無いアルを伴って来るかどうかまでは、解らない。

どちらにしろ、この場を自分1人で切り抜けられると思っていたのは、全くの判断ミスだ。
今回の戦闘は、制御不能となった従来型魔獣の掃討作戦のうち、初歩的な能力試験を兼ね
ているものだとはいえ、相手を少し甘く見すぎていたようだ。

自分は、精神の均衡を崩して他の生命を片端から襲うようになった、彼らの息の根を止め
ることや、他の生命を屠ることに対して、精神的な苦痛や相手への憐憫など、微塵も感じ
ない。

けれど、シルヴィアやアルは違う。
どんな奴らの息の根を止めるにしろ、相手の事も思い遣り、その心を痛める。
だからこそ、こんな酷い光景や平然とした顔で相手を殺す自分の姿など、見せたくはなか
った。

それは、こんな風に普段と変わらぬ顔で、平然と人を殺せる自分自身の事など、目の前の
この純真な存在が受け入れてくれる筈など無いと思っていたからだ。ただ、その一言に尽
きるのかもしれない。

我ながら、身勝手が過ぎるな。
そんな事を思いながら、エイシアは、自分の事を見つめていた少年の方へと改めて視線を
向けた。

「シルヴィア、本当に済まなかった。俺は大丈夫だから」
「大丈夫じゃないだろう! もう、君一人にこんな事、させたくないよ!」
「シルヴィア?」
「ごめん、本当にごめん……」

シルヴィアは、自らのサファイアブルーの瞳から零れ落ちる涙を止めることが出来なくな
ったかのように、エイシアの肩に添えていた自分の掌の力を一層強くして、肩を震わせな
がら泣いていた。
堰をきったように溢れる涙に咽びながらも、想い遣りに満ちた気持ちを伝えようとするシ
ルヴィアの声に、エイシアは、何ともいえない、今までに感じた事の無い気持ちになった。

こんなにも血に塗れたこの風景の中で、今、自分の心の中に満ちていくその感情は、この
場には、相応しくない、酷く温かく、優しく、切ないものだ。

左腕に負った傷からも、未だに少量の血が流れ続けていたが、その痛みさえも、遥かに凌
ぐ、熱く迸るような感情が、自分自身の内側に生じていることをエイシアは改めて実感し
ていた。
今、この場においては、似つかわしくない、その感情を押さえながら、エイシアは、目の
前の少年の背中に優しく手を添えたまま、再び声をかけた。

「シルヴィア」
「エイシアのこと、好きなんだ。失いたくない」

小さな声に応じるように、エイシアはシルヴィアの背中に廻していた右手を、相手の柔ら
かな黒髪へと添えた。
そうして、エイシアは、自分自身が抱き始めた感情に逆らう事なく、目の前の相手をほん
の少し自分の方へと引き寄せると、大切な存在への気持ちを確認するように、そっと口付
ける。

シルヴィアの唇から伝わる柔らかな温もりと、自分の熱く激しい想いだけが、今、この瞬
間、自分自身が生きている全ての理由のようにさえ、エイシアには思えた。

【END】

今回も台詞まわしが難しかったよ!
結局、シリアス展開ばかりですみません…
次はイチャコラで行きます!

※wiki収録後に、一部修正を加えました。
※同シリーズのSSは創作してもらうスレ 1-172
※続きは、創作してもらうスレ 1-212


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年09月04日 16:19