本日、私はVR空間『New World』にてバトルロワイアルをすることになってしまいました!とっても怖いです!
死ぬのも殺すのもぜーーーーったい嫌なので、戦いに巻き込まれないよう、応援よろしくお願いします!!
――え?何を言ってるかわからないって?
大丈夫!言ってる私が一番わかってません!
◆◆◆
ということで、私――篠田キララのバトルロワイアルが始まってしまいました。
どうしてこんなことに?っていうと、授業中に少々うつらーうつらーとしていたんですが、気がついたら知らない空間にいて、目の前にシェリンとかいう女の子がいまして。
制服を着て学校にいたはずなのに、ライブの衣装に着替えさせられてて(ヘアメイクまで完璧でした)、状況がわかんなくてえ?え?ってなってる間に、シェリンちゃんはまくし立ててきて。
「この説明を聞き終えた時点でこれら注意事項について同意したものと見做されます」とか言うから慌てて「同意しません!」って言ったけど完全に無視されて。
全然状況が飲み込めないでいるうちにアバター作成させられてVR空間にポイです。
不親切にもほどがあるというものです。
ご意見メールフォームで文句言ってやろうかと思いました。
実装されていませんでしたが。
とまあ、何が何だかさっぱりわからないけれど始まってしまったものは仕方ありません。
自分の手札や与えられてる情報を確認するとしましょう!
ゲームの基本ですね。
――さてさて、 メニュー画面を開いて[[ステータス]] [[アイテム]] [[メール]] [[メンバー]] [[オプション]] [[ヘルプ]]と一通り確認させていただきました。
[[ステータス]]は、まあ設定した通りですね。
アイドル(C)は強力なスキルじゃないのは察していましたが、私にもアイドルとしての矜持がありますので。
発見されやすいデメリットをカバーするために愛され系(A)を取得しました。
善意ある者を惹き付け悪意ある者を遠ざける。
これが私の生存戦略です!
[[アイテム]]は説明の通り3つ入っていました。
一つ目はスタングレネードです。
非致死性兵器はありがたいです。愛され系スキルで防げなかった場合の切り札になりますしね。
二つ目は掃除機でした。
この空間で何を掃除しろというのでしょうか。
シェリンちゃんの思考がマジで読めません。
三つ目はM1500狙撃銃です。弾薬が予備を含めて10発です。
日本国産のボルトアクションライフルです。
私がやってるゲームにも出てきますし、説明書きも丁寧なので扱い方はわかります。
ただ、STRを最低ランクに設定してしまったので取り回せるかが不安です。
[[メンバー]]は人選が謎すぎました。
私のネトゲ友達のBrave Dragonさん。
トップクラスのアイドル 美空ひかりこと美空善子さん。
同じくTSUKINOこと大日輪月乃さん。
それとTSUKINOさんのお兄さんと思しき大日輪太陽さん。名前からして暑苦しそうです。
加えて『HSF』のみんなが勢揃いです。脱退してしまった滝川さんまでいます。
正直、参加者の選考基準がわかりません。
アイドル枠を作りたかったにしても謎です。
最近のアイドルシーンだけでも『ほむはいむ』のサバゲ―マー 秋葉さんとか、新体操のインターハイ経験者 麻布蔵さんとか、メンバー全員現役自衛官の『みにみり!』の皆さんとか。
『HSF』よりももっと、こういう戦いの場にふさわしい人選があったんじゃないかと思います。
…彼女たちが巻き込まれなくてよかったとも思いますが。
[[ヘルプ]]ではあまり有用な情報は得られませんでした。
ここから出るにはどうしたら良いか訊いてみましたが「優勝してください」としか答えてくれません。
優勝する以外の脱出方法も訊いてみましたが「基本的に存在しません」とのことでした。
不親切です!
◆◆◆
それでは一通り確認も終わりましたので行動を開始したいと思います。
まずはHSFのみんなとの合流が第一目標。
六人で家族同然に支え合って頑張って、アイドルデビューにこぎつけた運命共同体です。
脱退したとか関係ありません。誰が欠けても嫌です。
それとひかりさんやTSUKINOさん、そのお兄さんである太陽さんやBrave Dragonさん。
こういった信頼できる仲間を集めて脱出を目指したいところです。
死ぬのも殺すのも絶対嫌ですから。
とはいえ私自身はか弱い子どもでしかありません。
現在地は死角の多い大森林。月明かりも木々に遮られてしまうので視界が悪いです。
スキルがあるので不意打ちを受ける危険性は低いですが、早々に移動したいところです。
お化けが出そうで怖いとかじゃありませんよ?
とりあえず市街地に向けて歩いていた私の目に白い学ランが映りました。
黒い闇のなかでよく映える白ランを着た人は、どうやら両手を挙げて真っすぐこちらに向かって歩いてきているようです。
既に発見されたと思ってよいでしょう。
両手を挙げているのは敵意がないことを伝えようとしているのでしょうね。
とりあえず接触しても大丈夫そうです。油断はしませんが。
私は右手に握るスタングレネードを強く握りしめました。
◆◆◆
鬱蒼とした木々の間から現れたのは、腕章を巻いた白ラン、炎のような髪と燃えるような瞳、暑苦しい体躯が特徴的な男性でした。
「暑苦しい体躯」って何?って思うかもしれないですけど、それ以外に形容する言葉が思い浮かばないんですよ。
互いの顔が見える距離まで近づくと、白ランの方が口を開きます。
「こんばんは!!お嬢さん!!」
「こんばんは。声が大きいです」
「むっ!すまない!」
「もうちょっと小さく」
TSUKINOさんから聞いていた通りだなあと思いながら自己紹介をします。
「初めまして。『HSF』の篠田キララと申します。」
「うむ!俺は大日輪学園生徒会長 大日輪太陽という!よろしく頼む!」
「こちらこそよろしくお願いします。TSUKINOさんには大変お世話になっております」
「そうか!!月乃から聞いていたか!話が早くて助かる!!」
「声が大きいです」
「む!すまない!」
思った通り、白ランの方はTSUKINOさんの兄、大日輪太陽さんでした。
「外見も中身も暑苦しくて胸焼けする」と慈愛に満ちた表情で言っていたのを思い出します。
私達は互いに信頼できる人間だと判断し、情報交換を行います。
「俺に支給されたアイテムはこのボウイナイフとマイク、それと指輪だ!
ボウイナイフは普通のモノだが、マイクはスキルを付与する効果があるらしい!
指輪は気温30度以上の環境で装着していると、周りの気温を25度に下げてくれるそうだ!!」
太陽さんは腰に下げたナイフ、指にはめた指輪、アイテムボックスのマイクと順番に披露してくれました。
「良いアイテムを引き当てましたね。あと声が大きいです」
「おお!すまない!」
また、このマイクを使って歌を歌うと、聴いた者の戦意を削ぐことができるらしいです。
ただ効果が表れるまでの時間は使用者のリアル歌唱スキルに依存する、ということなのでアイドルである私がもらい受けました。
代わりに太陽さんには掃除機をあげました。
いざというときには振り回すそうです。
次に、互いにこの場にいる知り合いについての情報交換を行いました。
太陽さんはゲームが始まってすぐに出会った女性と協力関係にありましたが、「花摘みに行く」と言って別れた彼女とはぐれてしまい、捜索中だったそうです。
妙に不用意に歩いているなと思ったらそういった事情があったようです。
そして今後の方針を話し合います。
「ということで、協力できる仲間を集めてこのゲームの打破を目指します」
「うむ!大いに賛成だ!!」
「声が大きいです」
「おお!すまない!」
予想通り、ゲームに対する基本的なスタンスは同じだったので安心します。
「なので仲間を効率的に集めるために、もっとも人が集まりやすいと思われる市街地に向かいたいと思います」
「なるほど!だが、それには反対だ!」
こちらは予想通りとはいかず、市街地に向かう案には反対されてしまいます。
「まず、市街地には優勝を目指す者も多く集まることが予想される!
君にライフルが支給されているように、遠距離から一方的に攻撃できるアイテムがそういう輩の手に渡っていることも十分に考えられる!
また、君のスキルやマイクの効果による防衛性能には不確定要素が多い!
攻撃を妨害できるかどうかが相手の意志に依存するからな!
容易に高所を取られる市街地に行くのはリスクが高い!
故にこの森林で志を共にする人間を集めて守りの手段を増やし、リスクを減らしてから向かうべきと主張する!」
確かに一理あると思います。
人数があまり増えるとフットワークが重くなってしまいますが、その分外敵に抗するための手札が増えますし。
市街地で拠点となる建物を確保できればその問題も解決するでしょう。
「それと先ほども言った通り、俺は志を同じくする女子と既に協力関係にある!
少なくとも花摘みに行くと言ったきり戻ってこない彼女の安否を確認するまでは森林を離れるべきではないと思う!」
「わかりました。ありがとうございます。声が大きいです」
「うむ!すまない!」
それも道理です。
せっかく見つけた仲間をむざむざ見捨てるわけにはいきません。
「そうですね。であればまずはその女性を探しましょう。どんな方ですか?」
「ありがとう!
その女子は『ユキ』と名乗っていた!
女子にこういう形容をするのは良くないが、長身でグラマラスな体型をしている。」
「ありがとうございます。服とかはどうでしょう。」
「ああ!範当高校の制服を着ていた!」
「ではその方とはぐれたところまで戻ってみましょう。ひょっとしたら彼女も戻ってきているかもしれません」
「そうだな!こちらの方角だ!」
先導する太陽さんを追って歩き出します。
いきなり信頼できる相手と遭遇して、協力関係を築くことができました。
幸先良いスタートと言えるでしょう。
私達HSFは六人で協力して、支え合ってアイドルとしてメジャーデビューという大きな目標を達成しました。
そして太陽さんがそうだったように、このゲームに反感を持つ参加者は決して少なくないはずです。
六人よりももっと多くの方たちと協力していけば、きっとこのゲームの打破という目標も達成することができるはずです。
とそんなことを考えながら歩いていた私の鼻先に白いものがぶつかります。
太陽さんの学ランです。
どうやら前を歩いていた太陽さんが立ち止まったようです。
到着したのでしょうか。それとも何か見つけたのでしょうか。
太陽さんの身体越しに彼の見ている方向を見てみますが、変わったものは目に入りません。
着いたなら着いたと言ってくれれば良いのに、太陽さんは黙りこくっています。
らちが明かないので尋ねてみます。
「どうかしましたか」
尋ねられて、のそりとこちらを振り返った太陽さんは、
――先ほど見せてくれた大きなナイフを振りかぶっていました。
◆◆◆
ユキこと三土梨緒は手元のタブレットに何か打ち込みながら木陰から飛び出した。
そして虚ろな目で棒立ちする太陽に駆け寄るとその手を握る。
「あなたの持つGP 100ptの内、90ptを私に譲渡しなさい」
「はい…」
梨緒のとんでもない要求に、太陽は嫌がる様子もなく応じる。
これにより太陽からキララを殺害して獲得したGP 90ptが送信され、手数料1割を引いた81ptが梨緒に移譲された。
◆◆◆
私はいじめられっ子だった。
暗くて内気で容姿も地味な私は、いじめっ子たちからすれば絶好の標的だったのだろう。
直接的な暴力こそなかったものの、私の心は踏みにじられ、ボロボロに傷つけられた。
いじめっ子たちから離れたい一心で勉強し、進学校である範当高校に進学した。
範当高校のクラスメイト達は皆、自信に満ちていてキラキラしていた。
私だけが惨めだった。
目を逸らすように本に没頭した。
ある日クラスメイトに声をかけられた。その本ウチも好きなんだ、と。
クラスメイトは栗村雪と名乗った。
友達ができて嬉しかった。
本の話ができて楽しかった。
雪は私に光を当ててくれた。
ある日気づいてしまった。
雪がくれる光は雪のものだ。
私は光ってなんかいない。今も暗くて地味なままなのだ。
◆◆◆
梨緒はこのゲームに召集され、説明を受けた瞬間心に決めた。
優勝し、今までの暗くて地味で惨めな自分とは決別することを。
アバターは雪と同じ外見にした。
雪になりたかった。
そして雪の外見の方が男ウケが良い。きっと都合よく利用されてくれる。
優勝するためにはどんな手段も厭わず使おう。
会場に降り立った梨緒は、キララ同様自分の手札の確認に務めた。
[[メンバー]]を見て知り合いの有無を把握するのも、[[アイテム]]を見て戦い方を決めたのも同じ。
違ったのは、梨緒はシェリンに建設的な質問をたくさんした、という点だ。
これはできるのか。こんなことは可能か。このくらいならできるか。
問いへの答えは肯定もあれば否定もあった。
しかし、「他人からポイントを譲渡してもらえるか」という問いにシェリンが肯定するのを見て、戦略の成功を確信した。
最初に出会った参加者が単純馬鹿だったのも幸運だった。
大日輪太陽と名乗るその男と情報交換。隙を見てセンサーを貼りつけた。
このセンサーは梨緒のランダムアイテムの一つ『人間操りタブレット』の付属品である。
かなり単純な命令しか出せないが、センサーが貼りつけられた人間を操ることができるという代物だ。
貼りつけた後はもう一つのランダムアイテム『隠形の札』を用いて隠れ、太陽が他の参加者と接触するのを待つ。
太陽の立ち振る舞いを見てゲームに乗っていると思う者はいないだろうし、そのカリスマはゲームに乗ることのできない弱者の心の拠り所となるであろう。
それが梨緒の仕掛けた甘い罠であるとも知らずに。
太陽が信用されてしまえばあとは単純。
太陽を操作して油断した弱者を殺し、太陽からGPと死者の支給品をかすめ取る。
操られ何人もの参加者を殺させられていたと気づく頃には、私の手札は充実している。
仮に怒り狂った太陽に逆襲されても問題なく返り討ちにできる。
これが私の戦略だ。
「それじゃ、太陽先輩に合流しましょうか。
きっと落ち込んでるだろうから慰めてあげないと」
タブレットの電源を落として太陽に近づく。
ここからは演技力の勝負だ。
◆◆◆
太陽が意識を取り戻したとき共闘を誓った少女はいなくなっていた。
「どこだ!キララさん!どこへ行った!?」
辺りを見回し、大声でキララに呼びかけるが返事はない。
キララは既に死に、死体は消失した。アイテムは梨緒に持ち去られている。
応答が返って来るはずは決してないのだが、その事実を知ることができない太陽は大声でキララを探し求める。
「太陽先輩!!」
太陽を呼ぶ声。
振り向くと先ほどはぐれたユキがこちらに駆け寄ってきていた。
無事を喜ぶのもそこそこに事情を説明すると、顔面蒼白になったユキが言う。
「東の方に向かう何かを見た気がしたんですけど、ひょっとして…」
言い終わるが早いか太陽は駆け出す。
力なき少女を拉致した卑劣な敵を憎む
大日輪 太陽。
強く前を睨む双眸は、背後の悪を捉えない。
[篠田 キララ GAME OVER]
[E-5/大森林/1日目・深夜]
[大日輪 太陽]
[パラメータ]:STR:A VIT:A AGI:E DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康、『人間操りタブレット』のセンサー貼付
[アイテム]:ボウイナイフ(E)、涼感リング(E)、掃除機
[GP]:0→10pt(キャンペーンで+10pt、勇者殺害×スタートダッシュにより+90pt、ユキに譲渡したため−90pt)
[プロセス]
基本行動方針:仲間を集めてゲーム打破
1.篠田キララの捜索、犯人の拘束。
2.大森林の中で仲間を増やして市街地へ。
3.可及的速やかに月乃を発見したい。
[備考]
ユキの「花摘み」発言について、『New World』では排泄の必要がないことに気づいていますが「女性だし色々あるんだろう」と流しています。
[三土梨緒(ユキ)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:D LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:人間操りタブレット、隠形の札、不明支給品×1(確認済)
M1500狙撃銃+弾丸10発、スタングレネード、歌姫のマイク
[GP]:45→136pt(キャンペーンで+10pt、太陽から譲渡を受け+81pt)
[プロセス]
基本行動方針:優勝し、惨めな自分と決別する。
1.太陽を操って他の参加者を殺していく。
【人間操りタブレット】
センサーを貼りつけられた人間を操るタブレット。
連続で操作できる時間は1分。それを超えると電源が落ちる。電源を落とすと15分経過しないと再起動できない。10m以上離れると操れなくなる。
スワイプすることで移動、『攻撃』ボタンで簡単な攻撃ができる他、『肯定』ボタンで肯定の意を、『否定』ボタンで否定の意を示すことができる。
【隠形の札】
身体に張り付けている間、使用者にCランクの隠密スキル(一定時間、気配を消した隠密行動が可能となる。再度使用するためにインターバルが必要。隠密状態のまま攻撃できない)を付与する。
【M1500狙撃銃】
国産の狙撃銃。SATなどで採用されている。
【スタングレネード】
強烈な音と光で敵を麻痺させる。
【歌姫のマイク】
使用している間、使用者にCランクの歌唱スキル(聴く者の戦意を削ぐ。効果発生までの時間は使用者の歌のうまさに依存する)を付与。
【涼感リング】
気温30度以上の環境で装着していると、周囲1mの気温を25度に下げる指輪。
【ボウイナイフ】
刃渡り30cmのナイフ
【掃除機】
国産の高性能な掃除機。型が古いのか少々重め。
使用済み。
最終更新:2020年10月18日 18:23