それは中肉中背の、あまり特徴のない少年だった。
強いて特徴を上げるのならば、色素の薄い茶色の髪だが、これも個性と呼ぶにはあまりにも薄い。
彼、天高星の外見から感じられる印象はその程度のモノだった。

そんな彼にも、人とは違う特別な点が一つある。
それは、彼が女性と頭をぶつけると魂が入れ替わってしまうという稀有な特異体質の持ち主であるという事である。
とは言え、まともに生きていれば、人生において女性と頭をぶつける経験などそうあることではないのだが。
何故か彼は頻繁にそういう機会に恵まれるのだった。
そのため、そうならないよう意識的に女性を避けていたら、周囲からはホモ疑惑をかけられる始末だ。
彼は至ってノーマルである。

彼がこの能力に目覚めたのは小学4年の頃だった。
いや、あるいは自覚していなかっただけで生まれつき持っていた能力なのかもしれないが。

初めての相手は、近所に住む女子大生のお姉さんだった。
もはや名前も忘れてしまったが、綺麗なお姉さんだったことはだけは覚えている。
元気よくアパートの階段を登る星少年だったが、途中勢い余って足を踏み外し、その拍子に後ろにいたお姉さんともつれ合う様に転倒。
そこで偶然頭をぶつけ、初めての肉体交換は見事成された。

不幸中の幸いか、お姉さんは頭をぶつけた拍子に意識を失ってしまったため、相手にばれることはなかったが。
なにせ思春期に入ろうかという多感な時期である。
熟れた年頃のお姉さんの体と言うのは純粋な星少年には少々刺激が強すぎた。
元に戻る方法を模索するという名目の下行われた様々な実験は、初心な少年の心に衝撃と共にトラウマを刻むこととなる。

あれは間違いなく人生最大の衝撃だった。
あれを超える衝撃は今後もないだろうと思ったし、その確信は今も変わっていない。

故に、これだけの異常事態に巻き込まれてもパニックにならずにいられるのも、あの経験があったればこそだろうと彼は思う。
まさか間接的とはいえ、この体質が役に立つ日が来るとは思いもしなかったが、異常事態に対するちょっとした耐性というものが付いているようだ。

「すぅ~。ふぅ~」

まず深呼吸をして、心を落ち着け、事態を冷静に考える。
当然、殺し合いなどに応じるつもりはない。というかそんなことは不可能だ。
人を殺せと言われて、殺せる人間なんてそうはいないだろう。
だが首には爆弾が巻かれており、6時間死者が出なければランダムで爆発するという。
その事実に恐怖がないと言えば嘘になるし、この恐怖に負ける人間がいるかもしれないという可能性は考慮すべきである。
まずは早急に安全な場所に避難すべきだろう。

足元を見れば、自身に支給されたであろう荷物があった。
これを回収して、急ぎ足でその場を離れる。
とはいえ、やはり荷物の中身は気になるもの。
なので、歩きながら中身を漁ることにする。

まず気になるのは、やはり名簿である。
取り出した名簿を開き、知り合いの名を探し出すと、程なくしてそれは見つかる。
しかも一つや二つではない。
どういう基準で選ばれたのかはわからないが、抽出範囲はかなり狭いという印象を感じられた。

名簿を見ながら考える星。
だが、やはりながら歩きはよくない。
名簿を見ながら歩いていたため、彼は曲り角の先にいる誰かに気が付かなかった。

「わっ!?」
「きゃ!?」

あるいは彼がしょっちゅう女性と体を交換する憂き目にあってるのは、こういう所に原因があるのかもしれない。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

それは中性的な顔をした少女だった。
器量はそれなりに良いが特筆すべき点は少なく、強いて言うなら同年代の少女に比べ発育が遅い事くらいだろうか。
とはいえ、それも年齢を考えればまだまだこれから期待は持てるだろう。
彼女、裏松双葉の外見から感じられる印象はその程度のモノだった。

そんな彼女にも、人とは違う特別な点が一つある。
それは、彼女がとある条件で自身の性別が男になってしてしまうという稀有な特異体質の持ち主であるという事である。
その条件とはずばり、男性に触れられること。
服越しではなく直接接触に限るのだが、油断すれば街中で発動しかねない条件である。
そのおかげで男性を避ける生活をしていたため、周囲には男性恐怖症として通っている。

とはいえ、凹凸の少ない体型が幸いしてか肉体的変化は主に下半身にとどまり、例え変化をしてもバレることは殆どないのだが。
まあ、その辺は乙女心の問題である。
股間に妙なものがぶら下がる違和感は筆舌に尽くしがたい。

「…………はぁ」

思わず双葉の口からため息が漏れた。
何故こんなことになったのか。
何故自分がまきこまれてしまったのか。
何とも気分が滅入る。
この変な体質になってから不幸続きである。

俯いて下を見れば、足元に転がる荷物に気づいた。
説明に会った支給物だろうか。
どちらにせよ緊急事態だ、もらえるモノはもらっておこうと拾い上げる。
それなりの重さを覚悟していたが、思いの外荷物は軽い。
中身を確認してみると、説明にあった食料などの基本セットの他にナイフなどの武器もある。
これで殺しあえという事だろうか。

続いて名簿を確認したところ、同級生の名が4つ確認できた。
だが、全員あまり親しいというわけではない。
いつも避けてる男子2人はもとより、どこか秘密を見透かすような初山は苦手だし、電波っぽい詩仁も苦手だ。
つまり、別段頼るような相手もいない。
ある意味フリーな状態だともいえる。

「…………殺し合い、か」

手に持ったナイフを見て考える。
彼女だって人並みに死にたくないと思う。
だが、乗る乗らない以前に、感覚がマヒしていて現実感がない。
本当にこんな首輪に爆弾なんて仕込まれているのだろうか?
考えは纏まらない。
纏まらないまま、ひとまずナイフをナイフケースにしまって動き出す。

浮かない頭のまま、ビルの先を曲がる。
そこで死角にいるに人の気配に気が付かなかったのは、注意深い彼女にしては珍しいミスだった。
あるいはこの状況への動揺があったのかもしれない。

「わっ!?」
「きゃ!?」

そんな二人が、出会い頭に衝突する。
ゴチンと音を立てて頭部と頭部が衝突する。

「ぃ……っつ。ごめん大丈夫かい?」

頭部をさすりながら、やってしまったと思いながら立ち上がる星。
目の前にある自分の顔に、いつも通りの肉体の入れ替わりが完了したことを認識する。
だが微妙な違和感がある。主に下半身に。
いや、違和感というより実家にいるような自然さ、とでも言えばいいのか。
ありていに言うと『アレ』がある。

「いえ、大丈夫です。こちらこそ不注意でした。」

頭部を押さえながら、立ち上がる双葉。
股間にはいつもの不快な感触。男性化してしまった証拠である。
目の前の男性に気づかれぬよう、股間を気にしながら立ちあがる。
だが微妙な違和感がある。
服装が違う? いや、服だけではなく全体的になにかが違う。
そして目の前には、いつも見慣れた自分の顔が。

「「なんだこれ?」」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「なるほど。お互い苦労してるんだね」

うんうんと頷くのは裏松双葉、の肉体に入った天高星である。
それに、はぁと気のない返事を返すのは天高星の肉体に入った裏松双葉だ。

お互いこうなってしまった以上、秘密にしても意味はない。
何より緊急事態であるし、二人は互いに己の秘密を打ち明け合った。
互いに特異体質で思い悩んでいるもの同士という事もあり、比較的すんなりと理解に至ったのは幸運だったといえるだろう。

「とりあえず、元の体に戻ろうか。ちょっとごめんよ」

そう言って天高星in裏松双葉は裏松双葉in天高星に頭をぶつける。

「あれ?」

だが、何の変化起こらない。
肉体はそのまま、残った結果は頭の痛みだけである。

「う~~ん」

なぜ失敗したのかを考える星。
発動の主導権が肉体にあるのか、それとも女性ではなく異性との接触が条件だったのか。
今の肉体は男と男。
現状では魂の交換を発動させる条件を満たし得ない。
まずは裏松双葉を元に戻す必要があるようだ。

「裏松さん。君の体って、どうやったら戻れるのかな?」
「…………えっと、あの、ですね」

双葉は思わず口ごもる。
当然ながら元に戻る方法は知っている。
だが、それは乙女の口から説明するのは、余りにもはばかられる方法である。
言ってしまえば、ナニをアレしてアレを出すという方法である。
この方法が彼女がこの体質を恥じる大きな要因であるのだが。

「あの、時間が経てば……そのうち、戻るといいなぁ……なんちゃって」

後半に行くにつれ聞き取れないほどの小声になっていった。
むろん時間経過では戻らないことはさんざん証明済みである。

「時間経過を待つしかないってことか、困ったなあ」
「ええ…………困りましたねぇ」

殺し合い云々の前に頭を悩ます問題が増えてしまった。
彼女にとって、あるいは彼にとってそれは幸運なことと言えるのか。
それはまだ誰にもわからないだろう。

【I-9 市街地/深夜】
【天高星】
[状態]:健康、裏松双葉の肉体(♂)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済)
[思考]
基本行動方針:殺し合いはしない
1:とりあえず、元に戻りたい

【裏松双葉】
[状態]:健康、天高星の肉体
[装備]:サバイバルナイフ・改
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0~2(確認済)
[思考]
基本行動方針:未定
1:どうしよう

【サバイバルナイフ・改】
とある暗殺者が自分用にカスタマイズしたサバイバルナイフ。
小回りが利くよう刃渡りは通常のモノよりやや短く、闇に溶け込むよう全体を黒く染められている
グリップは逆手に握りやすいよう加工されており、手に馴染むよう動物の皮が巻かれている
刃には毒が塗りこまれており、掠っただけでも致命傷となるため扱いには慎重さを要する

018.悪の女幹部 投下順で読む 020.人選ミス
017.一二三九十九の場合 時系列順で読む
GAME START 天高星 転・交・生
GAME START 裏松双葉

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最終更新:2015年07月12日 02:23