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「ダニーの日記2 Unidentified Mysterious Animal」


作者:本スレ1-549様

292 名前:1-549 投稿日: 2013/07/07(日) 23:53:10

1-549 ですこんばんは、
今日はwikiのアップローダーにSSをうpさせて頂きました、
内容は長い上にあまりBLもしてないです、エロは全くなしですゴメンナサイorz
それでも許してくださる方はよろしければお願いします、
設定スレ2-044 のキャラのSSです。

ダニーが地元でUMAを探す話

※少しだけ、牧せんせーやグレンさんが出てきます(全体の二割くらい)。
 人様の子に関しては勝手な想像で書いてる部分が多いので捏造だらけです。
 全年齢。一部胸糞注意。主任愛してる。
 時系列はヴォルグさんが畑の野菜mgmgした後です。
 特にオチてません。
※ダニーの日記1は 創作物スレ2-201

以下本編↓↓
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0

 薄暗いホテルの一室。ドレッサーの前で、青年が長い髪にブラシをかけている。女
顔で、白い肌に濃い化粧をしていた。派手な黒のジャケットに、揃いの黒のブーツ。
刺々しいアクセサリをこれでもかと付けている。両手には真っ赤な付け爪。女子高生
のようにデコレーションした携帯電話を鞄に放り込んだ。

「なぁ、行かないでくれよ」
「さっき言ったわよね。お金は?」
「渡しただろ?」
「これで全部?幼稚園児のお小遣いかしら」
「テメェ俺の娘が働いて作った血の出る金だぞ!借金もした…それを…それを…」
「その血の出るお金を、全部私につぎ込んじゃったんだぁ。かわいそうね。…で、私
こんなはしたもの要らないの」
「宝くじだ!宝くじを買った!一等が当たるんだ!」
「そりゃいいわ」

 顔を蒼白にする中年男を鼻で笑い、青年は鞄を手に立ち上がった。

「待てよ!なぁ、俺を捨てないでくれ!何でも言うことを聞くから!何でもする!」
「本当?」
「何でもするよ!」
「じゃあ今死ねよ!」

 叩きつけるようにそう言うと、青年は大笑いしながら出て行った。一人残された男
は床に座り込み、声を上げて泣き崩れている。

「ギャッハハハハハハ!」

ダニーの日記2 Unidentified Mysterious Animal

1

 少しじめついた七月、僕は近所のコンビニへ買い物に行きました。コンビニ限定の、
六十茶に付いてくるアイドルストラップが目当てです。無事買えたことをその場でつ
ぶやくと、「俺の分も買っといてくれ」とキリアンからノータイムで返信がきました。
それで僕はペットボトル二本が入ったレジ袋を提げて、サンダルでぶらぶらと家路を
歩いていたのです。

 帰り道の途中に一件、寂れたビジネスホテルがあります。今でこそ客足もまばらで
すが、バブル期には流行ったのでそれなりに高さのある建物です。その周りに何やら
人が集まって、最上階を見上げています。

 雲間から覗く太陽の光の中、ホテルの窓から誰かが身を乗り出しているのが遠目に
も見えました。大変だ。警察や消防隊を呼んだと下で誰かが叫んでいます。しかし、
窓の人はまもなく飛び降りました。あちこちで悲鳴が上がります。

 僕が駆け寄ると人垣の向こう、アスファルトの上に倒れている人が見えました。直
視できないひどい有様ですが、中年の男性でしょうか。あまり見るもんじゃないな、
吐きそうだ。帰ろう。そう思ったのですが、野次馬は見る間に増えてきて、もう僕の
周りは人でぎゅうぎゅうです。そこらの団地中の人が集まってきたのでしょうか。悪
趣味だ。

「死んだ!アイツ本当に死にやがった!」

 僕の隣に立っている人が、指を差してゲラゲラ笑っています。何て人だ血も涙もあ
りません。見れば日本人ではなさそうです。色白銀髪、北欧系でしょうか。彼は僕と
同年代か、少し上くらいに見えます。僕の災難の始まりは、うっかり彼と目が合って
しまったことです。

「何見てんだガキ、死にてぇか」

 僕がチンピラに絡まれるのは今月で三人目です。こんなハットトリック嫌だ。目の
前の彼は、あまりカタギには見えません。しかも格好が浮いてます。夏なのに黒のレ
ザーのジャケットに、ゴテゴテした黒のブーツ。これでもかと付いた刺々しいアクセ
サリ。真っ白な顔に化粧をし、派手な銀髪のロン毛です。さらに、腰のベルトに銃の
ようなものがささってます。

「み、見てませんよう!」
「いんや見てたね親はどういう躾してんだアアン?」

 チンピラは僕の胸倉を掴んで持ち上げ、思い切り顔を近づけてメンチをきってきま
した。両手には真っ赤な付け爪。僕のメッシュ地シャツに食い込んできます。怖いで
す。周りの人は皆、チンピラから離れて遠巻きに見ているばかりです。事件現場だか
らそのうちお巡りさんがくるはずですが、まだパトカーも何も見えません。

「やめたまえ!…はいごめんなさい通りますよー。通してねー」

 ふいに、人垣の中から能天気な声が飛んできました。聞き覚えがあります。人ごみ
を掻き分けて出てきたのは、いつぞや会った赤毛のお兄さんです。明るい時間帯に出
会うのは初めてで、顔だけで人を判断するなら結構な爽やか系と言えます。左眼には
眼帯をしています。ん?こないだも付けてたっけ?

「どうしてここに?」
「友達のピンチに駆けつけるのがヒーローの務めさ」

 いいえ僕は友達になった覚えはありません。僕は助かったとは全然思わず、背筋が
寒くなるばかりでした。なぜならこのお兄さんは頭のおかしい殺人鬼です。僕の目の
前で二人殺しました。赤毛のお兄さんが現れると、チンピラはさっと顔色を変えまし
た。僕は掴まれていたシャツを離され地面に尻餅をつきました。

「久しぶりだなぁオイ」
「お前なんか知らない。子供に手を出す悪党め!成敗してくれる!」

 お兄さんはカンフーの様な構えで今にも飛び掛りそうです。不穏な感じですが、僕
知らない帰ろう!でも下手したら人死にがもっと増えどどどうしよう。

「私のことまで忘れたかよ!テメェあんまりふざけたこと言ってやがると皮剥いで三
味線にすっぞ」

 チンピラはいよいよ悪鬼の形相になり、軋るような声で言いました。一触即発だと
思ったら赤毛の兄さんがチンピラに飛び掛って、そこで救急車とパトカーのサイレン
が聞こえてきました。お兄さんはサイレンに一瞬気を取られ、その隙にチンピラから
顔面に一発、綺麗な回し蹴りをもらいました。

「チッ……。どけオラァ!見世物じゃねぇぞゴラァ!!」

 チンピラも、お兄さんの先制とび蹴りをガードして手首が折れているようです。ね
じ曲がった手首を庇いつつ、人ごみを乱暴に散らしていなくなりました。赤毛のお兄
さんはチンピラを追いかけようとしましたが、突然その場に変な風に転んで、しばら
く倒れていました。僕が駆け寄るとまだ青い顔で起き上がりました。顔面を蹴られた
せいでしょうか鼻血がだらだらと流れているので、僕が行きがけに貰ったポケットテ
ィッシュを渡すと、お兄さんはそれを丸めて鼻の両穴にグイグイねじ込みました。

「急にめまいが…地面がグニャグニャする。あー気持ち悪い」
「大丈夫ですか?てか、いつからいたんですか?」
「大丈夫…。最初からいたよ。男の人が飛び降りるのも見てた」
「ちょっと!ヒーローなら見てないで止めてくださいよバカ!」
「それは本人が飛びたくて飛んでるんだから、自由じゃん」
「えー……」
「それはそうと」

 どうやら彼の人助けは有料で、僕の提げたレジ袋を物欲しそうに見つめています。
僕はストラップを外してペットボトルのお茶二本を渡しました。彼は満足したようで、
まだしっかりしないフラフラとした足取りで去っていきました。鼻にティッシュを詰
めたまま。

 僕は、飛び降りの現場を見ました。救急の人が遺体を運び出し、警察の人が現場検証
を始めています。僕はチンピラの言った言葉が引っかかりました。「アイツ本当に死
にやがった」。

2

 血まみれのお化けに祟られる夢で目が覚めて、僕は寝不足で不機嫌でした。電池の
切れかけたキャラクター目覚ましって恐ろしい声です。で、今日は何もしたくないや
と思っていたのに、朝から玄関のチャイムが鳴りました。

「お兄ちゃん玄関出てってよー」
「えーお前が行ったらいいじゃん…」
「アタシ急いでんのー、さっさと化粧しないと電車遅れちゃうし」
「はいはい」

 髪を赤紫色に染めた妹が、洗面台の前でアイラインを引きながら言いました。僕だ
ってライダー観てる途中で出て行きたくないですが、仕方ありません応対します。ど
うせ宅配便です。母さんがアマゾンで何か頼んだっけ?そう思ってドアを開けると、

「ハーイ。また会ったわね」
「ひゃつ!」

 全力でドアを閉めようとしたら、素早く爪先をはさまれて阻まれました。僕の目の
前にいるのは、昨日のチンピラです。なんでここに。

「どど、どうして僕の家が分かるんですかぁ!」
「バカねぇ、財布スられたことくらい気付きなさいよ。返してあげるわ」

 そう言って差し出された手には、僕の財布。保険証とビデオ屋のカードは入ってい
ますが、お金はきれいに消えています。彼、昨日痛めたはずの手首は何ともないよう
です。僕の記憶違いでしょうか。そんなのどうだっていいですお金返してよ。

「あの、お金…」
「ベルナルドを探してるの。あなた友達なら居場所を知らない?」

 僕の言いたいことを無視してチンピラは質問を切り出してきました。ていうか普段
そういうキャラだったんですか。確かにそれっぽい化粧してますけど。

「はい?どなた?」
「オイテメェ名前も知らなかったのかよ呆れたな。あの赤毛の眼帯野郎だよ。自称ヒ
ーローの気違いだよ」

 苛立つと即座にチンピラ口調に戻るようです。そういえば僕は、あの赤毛のお兄さ
んの名前は知りませんでした。その赤毛のお兄さんことベルナルドは、このチンピラ
の知り合いのようです。

「僕も住所は知らなくて…」
「なんだよ使えねーな!まぁいい。見つかったらこのメモの場所に行くよう伝えろ。
奴には読めるから」

 チンピラに渡されたメモを僕は見ました。暗号のようで、僕にはさっぱりです。

「はぁ。見かけたら渡します。…あなたの名前は?」
「リコだよ。じゃあなチビ」

 用は済んだとばかりに、チンピラもといリコは背を向けて去っていきます。僕、お
金の被害届は出す気になれません。一万円は諦めます。身の危険を感じるので金輪際
無関係でいたいです。さようなら。さようなら。二度と来るな。塩撒いておこうか。
と、リコは僕のほうを振り向いて言いました。

「見かけたらじゃなくて、一週間以内に探せよな!あいつが来なかったらタダじゃお
かねぇぞ!」

「僕何にも知らないんですよそんな無茶な!」

「友達なら居場所分かってんだろ!いいか見つからなかったらテメェブッ殺す!強酸
で骨まで残さず溶かして下水行きだからな!」

「ヒィ!」

 彼は、ビックリして半泣きになっている僕の顔を指差してひとしきり笑った後、今
度こそ去っていきます。……。ああもう、住所知らないって言ってるじゃん!そもそ
もベルナルドは友達でも何でもありません。なのにどうしてこんなことになっている
んでしょう。人探しは僕じゃなくて興信所に頼めばいいのに。住宅地いっぱいに届く
大声でバカヤローと叫びたい気分です。金返せ。

3

 まだ日差しは強くなく、風はおだやかです。介護センターのバスが、坂道をゆっく
りと走っていきました。焼けた色の政党ポスターに、総理大臣のアップが映っていま
す。総理は鼻の穴に画鋲を挿されています。器物損壊です。

 僕は警察に相談しようかどうか迷いつつとりあえず外に出てみたら、なんと、家の
近所でベルナルドは即見つかりました。公園で小学生に混じって仲良く遊んでいます。
タモを背負い、針金で作ったダウンジングマシンを振り回しています。

 ベルナルドが見つかって僕がホッとしたのも束の間、僕の話を聞き終えてベルナル
ドは言いました。

「駄目、俺は今忙しいから行けないの。見れば分かるでしょ」
 見ても分かりません。何で?
「巨大鳥を探してる」
 はぁ、巨大鳥。何ですかそれ。
「町内の七不思議の一つだよ」
 七不思議。はて。僕は首をかしげていました。
「何だきみ、知らないのか。この辺の小学生なら誰だって知ってるのに」
「僕小学生じゃありません二十歳です」
「ならば仕方あるまい。説明しようッ!町内の七不思議とはッ!えーと、幻の巨大鳥
に、伝説の狼男でしょ、妖怪猫男、放電サラリーマンに、下水の大ゴキブリに…何だ
っけ」
「全部怪しいのばっかり…」
「君、信じてないね!」

 そりゃそうです。だって小学校の頃の七不思議なんて、みんな好き勝手に決めてま
したもん。猫男は目の前にいますが。

「誰も彼らのことを信じなかったとしても、俺は信じなければならないッ!ウソつき
よばわりされた彼らの名誉を、今こそ回復しなければならない!ヒーローだから!」
「彼ら?」
「うん、あっちで遊んでるでしょ」

 ベルナルドから話を聞くと、事情は大体分かりました。鳥型UMAを目撃した小学生二
人が仲間内から嘘つき扱いされてハブられているので、ベルナルドは彼らを助けたい
ようです。それはいいことです。でもチンピラに殺されそうな僕は一体どうなるんで
すか。僕の生き死にがかかってるんだから後回しでいいでしょう。

「だってそりゃ、小学生の悩みほど重大なものはないだろ。きみが大人なら自分で解
決したまえよ」

 …。どうやらその巨大鳥を見つけないと、ベルナルドは他のことに意識を向けてて
くれないようです。彼は梃子でも動かないという様子です。とても困ります。今リコ
が公園に来てくれれば済む話だろうけど奴の連絡先なんか知るわけありません。僕は
頭が痛くなってきました。UMAが見つかるとは思っていませんが、一応、小学生に話だ
け聞いていきましょう。

「その鳥を見たって子の話を聞きたいんですけど」
「おおい、ガリガリー」

 呼ばれて鉄棒のほうから駆け寄ってきたのは、ひょろっとした体型の、勉強が得意
そうなメガネ君です。直球なあだ名を付けられているようです。

「いつどこで見たの?」
「何日か前に、牧医院の近くで見たよ」
「写真とかは無いの?」
「デブゴンー、お前がとった写真見せろよ」

 ガリ少年に呼ばれて、今度はぽっちゃりした少年が素早く走ってきました。デブ少
年はコンビニの揚げパンをかじっていましたが、砂糖のついた指でスマホを取出すと、
写真を見せてくれました。とても大きな飛行物体が写っていますが、写真全体が激し
くブレていて何だか分かりません。でも僕は写真にうつる物体を見て、UMAはもしかし
たらいるかもしれないと思い始めました。

「鳥が羽ばたくとすごい風が来て、ブレちゃったんだ」
「そんなに大きいんですか?」
「そこのジャングルジム二個分くらいあるよ」
「えー…」

 確かに建物の大きさに対して、空を飛ぶ影は巨大です。小型の飛行機くらいはある
んじゃないでしょうか。まるで怪獣です。ブレた写真ですが、かろうじて読める看板
には「牧医院」の文字が確かにあります。
 そんな僕らをよそに、ベルナルドは一人、歩道沿いの排水溝のフタを外して中に入
っていきます。

「ねぇどうして排水溝に…」
「ダウンジングマシンに反応があるんだよ」
「巨大鳥はそんな狭いドブに入りませんよ」
「常識を頭から捨てて探さないと駄目さ」

 捨てるような常識なんて最初から頭に入って無いんだと、僕は口には出さずにおき
ました。小学生二人も何か言いたげな顔で黙っていました。とにかく、ベルナルドに
任せておくと百年経っても見つからなさそうです。こうなったら僕が行って牧医院の
あたりで目撃情報を集めましょう。

 チンピラに脅されている件を警察に相談するのは最後の手段です。もし警察に相手
にされなかったら、僕どうしたらいいのか分かりませんし。

4

 医院周辺での情報はゼロでした。突発的な強風が吹いたという証言はありましたが、
鳥探しの手がかりにはなりません。丁度持病の胃腸薬が無くなる頃だったので、薬を
貰うのを口実に、牧医院にもやって来ました。かかりつけのお医者さんでよかったか
も。

 診察室の向こうにはベッドが並んでいて、開け放たれた窓から爽やかな風が入って
きます。網戸越しに庭の畑が見えますが、前に見たときは沢山実っていた野菜の数々
が、今日はきれいさっぱり無くなっています。

「人生、思い通りにいかないことが多い」

 僕が畑のことを尋ねると、牧先生は処方箋を書きながら言いました。褪せた色の白
衣には年季が入っています。

「畑も同じだ」

 先生は少し疲れたように、白髪交じりの頭をかいています。無精ひげもごま塩。ひ
げのあるなしで先生は大分歳が違って見えるような気がします。

「あの、先生は巨大鳥見てませんか?」
「見…てないな。日中は診察があるからあまり外は見ない」

 なんだか歯切れが悪いです。公園のデブ君から写真のデータを貰っていたので、僕
はそれを先生に見せました。

「何が映っているのかよく分からないな、医院の看板は読めるが」

 そのときデスク近くの窓がガラリと動いて、植え込みの隙間から先生の身内のお兄
さんがひょいと顔を覗かせました。さっぱりした黒髪で、目のぱっちりした人です。
今日も夏らしいラフな格好をしています。ゴム手袋をした両手でちりとりを掲げ、言
いました。

「牧、雨どいの掃除終わったよ。何が詰ってるのかと思ったら、ほらこないだ来た鳥
のさ、大きな羽がこんなにギッシリ」

 ゴミやホコリが絡まった、どうみても鳥の羽的な巨大物体が、ちりとりにこれでも
かと盛ってあります。先生は渋い顔をしています。

「……。ああ、確かに見たよ。大きい鳥でびっくりしたな。だが、あれが何なのか俺
は知らん。全然知らん。何にも」

「先生、僕は友達の小学生の子の為に、どうしても探してるんです。その子がUMAを見
たことをホントだって証明して、ケンカ中の友達と仲直りさせてあげたいんですお願
いします!」

「悪いがそういうことはできないんだ」
「先生!お願いします!」

 理由を付けて僕がしつこくお願いすると、先生はとうとう折れてくれました。僕は
小学生のためにやっている訳ではないので、なんだか良心が痛みます。牧先生は僕に、
誰かの名刺を渡しました。グレンという人の連絡先が書いてあります。

「この人はどういう人なんですか?」
「…まぁ、鳥に詳しい人だ。俺から電話しておくから」
「ありがとうございます」

 このグレンさんは鳥博士か何かでしょうか。そう思って名刺を詳しく読むと、「人
材派遣 フィクスジャパン」と書かれています。?派遣会社と鳥にどういう関係があ
るのでしょう。

「行けば分かる。俺から話せることはあまりない」
「はぁ」

 牧先生にお礼を言い、会計を済ませ薬を貰い、僕は医院を出ました。と、歩道の反
対側で、頭や背中にゴミを付着させたベルナルドがガリ君とデブ君を引き連れて、満
面の笑顔で手を振っています。

「チビ隊員よ、やはりここにいたか!重大なニュースだよく聞きたまえ!ガリ隊員デ
ブ隊員と一緒に、この近辺の排水溝の中から巨大鳥の羽を発見したぞ!」

 三人とも仕事をやり遂げた顔で、最高に目がキラキラしています。

「羽が底のほうに溜まっているということはッ!巨大鳥はさらに地下深くに潜んでい
るに違いないッ!こうなったら皆で下水に潜って」
「……。UMAの存在を証明するならその羽で十分じゃありませんか」
「何言ってんだよチビの兄ちゃん。こんなの、どうせダチョウかクジャクの羽とか言
われて終わりだよ。鳥本体を探さないと証拠にならないよ」

 ガリ君曰く、それっぽい羽ならトーキューハンズで買えるそうです。確かに、この
羽は大きさとしてはダチョウくらいです。

「じゃあ僕は聞き込みに行ってくるから、みんなも頑張ってね…」
「うむ、気をつけて行ってきたまえ!では我々は下水道に」
「隊長、俺はヤです」
「僕は図書館がいいと思います隊長」

 小学生二人に却下され、ベルナルドはしゅんとした顔で肩を落としています。

「だって下水って巨大ゴキが出るもん」

 と、デブ君。ガリ君もうんうんと頷いています。僕、修学旅行で行った沖縄のゴキ
ブリなら見たことあります。街灯に向かって飛翔した巨大な影を忘れません。

「巨大ゴキって、どのくらいの大きさ?」
「2mだって」

 20cmの間違いじゃない?それともまた新手のUMAですか。デブ君は目をギラギラさせ
ながら興奮気味に説明してくれます。

「触角っぽいもの?が四本あって、顔はアバドン似だって。で、臭い殺人ガスを尻か
ら噴出するらしいよ。カメムシよりスゴくね?マジスゴくね?でさぁ口からは酸がビ
ュービュー出て、しかも人食いだって!先月から配管工の兄弟が行方不明に」
「……それゴキブリかなぁ…。みんな、危ない場所には行かないようにね」
「うん。クーラーあるし図書館行くよ」

 さて、僕はフィクス社に行きましょう。行けば何か分かるかもしれません。日は真
上に昇っています。

5

 牧先生が電話でアポを取ってくれたので、やって来ましたフィクス社に。地下鉄と
バスを乗り継いで15分ほど。街中にある、普通の派遣会社のようです。

 ロビーは清潔ですが、壁紙や絨毯が日に焼けていたり建物の古さを感じます。額縁
に入った社訓の横には「クーラーは28度、人のいない部屋は必ず消灯」の手書き貼り
紙があります。受け付けのお姉さんの横で扇風機が首を動かし、七夕の笹が揺れてい
ます。「人類の進歩と調和」「上司が健康になりますように」「モテたい」「織姫」
「夏まっさかり」等々、短冊の内容は自由です。

 受け付けのお姉さんに用件を話すと、内線でグレンさんを呼び出してくれました。
外は真夏だというのに、グレンさんはハイネックに長袖です。クールビズには逆行し
ています。グレンさんは管理職然とした、物腰の柔らかそうな人です。年齢は、若そ
うにもアラフォーにも見えます。うっかり昼休みに訪ねてしまった僕に、イヤな顔一
つ見せません。

「牧先生から聞いたんだが、巨大鳥を探しているんだね」
「そうです」
「どうしてだい」
「巨大鳥を見たっていう子が嘘つき呼ばわりされて友達からハブられてるから、彼が
嘘ついてないって証明したいんです」
「そうか、分かったよ」

 僕とグレンさんがロビーのソファで話していると、社員さん二人が牛丼屋の持ち帰
りを提げて、外から帰ってきました。新卒の後輩アンド数年目の先輩といった感じで
す。グレンさんは二人と何やら話しています。

「イーグルさんすか。飛んでっちゃいましたよ。また。午後からのアレがめんどくさ
いとかで」
「引き止めたんですが…すみません」

 イーグルさん?すごく鳥っぽい名前ですが、さかな君みたいな人でしょうか。はた
また楽天のファンかもしれません。…僕の妄想はいいです。真面目そうな先輩アンド
元気な後輩から話を聞くと、グレンさんは難しい顔で天井を見つめていました。

「鳥のことだが、何とかしよう」

 何とかするって、どうやってUMAを探すんでしょうか。そもそも派遣会社と鳥にどう
いう関係があるのでしょう。僕の疑問を読み取って、グレンさんは言いました。

「鳥に詳しい者が今席を外している。帰ってきたら話をつけるから」

 やっぱりイーグルさんは鳥博士なんですね。僕の頭の中では完全にさかな君になり
ました。僕は連絡先を紙に書いて、帰ることにしました。牧先生にもグレンさんにも
後でお礼をしよう。
 社員さん三人はロビーでそのまま立ち話をしています。後輩ぽい社員さんが言いま
した。

「イーグルさん、いないなんて勿体ないなあ。俺午後のアレすごく楽しみなのに」
「皆そう言ってくれるといいんだが」
「だってイケメンが大勢来るんでしょう」

 それを聞くとグレンさんはがっかりしたように肩を落としていました。午後のアレ
って何だろう。僕は受付のお姉さんに会釈をして会社を出ました。

 大通りを、バス停の方に向かって歩いていました。ふいに辺りが暗くなって、大き
な影が会社の方向に向かって通過していきました。僕が驚いて空を見上げたときには、
もう何もありませんでした。ビルの間には抜けるような青空が広がっています。排気
ガスと草のにおいを運んで、湿り気のある風が吹いてきました。都会の喧騒に混じっ
て蝉の声が聞こえます。僕はソフトクリームが食べたくなったのでコンビニに立ち寄
りました。

【END】

※同シリーズの続きは 創作物スレ2-518

※一応説明
僕…ダニー
お兄さん…ベルナルド
チンピラ…リコ
先生…牧先生
同居お兄さん…繊さん
巨大鳥、UMA…イーグルさん(今回全く出てきません)
先輩社員…カイさん
後輩社員…シエンさん
下水に住んでる生き物…主任
小学生二人…ただのモブ
この話ではベルナルドは特にフィクス社の人にも医院の人にも出会ってません。



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最終更新:2014年09月01日 21:45