「-CROSS IMPACT ZERO-交錯する想い-」
作者:本スレ 1-710様
34 :-CROSS IMPACT ZERO-交錯する想い-:2012/12/23(日) 21:37:50
34 :-CROSS IMPACT ZERO-交錯する想い-:2012/12/23(日) 21:37:50
【01】ルーシェル(RSR_00)
――解ら、ない。
彼は泣いていた。あのβ2という男に組み敷かれていた、あのとき。
彼は、私が今もこの施設の人間から、時折、施されるのと同じ行為を強要されて泣いて
いた。
あれは、あの表情は、嫌だとか。苦しいとか。そういう意思表示なのだと、彼が行為を強い
られ続けている、音声データのない、画像データのみをひとしきり見せられた後で聞いた。
だから。
彼は、β2と、その男から成される行為を、排除したいと思っているのだと。
あの後も、強くそう思って過ごしているのだと。
ずっと、そう思っていた。
そして、それでも私と同じように。
今も折にふれて、無為にあの行為を施され、強要され続けているのだと。そう思っていた。
でも、つい最近。
彼以外の対象者をターゲットとした策敵を兼ねた情報収集の作業中に偶然拾った、ほんの
断片にしか満たない動画データの中で。
彼は、あの男、β2と――もう一人、同じ顔をした短い髪の男と行動を共にし、微笑んで
いたのだ。
その数秒の、しかも断片的にしかフォロー出来ない動画データの中で、彼はβ2と、もう
一人の男の双方から、軽く口付けを施されていた。
それを受けて、彼は相対する男二人に対し、穏やかに微笑むと、自ら優しい口付けを返し
ていた。
あれは。
人間が何らかのプラスの気質を伴う感情を持つ時に見せる表情と行為に近しいものだ。
何故、EL-SION-TYPE-α1、エル――彼はそんな表情をするに至ったのだろうか。
それに。
与えられる課題以外には、関心など向かないように設計されている私が、何故、彼の事に
こんな風に思考を巡らせているのか。それさえも、解析不能なのだが。
EL-SION-TYPE-α1、エル――彼と直接、対峙出来れば、コンタクトが取れれば。
何か解るのだろうか――。
私の電脳プログラムの思考領域からEL-SION-TYPE-α1、エルという項目が外れる事が
極めて少なくなったのは、そんな仮定へと思考を廻らせるようになったからだろうか。
「……いつか、逢えるよ」
EL-SION-TYPE-α1、エルが、以前、誰かの為に呟いた音声データと、その言葉が、不意
に耳元を掠めた気がした。
【END】
目にした瞬間、綺麗だと思った。ただ、純粋に、あれを自分のものにしたいと思った。
メサイア――LE-MESSIAH-TYPE-Ω1、彼は、現存する人工生命体の中での最高峰の性能
を誇る個体なのだと聞いた。
彼は、その容姿、知能、機動性、そして――サイキックと呼ばれる特殊能力に至るまでの
全てについて、彼の製作者の知識と技術を限界まで注ぎ込んだ結果を世に現すという意図
を持って、制作されたのだそうだ。
幾ら世界最高峰の機能を誇る個体とはいえ、遺伝子系列を含めたプロダクトコードの全て
にロックがかけられていて、複製など全く不可能な奴に、最初は、一体、どれ程の価値が
あるのかと思っていた。
でもそれは違った。メサイア――あいつは、彼の製作者が後に生成したEL-SION-TYPE-α1
や、その他の個体と同じように、精神系列に一切の制御を施されていない。
あいつに認知されるという事、あいつから同格だと認められるという事――。
あいつから欲され、求められるという事――。
それは、少なくとも、最高峰の性能を持つと認められる奴から僕自身が欲され、その存在
を求められ、この施設に居る人間達からも、いや、それ以外の多くの人達からも、
僕は殊更、強く格別な存在として、改めて認知されるという事実だ。
その事実を、僕は、ただ一度、あいつと接触した時に、思い知ったんだ。
演算制御などされていない、あいつ自身が、人間に近しい、自然な想いを重ねた結果とし
て、そう思考するのだとしたら。これ程、希少で興深い事実はないだろう。
LE-MESSIAH-TYPE-Ω1――メサイア、君が、今、何故、アルシエル(A-LE-CIEL-TYPE-Ω1)
の存在に固執しているのかは解らないけど。
近いうちに必ず、君を僕のものにする。
それだけは、あのただ一度の邂逅以来、未だに逢う事のない君に約束しよう。
【END】
命令に従って声をかけたんだ。
彼――シルヴィアは少し困ったような顔で、でも、少し微笑みながら僕を見ていた。
そう、彼が一人でいる事は、本当に稀で。今日、この日の、この時間帯なら、彼が通い始めた
学校の帰りに一人になると、僕の周りの人が教えてくれたから。
だから、命令どおりに声をかけたんだ。
「どうして、僕に声をかけたの?」
「貴方なら、牧医院の場所を知っているって聞いたから」
「どうして、牧医院に行きたいの?」
「わからない」
彼は僕の返事をちゃんと聞いてくれていた。
そうして、僕の返事を聞いた後で、彼は少しの間、何も言わずにただ、穏やかなサファイ
アブルーの瞳の視線を僕に合わせたまま、黙っていた。
その後で、彼は僕に向かって、こう言った。
「牧医院の場所は教えられないけど。良かったら、これから少し僕と遊ばない?
近くに公園があるんだ。そこでサッカーでもしない?」
「わからない」
「君は何時までにお家に帰れば良いの?」
「5時」
「お家まではどれ位かかるの」
「わからない」
「お家には何で帰るの?」
「電車」
「電車でお家に帰るのに、どれ位かかるの?」
「53分31秒くらい」
「じゃあ、今は、2時半位だから。1時間半位は遊べるよ。どうかな?」
「……わから……」
「良いよ、行こう! 僕が勝手に決めた! ねえ、少し付き合ってよ」
そんな遣り取りをしながらも、ずっと僕に視線を合わせてくれていた彼は、急にそう言う
と、僕の手を少し強く引き、歩きだした。
僕は本当にどうして良いか解らなくて。でも、彼の言う事に従う事にしたんだ。
そのとき、僕が何故、彼に従う事にしたのか、それは後になってから考えても解らなかっ
た。
彼は、その足で、僕を近くのストアに連れて行って、少し小さなサッカーボールを一つ、
買った。
それから、近所の公園に行って、彼は僕が家に帰らないとならない時間まで、ずっと一緒
に遊んでくれたんだ。
沢山遊んでくれた後に、近くの駅まで僕を送ってくれたんだ。
そして彼は、別れ際に、僕にサッカーボールを手渡しながら、声をかけてくれた。
「シン、あのね、帰ったら、今日は僕と沢山、遊んだって、みんなに伝えてごらん。
君は家族にちゃんと誉めてもらえると思うよ」
「ありがとう。シルヴィアも、僕と遊んだって伝えたら、誉めてもらえる?」
「僕の方はどうかなぁ……。
でも、まあ、きっと良かったって、安心したよって、言ってもらえると思うよ」
「安心?」
「僕のお義兄さんは心配性だからね」
「お兄さんにも今度逢える?」
「どうかな? でも、君とはまた逢えると良いね」
「うん」
「それじゃあ」
そんな風にまたひとしきり話しをした後で、彼は改札の外から僕の姿が見えなくなるまで
ずっと、見送っていてくれていたようだった。
あれから……もう、何日も日にちが経ったんだけど。
何でだろう? 僕はまた、君と遊びたくて仕方ないんだ。
シルヴィア、君は僕がまた声をかけたら、遊んでくれるかな。
次もまた、僕と一緒にサッカーと……皆が僕に新しく教えてくれたゲームをしようね。
【04】ヘンリー・ディ・ソル・ライオット(H-D-SOL-RIOT-01b)
今でも。
つい、昨日の事のように覚えている。
君に逢った日の事を。
ウィリアム・グレイス・ハーグ、君は僕の事など、恐れていなかった。
僕と対峙する事など、全く恐れていなかった。
ただ、そのトパーズブルーの瞳で、
ただ、一人、僕を、君と対峙する事になった僕を、僕だけを見ていた。
その姿があまりにも潔くて、美しくて、とても感動した事を覚えている。
それまでに僕は誰かから、そんな風に視線を送られた事など無かったから。
例え、一時的にとはいえ、全身全霊を傾けるような視線で、見つめられた事など無かった。
だから、一目見て、君が気になる存在になった。
あれから君とは簡単には逢えなくなってしまったけれど。
君は、今、アルと、もう一人の白い子と、小さな義弟との4人暮らしなんだってね。
――待っていて。
いつか必ず、
君を僕のものにするから。
そして、必ず、
君の可愛い義弟達もね、
必ず、この手に入れるよ。
僕の可愛い義弟達と共にね。
必ず、君に逢いに行くから。
【END】
拙いSSにお付き合いいただきありがとうございました!
1-200様のお子達の素敵なイメージを壊してしまっていたら、ごめんなさい。
ああ、でも、共通世界観設定での妄想ってすごく楽しいww
シンさんの方は、感情がないけど、指示は完ぺきに覚えて学習し、それを基に行動する子かつ、
少し幼い子供っぽくて、可愛らしい雰囲気が出せてると良いな、と思っておりますw
そして、新しく教えてくれたゲーム……というのは、もちろん、少し黒い意味も持たせたつもりw
そこにどこまでエロを絡めるかは思案中ですがw
あと、ヘンリーさんの方は、実は、ちょい病的な位に執着気質の高い変な人w的な雰囲気が出せて
いると良いなと思ってますwでも、こういう人大好きだwww
※wiki収録にあたって、wiki掲示板投下内容及びwikiアップローダー掲載内容から再編集
を行いました。
※※wiki収録後に、内容を一部追記しました。
※同シリーズのSSは
創作物スレ 2-054 へ
最終更新:2015年05月13日 22:34