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「-CROSS ENCOUNTER 0.1-真実を紡ぐ-」


作者:本スレ 1-710様

66 :-CROSS ENCOUNTER 0.1-真実を紡ぐ-:2013/01/18(金) 21:55:30

本スレ1-710です
1-200様が書いてくださったSS(創作物スレ2-054)のうちの子(創作してもらうスレ1-110)サイドの話を
書きましたので投下します
以下、属性表記です
 ・そんな描写は充分にはないけど一応、異世界ハイファンタジー
 ・これだけでも読めると思いますが、本スレ1-200様が書いてくださったSSと対になるように書いたつもりw
 ・めずらしくエル一人称(そして、彼の内面での一人称を"僕"に設定していますw皇子様だからねw)
 ・登場キャラクターは、エル(17歳)、シオン(20歳)です
 ・エルとシオンでの遣り取りがメインですが、1-200様のキャラ設定スレ2-014を含む)とも勝手にクロス
 ・1-710の現代ファンタジー設定での要素もほんの少し含みます
 ・キャラ&設定が1-200様の公式設定から外れている可能性あり
 ・そしてエロなし(エロ成分微小程度?かも?)
 ・あと、女絡みの要素もほんの少しあり(シオンさんの婚約者さんの話です)
こんな感じですが、よろしかったら、どうぞ

67 :-CROSS ENCOUNTER 0.1-真実を紡ぐ-:2013/01/18(金) 21:57:39

手が、空を切った。
その瞬間、何も、何も出来なかった。

「あ、あぁぁ!! ルーシェル! ルーシェル!!」

僕は、その場で膝を折るようにして座り込み、声の限りに叫んでいた。
だって、おこがましいとは思うけれども、僕は、君を助けたかったんだ。
あんな状況でも、あんなに酷い状況でも、誰よりも懸命に生きている君を救いたかった。

それなのに。僕はまた救えなかった。
また、救いたいと思った存在を助ける事が出来なかった。
溢れる涙とともに、意識が遠のきかけた瞬間、誰かが僕の名を呼ぶ声がした。

       ※

「エル、大丈夫か」
「……あ、シオン……俺……」

僕が自分の空色の瞳を再び開けると、目の前には、とても大切に想う人が、心配そうな顔
でこちら側を見ている様子が映った。
今、僕の目の前に居るのは、流れるようなプラチナブロンドと青銀の瞳を持つ、聖霊領域
北方を束ねる青年王――シオン――アル・シオン・エ・ヴァン・ダイク公その人だ。
シオンは僕が瞳を開けた事に少しほっとしたようで、普段と変わらない、穏やかな笑顔を
僕へと向けてくれていた。

「随分とうなされていたみたいだけど」
「だい、じょうぶ……」

自らの額に手を遣りつつ、僕はシオンへと返事を返した。
同時に、僕は目に入る天上をぼんやりと眺めながら、周りの状況を確認していく。

僕はとても寝心地の良いベッドの上にいる……だけど……。
でも此処は、僕の家じゃない。
ああ、そうか。
此処は、確かシオンの治める領地――聖霊領北方域にある邸宅で。
僕とシオンは、ごく私的な理由で、この場所で、たった二人きりで過ごしていたんだ。

「シ、オン」
「何?」
「ちょっと嫌な夢を見ていた」
「どんな」
「人を助けられない夢」
「それは……気が滅入るね」

シオンは、僕がぽつり、ぽつりと夢の内容を思い出そうとしながら話す間隔に合わせて、
短い言葉を選んで返しながら、僕の頭の上へとそっと手を充てた。
それから、その暖かく、優しい手で、僕の淡い空色の髪を梳くように撫でる。

「ルーシェル、って、大きな声で呼んでいたよ」
「ああ、以前、メサイアと一緒に逢った子だ。確かに、彼だった気が、する」
「そう」
「助け、られなかったんだ」

僕は自分の頭の方へと遣られていたままのシオンの腕を軽く取りながら、そう言った。
確か、ルーシェと、呼ばれていた気がする。以前、出会った彼は、虹色の淡い光を帯びた
僕と同じ様な色合いの髪と、これもまた淡い色合いの紫水晶のような瞳が印象的な綺麗な
少年だった。

彼には、馬鹿正直とでも言えば良いのか、他人から言われた事をそのまま鵜呑みにして信
じてしまうのだろうな、と思わせるような心根の純粋さがあった。
あの場でも、敢えて気に留めないようにしていたつもりだが、本当に純粋な心根を持つ彼
と、一見して見た目ばかりが穢れなき者のように見える僕とでは、明らかに性質が違う。

沢山の魔族を狩って、血に塗れた手と、王位継承に関わる権謀術数の中にあって、
些か擦れた心持ちを持つ自分とは全く違う存在に思えたのだ。

それに、彼は唯一人の存在にとても愛されていた。
連れ添いの紅い翼を持つ青年――アレスから、とても一途な想いを向けられていた。
公の場で、あれほど、あからさまに強い瞳と意思をもって、相手に好きだという意思表示
が出来るなんて。羨ましいと思わなかったといえば、それは嘘になる。

今の僕にはそれが出来ないから。だから、尚更、彼等の事が羨ましく思えた。
ルーシェル、彼はアレスに対して、その場で自らの想いを率直に返してはいなかったが、
見るに、それも何か理由があっての事なのだろう。
実のところ、僕は、あの場で少し歯痒い、苛立ちにも似た気持ちを覚えながら、彼等と
メサイアの遣り取りを見ていたのだが。

そう、それでも――。
あの二人は、それぞれに、僕なんかよりもずっと、自分自身に対して正直かつ、真剣に
しっかりと向き合って、真摯に生きている気がして――。

「……彼等はね、とても綺麗だった。だから、本気で助けたいと思ったんだ」

いつの間にか、僕はシオンの腕を取って、自分自身の目元を隠すようにして泣いていた。
何故だかそうせずにはいられなかった。

「エル、それは夢だ。
 今、現時点において、君が何かの責務を果たせなかったという訳ではないんだろう?」
「でも……多分あれは、正夢で……何処か別の世界で生きているもう一人の俺だよ」
「なら尚更だ。まだ、これから先行きを変えられる可能性がある夢ってことじゃないか。
 これからの行動次第で、どの因果律が採られるかなんて、如何様にでも変えられるよ」
「そう、だね……」

長く、苦しかったその夢の記憶を未だに拭いきれない僕の事を案じるように、こちら側を
見ていたシオンは、不意に僕の方へと、更に身を寄せた。
それから、彼の腕を取る僕の手を優しく振りほどくようにして、シオンは僕の額へと軽く
口付ける。

「シ、オン……」

彼から受けた額への口付けに対し、あまり大きな抵抗感を見せることも無く、それ受け入
れていた僕の事を、シオンは少し困ったような表情で見つめていた。

僕らは、本来なら、こんな事が許される間柄じゃない。
それは、シオンがこの聖霊領域の北の公王だからというだけではなく、僕が西の公王の跡
取りとして、自らの身体の純潔を保持しなければならない状況にあるという事も、更に理
由に加えられている。

だから、今、僕がこうして此処で過ごしているのだって、シオンや僕の周囲の人々からの
特別の計らいがあっての事だ。
一年に一度位は、時が経つ事など気にせず、シオンとゆっくりと語り明かせるような機会
が欲しいと、僕が周囲に散々駄々を捏ねたから。
それ故に、あまり人目に付かないようにと、真冬の一番閑散としたこの時期を選んで、僅
かな日数に限って、此処に滞在する事が許されたのだ。

此処は、シオンが所有する領内の中で、本来なら夏の避暑地として過ごす為の比較的小さ
な邸宅で、今は雪深い時期だから、本当に周囲には誰も住んでいない。
まして、今回は、前回、夏も盛りという頃に滞在した時のように、メサイアやアルシエル、
それに、ラグナも居ないので、完全に僕等二人きりだ。

「シオン」

ベッドの淵へと腰掛けたまま、こちら側を見つめていたシオンの名を、僕は、もう一度、
呼んだ。
何か特定の意図を持つでも無しに、ただ、何となく、彼の存在を確認したくて、僕自身の
中に元から在った、そんな何気ない想いに従うように、ぽつりと、呟くように、彼の名を
呼んでいた。

「何? 何か暖かい飲み物でも淹れてくるよ。少し待っていて」

彼の名を呼んだ僕に対して、シオンは、先程と同じように、穏やかな声で応じてくれた。
それは、この場を占める何処か、もどかしく、重苦しい雰囲気と、先程来より、ずっと
遣り切れない気持ちを抱えていたままでいた、僕の気持ちを変えようとしてくれての事
だと思う。
彼は、そうして、僕に声をかけてから、この場から立ち上がろうと、ベッドの端へと手
をついた。

「待って」
「エル?」

シオンのその所作を目にした瞬間、僕は反射的に彼の手を引いた。
そうして、自分自身の上半身を起こしながら、シオンの身体を少し無理矢理ぎみに引き寄
せる。その所為で、僕は彼の肩口の辺りへと、自らの顔を添わせるような格好になった。

そんな一連の動作の所為で、僕は常日頃から、彼と一緒に過ごす時間が欲しいと思ってい
た自分自身の意識を改めて認識する事になった。
だから、僕には、その場で自らの顔を上げて、彼の事をまともに見るなんて余裕は全くも
って無かった。

「違う……違うんだ……。その……僕の……違った、俺の……傍に居て、欲し……」
「解った。傍に居るよ。もう、大丈夫だから。君は何も心配しなくていい」

俯いたまま、小さく途切れそうな声で言った僕の言葉を、シオンはその場から動く事なく、
ただ聞き入れてくれていた。
同時に、彼は僕の意図を肯定しているのだという、その思いを伝えてくれるように、僕の
身体を一度、自らの両腕で少し強めに、しっかりと抱き留めてくれる。
それから、シオンは僕の後頭部の方へと片手を遣って、そのまま、頭の上へそっと手を添
えると、僕の事を包み込むように抱き直した。

「エル、前にも言ったけど、俺はね、君の事が好きなんだ」

シオンの言葉を肯定する代わりに、僕は彼の事を両腕で抱き返した。
僕には、ただ、それだけしか出来なかった。

心を寄せてくれる多くの人々の気持ちに応えて、聖霊領西公王の位を継ぎたいという志が
僕にある限り、彼の気持ちに完全な意味で応える事は出来ない。
王位を継ぐには、純潔の証たる魔導印をこの身に備えたまま、定められた相手との婚姻を
結ぶ必要があるのだから。

シオンの方も、王位を継いだは良いが、僕と似たような状況にあって、幼い頃に周囲から
の定めに従って取り決められた婚約者との婚約を解消してはいない。
いずれ、彼は、その王位を確固としたものにする為に、彼女を妻として迎えるのだろう。
彼女は、美しくて、優しくて、その上、凛々しくて、シオンの相手として相応しい人だ。
――そう、普通に考えたら、それらは全て、至極真っ当で、当然の話だ。

彼には元々、僕の兄の友人だという事以外に、僕との繋がりは何もない。
まして、僕の血族に縁のある人というわけでもないのに。
それでも、僕と知り合ってからもう、ずっと、優しい兄のように接してきてくれたシオン
の事を、僕が勝手に、一方的に好きになっただけだ。
シオンが僕に対して、僕自身の純潔を差し出すなんて、そんな事を望んでいないのも、良
く解っている。

それでも僕は、時折、彼に全てを委ねたくなるのだ。
僕は、彼の事が好きで、好きで――。
出来る事なら、僕が彼に与える事が出来る全てを、彼が望み、僕が叶える事の出来る全て
に応え、それを受け入れて、彼に還したいと願うから。

だからこそ、所詮、僕からの一方的で、自分勝手な感情でしかないと、解っているのに、
自分の想いを叶えたいと思う、甚だ短絡的な思考へと、いつも行き着くのだろう。
僕は自分自身の中に、今更ながら募って、溢れそうになってゆく感情に合わせるように、
シオンの背中に廻していた掌の力を強めて、無意識のうちに彼の服を掴んでいた。

「エル、今はずっと君の傍に居る事は出来ないけれど。
 いつか必ず叶えるから。君が望む時には、必ず傍に居られるようにするよ。約束する」

僕の気持ちに応えるように、シオンは再び声をかけてくれた。
シオンが僕の気持ちに何処まで気付いているのかは、解らない。
僕自身が持つ魔導力を行使すれば、それは幾分かでも解るのかもしれないが。
そんな事をしたくはなかった。

それに、シオンは、今でもこうして僕が望む言葉をくれる。
その言葉の意図が、僕の望みと同じものかどうかなんて、そんなのはどうでも良かった。
ただ、純粋に彼のくれた言葉が嬉しかった。

だから、僕は彼の肩口に預けていたままの自分の顔を少し上げて、シオンの顔をそっと引
き寄せてから、彼の口元近くを掠めるようにして軽く口付けを贈った。
彼の口元近くから僕の唇が離れた直後に、シオンの指先が僕の胸元の魔導印へと、僅かに
触れる。
シオンの指先がその場所に触れた瞬間、僕は反射的にほんの少し、身を竦ませていた。

「此処、痛むんだろう?
 無理しなくて良いよ。何度も君に辛い思いをさせるような真似はしたくない」
「少しなら、大丈夫、だから……」

シオンの言うとおり、確かにその場所は痛む。
そういう行為に及ぶという前提にあって、なおかつ、僕の感情が昂ってゆくのに合わせて、
僕に疼くような痛みを与えるように出来ている。
また、更に一線を越えた行為に及んだ場合には、僕の胸元から消え失せ、以降、二度と宿
る事はない。
これが在るから、だから僕は、シオンと最後まで行為に及ぶなんて事は、出来はしない。

「……ごめん、俺……君と……」
「もう、いいよ。充分だから」

警告を送るかのようにして、僅かに痛み始めた胸元の衣服を掴みながら、俯いて涙を零し
そうになった僕の事をシオンは、またそっと抱きしめてくれた。

でも、僕は。
僕は、例え、何があっても、自分自身の想いに出来得る限り、真っ直ぐに行動したい。
例えそれが、痛みを伴う行為だったとしても。
自らの手を穢す行為だったとしても。
僕の想いを貫く為に、僕が対峙する全ての事柄に真っ直ぐに向き合って生きていきたい。

それが、救えなかった君に対して、たったひとつ報いる術で。
いつかまた、穢れのない君に僕が出会って、真っ直ぐに向き合う為に、たったひとつだけ、
必要になる要素だと信じているから。

そんな想いを抱えて、君の事を再び思い出しかけた僕は、シオンに抱きしめられたまま、
不本意にも、また涙を零して泣いていた。

――いつか貴方にも真摯な想いを伝えられるようにと願いながら。

【END】

お読みいただきありがとうございました!
一応、1-200様 との クロス(創作してもらうスレ1-343)と、
   1-510様 との クロス(創作してもらうスレ1-091)とも時系列が合うように書いた筈w

共通設定とか、クロスって、世界観が拡がって楽しいww
いつも快くクロスに応じてくださる姐さん方に本当に感謝ですwww

※このSSの1-200様サイドのエピソードは 創作物スレ 2-054
※wiki収録後に、一部修正を加えました。


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最終更新:2013年02月16日 10:48