月に照らされた道を歩くのは二人の男女。
美しい金髪に紅眼の可憐な少女、アザリア。
覆面で顔を隠した巨躯の不気味な怪物、
覆面男。
ひらひらとダンスを踊るかのように体を揺らしながら、アザリアは満面の笑みで笑う。
その後ろを無言で歩く覆面男。
「ねえ覆面さん、これからどこへ向かいましょう」
「……」
「ここから近い電波塔なんでどうでしょう」
「……」
「ふふ、無口な方ですね」
アザリアの言葉を全て無視する覆面男だが、アザリアはそれで構わないと思う。
この殺し合いに呼ばれて直後、アザリアの心を襲ったのは寂しさだった。
そばに誰もいない。サイパスおじさんも
ヴァイザー兄さんも、
バラッド姉さんも、ピーターもいない。
物心ついた時から彼女の周りには常に誰かがいた。
組織でお留守番をする時も必ず彼女以外にも必ず誰かいた。
一緒に『お仕事』に行く時も誰かが一緒について来た。
今は誰もいない。彼女は一人ぼっち。
だから、この場所で最初に趣味が合う『同士』に出会ったのは幸運だった。
「作品を作っているあなたを見た時、すぐにわかりましたのよ。あなたとは上手くやっていけそうって」
覆面男は何も言わず、ゆっくりとその巨体を揺らして歩いている。
手にもつ血濡れの大鋏を引きずりながら。
ついさっき一人の無鉄砲な記者を解体した凶器を引き摺りながら。
「私とあなたはきっといい友達になれるわ。ねえ、覆面さんもそう思うでしょ?」
覆面はゆっくりと首を横に振った。
「あらあら残念。ふられちゃいました」
言葉とは裏腹にアザリアさほど残念そうな顔をしなかった。
「でもいいんです。私が覆面さんを友達と思っていれば、いつか覆面さんも私のことを友達と思ってくれますから。本で読んだ知識なので確証はないんですけど」
覆面男はやはり答えない。
彼が何を考えているのかを判断できる者は非常に少ない。
かつての
初山実花子なら可能かもしれないが、今はその力を失っている。
それでも
アザレアは信じている。
いつか覆面男が自分に心を開いてくれることを。
「もし友達になれたら、素顔、見せてくださいね」
そう言って笑うアザレアの顔はまるで天使のように清らかだった。
◆
電波塔が近づいてきた。
リクは僅かにため息をつく。
「あらら、気が緩んでるわよ、氷山くん」
白兎の茶化すような声にむっとするが、同時にこの場でも余裕を保つ白兎の胆力に感心する。
「なあ社長。電波塔には先に俺が入っていいか。社長は俺が合図をするまで外で待っててくれ」
いくら悪の秘密結社の総統で傭兵仕込みの戦闘技術を持つとはいえ、
雪野白兎は生身の人間である。
自分のような改造人間ではない以上、自分が先に電波塔内部の安全を確認するべきだとリクは判断した。
「ちょっと、私は保護対象じゃないって言ってるでしょ」
「だが、このほうが安全が増す。後は社長のプライドの問題だぜ」
確かにリクの言うことはもっともだ。
弱者として扱われるのは癪に障るが、別に死に急ぎたいわけではない。
「分かったわ。ただし危なくなったらちゃんと逃げてよ」
「おいおい、俺は『政府特別公認英雄』だぜ。危ないやつがいたらやっつけてやるさ」
「葵がいたら抱きしめておっぱい揉みなさい」
「セクハラじゃねえか!いや、そんなことしたらヒーロー失格だぞ俺」
「合意を得てるからただのいちゃいちゃで済むわ」
「いつ得たんだよ。空谷さんなら怒るに決まってるだろ」
じと目で白兎はリクを睨む。
「鈍感はこれだから」
「おい、どういう意味だ」
「いいからもうさっさと電波塔へ踏み込みなさい。そして中で待ち構えてる大首領とドン・モリシゲとヴァイザーと戦ってきなさい」
「ボスラッシュじゃねえか」
なんだ急に不機嫌になったんだ、と呟きながらリクは電波塔へ向かって歩いて行った。
一人、白兎は座ってリクの合図を待つ。
「あーあ、あれじゃあ葵の恋が実るのはいつになるやら」
「あら、何か悩み事ですか、お姉さん」
その声を聞いた瞬間、白兎は体を翻して後方へ跳ねとんだ。
「いつから後ろにいたの?」
白兎の視線の先にいる者は幼い少女だった。
金髪の、西洋人形のような美しい少女はナイフをを持っていた。
「さあ、いつからでしょうね」
雪野白兎は実力者だ。
身体能力もそうだし、気配察知能力も一流である。
もし、彼女を不意打ちで殺せる人間がいるとすれば葵や蓮のような心を許した人間。
もしくは、
アサシンレベルで殺気を隠せる人間。
殺し屋組織のマスコット、アザレアは決して強い人間ではない。
白兵戦能力は組織の中でも限りなく下のほうだし、銃火器を使ってもヴァイザーやサイパスの足元にも及ばない。
しかし、『殺気を消す』。この一点において、アザレアはヴァイザーを上回る天才だった。
「まさか私がそう簡単に後ろを取られるなんてね。しかもこんな小さな女の子に。世界って広いわ」
アザレアは殺人を何とも思わない。
彼女にとって殺人は『作品』を作るための手段でしかない。
普通の人間が紙に絵の具を滴らすような感覚で、彼女は人を殺せる。
ゆえに、殺気は発生しない。
「しかし私としたことがうっかりしてました。つい、『恋』なんて言葉を聞いて好奇心が抑えられなかったんです」
「だから思わず聞いちゃったと」
「はい、恥ずかしながら」
かっわいいー、と白兎は囃したて、アザレアは顔を真っ赤にする。
「ま、それはおいといてさ。アザレアちゃん、私の後ろをとったことは水に流すからさ、私と一緒に行動しない。一緒にあの革命野郎を倒しましょう」
白兎はそう言った。もちろん、アザレアがただ背後をとっていただけとは思っていない。
きっと彼女はその手に持ったナイフで自分を殺すつもりだったのだろう。
が、それぐらいのことは笑って許せなくて何が悪の秘密結社か、と白兎は思う。
仲間達に合わせる前に『教育』する必要はあるが、もし彼女と一緒に脱出できればラビットインフルにロリ枠が増やされるのだ。逃す手はない。
「私と一緒に行動したいのですか、お姉さん。どうして、どうして私と」
「可愛いから、じゃ駄目?」
アザレアは困った。殺すつもりだった人間に同行を求められる。
しかし、覆面男のようなシンパシーは感じない。一緒にいてもつまらない、と判断した。
「最初に出会ったのがお姉さんでしたら、また違った答えだったかもしれませんけど、私は今の同行者に満足しています。だからこの話はなかったことに」
「ありゃりゃ、振られちゃった」
残念そうに白兎は肩を落とす。
その隙を突こうとアザレアはナイフを構えて疾走する。
相変わらずアザレアに殺意はなく。
やはり一瞬、恵理子は反応に遅れる。
しかし、この場合はそれで構わなかった。
アザレアが笑いながら振り抜いた銀の軌跡は、白兎の腕によって絡め取られる。
突っ込んだ勢いを殺しきれず、アザレアはそのまま前に引っ張られる。
「え、あら、ら……」
そして、彼女の首筋に白兎の手刀が叩き込まれた。
アザレアが完全に気を失っていることを確認した白兎はリクのようにため息をついた。
「まあ氷山くんを呼ぶまでもなかったわね」
雑魚、と断言するつもりはない。彼女が本気で殺す気だったなら自分はもう死んでいる。
だが、アザレアにとって殺しは遊びであって絶対ではない。
実際、彼女は殺し屋組織に属してはいるが、今の段階では優秀なヒットマンとはとても言えない。
気まぐれだし、ナイフや素手喧嘩では一般人に毛が生えたようなもの。
「できればこんな可愛い娘はそういう血なまぐさい組織から抜けて欲しいんだけど」
そもそも彼女が最初の一撃を不意にした瞬間、白兎の勝利は確定していたのだ。
暗殺や重火器を使った撃ち合いならともかく、面と向かった白兵戦では圧倒的に白兎に分がある。
「さてと、何かロープのようなものあるかしら。っていうかリクくんのほう全然見てなかったわ」
いきなりの命の危機に緊張してたのかな、と自分を納得させながら彼女は電波塔のほうへ視線を向ける。
電波塔の外で、変身したシルバースレイヤーと謎の覆面の大男が戦っていた。
「え、なにこれ」
白兎の呟きが夜の闇に消えた。
◆
「何怒ってんだ、社長のやつ」
同じ大学に通っている彼女を、しかしリクは詳しいことはよく知らなかった。
彼女とは一緒に授業を受けたり、何度か戦ったりしたが(といってもごっこ遊びのようなもの)、彼女の生い立ちやあの強さの理由をリク知らないし、聞いたこともない。
「さて、合図は何にするかな」
やはり、大声で叫ぶのが王道だろう。こんな殺し合いの場でそんなことをするのは自殺行為だということはもちろん承知しているが、しかし他に方法はない。
まさか、懐中電灯でモールス信号を打つような真似はしない。光というのは音以上に遠くへ居場所を伝えるものだ。
と、こんなことをリクが考えていた時だった。
もうすぐ着くはずだった電波塔。その入口である扉が、内側から開いた。
リクは様子を見るために立ち止まる。
現れたのは異様な風貌の男だった。
2メートルを越す巨躯に顔を覆面で覆い、手には血濡れの大鋏。
そう、それは恐怖の申し子。
「まさか本当にいるとはな、覆面男!」
そう言って、リクは力ある言葉を唱えた。
「シルバー・トランスフォーム!」
◆
「今度は私が作品を見せる番ですね」
電波塔に着いてすぐ、アザレアはそう覆面男へ言った。
その言葉を無視して、覆面男は部屋の隅に座り、石のように動かなくなった。
「覆面さんはここで待っていてください。後で批評会をしましょうね」
健やかな笑みでそう言って、アザレアはバックを置いて出て行った。
それに一瞥もくれず、覆面男はじっと座っている。
なぜ、彼はアザレアを殺さないのだろうか。
彼女が言っているように仲間意識を感じているからか。
ただの気まぐれか。
はたまた、子供は殺さない紳士的な殺人鬼なのか。
その真相は誰にも分からない。
【h-6 電波塔前】
【
氷山リク】
状態:健康 シルバースレイヤーに変身
装備:なし
道具:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:人々を守り、バトルロワイアルを止め、
ワールドオーダーを倒す。
1:覆面男を倒す。
2:
剣正一、
火輪珠美、佐野蓮、
空谷葵と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
※ブレイカーズ、悪党商会に関する知識を得ています。
【雪野白兎】
状態:健康
装備:なし
道具:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:バトルロワイアルを破壊する。
1:氷山リクの合図を待つ。
2:佐野蓮、空谷葵、剣正一、火輪珠美と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
4:アザレアの処遇をどうするか考える
※ブレイカーズ、悪党商会に関する知識を得ています。
【アザレア】
[状態]:気絶
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~2
[思考・行動]
基本方針:自由を楽しむ
0:気絶中
1:覆面男とお友達になってお散歩する
2:覆面男に自分の作品を見せる
【覆面男】
[状態]:健康
[装備]:肉絶ちバサミ
[道具]:基本支給品一式
[思考・行動]
基本方針:ニンゲン、バラす
1:???
※アザレアをどう思っているのかは不明です。というか何を考えてるのか不明です。
最終更新:2015年07月12日 02:35