「あんなにいい子達だったのにどうして…」
「息子たちはまだ見つかりませんか…」
「薫のことだから、大丈夫だとは思いたいんですが。」
「真凛はしっかりした子とは言え、やはり心配で…」
「褒められはしないでしょうけど、それでも誠は家族なんです。」
今日も不安と憔悴に満ちた依頼人の顔を見るだけに終わる。
他の仕事と共に並行しているが、進展は少しもなかった。
六人同時に行方不明で手掛かりゼロ、これが依頼を請け負った人間の結果か。
得られた情報と言えば、次々と明かされるどろどろの人間関係ばかり。
高校生かと疑いたくなる。たまに見る昼ドラの方がましに見える内容。
余りに酷すぎて、陣野さんに報告するべきではないと判断しかねるレベルだ。
この混沌とした人間関係を持った六人が同時に行方不明…探偵としての勘が告げる。
俺一人じゃあ到底できない、大きな何かが絡んでいる事件かもしれない。
だが、それでも諦めるつもりはない。依頼を完遂するのが、俺の拘りだからな。
「こんな中年を誘って、やることが殺し合いのVRゲームってなんだよ。」
暗い教会の長椅子に座り込み、今の状況をごちる中年の男性。
ベージュのコートとハットは、まさにステレオタイプの探偵の姿だ。
事実、彼こと青山征三郎は少しは名の知れた私立探偵をやっている。
数々の事件を解決した名探偵…と言う輝かしい結果は特にはなく、
日々迷子のペットを探すしているのが、彼の探偵家業の日常になる。
もっとも、別に青山はありふれた依頼に不満があるわけではない。
誰かが悲しむようなことは避けたい。それは人でなくても同じ。
ペットにだって、家族であることに変わりはしないのだから。
手を抜いたりすることなんてせず、全力で取り組んでいる。
殺人事件も、起きない方がいいとさえ思っているほどだ。
この間の高校生による殺人事件の新聞を見たときも、
『なんでしちまうかねぇ』と事務所で嘆いていたぐらいに。
ふざけてるようにも思えたが、これまた勘が告げていた。
難事件どころの騒ぎではない、とても危険な状況だと。
VRゲームをやれるような環境はあの事務所にはない。
では此処は何処か。今本来の肉体は何処にあるのか。
分からないことだらけで、それ故に嫌な予感がしていた。
これは言葉通りの殺し合いで、此処で死ぬのはリアルの死を意味する。
真に受けてないかのようなごちり方こそしてはいるものの、
探偵らしく、人探し等を重点的にしたステータス設定をしていた。
殺し合いにはまず不向きなのだが、人を悲しませたくない青山にとって、
殺しの技術を高めること自体が間違いであり、
ある意味ステータスにおけるSTR:Eは彼の信条の表れだ。
「しかし便利だなぁ。」
メニューを試しに開いてみようとすると、
さもそれが当然かのようにメニューが浮かぶ。
半透明なので、視界を塞ぐことがない実に親切設計仕様。
本当に手足とそう変わらない操作で動かせるとは思わなかった。
無茶苦茶なことをやってくるだけあって、技術力も無茶苦茶らしい。
これほどの技術なら、有意義なことに使ってやりなよと肩をすくめる。
メールを一瞥したものの、内容は彼には殆ど関係ないので、すぐに参加者が分かる項目を開く。
探偵の能力にしたのは、何も殺し合いを忌避すると言うだけではなかった。
ひょっとして、万が一。自分が未だ解決できない六人の行方不明者。
あれに繋がってるのかもしれないと言う、一抹の望みを賭けたからだ。
大きな何かが絡んでいる、もしかしてこれなのではと。
「おいおい、まじかよ。」
その予想は的中。
陣野優美、陣野愛美、郷田薫。
行方不明とされていた六人のうち、半数が此処にいるではないか。
残りの半数がいないのは気掛かりだが、初めて状況が進展した。
同時に彼らの捜索中に関わった高井丈美の名前も憶えがある。
事件の糸口が掴めるかもしれない可能性が出た一方で、
同時にこんな形でしか手掛かりが掴めないのも複雑な心境だ。
「なんて連中まで呼んでるんだよ、あいつは。」
同時に、有名人も多数。
ハッピー・ステップ・ファイブを筆頭としたアイドル、
ニュースに出た犯罪者の笠子や焔花も大概ではあるのだが、
よもや死刑囚である桐本四郎まで呼ばれてるではないか。
シェリンは殺し合いを円滑にしたいことが伺える面子で、
一筋縄ではいかない難事件だと彼は再認識する。
(一応、焔花は殺人を一度もしてないのだが)
「早速使ってみるかね。」
メニューを閉じて試しに念じてみると、
一気に矢印と対象の名前が複数浮かび上がる。
彼が得たスキル【人探し】は顔と名前の二つが分かれば、
対象がどの方向にいるのかが把握できるようになるスキルだ。
「…教師もいたのか。」
白井杏子。行方不明となった六人の男女の捜索の際に、
聞き込みをしたときに名前を知った人物も出てきた。
リストにその名前はなかったが、名前を変えたのだろう。
この中には明らかに変えたような名前も何人かいるから、
あり得ない話ではない。
それよりもだ。ざっとメンバーを見た結果、
参加者の三割程人覚えのある人物がいる。
するとどうなるか。
(み、みづれぇ…)
矢印も名前も重なって、誰が何処にいるのか大変分かりにくい。
視界を覆う程致命的ではないが、正直見づらいことこの上なかった。
スキルのランクが高くない結果か、大変扱いにくさが出ている。
名前も重なってるし、近くに行かなければ大体の方角も分からない。
ついでに距離も分からない。東端の教会故に東にはいないことぐらいか。
「ま、探偵には関係のないことだな。」
探偵とは、常に足を使って調査していくもの。
地道な調査や追跡が結果を出してくれる、身体が資本の仕事。
青山はそれを理解しており、状況の把握を終えれば早速動き出す。
優先順位をつけるのは申し訳ないが、まずは陣野姉妹の保護を優先とする。
依頼を持ち込んだのは二人の家族と言う理由と、やはり行方不明の女子高生。
彼女達の今がどうなってるのか心配でもあり、教会の扉を開けいざ出発。
「あ。」
開けた瞬間、さっそくエンカウント。
勢いよく開けてみれば、目の前に一人の青年が立つ。
十代中頃か。年が離れてるので一概には言えないが、
自分よりも端正な顔つきをしていることが伺える。
端正な顔のおかげで、黒い鎧も様になっている恰好だ。
VRゲームなんてやっていたっけ。
記憶が曖昧になる程にトラウマなのか。
本当に好きだったんだと、今ならわかるよ…時雨。
だから【真実の瞳】を得た。もう、あんなことないように。
ゲームでそんなリアルのことを考えてスキル作る奴いるのかよ。
なんてクラスメイトに言われるかもしれないが、俺は冷静かと言われると別だ。
あんなことがあって、落ち着いていられるわけがないのだから。
だからキャラメイクは真面目に、ガチのロールプレイ感覚で決めた。
でも、今はゲームをするような気分ではないし早々にログアウトしたかったが、
ログアウトができないことに気付いて、ようやくこれが現実だと認識できた。
殺し合い…殺し殺された事件が身近にあったから、正直今は考えたくないことだ。
アイテムにあった鎧だけでも装備して、近くにあった教会へと駆け込もうとしたら、
開ける前に参加した人に出会って、俺は固まってしまう。
今度は俺が時雨と同じ立場になるのか…なんて思ったけど───
「…此処に懺悔を聞いてくれる神父様はいないぜ、少年。」
どこか、思いつめたような顔つきである様子。
此処は所謂回復や休憩ポイントと言った位置づけの物。
だが、彼が求めているのは『ゲーム』における回復ではないだろう。
【観察眼】のスキルもあるが、探偵として培ってきた観察眼もある。
「そう、ですか…」
「…俺でよければ聞くが、いるか?
おじさんはこれでも探偵だからな。
少しぐらいは話を聞く能力はあると思うぞ。
まあ、ちょいと人探しの都合で歩きながらになるが。」
「え? 貴方も探偵なんですか?」
「ん?」
青年、切間恭一は青山について行く形で、身の上話を始める。
面識はないのだが、いくつか事件を解決したとされる、
頭脳明晰な高校生としてその名を聞き及んでおり、関心を抱く。
「どこぞの探偵漫画の主人公のように、
平成…いや今は令和か。令和のホームズにでもなれそうだな。」
自分と違って随分派手な経歴をお持ちのようで。
なんて皮肉に感じるが、彼としては純粋な誉め言葉だ。
そこに他意はないものの、
「…残念ながら、俺は主人公な柄じゃあないですよ。」
元々憔悴してた表情は、余計に影を落とす。
地雷を踏んでしまったかと帽子に手をかけた。
言葉通り神父の代わりに、青山は彼の懺悔を聞き届ける。
確かに彼は漫画の探偵のように、いくつか事件を解決した高校生だ。
だが、ある殺人事件は自分が好意を抱いていた親友『綾辻時雨』が犯人であり、
彼が関わった事件を繋ぎ合わせた、推理を間近で聞いた彼女だから可能なトリック。
披露した推理は彼女が殺人のために流用された、復讐のためのパズルのピースになった。
葛藤の末に、自分の推理によって彼女の逮捕に至ったが、その時の姿は今でも忘れられない。
『ごめんなさい。貴方を利用して…貴方の推理までも汚して。』
相手は父の仇。殺した後悔はなく、
あるのは恭一を利用したことへの懺悔のみ。
親友に殺人の実行を後押ししたのは、外ならぬ自分の推理なのだと。
「あの事件にはそんな裏があったのか…悪いな。
事情を知らなかったとはいえ、傷口を抉るようなことして。」
先日のニュースにあった女子高生の殺人事件。
それが、まさかその親友だとは思わなかった。
好意を抱いた親友は、自分の推理を利用してのトリック。
それで持ち上げられてたとしても、複雑な心境だろう。
「いえ、いいんです。ある意味、これが俺の罪なので。」
何もしてやれなかった、気づけなかった。
華麗に推理をする高校生探偵だとか、我が校の誇りだとか。
色んな人にそんな賞賛をされたが、そんな風には思えない。
親友の内心を推理できなかった自分の、どこが名探偵なのか。
本来は明るかった性格が、暗くなってしまうほどに堪えていた。
「…切間。お前、包丁で殺人があったとして、
犯人に包丁を売った店主を責める奴をどう思う。」
そんな彼を見て、青山から突然の質問。
一瞬疑問に思ったが、意図は理解できた。
「間違ってます。」
当然答えは間違ってる。
欠陥でもない車で人を轢いて、製造した会社を責めるわけがない。
責があるとするなら、そんなことをした本人にあるだろう。
間違ってると否定すれば殺しのトリックの発端は自分の推理だが、
トリックを使ったのは考えた時雨の方…だから気負う必要はないと。
「銃の引き金は引いてない…引いちゃあいないんだ。彼女もそう思ってるさ。」
でなければ、謝罪なんてしない。
後悔の表情なんてするわけがないと。
「けど、俺のは割り切れません。」
後悔は、今もゆっくりと積もっている。
真実に辿り着いた時、信じたくなかった。
自分の好きな人が殺人を犯したなんて事実を。
だから、どこか推理に穴があったのではないか。
試験問題とは比にならない程に何度も考え直して。
けれど、追求するほどに彼女以外にありえなくなる。
恭一の推理を間近で見た時雨にしかできないトリック。
自分にしか立証できず、自分だけが彼女を捕まえられた。
赤の他人なら別だが、恋慕していた親友なのだから尚更だ。
「…んー、説教臭いのは好きじゃあないんだがな。
確かにお前の推理は、人を殺す凶器になってしまった。
けど、それは人を殺すために推理したんじゃあないだろ?
お前のおかげで助かった、救われた人もいるのを忘れるな。」
青山の言う通りだ。
最初は今と違って性格はお調子者で、
軽々しく事件に突っかかったことはある。
不純だったのは事実だが、彼は正義感も強い人間だ。
だから放っておけなかった…ある意味根幹は彼と同じになる。
人を悲しませないために推理する。それが彼の探偵としての拘り。
「…ありがとうございます。」
この気持ちは一生背負うだろう。
一生言えることもない深い傷跡。
しかし、自分の推理は間違いではない。
その事実に少しだけ気分が軽くなった気がする。
「そっか。」
これ以上は何も言わんでおくよ。
肩にポンと手を置いて、青山は彼女のことの話をしなかった。
と言うより、これ以上は言えることはないとも言えるのだが。
後は本人の気持ち次第なのだから。
「ところで、誰を探してるんですか?」
「此処に来る前に依頼で捜索してた子がいるんだ。
俺のスキルで居場所は分かってるが…一緒に来るか?」
「足手まといでなければ、同行させてください。」
影を落としてはいるが、根は善人。
誰かの助けとなるなら、力になりたい。
シンプルな即答に青山は笑みを浮かべた。
「で、その鎧なんだ? なんか昔やったゲームの暗黒騎士みたいなんだが。」
「これですか? 支給されたアイテムにありました。」
「武器以外もあるのかよ…ちょいと見てみるかな。」
New Worldにて邂逅した二人の探偵。
力が罷り通る世界で、彼らの頭脳や足は何を齎すか。
今言えるのは一つ、PrivateEyeは真実を探す。
それだけだ。
[F-8/教会周辺/深夜]
[青山 征三郎]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:通常
[アイテム]:支給アイテム×3(未確認)
[GP]:10pt(キャンペーンで+10)
[プロセス]
基本行動方針:探偵が殺し合いなんてしないさ。
1:参加者の保護。優先は陣野姉妹>郷田含む【人探し】の対象>犯罪者
※【人探し:B】によって対象の名前と現在位置の方角だけ把握してます
対象:切間、アイドル・犯罪者などの有名人、依頼の対象三名、調査で関わった高井、白井
高井と同じ学校の登勇太、有馬良子、馬場堅介、枝島トオルも対象かもしれません。
(これらの人物について対象かどうかは後続にお任せします)
向かった方角、死者もこのスキルの対象か、どちらの陣野を探すかは後続にお任せします
[切間 恭一]
[パラメータ]:STR:C VIT:C→B(
エル・メルティの鎧で上昇) AGI:C DEX:C LUK:A
[ステータス]:精神耐性上昇
[アイテム]:エル・メルティの鎧(E)、支給アイテム×2(確認済み)
[GP]:10pt(キャンペーンで+10)
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いはしたくない。
1:青山さんに同行。
2:少しだけ、前に進めた気がする。
※【真実の瞳:A】を使用した相手はまだいません。
【エル・メルティの鎧】
魔王カルザ・カルマの部下エル・メルティが装備してた漆黒の鎧。兜はセットではない。
装備対象のVITを一段階上昇させ、精神干渉に関する干渉を防ぎやすくなる。
本来の鎧にこのような耐性はないが、彼女と相対した勇者が異常すぎたせいか、
当人の精神が、愛用された鎧にも定着したのかもしれない。
最終更新:2022年01月24日 22:01