「-SPES-希い-」
作者:本スレ 1-710様
432 :-SPES-希い-:2012/07/22(日) 20:43:51
今晩は、
本スレ1-710です
さて、
うちの子(創作してもらうスレ 1-110) のSSを書き上げましたので投下します
以下、属性等の告知です
・そんな描写は充分にはないけど、一応、異世界ハイファンタジー
・エロなし、少年×少年(メサイア×アルシエル)で、ちょい短めのストーリーです
・馴れ染め話(?) なので、二人の年齢が12歳×10歳ですw
・だがしかし! 幼くて可愛らしい雰囲気は全くといって良い程ありませんw
・二人の精神年齢は、実年齢プラス4歳位だと思っていただけると幸いですw
・そして、今後、設定変更の可能性ありw
こんな感じですがよろしかったらどうぞ
433 :-SPES-希い-:2012/07/22(日) 20:46:25
「メサイア、お前は私の手駒の一つでしかないのだという事を肝に銘じておけ」
「父上、その事は我が身命に刻んで心得ております。
私には、ただ、貴方様の有益な手駒である事以外の存在価値など無いと」
白大理石で創られた列柱の立ち並ぶ白亜の神殿の廊下を足早に歩きながら、金色の長く緩
やかに波打つ髪と、透きとおるような碧眼を持つ見目麗しい少年は、自らの面差しに浮か
ぶ影を不意に強くした。
不本意にも、今朝方、自らの実の父親と遣り取りを交わした際のそんな言葉を思い出した
からだ。
自らの実の父親からも、そうした言葉を投げ掛けられる。
その事自体はもう、解りきっていた事だし、それで自分自身の心が痛む事など、もう無い
と思っていたのに。
どうやら、実際はそれとは異なるようだ。
どんなにそれを望んでも、自分には、得る事など出来はしないのに。
それなのに、未だに未練があるらしい。
父と母の双方が望まぬ婚姻を交わした結果として生まれた自分が、その当人達から純粋に
愛される事など、もう、ありはしないのに。
そんな事を考えながら歩いていたから。
その先の建物へと続く列柱の陰で、大理石の柱に背を預けるようにして寄りかかり、俯き
涙を零していた、藍色の髪と瞳を持つ少年の気配にも、今、彼のすぐ傍を通りかかる直前
になるまで、気付かなかったのだ。
小さな少年の哀しみに満ちた気配に気付いた瞬間、金髪碧眼の秀麗な容姿の少年は、自ら
の視線の先に、列柱の向こう側で、たった一人で佇む藍色の髪と瞳を持つ少年の姿を改め
て捉えた。
「アルシエル」
金髪碧眼の少年は、それと同時に、まるで独り言を口にしているかのように、無意識のう
ちに、藍色の髪と瞳を持つ少年の名前を小さな声で呼んでいた。
緩やかに波打つ金髪と碧眼を持つ秀麗な容姿の少年から、自らの名を呼ばれた8、9歳の
年頃と思われる藍色の髪の少年は、驚いたように、その相手の方へと振り向く。
少年がそうした所作を行った瞬間に、彼のくせが少なくて、深い藍色の色合いを持つ、絹
糸のような長い髪がさらりと流れように揺れる。
彼の髪は、その長さ故か、後頭部の後ろの少し高めの位置で一束に結われていた。
また、藍色の髪の少年は、彼自身の若干愛らしさの残る面差しと相まって、まるで、少女
のようにも見える。
その面差しには、自らの名を呼ばれた事への驚きの表情だけが見て取れた。
無理も無い。
恐らくは、自らが、全く知らない相手から呼びとめられれば誰だって、そんな反応を返す。
金髪碧眼の流礼な容姿の少年は、相手から返されたそんな反応を目に留めながら、度重な
る自分の不手際に小さく溜息をついた。
「メサイア、様」
藍色の髪と瞳の少年は、未だに涙の跡が残る面差しを此方に向けたまま、その場に立ちつ
くし、自らの事を不意に呼び止めた、自分よりも若干、年上の流礼な容姿の少年の事を見
ていた。
彼が自分の事を知らない、と思っていた事についても、此方側の思慮が足りない、としか
言いようがない。メサイアは、そんな事を思いながら、相手へと言葉をかけた。
「失礼、呼びとめてしまって、申し訳ない事をした。
アルシエル殿、だね。貴方の事は、エルから、エル・シオン殿から良く聞いているよ」
「あっ! いえ! こちらこそ失礼をいたしました。
僕も、義兄上様から……いえ、エル・シオン様から、貴方様の事を伺っておりました。
お目にかかれて光栄に存じます」
深い藍色の瞳と髪の少年は、まだ目元に残る涙を自らの手で拭いながら、精一杯の笑顔を
作ってそう言った。
「ところで、こんな場所で何を……?」
儀礼的な挨拶を交わし合った後で、二人は、ほぼ同時に、そんな言葉を口にしていた。
それを受けて、全く同じ頃合いと言って良い程の間合いで、二人は、ほんの一瞬だけ、互
いの面ざしに浮かぶ微笑みを強めた。
「あ、僕の方は、また少し、失敗をしてしまって。それで、その……」
だが、相手のそんな表情を目にした直後に、藍色の瞳の少年の方は、まるで、自らが涙を
零していた理由を押し隠そうとするかのように、言葉を続ける。
彼がこの場で、本心を述べる事が出来ない状況にあるのだろうという事は、その表情から
も解った。それでも、彼は幼さ故に、そうした感情を隠し切る事が出来なかったのだろう。
まあ、そういう自分の方も、12歳という年頃なので、自分自身の感情を抑え切れている
とは言い難いのだろうが。
メサイアは、そんな少年の表情を気に留めながら、目の前のアルシエルという名の少年の
語尾が途切れがちになっていた言葉を、わざと途中で遮るようにして、声を掛けた。
「私の方はね、父の名代としての遣いの役目を終えて、今、帰るところだったんだ。
折角、此処で君に会ったんだ。
私で良ければ、エル・シオン殿に、何か言伝を伝えようか?」
「えっ……あ……」
藍色の瞳の少年は、メサイアから不意に述べられた言葉に声を詰まらせた。
目の前の、自分より少し年上のこの少年が、此方側の身の上の事を充分に念頭に入れて、
そうした声を掛けてくれた事に驚くと同時に、その厚意がとても嬉しかったからだ。
そうなのだ、自分は、もう、8つの頃からずっと、この神殿に身を置いていて、大好きな
義兄であるエルにも、自分自身の実父とも、数える程しか会っていない。
今、現時点に於いても、自分自身が、最上位の守護聖霊と契約を結び、その契約を以て
得た力の全てを、自らと誓いを立てた守護騎士へと渡す役割を果たす神子と成るべく、
この神殿に身を寄せているのだから。それは当然といえば当然の事なのだが。
それでも、藍色の髪と瞳という目立つ容姿に加えて、本来よりも遅い年齢から、この神殿
に身を寄せる事になった自分に、居場所など、無かった。
つい先程も、自分と同じ年頃の少年に「アルシエル自身が、母の出自も知れぬ卑しき不貞
の子なのだから、聖なる神子になれる筈などない」と辛辣な言葉を投げ掛けられたばかり
だった。
「あ……義兄上に……違っ……
エル・シオン様に、元気でやっているから、と伝えてもらえますか?」
「解った。伝えるよ。だからもう泣くな。
私もまた、何かの折に此処に来た時には、必ず君の許を訪れる事にしよう。
それに、エル・シオン殿も来年には守護騎士に成るのだから。
そうしたら、誰よりも真っ先に、君に逢いに行くんだと、言っていたよ」
自分よりも小さく、華奢な印象を持つ目の前の少年が、彼の義兄である淡い空色の髪と
瞳を持つ少年――エルへの気遣いに満ちた言葉を告げながら、再び藍色の瞳から堪え切れ
ずに涙を零し始めた、その瞬間にメサイアは、彼を抱きしめていた。
そうせずには、いられなかったのだ。
彼が、この場所で唯一人で、闘っているのだという事が、メサイア自身にも、痛い程に解
っていたから。
メサイアは、自分自身の腕の中の華奢な身体付きの少年が、小さな声で礼を述べながら、
必死になって涙を堪え、その面差しを再び上げるまでの僅かな間、彼の事を抱き留めてい
た。
【END】
お付き合いいだだき、ありがとうございました!
またもや、厨設定の一端を少々お披露目する事になりましたが、書いていて楽しかったよ!
きっかけを作ってくださった、1-200姐さん、本当にありがとうございました!
そしてこれからも、どうぞよろしくお願いします!
最終更新:2012年09月05日 10:19