「occultation」
作者:本スレ 1-200様
54 :occultation:2013/01/07(月) 03:43:58
1-200です。皆様あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
お恥ずかしながら初SSを投下してみたいと思います。
以下注意事項
※
オリキャラまとめ1-200のキャラ、アレス×ルーシェ、ルーシェ視点
※世界観は剣と魔法のベタファンタジー、でも戦闘とか無しでグズグズしてるだけ
※
1-710様のキャラ(異世界ファンタジー版)と勝手にクロス(会話に出てくるだけですが)
※こちらが勝手に作った設定(
設定スレ 2-014)も夢話として入ってます
※1-710様の設定と違ってる所もあるかもしれません
※ルーシェの一人称が変化していますが間違いではないです
※エロは無し
正月テンションで深く考えずに思いつきで書いてます。時系列とか、
どこまでいってる関係なのかとかあんま考えないで下さいw次からですどうぞ
55 :occultation:2013/01/07(月) 03:47:49
叫ぼうとしたけれど声にはならなかった。掠れた息が漏れただけだった。
その音と、墜落するような感覚と共に、世界が暗転した。
――大口を開けたまま、僕はベッドの上にいた。
紫色の瞳だけをゆっくりと動かす。見慣れない天井。状況が飲み込めない。
耳障りな音がする。雨か、軍隊の足音か――違った。自分の心臓の音だった。
首筋にまとわりつく不快さに、無意識に寝間着を引っ張る。生暖かく濡れている。
ずっと口を開けていたのだろうか、喉までカラカラに乾いている。
唾を飲み込むと、やっと意識もこちらの世界に戻ってきた。
ここはアレスの家だった。
世界各地にアレスが所有する隠れ家のひとつ。家主の姿は――見えなかった。
眠る前は確かにそこに居たというのに。きっとまたどこかへフラリと出かけたのだろう。
体を起こし、カーテンを少しだけめくる。外はまだ暗い。
標高が高いせいか、地上では春の花が咲き始める季節だというのにここでは雪が降っていた。
大した量ではない、朝には多分止むだろう。
ゆっくりとベッドから出る。毛布をめくると、シーツも汗でぐっしょりと濡れている。
交換したいが、代えがどこにあるのか分からない。仕方が無い、放っておけば乾くだろう。
質素な部屋には不似合いな、凝った葡萄唐草の水差しからグラスに水を注いで飲む。
嫌な夢だった。
目が覚めた瞬間に内容は忘れてしまったのに、やり切れない怒りと悲しさだけが鮮烈に残った。
頭が重い。目に見えない程細い針金が、左右のこめかみを一直線に貫いている。そんな感じがする。
少しづつ記憶を手繰ってみる。このまま忘れてしまうわけにはいかない、そんな気にさせる夢だった。
色々な人が出てきた気がする。罪の無い人が沢山死んだような気がする。いや、殺したような気がする。
眩暈がし、吐き気が襲ってきた。
アレスもいた。アレスは夢の中でも逞しく、強く、美しかった。
何者をも恐れないあの目で、誰かを――僕ではない他の誰かを追っていた。
目にした瞬間、己の醜さを恥じずにはいられない程の、輝くように美しい人だった。
その人の顔にはどこかで見覚えがあった。夢の中でもそう思ったが思い出せない。
そして僕は、誰かのまがいものだった。コピーですらない、表面をなぞっただけの出来損ない。
どうしようもなく惨めで哀れな、皮膚病の野良犬みたいな存在だった。
誰も僕を見ていなかった。まるでゴミ溜めのように、人々は鬱積した様々な感情を僕に向かって吐き出し、
早くなくなればいいのにという目で眺めた。
夢の中の僕は、それを拒否する力すら無かった。
力の無い者にものを言う権利などない、それが夢の世界の掟だった。
それでも、そんな世界にも、力無き者の声に耳を傾けようとしてくれた存在はあった気がする。
夢の中の僕はその人を憎み、憧れていた。誰だっけ?やはり思い出せない。
汗が乾いて冷えてくる。
嫌な夢だった。でも本当にただの夢だったのだろうか?
夢にしては具体的すぎた。イメージが鮮烈すぎた。誰かと話して、自分が現実に居る事を確認したかった。
ここは静かすぎて現実感が薄い。世界から隔離されているような気がする。
アレスはどこへ行ったのだろう?彼の行きそうな場所…見当もつかない。
僕はアレスの事をほとんど知らない。
いつ生まれたのか。家族はいるのか。なぜ人間の街で暮らしているのか。
ダグラスさん達の他にはどんな仲間がいるのか。過去にはどんな事があったのか。愛した人はいたのか。
当然いただろう。詳しくは知らないが、人間の暦なら100年近くは生きているという話なのだから。
あの夢のせいか、思考が明るい方向へと向かない。
彼はなぜ僕などを追いかけたのだろう?無力でちっぽけな僕なんかを。
最初はからかわれているのだと思っていた。飽きれば去っていくと思っていた。
でも彼は何度も僕を助けてくれたし、時には命すら危険に晒した。
戯れや情けでそんな事をする人では無い。
けれど、やっぱり分からない。
僕などよりずっと強くて、彼と背中合わせで戦える人。彼と同じ時を生きられる人。
そんな人は彼の周りに沢山いるはずだ。美しい女だって沢山いるだろう。
なぜよりにもよって男の身である自分を選んだのだろう?
メサイア。唐突に、夢の中でアレスが必死で追いかけていた人の名前を思い出した。
そうだ、あの人は――確か以前、街の名前すら覚えていないけど、道端で会った事のあるあの人だ。
あんなに美しい人を見たのは初めてだった。故郷の大聖堂のフレスコ画にある天使のようだった。
自分とは全く次元の違う存在なのだと思った。
夢の中の彼はやはりとてつもなく大きな存在で、アレスは一目で彼に魂を奪われた。
僕の存在など、彼の前では塵のようなものだった。
アレスはあの時また会おうと言っていた。本当にあの人と会っただろうか?僕の知らない所で。
わけの分からない不安に駆られて、寝間着のまま外へ出た。
雪はさっきより少し強くなっている。
石造りの小さな家の裏手には天然の温泉が湧いていて、いつでも湯浴みできるようになっている。
傷にもいいらしい。彼がここを隠れ家にした理由のひとつがこれだ。
そこにもアレスの姿は無い。
周囲は切り立った崖に囲まれていて、彼のように翼でも無い限り自力で下へ降りるのは難しい。
モンスターよけの結界基石を踏まないように気をつけながら周囲を周る。
視界の端に、ぼんやりとしたオレンジ色の光が映った。振り仰ぐと、屋根の上にアレスが佇んでいる。
腕を組み、不思議そうな顔でこちらを見下ろしている。
オレンジ色の光は使い魔だった。彼は使い魔を二匹飼っている。仲間と連絡をとっていたのだろう。
「どうしたの?そんな格好じゃ風邪引いちゃうよ?」
猫のようにしなやかな動作で屋根から飛び降りて、自分が羽織っていたファー付きマントを僕の肩にかけてくれる。
ずっしりと重い。彼が身に付けるものはどれもとても高価なものだ。
「変な夢でも見た?随分汗をかいたみたいだけど」
「なんでもありません。そうですね、汗をかいたし、冷えてしまったので、ちょっと湯浴みをしてきます」
熱い温泉に浸かっていると、次第に現実感が戻ってくる。頭を貫いていた異物感が消える。
アレスはちゃんと居てくれた。あれはただの夢なのだ。怯える必要は無い。
もし仮に、ただの夢ではなく…どこか違う時代、違う世界と繋がる暗示なのだとしたら――
「お邪魔するよー、僕も冷えちゃった」
「…もう少し静かに入ってきて下さい、鼻に入ったじゃないですか!」
「お、もうすぐ夜明けだね。こうやって二人で朝風呂もいいよねー」
「…何見てるんです?」
「いやーやっぱり君はキレイだなーと思って」
「……。
綺麗な人なんていくらでも見てきたでしょう貴方は。例えば……いつか会ったあの…メサイアさんとか」
「メサイア…?あー彼ね。確かに綺麗だね。僕が見た中では一番美人だった。神々しくさえあったね。
でもなんでいきなり彼が出てくんの?」
「………別に、ちょっと思い出しただけです」
「あと彼と一緒にいたあの子、エルも綺麗だったね。ちょっとまだヤンチャ坊主な雰囲気だったけど。
もう少し大人になったら化けるだろうねあれは」
「そうですね」
「エルはさ、なんとなく雰囲気が君と似てたよね」
「?…そうでしょうか?顔も性格も全く違うと思いますが…。それに…
あちらにしてみたらそれは不本意なんじゃないでしょうか」
「不本意?君と似てると言われるのが?
まあ確かに君とは合わなそうな感じだよね。でもなんていうか、上手い言葉が見つからないけど、
なんか兄弟みたいだなと思ったんだよ、僕はあの時」
「髪型が似てるからじゃないですか」
「ま、そうかもね。
でもさ、確かに美人はいっぱい見てきたけど、僕にとってはやっぱり君が一番だよ^^」
「なに無理矢理まとめてるんですか…。上がりましょうか、そろそろ」
もしあれがただの夢ではなく、どこか違う時代、違う世界と繋がる暗示なのだとしても。
この世界の私は、誰かのまがいものではない。自分で考え、行動する力くらいはある。
この人から見失われぬように、小さな存在なりに輝けるように自身を磨き続けよう。
あの偉大な天使のような人達と再会する事があっても、その光に埋もれてしまわないように。
【END】
最終更新:2013年02月03日 22:45