「ゆるさあああぁぁぁぁぁーーーーーんッッ!!!!!!!」


初っ端から彼は怒り心頭だった。
肺と喉より憤怒のままに吐き出される叫び声が周囲の雑草を揺らし空気を震えさせている。

「このボクにむかって「ころしあえ」だと!?ぶれいにもほどがあるのだ!」

彼の名はミロ・ゴドゴラスV世。
龍王族ゴドゴラス家の正統後継者である由緒正しき龍人だ。
まず眼を引くのは2mを超す強靭な肉体。育ちの良さを伺わせる王族風の衣装の下から覗く蒼い鱗。
そして龍そのものと言っても過言ではない頭部の形状。声を荒らげる度に口からはギラリと鋭い牙が覗く。
彼の怪物じみた風貌は普通の人間から見れば余りにも異質極まりない。
しかし彼の口調は低く野太い声に釣り合わぬ程に幼稚で舌足らずである。
それもそのはず。彼はまだ人間年齢で約8歳程度に過ぎない幼子なのだ。

「あいつ、ワールドオーダーとかいったな!こんなくびわまでつけるなんて!
 くびわのばくはなんかでボクが死ぬわけがないとはいえ、みのほど知らず!ゆるさない!」

怒りの声と共に口からは火炎混じりの吐息が吐き出される。
まだ赤子だった時期より王族の後継者として甘やかされて暮らしてきたミロ。
その結果わがままで身勝手な性格に育った彼にとってワールドオーダーは許し難い存在だった。
自分を勝手に呼び出すだけに飽き足らず、こんな首輪まで付けて殺し合えと指図してきたのだ。
当然ムカついた。その上革命だの可能性だのなんか偉そうにペラペラと喋っていたのが余計に彼をイラつかせていた。

「ゴドゴラス家の血すじをてきにまわしたコトをこうかいさせてやる!!」

故に彼の方針は即座に決定される。
当然、あのワールドオーダーとかいう無礼者をぎったんぎたんにしてやるのだ。
少し前に確認した名簿にワールドオーダーの名前は記載されていた。
つまりこの島のどこかに彼がいるということになるだろう。
最初の説明の場で見た片割れの方かもしれないが、そうであったとしてもボコボコにして本物の居所を吐かせればいい。
よし、そうと決まれば行動開始だ!アテは無いが、島中を動き回っていればいつか見つかるだろう。
あ、でも出来れば部下の一人や二人―――

「ん?」

方針についての思考に没頭していたその時、ミロは気付く。
自身の後方に人影がいることに。彼はゆっくりとそちらへ振り返った。


「アイツらの、一員…だね」
そこに立っていたのは、白い髪の少女だった。
氷の様に透き通った美しい瞳がミロの姿を見据える。
その表情には明らかな警戒の色が浮かんでいた。


◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆


白い髪の少女―――水芭ユキは焦っていた。
始まりは唐突だった。いつものようにこっそり夜中にウチを抜け出し、街のパトロールを行っていた最中だった。
そうしていたらいつの間にか意識がぼんやりと薄れ、こんな殺し合いの地へと誘われていたのだ。
彼女は名簿を見た途端に焦燥と不安を抱いた。

(お父さん…みんな…!)

悪党商会のメンバーの名前。同じ学校に通う同級生の名前。
そう、名簿には自身の知り合いの名が幾つも記載されていたのだ。
それどころか、あのブレイカーズの人間まで混ざり込んでいる!
それを確認するや否や、彼女は支給品も取り出さずに走り出していた。
無論、ブレイカーズの人間が他者に危害を加える前に一刻も早く止めたいという思いもあった。

だが、その精神の根底に芽生えていた感情は『恐怖』。

お父さんや悪党商会のメンバーも、もしかしたら死んでしまうのではないか。
戦う力を持たない同級生のみんなは紛れ込んでいる卑劣な悪人に殺されてしまうのではないか。
ブレイカーズの大首領のような化け物が混ざり込んでいるんだ。
みんなを容易く殺す程の力を持つ悪人だって―――いるかもしれない。
孤児であった彼女は、再び「独りぼっち」になることを強く恐れていた。
両親を殺され、一人で泣き喚いていたあの頃に戻ってしまうことをどうしようもなく畏れていた。
故にユキは走り出していた。焦燥感が冷静さを奪い、彼女の身体を動かしていたのだ。

「はぁっ…、はぁっ…」

何も無いだだっ広い草原を駆け抜けた彼女は、一人の影を発見し一定の距離で立ち止まる。
それは2mは越えているであろう巨体の持ち主だった。
何か大きな声で喚いている。低く野太い声に反して言動は何処か子供のようだ。
背を向けながら声を上げている相手は此方に気付いていない。

恐る恐る忍び足で影の主に近付いた彼女は気付く。その姿の異様さを。

(…こいつ、もしかして)
影の主の姿は、一言で言って龍人だった。
王族風の装いから覗く肌から伺えるのは蒼い龍鱗。
両手から生えているのは鋭い爪。そして背後から僅かに伺える、龍の如し頭部。
彼女はその時、確信を抱いた。
普段の彼女ならばもう少し冷静に思考が出来たかもしれないが、今の彼女にはそれが出来なかった。
殺し合いという状況で確かな焦りを抱いていたのだから。


「アイツらの、一員…だね」


ユキがぽつりと一言を漏らす。
その直後、龍人がゆっくりと振り返った。


◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆


「こんな所で会えるなんてね。ブレイカーズ」
「は?」
「大方、あの大首領と似た様なタイプの『ドラゴンの怪人』って所かな」

右手から身構えるかの如く冷気を放出させているユキを、ミロはぽかんと見ている。
なんだこいつ。初対面の時点でミロはそう思っていた。

「だけど、好きにはさせないよ。私がいる限りは」
「おまえはなにをいってるんだ…」
「ブレイカーズの怪人!あなた達は私が徹底的に倒―――」
「いや、だからブレイカーズってなんだよ」

ミロの率直な発言を耳にして「えっ」と呆気に取られた一言を漏らすユキ。
ぱちぱちと何度か瞬きをし、ぽかんした表情でとミロを見る。
直後にむすっとした表情で腕を組むミロがユキにのそのそと近付いた。

「ボクはブレイカーズだのかいじんだのガイジンだの、そんなものはしらん。
 たぶん人ちがいだ。このぶれいものめが」

尊大な態度でグイッと顔を近づけながらミロはそう言い放つ。
龍人の顔面が目の前に迫ったユキはちょっとばかし驚いて後ずさるも、彼の顔をまじまじと見つめる。
僅かながらも落ち着きを取り戻し始めていたユキは相変わらず呆気に取られた様にミロを見ていた。
暫しの沈黙の後、誤解に気付いたユキは恥ずかしそうに目を逸らし。

「…えっと、その……ご、ごめんなさい…!」

すぐさまその場で頭を下げて謝った。


その後二人は草原で座り込み、情報交換を行った。
ユキはミロの外見を見て彼のことを「ブレイカーズの怪人」だと思い込んでいたのだ。
勘違いで攻撃しそうになったことに負い目と申し訳なさを感じていたユキ。
しかしミロは「きにするな!ボクはちいさいことは気にしないのだ!」と寛容な態度を見せ、これを許したという。
尤も、寛容というよりは気まぐれなだけだったのだが。

「ひみつけっしゃ…ブレイカーズ…それにあくとーしょうかい、か…」
「ええ。ブレイカーズには気をつけて…あいつらは悪の秘密結社。私も度々怪人を退治してるんだ」

名簿を確認するミロに対してそう言うユキの拳が握り締められる。
その表情にはどこか怒りと憎しみが籠っている様にも見えたが、ミロは気付いていなかった。

「あくとーしょうかい、ってのもワルいやつらか?」
「いや、悪党商会は私の家族みたいなもの。私もそこのメンバーだしね。
 悪党商会のみんなは仲間だと思っていいよ。だけど…その、茜ヶ久保ってやつは」
「なかまじゃないのか?」
「うん、仲間…なんだけど。ちょっと心配で…」

悪党商会のメンバー「茜ヶ久保一」。
ユキの脳裏に浮かぶ彼の姿は―――正義のヒーローや一般市民を殺害し、愉悦の笑みを浮かべている残忍なもの。
彼は悪党商会の中でも一際凶悪な幹部だ。
孤児をも増やしかねないそのやり方は正直言って嫌いだし、何度も反目し合っている。
あいつなら、殺し合いにだって乗るかもしれない。それ故に彼のことだけは別の意味で不安だったのだ。
ミロはそのことを聞き、一先ず危険なヤツとして頭に留めておくことにした。

「改めて聞きたいんだけど、ミロさん…だよね?貴方は殺し合いに乗るつもりは…」
「ない。ボクはあのワールドオーダーってヤツをめっためたのぎったんぎったんにしてやることがもくてきなのだ」
「それなら良かった。私もこんな殺し合いを許すつもりは無い…そうゆうわけだし、一緒に行動しない?
 あのワールドオーダーってやつを止める為にも、仲間は一人でも多い方がいいしね」
「うむ、よかろう!ひとりよりふたり。ふたりよりさんにん。さんにんより…もっとたくさん。それの方がいい!」

その場から立ち上がったミロはユキにゆっくりと手を差し伸べる。
フッと口元に笑みを浮かべながら、座り込んでいるユキを見下ろしていた。
どこか穏やかにも見えるその表情を見て、ユキの顔も自然に綻んでいた。


「いっしょにたたかうぞ、ユキよ!」
「…ええ!」


差し伸べられた手を取り、少女は立ち上がる。
『王族』の龍人と『悪党』の少女。
二人の参加者はこの殺し合いを打破すべく手を組んだのだ。


◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆


「ユキよ、ボクの『部下』になれるなんてほまれ高きことだぞ!こうえいにおもうのだ!」
「え?いや、あの私、あなたの部下になるなんて一言も、」
「こうえいにおもうのだ!!!」
「あ、はい…じゃなくて!だから、私はあなたの部下になるなんて一言も言ってないよ!」
「じゃあ「しもべ」にしてやる!」
「それ言い方を変えただけでニュアンスは全く変わってない!」

二人は歩きながら妙な言い争いを繰り広げていた。


【A-6 草原/深夜】
【ミロ・ゴドゴラスV世】
[状態]:主催者への怒り心頭
[装備]:なし
[道具]:ランダムアイテム1~3(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:ワールドオーダーをこてんぱんにたたきのめす。
1:あらたな部下をあつめる。
2:じゃまするヤツらもたたきのめす。
3:くびわは気にいらないのではずしたい。
4:ユキはしばらくボクの部下としてはたらかせてやる。
5:ワールドオーダーをさがしてボコボコにする。
[備考]
※悪党商会、ブレイカーズについての情報を知りました。
※「首輪の爆破程度で龍人の鱗と皮膚が破られる筈がない。つまり自分は首輪によって死ぬことはない」と思い込んでいます。
 勿論そんなことは無く首輪の爆破で例外無く死にます。
※二人が何処へ向かうのかは後の書き手さんにお任せします。

【水芭ユキ】
[状態]:健康、不安、焦燥(少し落ち着いた)
[装備]:なし
[道具]:ランダムアイテム1~3(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本行動方針:悪党商会の一員として殺し合いを止める。
1:今はミロと共に行動。でも部下になった覚えは無いです。
2:殺し合いに乗っている参加者は退治する。もし「殺す」必要があると判断すれば…
3:お父さん(森茂)や悪党商会のみんな、同級生達のことが心配。早く会いたい。
4:茜ヶ久保が不安。もしも誰かに危害を加えていたら力づくでも止める。
5:ワールドオーダーを探す。
[備考]
※二人が何処へ向かうのかは後の書き手さんにお任せします。


002.SILVER&RABBIT 投下順で読む 004.二人のクロウ
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GAME START ミロ・ゴドゴラスⅤ世 ひとりが辛いからふたつの手をつないだ
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最終更新:2015年07月12日 02:13