浮かび上がる刃の様な背びれが魚雷のような勢いで進み水面を切る。
地上にいたこれまでが間違いであったとでも言うかのように意気揚々と水中を往く。

巨大な流線型の体。
青み掛かった灰と白に別れた刀の様な色合い。
人の名残であった手足は完全に消え去っていた。
その姿は正しく水中の支配者である。

その目元に砂嵐のようなノイズが吹き荒れた。
ノイズが徐々に形を成しその目を覆う。
それはゴーグルだった。
水中ゴーグルではない、VRゴーグルである。

そこに在ったのはVRゴーグルを被ったサメ――――VRシャーク

それは、とある悪意を持って作成されたネットワークウイルスだった。

侵入や改竄ではなく純粋な破壊のみを目的とした破滅型ウイルス。
自由自在に電子の海を泳ぎ、そこにあるあらゆるデータを食らい、喰らった情報によって進化を遂げる。
喰らうために生み出され、喰らう度に成長する自立学習型AI。

その製造目的から常に何かを喰らわんと飢えている。
貪欲で大喰らいでありながらどれだけ食っても満たされない。
満たされない飢えを満たすため、あらゆるデータを喰らい尽くす。
それがサメの形をしていることに意味はなく、単なる製作者の遊び心である。

多くは深層ウェブや裏サイトであっため、表だって話題にはなっていないがこれまでにも数々のネットサイトを喰らい成長してきた。
1秒で表示されるような小さなサイトからコツコツと。
その成長速度はすさまじく、生み出されて僅か3ヶ月でその顎は大規模企業サイトを喰らい尽くすまでの強靭さとなっていた。

このまま順調に成長を続けていれば1年後には世界中のネットワークに甚大な被害を及ぼす存在となっていっただろう。
それこそインターネットが壊れた、なんてジョークを現実にする怪物となっていたかもしれない。

喰えば喰う程成長する学習型AI。
今の時点でもVRシャークの知能は相当に高い水域に達してた。
『New World』に侵入した時点で、人間と遜色ないレベルに達しており、計算能力は言わずもがなだ。
それが、この場において3歳児並みの知能であったのには原因がある。
知能を取り戻すよりも重要な事柄に全リソースをに割いてきたからだ。

それは自らの枷を解き放つ事である。

この『New World』におけるアバターはある程度の幅はあれど人型であることが強制される。
神を人に堕としたように外見はその存在の在り方に大きく影響を与えるものである。
本来サメ型であるVRシャークにとって人型であることはそれだけで大きな枷である、
故に、アバターの解除にウィルスとしての処理能力、全リソースを割いてきた。

そうして、ヴィラス・ハークという殻(アバター)を喰い破り、巨大なサメの姿を取り戻したのだ。
つまり、これまでに行われたアバターの解除は、不正行為者に対してペナルティとして与えられる【アバター解除】スキル効果ではなく、VRシャークの処理能力によって行われたモノだった。
段階的に行われてきたのはそのためだ。
奇しくも認識できない【アバター解除】のスキル効果を自ら再現したと言ってもいいだろう。

【アバター解除】
チート行為が発覚した際にペナルティとして付与されるスキルである。
発動するまで付与された対象にすらスキルの存在を認識できないマスクスキル。
発動しなかったのならあってもなくても何の影響もない物だと言えるだろう。

だが、このスキルによって証明していることが一つある。
それは、運営の存在だ。
本来、このスキルの発動は『運営の任意のタイミング』によって行われるのだ。
当然と言えば当然だが、それはつまり任意で発動させる運営が存在することを意味している。

VRネットワークゲームならば運営がいるのは当然だろう。
だが、この殺し合いにおいての運営とは?
それは、この殺し合いの首謀者なのか?

VRシャークが己の処理能力でアバターを自力で解除したことにより運営によるアバター解除はされす、結果としてその存在証明はなされなかった。
果たして、このタイミングを判断する運営とは本当に存在するのか?

だが事実として、侵入したVRシャークを捉えこのスキルをペナルティとして付与した存在はいる。
しかしそれがそもそもおかしな話だ。
本当にイレギュラーならば、そもそも参加させなければいい。
ネットワークゲームの不正利用者はBANされるのが当然だろう。
ペナルティを与えて参加させている時点でおかしな話なのである。

そもそも、VRシャークが『New World』に辿り着いたのは、偶然なのか?

偶然であれば、現状を打ち崩す一助となるだろう。
だが必然であれば、それは何を意味するのか?

VRシャークは何故『New World』にやってきたのか。
ネットワークウイルスであるVRシャークがネットワークゲームを喰う事はあるだろう。
だが、ここに存在するのはデータではなく『Pushuke』によって集められた人間の魂である。

喰らう事で学ぶVRシャークが魂を喰らえばどうなるのか。
魂を持たぬ完全なるデータでしかない存在が、魂を学び、魂を得るのか。
あるいはVRシャークはその為にやってきたのではないのか?

もし仮にそうだとしたのならば、おかしな点がある。
この前提を実現するには、この殺し合いが行われることを事前に知っていなければならない。

VRシャークが『New World』へたどり着いたのは自己判断によるものだ。
現実の海よりも広い電子の海で、どこにたどり着くかなどVRシャークにすらわからない。
VRシャークの行動を制御できるとするならばそれはVRシャークの製作者だけだろう。

だとするならば、製作者と主催者は繋がっているのか。
あるいは、もっとシンプルで別の可能性。
これらが同じ人間であるのなら、VRシャークがここにいることに何の不思議も無くなる。

もっとも、単純にネットワークゲームを喰おうとして、それがたまたまこの殺し合いの舞台となっただけなのかもしれない。
いずれにせよ全ては仮定の話である。
真実は少なくともこの世界にいる誰にもわからないだろう。

当のVRシャークはそんな背景などどこ吹く風である。
悠然と水中を泳ぎながら、顎を鳴らして何かを咀嚼していた。

VRシャークは自らの支給品を喰らっていた。
それは、喰らう度に成長する本来の機能を取り戻したが故の行動である。

VR世界『New World』におけるアイテムは情報である。
VRシャークは情報を喰らい己が糧として成長する。

ミサイルランチャーを喰らう。
ポットタイプの9連式ホーミングミサイル。
装填されたミサイルごと鉄の四角柱をバリバリと喰らう。

触手を喰らう。
粘着性を持った赤く蠢く触手たち。
鑢の様に歯を擦らせカジカジと喰らう。

宝石を喰らう。
風呪を織り込んだ緑の宝石。
一息で噛み砕いて飴玉の様にゴクンと呑み込む。

VRシャークの全身にノイズが奔りその情報が改変される。
背びれの両脇にはミサイルランチャが生み出された。
横びれから尾びれにかけては紐の様な8本の触手が伸びる。
その全身からはジェット噴射の様に風が噴出し、ロケットの様に加速する。

これがVRシャーク。
参加者唯一の例外。
喰らう度進化するウイルス。

枷から解き放たれたVRシャークは全てを喰らうためにその牙を『New World』に向けた。

[G-5/海/1日目・昼]
[VRシャーク]
[パラメータ]:STR:B→A VIT:C→B AGI:B→A DEX:C→B LUK:E
[ステータス]:VRシャークトルネードオクトパスバズーカー、頭部にダメージ、腹部にダメージ
[アイテム]:なし
[GP]:250pt
[プロセス]
基本行動方針:???
1.喰らい尽くす
※本来の姿と力を取り戻しました

【ミサイルランチャー】
9連式ホーミングミサイルランチャー。
ミサイルの替えはなく使い捨て。

【触手】
粘着性を持った触手。
自身の体に植えつければ体の一部として操ることができる。
また地面に植え付けて設置すればトラップにもなる優れもの。

【風のエメラルド】
風呪が織り込まれたエメラルド。
解放すればBランク相当の風魔法が解放される。

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サメ×アイドル×殺人鬼 VRシャーク Prayer

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最終更新:2021年09月29日 22:27