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「Dolls do not grieve」


作者:本スレ1-200 様

247 :オリキャラと名無しさん:2013/06/09(日) 23:49:29

こんばんは 1-200 です。SSをwikiに投下しました。
注意事項をお読みの上お願いします。

 ※1-710様の世界観ベースのクロス設定
 ※1-710様作の「-CROSS INPACT ZERO-交錯する想い-」の、シンサイドの続きです。
 (シルヴィアさんと駅で別れたその直後)
 ※暁の翼内部の紹介という感覚でお読み下さい。
 ※不潔、汚物、虫、ブサメン注意。
 ※子供いじめ注意。
 ※やや長め、エロ無し。

――――――――――

やっぱり命令違反でも直接牧医院へ行った方がよかったのかもしれない。
もらったサッカーボールを眺めながらそう思った。
先にシルヴィア――ET04に接触したのはどう考えても失敗だった。
目的はU01なのだから、余計な事をせずに捕獲なり体組織の採取をするべきだったのに、
主任はなぜかシル…ET04にも拘ってる。
今からでも戻って牧医院へ行ってみようか。飛べばそんなに時間はかからないと思う。
でも帰還命令の時間まであまり時間が無い。時間延長の連絡を―

「戻ったかコル・スコルピィ。さっさと入れ」

 *****

「ET04と接触は出来ただろうねェ?」
「はい。1時間37分13秒の接触に成功しました」
「U01は?」
「接触できませんでした」
「接触出来なかったァ?お前は何をしに行ったのだ?」
「申し訳ありません」
「とりあえずレコーダーをよこせ。話はそれからだ」

デラックスルームのソファに腰掛けて、主任はICレコーダーに記録された音声を聴いている。
視線の先のノート型PCには、微笑みを浮かべたET04の画像とデータが映し出されている。
別れ際に彼が僕に言った言葉を思い出す。

『君は家族にちゃんと誉めてもらえると思うよ』

シルヴィア、やっぱり褒めてはもらえそうにないよ。
そもそもここの人達は、どんなに上手く任務をこなしても僕達を褒めるっていう事はしないんだ。
それとも彼らが「家族」だったら褒めてくれるんだろうか?
僕にはそれがいないからよく分からない。

主任は黙ってイヤホンを耳に当てたまま、ピザやインスタントヌードルを口に運ぶ。
テーブルの上には食べ物やコーラが散乱し、ベッドのシーツはぐちゃぐちゃに丸まって、
汚れた下着が放り出してある。
もちろん僕は部屋の角に立たされたままだ。バイオロイドは奴隷だから、座るなんて許されない。

この人の事は嫌いだ。体はヒキガエルみたいにブヨブヨで、毛穴からも口からも変な臭いがする。
髪はいつも脂で湿っていて、頭を掻くのが癖だ。掻いた後によく指のにおいを嗅いでいる。
以前見たホラー映画で、皮膚を裂くと中からドロドロした汚物や蛆虫が流れ出てくる化け物、
なんてのがいたけど、体の中には内臓じゃなくてあんな風に汚い物が詰まっててもおかしくない。
汚いだけじゃない。自分より偉い人にはへこへこしてるくせに、部下や僕達バイオロイドには
すごく威張ってる。本当は怖いくせに。
でも今ではヘンリーのが偉くなっちゃったから、それもすごく気に食わないっぽい。
それに、男なのに男のルーシェルの事が好きみたい。へんなの。
前にメンテナンスルームでキスしてるのを見た事がある。なんで男同士でしてるの?って
ヘンリーに聞いたら、そのうち教えてくれるって言ってた。なんで今教えてくれなんいんだろ?

ヘンリーも日本に来ればよかったのにな。この人ともう一人のおばさんが一緒に来てるけど
どっちもすごくつまんない。
シル…ET04がサッカーやろうって言った時に付いて行ってしまったのは、そのせいだったのかな。
自分でもよく分からないけど、ET04と一緒に居ると判断力が鈍くなる気がする。
だからサッカーも今日はいつもより力が入ってしまった。前にあれくらいで蹴った時は、
キーパーの子が肋骨を折っちゃってすごく怒られたんだけど、ET04は全然平気だったみたいだ。
そりゃあそうだよね、彼もバイオロイドだもの。

彼はヘンリーと同じで、動物に変身するタイプのバイオロイド。黒い狼に変身したところ、見てみたいな。
そして戦ってみたい。女の子みたいな顔してるけどサッカーもすごく上手だったし、きっと強いと思う。
僕も鷲とか鷹とか、かっこいい鳥に変身できればよかったのに。
今でも飛べるけど、人に見られるといけないから町の中で低空飛行しちゃダメって言われてる。
日本には高いビルがいっぱいあるから、空から見てみたいのにな。


「いやいやいやこれはまずいねェ…」

クッチャクッチャとピザを咀嚼しながら、主任はわざとらしく大きなため息をついた。
反射的に息を止めて、次の言葉を待つ。

「もう少し上手くやると思っていたんだがなァ…。
 声のかけ方から教えてやらないと駄目だったか?
 もうこれは完璧に怪しまれているねェ。
 今頃お前の事はET01やら、牧医院の連中にも漏れているだろうなァ。
 包囲網ができるのも時間の問題、もはやお前一人ではこの任務は無理だろうなァ。
 まあ最初から大して期待してなかったがねェ…」

だったら自分でやれば。なんて言ったら、アレスみたいに電気ショックの刑だろうな。
アレスは偉い人達に逆らってばかりいる。昔から反抗的だったみたいけど、最近酷くなってきてる。
だからよくお仕置きされてる。次世代バイオロイド開発の実験も兼ねて、相当酷い事もやられてるらしい。
それでもやめないし、洗脳処置の効果も薄いから、近いうちに脳手術する事になってるんだって。
ヘンリーも本当は偉い人達を馬鹿にしてるけど、上手に騙してる。
きっとアレスは頭が悪いんだと思う。
でももちろん黙ってお仕置きされるような人じゃない。
その気になれば、人間のスタッフなんか一瞬で灰にできる。
そんな風にならないのは、反乱防止システムがあるから。

僕達に組み込まれた反乱防止システムには色々あって、
特定の人間には危害を加えられないようにするプログラムもそのうちのひとつ。
その特定の人間というのは体内に特殊なチップを埋め込んでいて、
主に組織の上層部と上級技術者だ。もちろんフランツ博士も含まれてる。
これを持ってる人間には、僕らは手を下す事はできない。ロックが働いて行動が制限される。
巻き添えを狙って違う人をターゲットにしても、傍にその人がいれば同じ事になる。
ちなみにこの主任にはチップは無い。代替がきくような人員にも行き渡る程、
安いシステムじゃないんだってさ。

でも、どんな下っ端だろうと、組織の人間に危害を加えれば重い懲罰が課される。
僕達は人間より遥かに強力に作られているけど、僕達を管理するシステムは
それ以上に強力に作られてる。嫌になったからといって逃げる事はできないし、
自殺もできない。自己破壊行為は、自爆回路がONになっている時だけ出来るようになってる。

結局人間に逆らう事なんか出来ないんだ。与えられた任務をこなして、
手に入る範囲の自由を最大限に楽しむ。それが利口なんだ。
ルーシェルはそう言ってるし、僕もそう思う。

「本国に報告しなきゃねェ。でも下手したらボクまで怒られちゃうよ、
 迷惑な事だねェまったく。
 指示があるまでお前は待機。外出は一切禁止。命令だ、分かったか?
 ……返事しろよ、人形がァ!」

唾と食べかすを飛ばしながら怒鳴る。この人は無視されたり返事をしなかったりするとすぐ切れる。
手に持っていたフォークを投げつけてきたので、ちょっとだけかがんでよけた。
あんなの当たっても平気だけど、あいつの唾液が付くのは嫌だ。

「クソ人形が…。
 ああ、それとこれは何だァ?」

そう言って主任は僕に近付き、ネットに入ったサッカーボールをひったくって目の前で揺らした。
シルヴィアがくれたって分かってるくせに、人間はたまにこういう事をする。

「何が仕掛けられているか分からない物を、安易に持ち帰るなと言ったはずだろォ?
 規定通り調べるからな、邪魔するなよ?」

ニヤニヤしながら懐からナイフを取り出し、ネットの上からボールに突き立てた。
鋭いコンバットナイフが人工皮革にあっさりと沈み、ボールはゆっくりと変形して行く。
ナイフの刃は何かの脂で曇っている。最近使ったのだろう。戦闘員でもないのに?

「盗聴器などは無いようだなハハハ。今後は敵から物をもらうような行動は慎めよガキ。
 これは返してやろう、ボクは子供に優しいからねェ」

変形してスープボウルのような形になったそれを僕に向かって放り投げる。
出て行くよう顎で指示しながら、再び冷めたピザを頬張り始めた。

 *****

シルヴィア、買ってくれたボール、壊れちゃったよ。君が知ったら怒るかな。
帽子にしてみたよ!だめかな、面白くないね。

一番小さなスタンダードルームのベッドの上で、つぶれたボールを縦にしたり横にしたり。
窓の外がすっかり暗くなった事にも気付かずに、次に会った時にどう言おうかと
僕はずっと考えていた。

【end】



以上本文終了です。
説明文ばかりになってしまいましたが、お読みいただいた方はありがとうございました。
以下は補足です。

 ・暁の翼の職員は、他組織の主要な人工生命体や魔族等をコードネームで呼びます。
  シルヴィアさんのET04は欧州(europe)と獣人(therianthrope)の頭文字で、
  欧州連合の獣化型ナンバー4の意。イーティーフォーと発音。
  U01は未知の~(unknown)の頭文字で、繊さんの事です。他の人達もこんな感じです。

 ・シンはシルヴィアさんが狼に変化する事を知ってますが、
  これはフランツが長年ストーカーしていた賜物です。エドワードさん作の子達については、
  能力や履歴等、フランツが知りうる限りのデータを与えられています。

 ・シンが語っている反乱防止システムを搭載しているのは、アレスとシンのみです。
  ルーシェルは反乱の確率は低いし、簡単に射殺できるので自爆回路のみ。
  ヘンリーさんは一部の幹部と仲良しっぽい(という事で良いでしょうか?)ので免除されてるでしょう。

 ・暁の翼施設内には、バイオロイド自体を制御するシステムの他にも
  バイオロイドのみを判別して攻撃可能なレーザーガンとか、
  理論上バイオロイドの力でも破れないシャッター(+無力化ガス)とか、
  万が一彼らが暴れても抑えられるように色々な設備があります。
  そこまでするならアンドロイドにしとけば…と思いますが、生体なら金属探知機やX線検査も
  スルーできるので、結果として利益が大きいのだと思われます。



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最終更新:2013年06月10日 20:34