「ダニーの日記 1」
作者:本スレ 1-549様
201 名前:オリキャラと名無しさん 投稿日: 2013/04/17(水) 00:56:33
※まだクロスはしてないです、ダニーが変な人に遭遇する話
※エロなし、グロは多少あります
※出てくるキャラはダニー、ベルナルド(赤毛)、キリアン
長くなってしまいましたがよろしければお願いします
201 名前:オリキャラと名無しさん 投稿日: 2013/04/17(水) 00:56:33
ダニーの日記 1
「でさー、その殺人鬼は頭のおかしいやつでさ、自分のことを正義の味方だ
と思ってるんだって」
「マジで?ソイツそうとうアレじゃん。で、で、どんな奴?若いの?おっさ
ん?」
「何でもさぁ、そいつは――」
大学の食堂で、僕は友達と一緒に新作のハンバーガーを食べていました。
隣に座ったカップルが、どうでもいい話をしていましたが、どうでもいい
話なので僕はすぐに忘れてしまいました。
1
僕の名前はダニーといいます。都内にある工科大の二年生で、今日は学校
が休みなので街中に出かけていました。
僕はアイドルの握手会に行った後、電気街でぶらぶらと買い物を済ませ、
行きと同じように電車に乗って帰ろうとしました。しかしどうしてでしょう。
駅は夥しい人でごった返し、物々しい雰囲気に包まれています。駅員を問
い詰めるおじさんたちに、バス停近くの段差に座り込む女の子たち。僕は頭
上の電光掲示板を見上げました。
「現在、山手線は全線の運行を見合わせています」
全線ストップ。「運行再開のめどは立っておりません」と、駅員さんが拡
声器を片手に叫んでいます。
満員のバスや次々走り去るタクシーを尻目に、僕は財布の中身を覗きまし
た。帰りの電車賃しか入っていません。手に提げた買い物袋には、食玩のラ
イダーヒーローが大量に詰まっています。大人買いなんてするんじゃなかっ
た。これではネットカフェで夜を明かすことも不可能です。もっともどこも
満員でしょうけれど。
「運行再開のめどは立っておりません」と、駅員さんは額の汗を拭いなが
ら叫びます。僕は歩いて帰る決心をしました。雲ひとつ無い空は、真っ白に
焼けた灰のようです。熱されたアスファルトの向こうでビルが揺らぎ、立ち
上るゴムのような臭気で息が詰りそうです。
2
僕の自宅に歩いて帰るのは無謀だったので、比較的近い友人の下宿を頼る
ことにしました。しかし、今はもう夜です。スマホの電池が切れてしまって
いるので分かりませんが、勘で言えば十時くらいです。サンダルで足の皮が
すり切れ、シャツは汗でべったりと張り付き、首に提げたデジカメの紐が乾
いた塩を吸っています。
疲れてフラフラになった僕は、さっきから道に迷っていました。スマホの
地図に頼りきっていたのがいけないのです。目的地の近くに来ているはずな
のに、見たことの無い風景ばかりです。道を聞こうにも、コンビニも交番も
見当たりません。気付けば街灯もない、嫌な雰囲気の狭い路地に来ていまし
た。生ゴミを凝縮したような臭いがします。
途方に暮れた僕があたりをきょろきょろ見回していると、誰かにぶつかっ
てしまいました。
「オイそこの外人、どこに目ぇつけてんだ、ああ?」
僕には暗くてよく見えませんが、おそらく怖そうなお兄さんがこちらを睨
みつけています。二人組みです。連れのほうはヘラヘラと笑っています。
「見ろ、お前がぶつかったせいで、俺が飲んでたジュースのシミがここにつ
いたじゃないか、クリーニング代がかかるなぁ」
今でもこんな脅し方をするチンピラがいることに感心しましたが、そんな
場合ではありませんでした。この人たちは僕が平謝りしても許してくれそう
にありません。かといって、お金は出すものがありません。
「あのう、僕何も持ってないです…」
ズボンのポケット裏返しにしてみたものの、こんなことをしても何もなり
ません。気を悪くしたチンピラはいよいよ僕に殴りかかりそうです。いっそ
日本語が通じていないフリをすればよかったのかもしれませんが手遅れです。
と、風圧とともに、何かが僕の目の前に落下しました。
「やめたまえ!」
突然、誰かが降って湧いたように現れました。実際、高いところから飛び
降りたようです。どうしてわざわざそんな風に登場したのか不可解で、チン
ピラも僕もぽかんとしていましたが、何だか助けてくれそうな雰囲気なので
僕は直感的に期待しました。
「君たちカツアゲは良くないよ、しかも小学生にそんな寄って集って」
いきなり現れて不良には通りそうにも無い道理を堂々と言ってのけたお兄
さんは、浮世離れした存在でした。僕の手を取ると、ごく自然な足取りです
るするとチンピラから離れていきます。あまりのことにチンピラ二人は口を
あんぐりと開けています。一瞬差し込んだ明かりで彼の顔が見えました。
僕と同年代くらいの、赤毛のお兄さんでした。外国人のようですが、日本語は
はっきりとしています。僕は小学生ではありませんが、この際訂正しません。
「――――――――――――」
赤毛のお兄さんは僕に英語で何か言っています。しかし僕は見た目に反し
た生粋の日本育ちですから分かりませんでした。物騒な町並みに反して、お
兄さんはニコニコしています。
「ア、アイキャントスピークイングリッ…あの、日本語で大丈夫です。僕、
道わかんなくなっちゃって」
「うん、教えたげるよ。俺この辺詳しいし」
お兄さんは人好きのする笑顔で明るく答えました。気のよい親切な青年な
のだという気がしてきます。
「僕、サンハイツ666号ってアパートに行きたいんです」
「あー分かる分かる、送って行ってあげるよ物騒だし」
僕はお兄さんのことをすっかり信用したわけではありませんでした。しか
し不自然なことは全部無視することに決めました。今は無事目的地に着けそ
うな気分を信じます。ありがとう。ありがとうお兄さん。
「待てコラ、俺ら無視して行こうってんのか兄ちゃん」
当たり前ですが、誰だって無視されれば怒ります。ましてや相手は気の短
そうな人種で、とにかくチンピラ一号が殴りかかって来ました。チンピラと
いうものは、まず急所を狙って相手を動けなくさせるらしいと聞きました。
つまり初手は重みのある腹パンでしたが、赤毛のお兄さんは相手の動きを予
想していたように、チンピラの拳を片手で掴みました。見た目に反して相当
な腕力があるようです。そしてそのまま捻り上げて肩の関節を壊し、チンピ
ラ一号を、後ろから迫って来ていた二号に向かって投げ飛ばしました。メチ
ャクチャになった肩を押さえて悶絶する一号を撥ねのけ、素早く起き上がっ
た二号が向かってきます。手には刃渡りの大きなナイフが握られていました
が、赤毛の兄さんの爪先は二号のナイフを正確に弾きました。二号は宙にき
らめく金属片を呆然と見つめていましたが――その首がおかしな方向に捻じ
曲がります。そのまま地面に崩れ、動かなくなりました。
僕は、足元で土下座したように倒れている二号を見ました。彼は星を見て
いました。つまり、生きている人間ではあり得ない方向に、首が曲がってい
ました。彼の顔はナイフが弾かれた瞬間のままです。口からは色の付いた泡
を吹いています。
あれ、これはどういうことなんでしょう。きっと事故だ。事故なんですよ
ね?僕はお兄さんのほうを見ました。
「正・義・完・了!」
赤毛のお兄さんはどっかで聞いたようなキメ台詞と、特撮ヒーローのよう
なポーズをとっています。ついさっきまでの安心感が地球の反対側に行って
しまったように霧散し、うすら寒いものが僕の背筋を駆け抜けていきました。
「ふふん、悪が正義に敵うはずがないのだ!正義は、愛は、常に勝つ!」
彼に悪意があって、これがふざけてやっているのなら、まだよかったのか
もしれません。しかし彼は間違いなく本気だと直感しました。目がマジです。
これ以上ないほどマジです。人を殺したのに。間違いなく。たった今。
「ひ、人殺し……」
僕は買い物袋も投げ捨て、髪を掻き毟り何事かを叫びながら、猛然とダッ
シュしていきました。しかし路上駐車のチャリにつまづいて、あっけなく転
びました。必死にアスファルトを引っ掻きますが、腰が抜けてしまって立ち
上がれません。そうだこれは悪い夢なんだと思い始めました。
「どうしたんだい、アパートは反対側だよ」
僕の買い物袋を持って、先ほどと変わらぬ笑顔で赤毛のお兄さんが立って
います。一度は安心を与えてくれた笑顔も、今では不気味なものとしか思え
ません。お兄さんは袋からこぼれた食玩も拾ってくれたようで、その一つを
手の平で転がしながら、しげしげと眺めています。
「ああああ、あのその、僕何にもしてないです何も見てないです!」
お兄さんはすっかり震え上がる僕よりも、食玩の方が気になるようでした。
熱心に、食い入るように見つめています。
「俺、このヒーローのこと子どもの頃からずっと好きだったんだ。故郷で大
はやりでね」
いきなり、お兄さんの昔話が始まりました。人一人殺しておいて、この状
況で唐突にです。
「視聴率90%を取った伝説の番組だったよ、銅像まで建ってるんだ。で、友達
といつもその話してて」
「よよよかったら、そのそそ、ダブってるやつ全部あげます!てかもう全部
持ってっていいいです!だから助けて!」
この期に及んでダブりがどうと口走る僕も僕でしたが。お兄さんは子供の
ように目を輝かせ――その背後めがけて、凄まじい形相のチンピラ一号が飛
び掛ります。振り下ろされた鉄パイプが、鈍い音と共にお兄さんの脳天を砕
きました。
が、お兄さんは倒れませんでした。ゆらりとチンピラの方を振り返ります。
「全く反省していないなんてしょうがないなぁ」
お兄さんは人のものとは思えぬ咆哮を上げ――何か異形のものに変じ、チ
ンピラに飛び掛りました。それはとても大きな猫、に見えた気がします。爪
の一閃は裂けるチーズのように易々とチンピラの体を二つに裂き、街灯の下、
ホールトマトをぶちまけたような光景が広がっていました。
僕の記憶はそこで途切れています。
3
まず、煤けた灰色の天井が見えました。体を起すと、後頭部に張り付いて
いた保冷財が落ちました。僕は熱中症になりかけていたのでしょうか。片付
いていない部屋の風景が見えます。何台ものパソコンが壁際に並べられ、部
屋の床じゅうをケーブルが這い回っています。エアコンが稼動していますが
調子は悪いようで、あまり涼しくはありません。
台所のほうで音がします。向かってみると、シンクの前で友人キリアンが
突っ立っています。夏休みと冬休みと春休みの最後がいっぺんに来たような
顔です。どうやら彼は、ヤング向け焼きそばの湯きりに失敗したようです。
僕が起きたことに気がついて、浮かない顔のまま振り向きました。
「ダニー、今日はどうしたんだ」
「電車がストップして帰れないから、キリアン家に泊めてほしくて歩いてき
た。山手線運休、ニュースでやってたでしょ」
「運休?マジ?つかなんで止まってるの?」
「そこまでは僕も知らないよ」
シンクを片付けたキリアンは冷蔵庫からチューブアイスを取り出し、半分
に割って僕にくれました。もう半分を自分で銜えながら、テレビのモニタを
点けます。すっかり十二時になっていましたがニュースが盛んに流れていて、
電車がストップしたことばかりを伝えています。僕が驚いたのは、山手線だ
けでない広範囲の電車が止まっていることでした。
キリアンも僕も、電車が止まった原因が気になって、ずうっとテレビを睨
みつけていました。しかしテレビには、駅に泊まる人々や込み合うバス停の
様子ばかりが映ります。
「そういや今日は何の用事だったんだ」
「アイドルに会いに行ってきた。灰色ミツーバーゼータの握手会」
「へぇ。写真撮ってきたのか?見たい」
キリアンに僕のデジカメを渡しました。アイドルの写真ばかりがギッシリ
詰まっているはずです。
「おい、この写真何?何映ってんの?」
僕もデジカメを見ました。最後の一枚、ブレブレですが、何か異様なもの
が映っています。大きな獣のように見えます――猫でしょうか。たまたま撮
れた変な写真では済まされない寒気に、僕は部屋の気温まで下がったような
気がしました。
「ダニー、コレ何なんだ?」
「さぁ…」
僕は考え込みましたが、頭に霞がかかったように思い出せませんでした。
キリアンはどう思っているのか分かりませんが、しばらくして、しかめつら
しい顔で口を開きました。
「都市伝説なんだけどな、この辺りにな、正義の味方を名乗るシリアルキラ
ーが出るらしいぞ。……。なんでもそいつは猫のバケモノだそうだ」
「ねぇ、冗談でしょ」
「もちろん与太話だ。動物霊が写ったって方が信憑性あるよな」
「それもやだよ!」
そこでようやくテレビが、電車が止まった原因を説明し始めました。
「どうやら何者かによるコンピュータのハッキングが原因で、テロの可能性
もあると――」
偉そうな胡麻塩ヒゲのおじさんが、難解な用語を並べ立てて難解な説明を
しています。僕はアナウンサーのお姉さんと一緒になって、目を白黒させま
した。
「今回は人的被害はありませんでしたが――」
僕はソファに座っているキリアンの方を見ました。テレビの画面を食い入
るように見つめながら、キリアンは固まっています。
「ねえキリアン」
キリアンは上の空です。何か、話しかけてはいけないような雰囲気です。
僕が所在なく居間を出ると、玄関の棚の上に、キリアンの家族の写真が飾
ってありました。そこで僕は思い出しました。キリアンには家族がいません。
というのも、電車の事故でキリアンの家族は死んでしまったのです。電車の
制御コンピューターが何者かにハックされたのが原因で、つまり事故ではな
くサイバーテロ事件でした。
玄関にやって来て、もう一つ大切なことを思い出しました。僕は一体どう
やってこの玄関に、どうやってこのアパートにたどり着いたのでしょう?
「ねぇキリアン…」
「んだよ」
テレビの画面を睨んだままキリアンは憮然として答えました。でも僕は聞
かなければなりません。
「僕は一体どうやってこの部屋まで来たの?覚えて無くて…」
意外な質問だったようで、キリアンは目を丸くしています。
「何だ、覚えてないのか?俺が買い物帰りにアパートの外を通ったら、赤毛
の兄ちゃんがお前を運んできてな。あの人はお前の知り合いか?…おい、ダ
ニー?」
【END】
最終更新:2013年07月08日 19:34