どうもみなさん、始めまして。私は
吉村宮子と申します。年齢は17歳です。おいおい。
と言うのは冗談で本当は100歳くらい生きてます。秘密ですよ?
え? そんなお婆ちゃんには見えないって? ふふふ。お上手ですね。ありがとうございます。
何故私が若さを保っていられるかというと、それははなんと私が魔女だからです。正確には魔法使いなんですけど。
定期的に自作の若返りの薬を飲んで、こうして若さを保ってるんです。今流行りのアンチエージングというやつですね。
しかもただの魔法使いじゃありませんよ?
魔法使いの中でも真髄を極めた者にしか与えられない第零の階位を与えられているんです。
これ、なんと日本人では初めての事なんですよ? 凄いですよね?
第零階位の魔法使いは現在世界に7人しかいなくて、各々にオリジナルの称号を得られます。
称号があると便利なんですよ? 禁止指定図書も借りれますし、色々と割引が効きます。ちょっと恥ずかしいですけど。
私の称号は「ユルティム・ソルシエール」。究極の魔女という意味です。
黒いローブで箒に乗って杖を振って猫の使い魔を扱う。正しく魔女ってイメージだからそう付けられたんだそうです。
まあ、それもどれも没収されちゃったんで、今はただのお姉さんなんですけどね。
使い魔のバステトちゃんもいないし、特に杖のマリアンヌを没収されちゃったのは困りましたねえ。
無くても魔法は使えるんですけど、そこは魔女としての気分の問題なので。
確認した名簿にはお茶飲み仲間の
上杉愛さんの名前がありました。
彼女は何を隠そう800年を生きる鴉天狗さんなので、余り心配はいらないとは思いますが。
それよりも気になるのは、愛さんが仕える田外さん家の勇二くんの方ですね。こちらはかなり心配です。
なにせ、まだ小学校に入ったばかりの年端もいかないお子さんですから。
勇二くんが霊能の大家田外家の嫡男であるとはいえ、あんな少年まで平然と巻き込むなんて、やはりあの人正気ではないですね。
地図を見た感じどこかの孤島みたいですけど。どの辺の島なんでしょう?
気候からいえば日本に近いですけど、少なくとも私の知る限りこんな島は存在しないんですよね。
そもそもここが既存の島であるとは限らないですしね。
少なくとも私ならこの規模の島なら創造は可能です。もちろんある程度の下準備は必要ですが。
と言ってもそれは私が創造(クリエイト)に特化した魔法使いだからの話で、仮に他の零位の方々がやろうとしても難しいと思います。
あの
ワールドオーダーさんが零位レベルの魔法使いだとは思えませんし。と言うより魔法じゃないですよね、あの人の力。
どんなに不思議に見えても魔法とは術式という式がある学問です。
そこには理があり法則があり法がある。故に魔法と呼ばれるのです。
けどあの人の力は、そういう過程をすっ飛ばしてる。少なくとも魔法とは呼べません。
生態として異能を持つ人外や法則を無視した力を操る超能力者というのも珍しくもないんですが、その類でしょうか?
あと、あの方、ワールドオーダーさんに関してなんですけど、なんか見覚えあるんですよねえ。
80年くらい前…………いや、8年くらい前だったかも?
長生きすると時間の感覚って狂っちゃいますよね。ね? 年のせいとかじゃないよ。
まあ顔が隠れてるから、はっきりと断定はできないんですけど。
あの特徴的な口元が何か記憶のどこかに引っかかるというか。はっきり思い出せない時点で大した記憶じゃないと思うんですが。
うーん。どっちにせよはっきり思い出せないので、保留で。
とりあえず、地図の端っこがどうなってるのかが知りたいですね。
この島が作られたもだとしても、その辺の海原に島を作るか、世界ごと構築してしまうかで方法は違いますし。
難易度は当然ながら後者が圧倒的に上で、私でも100小節くらい呪文を唱えなければ無理なくらいの難易度です。
その辺が端っこを見ればどうなってるのかが大体わかるんですが。
ひとっ飛びして見てこようかしら? となると箒が欲しいですね。
支給品にあるかも、と期待してみたんですが、出来たのは斧にカメラにポテトマッシャーでした。
あとマリファナないかな? ないよね。残念。
うーん。斧とか直接的な武器はあんまり必要ないんですよね。どうせ扱えないですし。
一般的なイメージに違わず、魔法使いって基本引きこもりの研究職なんで体力はないんですよ。たまに例外はいますけど。
この妙に四角いカメラ。私知ってます。これデジタルカメラというやつですね。
けど私、機械は少々苦手でして、デジタルってよくわからないんですよね。
どうやって現像するんでしょう? フィルムとか何処から入れれば? どうやってフィルムを回すの?
そもそもカメラなんて何に使えっていうんでしょうか? 記念撮影?
あとはポテトマッシャー、ですよねこれ? ちょっと違う?
料理でもしろというんでしょうか。しかも5個くらいありますけど、料理するにしても1個で十分ですよね?
あの人、本当に殺し合いさせる気あるんでしょうか? よくわかりませんね。
しかし、これだけのものが入るリュックってすごいですね。斧の重さもないですし。
これもやっぱりワールドオーダーさんが作ったんでしょうか? 魔法の匂いはしませんし。
無機物にも設定可能って言ってましたから、リュックを『いくらでもモノが入る』ようにした、というところですかね。
取り合えず、確認作業はこのくらいにしておきましょう。
地図によると近くに工房があるみたいですね。
使えそうな道具が置いてあるかもしませんし、魔女としては気になるところです。ちょっと調べておきましょうか。
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「――――近づかないでください」
明かりもついてない工房の片隅から、聞こえてきたのはそんな声でした。
工房には先客がいました。
暗がりに隠れてシルエットの切れ端しか見えないですが、声からして高校生くらいの男の子でしょうか。
強張った声色からは緊張が伝わってきます。
少なくとも、相手からは魔力も霊力も何も感じません。
完全に魔力の気配を消せる使い手であるという可能性はなくもないですが、その可能性は低いでしょう。
そんな使い手なら、隠れるにしても他にやりようがあるはず。
つまりは彼はただの一般人ということ。
勇二くんの様な特殊な子だけじゃなくこんな普通の子も巻き込まれているのか。
そんな子がこんな状況に追い込まれては、精神的に参ってしまって凶行に走ってもおかしくはありません。
「驚かせて申し訳ありませんでした。私は吉村宮子と申します。
いきなり信じてもらうっていのは難しいかもしれないですけど、信じてください。
私は争う気はありませんし、君にも何もするつもりはありません。ですからお話だけでもしてみませんか?」
極力敵意がないことをアピールしながら、相手を刺激しないように話しかけます。
もちろん手を出されれば、対応せざる負えないですが、まずは何事も対話から。それが私のスタイルです。
「……僕も争うつもりはありません。貴方の言葉も疑うわけではありません。
けど、近づかないでこのまま引き返してほしい」
だが帰ってきた声は思った以上に冷静でした。錯乱している様子もありません。
しかし頑ななまでの拒絶の意思は変わりませんでした。
「だったら、」
せめて顔だけでも見せてください、と一歩相手に近づいたところで、甘ったるいような妙な感覚が脳裏に奔りました。
これは魅了(チャーム)…………じゃないですね。
どちらと言うとこの子の体質? いや、この感じは薬でしょうか?
「ひょっとして君、惚れ薬でも飲んだのかな?」
その言葉に暗がりの少年が強い反応を見せました。
慌てたようにこちらを見る少年の驚いたような顔が暗がりから僅かにこちらを覗きます。
「解かる……んですか? というか、その……大丈夫なんですか?」
「ええ。少しばかり薬をかじってまして、それなりに知識もありまして耐性も少々」
そう言って、安心させるように少年に笑いかけます。
少年は反応を見せませんが、頑なだった拒絶の意思も見せませんでした。
それを肯定とみて私は少年に接近し、その症状を観察します。
「体質まで変わるというのは相当性質の悪い強力な薬ですね。
けど、惚れ薬としてのの効果は、すでにある想いを上書きできるほど強力じゃないみたいですね。
これまでだって老若男女誰彼構わず貴方を好きになってたってわけじゃないでしょう?」
「……ええ、まあ」
とはいえ、中高生くらいの年代だと、ちゃんとした想いの固まってる人なんて少ないですから、その程度の効果でも大変でしょうけど。
思春期真っ盛りの少年にしたら一大事でしょうね。
「でも、いけないですよぉ。こういうのは薬に頼るんじゃなくて、正々堂々勝負しないと」
め。っと叱りつけると、少年は暗い顔をして俯いてしまいました。
少し言いすぎてしまったでしょうか?
「僕も、好きでこうなったわけじゃなくて…………」
そう言って、口ごもる少年。
ふむ。何か事情がありそうですね。
「何か事情があるみたいですが、私でよろしければ聞かせて頂いてもよろしいですか?
それで楽になることもあるかもしれませんよ?」
少年は僅かに躊躇うように口を開いた後、意を決したように語り始めました。
「……子供の頃、お爺ちゃんの家の蔵によく忍び込んで遊んでたんですけど。
一度、幼馴染の女の子と倉の中で遊んでた時に閉じ込められたことがあって。
その日は真夏日で倉の中も蒸されて、ものすごい暑さでした。
その日はたまたま爺ちゃんも遠出していて、誰にもなかなか気づいてもらえなくて、ただ時間だけが過ぎて。
お腹もすいて、喉も乾いて、熱は籠って、もう限界だって時に、幼馴染の子が蔵の中から、ラベルのはがれた瓶を見つけて見つけて……」
「それが惚れ薬だったって訳ですね。
それは、君のお爺さんの作ったものなんですか?」
「それは……わからないです。
……けどそうかも、僕の家、代々薬師の家系なので」
「なるほど」
古くから続く薬師の家系という事はそれなりに名の知れた方なのかもしれません
とはいえ、ここまで強力な薬が作れるとなると、私も知ってるような名である可能性もあります。
そこでハタと、私としたことがまだ彼の名を聞いていないことに気がつきました。
「そう言えば、まだあなたのお名前も聞いてませんでしたね。
今更ながらお伺いしてもよろしいですか?」
「そうでしたね。すいません。僕の名前は
三条谷錬次郎といいます」
「三条谷錬次郎くんですね。三条谷…………ん? 三条谷…………?」
何処かで聞いたような……三条谷、三条谷。あ、思い出しました。
60年くらい前に酒の席で仲良くなった薬師が、たしかそんな名前でした。
薬の話で盛り上がって、話の流れで好きな人がいるっていうから、酔った勢いで手製の惚れ薬を譲与したような、しなかったような……多分したな。
それが蔵に残ってたってことは使わなかったんですね、偉いですね。
そしてつまり、錬次郎くんが飲んだ惚れ薬って私が作ったやつだってことだよね。そりゃ症状も分かるし耐性もあるってものだわ。
元々は人妻だろうが恋する乙女だろうが、通りがかるだけで問答無用で釘付けにするレベルの惚れ薬だったはずなんですけど。
50年倉庫で眠ってたせいで、だいぶ効力自体は薄れてた見たいですね。
不幸中の幸いと言えるかな? 言えないよね。正直すまんかった。
「この体質のせいで、いろいろと苦労して……。
その幼馴染も変になるし、変なお嬢様には付け狙われるし……。
巻き込まないようにって女の子避けてたら、影で同性愛者とか噂されるし……」
「お、おう」
初めての理解者を得て心の枷が取れたのか、堰を切ったように語り始める錬次郎くん。
そう切々と苦労話を聞かされると、責任の一端を持つものとしては正直心が痛むんですが。
「だ、大丈夫! 大丈夫ですよぉ。その体質、治せますから。うん」
「ほ、本当ですか!?」
ものすごい勢いで食いついてくる錬次郎くん。
うんうん。そうですよねそうですよね。それだけ苦労してるんですよね。ゴメンて。
「い、いやぁー。今すぐここでっていうのは無理ですけど」
「そうですか……そうですよね」
目に見えて露骨に落ち込む錬次郎くん。
体質まで変わってしまったのをチチンのプイで解呪はさすがの私でも無理です。
さすがに腐っても私の薬だけあってその辺は強力です。厄介ですねーホントに。
新たに薬を精製する必要がありそうですなんですが、設備はこの工房を使えば何とかなるでしょうけど材料がありません。
「そう気を落とさないでください錬次郎くん!
すべては生き残ってからですよ。まずは生存と脱出を目指しましょう!」
「あ、はい。そうですね」
この場でも、材料があれば何とかなりますけど。
自宅の工房に戻ればいくらでも材料はあるんで、脱出してしまえば最悪どうとでもなります。
「まずはこの工房を調べましょうか。使える物があるかもしれませんし。手伝ってもらえますか錬次郎くん?」
「はい。もちろん。喜んでお手伝いさせてもらいます」
快く引き受けてくれる錬次郎くん。
私たちは手分けして工房の調査を開始しました。
【E-8 工房内/深夜】
【吉村宮子】
状態:健康
装備:なし
道具:基本支給品一式、魔斧グランバラス、M24型柄付手榴弾×5、デジタルカメラ
[思考・状況]
基本思考:脱出を目指す
1:工房の調査
2:世界の端を確認したい
3:材料が揃えば三条谷の体質を治す薬を作る
※三条谷錬次郎に対して若干の罪悪感を感じてます
【三条谷錬次郎】
状態:健康
装備:なし
道具:基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本思考:脱出して体質を治す
1:工房の調査
【魔斧グランバラス】
攻撃力:125 属性:闇 売値:売れない 効果:戦闘中に使用できる
巨大な両刃の斧で、元は選ばれ者にしか扱えない聖斧だったが魔王
ディウスの手によって属性を変化させられた
属性変化後も選ばれし者以外に扱えないという特性は変わっておらず、選ばれた者が扱えば羽のように軽くなるが、それ以外の者が触れると鉄よりも重くなる
魔斧と化してからは
ガルバインがその怪力で無理矢理に扱っており、鉄以上に重くなるという特性を逆に生かし強力な一撃を生み出していた
このロワでは選ばれし者以外に扱えないという設定は解除されているため、見た目相応の重さになっている
最終更新:2015年07月12日 02:27