[ボンバー・ガール=
火輪珠美]
シルバースレイヤー率いるジャパン・ガーディアン・オブ・イレブンに所属する凄腕のヒーロー。
変身前の正体が判明している数少ない人物であり、彼女が巫女を務める神社には観光客が絶えない。
ヒーロー6人掛かりで挑んでも勝てなかったブレイカーズの幹部を謎の少女、
りんご飴と抜群のコンビネーションで撃退した武勇伝が有名だろうか。
この騒動以降りんご飴を連れて現場に訪れる機会が多くなり、一部ファンの間では絶壁コンビとして
「は?」
この雑誌は何を言っているんだ?
天下の火輪珠美様を野郎の胸板と同等扱いしてやがるのか?
あたしの視力は悪くねぇはずだけど、見間違いの可能性もある。もう一度読み返してみるか。
一部ファンの間では絶壁コンビとして。
イチブノファンノアイダデハゼッペキコンビトシテ。
いちぶのふぁんのあいだではぜっぺきこんびとして。
「この雑誌の編集者、見つけ次第汚ねぇ花火にしてやるから覚悟してやがれよ」
巫山戯た編集者の野郎に苛立ちを覚えながら、あたしは雑誌を閉じた。
そりゃあ、あたしの胸は小せえさ。どこぞの大神官が山ならあたしは壁だって自覚はしてる。
してるけどよ。さすがに野郎と同じ扱いってのはないんじゃねぇか?
喧嘩売ってるのか? もしかしなくても売ってるよな。絶対に煽ってやがるよな、この雑誌。
「そんで、次はこれかよ。こんな葉っぱどうしろってんだ」
説明書には『やくそう。RPG御用達の道具だから用途は説明しなくてもわかるよね』なんて書いてやがる。
ここに使い方がわからねえ美少女がいるんだけどな。
ワールドオーダーはあたしに殺されたくてしょうがないらしい。
こんなもんよりは褌の方がまだ使える。
「で、最後の一つは……」
また本だった。
表紙には禁断の愛
ヴァイザー×りんご飴って書いてある。
人間を掛け算するってどういうことだよ。よくわからねえけど、興味を惹かれたから読んでみるか。
……。
…………。
………………。
「なるほどねぇ」
今まで考えもしなかったけど、りんご飴はあっち系の趣味があるらしい。
そういや、あいつ『ヴァイザーくんはりんご飴ちゃんの嫁!』とかよく言ってたな。
あたしはヴァイザーは自分が仕留めるから手を出すなって意味だと思ってたけど、言葉通りの意味で使ってやがったのか。
これはリクや正一に見せたら面白い反応が返ってきそうだ。ケツに注意しとけって意味も込めて、脱出したらあいつらに見せてやろう。
「りんご飴か。あいつは今頃どこで何してっかなぁ」
本をデイパックに戻していると、ふとそんなことが気になった。
これだけあいつの名前が載ってる物をデイパックに入れたのはそういう目的もあるのかねぇ。
いきなり大量のグッズを見せられるとと、あいつと出会った頃を思い出しちまうじゃねぇか。
◆◆◆◆◆◆
あれは、あたしが喧嘩自慢のゴロツキ共が集う大会に出場した時だった。
これで通算何度目かの出場。あたしは普段のように何の快感もなく決勝戦を迎えた。
そこで出会ったのが漆黒のセーラー服に日本刀をぶら下げ、両手には二丁拳銃を握って不敵な笑みを浮かべる狂人――りんご飴だった。
『あんたが決勝戦の相手か。初出場の癖に決勝進出なんて、やるじゃねぇか』
『こんな雑魚しかいない大会でりんご飴ちゃんが負けるかよ、バーカ』
いつもなら世界的に有名なヒーローである火輪珠美様を前にビビりやがるヘタレばかりなのに、あいつは堂々と舌を出して煽ってきやがったんだ。
鵜院とかいう悪党商会のヘタレ戦闘員でもヒーローが来るとわざとらしく負けやがるのに、一般人の癖して動じないのはこいつくらいだろうな。
『そうかい、そうかい。まぁ言いたいこたぁわかる。あたしも此処の雑魚共じゃ物足りなかったと思ってたところだ』
『ま、そうだろうな。りんご飴ちゃんは観察眼にも自信あるけど、お前は俺様と同じ臭いがする』
『そいつぁ奇遇だな。あたしもあんたから飢えた獣みたいな臭いを感じ取ってた』
あたしはヒーローの間ではあまり評判が良くない。本来なら悪に属するであろう獣を好むヒーローなんて滅多にいないからだ。
普通のヒーローは平和を守るために志願するのが多いが、あたしは違う。戦という祭りを愉しむのに都合が良いからヒーローになっただけの戦闘狂だ。
だから確固たる信念もなければ、特別な正義感や悪に対する恨みも持ち合わせちゃいない。世界の平和とか、そんなもんはどーでもいい。
ヒーローとは名ばかりの狂犬。それがボンバー・ガールの正体ってわけさ。
『そーいうコト。りんご飴ちゃんは強すぎるせいで誰をぶっ倒しても飢えが収まらないんだよ』
『あたしも同じ気持ちさ。ヒーローになって強い奴らと戦えると思いきや、相変わらず雑魚の敵しかいやしない。あたしより強い奴が存在しねぇんだよ。
だから、なぁりんご飴。あんたはあたしを愉しませろよ?』
『それはこっちの台詞だよ、おねーさん。それだけ自信過剰の癖に弱かったりしたら、りんご飴ちゃん怒って狂ってぶち殺しちゃうかもしれないよ!」
『はっ、上等だ。そんじゃあ始めるか、りんご飴。あたしはジャパン・ガーディアン・オブ・イレブンのヒーロー、火輪珠美。能力は今までの試合見りゃわかると思うけど、花火を生み出すことだ。
あんたも名乗りな。全力で戦いを愉しむにゃあ、こういうのも大切だろ?』
『くははっ、名乗りかよおねーさん。いい趣味してるねぇ、りんご飴ちゃんはそーいう熱血展開大好きだぜ。ああ、もう――濡れるッ!』
『いいから名乗れよ。ちゃっちゃと観客共に格好付けた姿見せ付けて盛ろうや、りんご飴のお嬢ちゃん? そしたら後はあたしが絶頂までエスコートしてやるからよ』
『いいぜ、よーく憶えときな。殺し屋狩り、りんご飴。てめえを斃す――男の名だ!
ほら、名乗ったから早くその太くて熱い花火をりんご飴ちゃんにぶち込んでイかせろよ、おねーさん! もうりんご飴ちゃん我慢出来ないよぅ!』
『大きく出たねぇ。やっぱ戦ってのはそうじゃなきゃつまんねぇや。そんじゃ、お望み通りお互い枯れ果てるまで祭りを愉しむとするか!』
それがあたしとりんご飴の初試合。
手榴弾や銃弾、花火が飛び交う
ルール無用の戦いは時間切れの引き分けで幕を引いた。
観客からは盛大な拍手が贈られたが、そんなこたぁどうでもいい。あたしは早々に会場を出たりんご飴を追い掛ける。
『気に入った。あんたをヒーローの協力者に誘ってやる。どうせヒーローそのものにはなりたかねえだろ?』
『ははんっ、おねーさんはりんご飴ちゃんが飼い犬になると思ってるのか?』
『協力者はヒーローと違って組織に縛られないんだよな、それが。あんたの気まぐれで気に入った悪人を倒せばそれで任務達成ってワケさ』
というのは嘘だ。
正しく言うなら、この時点では嘘だった。
後でお偉いさん共に交渉して嘘を本当にしてやったが、リクや正一なら認められなかっただろうねぇ。
なにせ、あたしは実力だけを認められてヒーローになった身だ。そんな存在が自分と互角だと認めた益荒男を推薦したら、協力してもらいたいって思うのは当然だろ?
結局りんご飴は協力者になって、その名が裏社会に知れ渡るようになった。
あいつがヴァイザーに挑んで惨敗したのは少し後の話だ。
この日を境に強者がゴロゴロと現れるようになったのは、ただの偶然なのかねぇ。
◆◆◆◆◆◆
思い出した。ヴァイザーだ。
名簿には確かにその名前が載っていた。
過去にりんご飴を倒して、あいつにライバル視されるようになった男がこの祭りに参加している。
そう考えるだけで自然と胸が高鳴ってきた。今すぐにでも見つけ出して戦いたいと思っちまう。
ヒーローらしく振る舞うならリクや正一と合流してワールドオーダーを斃すってのが一番それっぽいんだろうけどねぇ。
楽しそうな祭りに放り込まれたのにそんなつまんねえことするってのは、あたしの性に合わない。
「悪いな、二人共。あんた達のことは嫌いなわけじゃねぇけど、やっぱりあたしは祭りが大好きなんだ」
詫びなら後で腐るほどしてやらぁ。愚痴も大量に聞いてやる。
今はこの祭りを愉しませてもらうぜ。それが火輪珠美って人間だからよ。
ただし、狙うのは祭りに乗ってる参加者だけ。殺すのは無差別で殺しまくってる参加者限定にしてやっから。
これでも正一にバレたら説教されそうだけど、殺るか殺られるかの世界で危険人物を放っておくなんて甘い考え、あたしが貫く義理はねぇ。
せっかくの祭りなんだ。傾いていこうや。
「楽しくなってきやがった。これだけ興奮させといて期待はずれならてめえのタマ切り落としてやっから覚悟しとけよ、ヴァイザー!」
【G-4 廃墟遊園地/深夜】
【火輪珠美】
状態:健康
装備:なし
道具:基本支給品一式、ヒーロー雑誌、薬草、禁断の同人誌
[思考・行動]
基本方針:祭りを愉しむ
1:祭りに乗っている強い参加者と戦いを愉しむ
2:祭りに乗っていない参加者なら協力してもいい
3:りんご飴がライバル視しているヴァイザーを見つけ出して一戦交える
4:他のヒーローと合流するつもりはない
※りんご飴をヒーローに勧誘していました
【禁断の同人誌】
裏社会で流通している同人誌。ヴァイザーとりんご飴がアッーする内容で一部の紳士淑女に大人気
【ヒーロー雑誌】
ヒーローが特集された雑誌。なぜかりんご飴も載っている
最終更新:2015年07月12日 02:30