銃声の音が室内によく響く。
これだけでは穏やかではないと思われるものの、
射撃訓練場での音であるとなれば、何もおかしいことではない。
互いに並んで銃を構えていたのは乃木平天と広川成太の二名。
射撃の練習と言うことで、広川が丁度近くにいた天を誘って今に至る。
弾丸を全て撃ち終えたことで耳当てを外し、銃を置いた後広川が呟く。
「天先輩、本当に下手ですねー。」
何とも言えない結果に思わず苦言を零してしまう広川。
人を模した的に全弾当たってはいるが、急所となる部分に絞ると今一つだ。
隣で同じように射撃をやってみた広川の方がずっと精密に狙えている。
別に下手なわけではない。と言うより下手だったらSSOGに所属するはずもなし。
人並み以上の技術はある。ただ、これが特殊部隊となってくると微妙なレベルなだけで。
広川からすれば年上の先輩。先輩がこれだとは余り想像していなかった。
「と言うより、広川さんが私と違って凄いんですよ。
成田さんからも腕はいいと聞いてましたが、これほどとは。」
「いやいや褒めすぎですって。
それに、銃がうまくないだけで他で補えばいいんですよ。」
「この前の走り込みで小田巻さんの後ろにいた私の強みを問いますか?」
「またまた御冗談を~……え、マジ? 真理ちゃんの後ろマジ?」
「本当です。」
流石に疑いたくなるワードに笑い飛ばすが、
乾いた笑いとガチのトーンで語る天の姿に同じように目を逸らす。
冗談ではなかった。ついていくことはできても追い抜けたわけではない。
これも同じく人並み以上ではあるが、他はインフレを起こした傑物ばかり。
努力だけでは越えらえない才能の壁が、此処にはどこにでもあるかのようだ。
経験豊富な年上の先輩だけでなく、次々と参入する後輩たちも同じになる。
サバイバル技術による経験から来る立ち回りができる南出に、
少年兵と言うある意味最も経験豊富になりうる逸材のオオサキ。
前も後ろも優れた人材がひしめいているのがSSOGの環境だ。
「あの、前から思ってたんですけど。
天先輩ってなんでこんなところにいるんですか?」
広川から見た天の評価は『パッとしない人』になる。
潜入任務に溶け込める黒木とは違う意味合いのもの。
悪く言うつもりではないが、どうも特殊部隊にいる人間らしくない。
身体能力を見ても、銃の腕を見ても、人格的にもらしさがないのだ。
あくまでとりあえずここにはいられる程度には強いものの、それだけ。
「あ、もちろん向いてねえとかの悪い意味じゃないです。
ただ、風雅先輩みたいな事情があるわけでもないですよね。
と言うより、天先輩みたいないい人が特殊部隊って何かチグハグで。」
「それを言うなら、広川さんも似たようなものではないかと。」
広川と言う男を理解するにはそう時間はかからない。
言動の節々から出てくるヒーローや正義の味方に対する憧れ、
時折の決めポーズやサブカルの話題になると特に饒舌になる姿。
天にとって一つ下であるためほぼ同年代であるはずなのに、
まるで高校生と会話しているような気分にさせられる。
嘗ての高校生活のような、ワイワイと楽しめてしまう。
そんな雰囲気を作るのがうまい人物だと思っていた。
けれど、此処はヒーローのような活躍を望む彼が憧れるような世界ではないだろう。
必要であれば無抵抗の人間だって殺す必要のある、暗部の仕事は天にも経験がある。
やることはさながらダークヒーロー、見方次第でギャングやマフィアの類とも受け取れる。
決してこれは善良な市民を守る仕事とはかけ離れている。彼の言うヒーロー像を求めるなら、
特殊部隊とかに入らず、普通の自衛隊や警察官の方がよほどそれらしいものになるだろう。
「何を言ってるんですか、
此処は間違いなくヒーローが集まる場所ですよ!
日本にとって悪となる存在を排除し、正義を守るんですから!」
軽くシャドーボクシングをしながら広川は答える。
彼にとってはこれこそヒーロー。なりたかったことだ。
確かにスーパーマンとかコミックとは離れたものであり、
功績とかは世間的には知られることはないので、少々寂しくはある。
しかし影ながら人を助ける仕事であると言う達成感や充足感はあった。
迷いのない返答。とてもキラキラした表情ではあったものの、
「……それは、私からすると違うと───」
反対に天の表情は余り良い顔はしなかった。
広川はこの仕事を誇りに思っている。いや、想いすぎているのではないか。
そんな不安が何処かあり反論しようとするも。
「乃木平さーんッ!!」
言葉を遮るように訓練場へと、
小田巻が姿を見せて猛ダッシュで駆け寄る。
走り込みの時とはまるで別の全力ダッシュは、
こんなに早かったのかこの人と少し呆然としてしまう。
「え、小田巻さん? どうしたんで……」
「テメエ小田巻ィ!! 逃げてんじゃねえぞぉッ!!」
「うわ、もう追いついた!?」
「そりゃサイボーグだしな。」
質問の答えはすぐに分かった。
続けて美羽が鬼の形相でその場に登場。
小田巻は天の肩を掴んで盾のように構える。
とりあえず何があったかはおおよそ予想がつく。
「さすが天先輩。女受けのいい顔だけありますね。」
「いやそれとは違うような気がしますよ、これは!
まず事情を伺いたいので、美羽さんは少し落ち着いて───」
最早お約束のパターンのようなものだ。
天が暇であればとりあえず美羽の対応はよくあること。
いつもの仲裁に駆り出され、双方に顔を向けて意見を聞く。
その光景を見て広川は思う。ある意味、これが唯一の強みなのだと。
隊員の殆どは癖が強いか、我が強い人達ばかりで構成されており、
当然一部の隊員とは広川も余り関わりたくないのはいる。その逆も然り。
けれど天と言う男は、誰とでも言葉を交わして理解を深めようとする。
皮肉ばかりで嫌われがちな伊庭でも、マイペースでついていけない南出でも、
隊員としての礼節を弁えない美羽やオオサキであったとしても関係ない。
誰とでも付き合えるし、関わることのできるその器用さにあると。
それはつまるところ、任務の状況や環境に適応した動きができることだ。
任務は命懸けであり、当然肉体や精神のコンディションは数十秒で下がる。
彼はその状況下でも、その状況に応じた適切な対応ができるのではないか。
この人は確かに強くないが、代わりにミスをしないので死ににくいしぶとさ。
頼もしいとは言えない、しかし敵からすれば余りにもこれは面倒くさい。
例えるならば、ゲームにおけるボスの取り巻きがポジションに近いだろうか。
別に倒さなくてもいいのだが、放っておけばそれはそれとして厄介な存在。
もっと簡単に言えば縁の下の力持ちだ。
「あーもう、風雅先輩も落ち着てくださいってー!
真理ちゃんも怒らせたくてやったわけじゃないんですから。」
暴力沙汰に発展しかけてたのもあり、
流石に加勢しないとまずいと思って彼も割り込む。
結局、天はこの時言おうとしていたことは言えなかった。
後はタイミングが悪かったり一緒に組むことがなかったり、
巡り合わせの悪さから山折村の任務まで共に参加することはなく。
真面目な彼は当然私語も控えていたので会話をすることはせず、
この時の反論は最後まですることはないまま胸の内に秘めている。
そして、この言葉を口にする相手はもうこの世にはいない。
永遠に返すことのない言葉になるとは、知る由もなく。
◇ ◇ ◇
「おい、起きろ。時間だ。」
「いたっ。」
ガスマスクをノックと呼ぶには少し強めの衝撃に目を覚ます天。
あれから二人は特に苦労することはなく浅野雅の雑貨屋へと到着。
店は商品は殆ど崩れてたが建物の形を保っていたので物色する必要があり、
成田が武器のことを調べている間に、天は二階で休息をとっていた。
「え、もしかして寝すぎましたか!?」
手の氷は六月の気温もあって完全に溶けた。
陽が昇って気温が上昇した中だと少し惜しくもある。
「いや、別に予定してた程度の時間だから問題ないさ。
ところで乃木平。まさかと思うが薬やってるとかないよな?」
「あるわけないでしょう!?」
寝る前に軽い情報だけ提示されたものの、
異能と言う荒唐無稽に何度も目にしたが余りにも斜め上が過ぎる。
ハヤブサⅢはまだいい。しかし山奥の村にワニ、しかもこれが正常感染者。
子供の空想ですら想像を超えているもので、寧ろいかれてるとしか思えない。
彼が薬物中毒で幻覚を見ていたと言った方が真実味があると言えよう。
「コホン。改めて、情報共有をさせていただきます。
まず……えーっと、本当に、湖にワニがいまして……」
成田に案内されながら、二人は情報を共有していく。
一応真実なのだろう。彼がふざけた人物ではないことぐらいわかる。
しかし、一度実物を見てみないことにはどうも現実味が感じられない。
異能ではなくワニと言う、中途半端に現実的な存在が嘘臭く感じてしまう。
これで熊や猪が正常感染者と言うのであれば、まだ現実味があると言うもの。
実際に熊も感染者としているのが何とも言えないところではあるが。
「ま、それ抜きにしても過労死する経緯のようで。」
ワニと交戦して即座に病院で鬼ごっこすることとなり、
更にハヤブサⅢとも遭遇した上で先の野性味溢れる少女と交戦。
六人の中で最も弱いと言えど天を手玉に取る連中ばかりと戦っている。
大田原でも多少難儀しそうなのを短時間で請け負う量と質ではない。
この疲労度を考えると、診療所の方についた方がお得だったと言える。
特に氷の少女に成田は興味が沸いた。ハヤブサⅢの助力があったとは言え、
実質的に二度も天と交戦して生き延びたのは中々にそそられる相手だ。
此処まで散々面白みのないゾンビの相手をしてきたのだから、
次は少女同様にいきのいい人物を撃ってみたいものだと。
「ハヤブサⅢの異能だが、恐らく視覚の強化だろうな。
記憶力が凄まじく良くて能力抜きで戦ってたなら別だが。
滑らない異能とは、乃木平は小粋なジョークもできると見える。
今度飲み会の時ネタにしてみたらどうだ? 案外滑らないかもしれないな。」
「冗談で思っただけですから、余りネタにしないでください。」
月明かりだけの中、自分だけが滑らない優位を保って戦うことができる。
なら滑る未来が見えているか、滑る場所を把握してないとできない芸当だ。
前者については貫通しない弾丸を撃つ理由がないことで除外されるので、
結果的に視覚が強化されて凍った地面が見えていたのが近しいと判断した。
直接的な戦闘に影響はないが、此方にとって厄介極まりない異能だ。
彼女は今も此方が視認できない距離から気付いてる可能性だってある。
その上で氷使いと恐らく研究員。戦力としては現状一番厄介な勢力だろう。
このまま勢力が拡大すれば、異能も相まって個人での対処は極めて困難だ。
なるべく早めに崩しておきたいところだと成田も判断していた。
(あの子は此方にとって好都合ですが……)
カニバリズムと言う本来人から外れた行為を、
平然と行ってる以上あの子供(
クマカイ)は感染者やゾンビも狙う。
此方も狙ってるがそれを差し引いてもこちら側の負担が減るのは事実。
けれど、無駄な犠牲を減らすように立ち回る天としては少々賛同しかねる判断だ。
感染者減らすためにライオンを村に放つようなもの。放置してもいいゾンビも犠牲になる。
だからと言って、別案を提示できない以上は割り切らざるを得なかった。
強くないが故に、邪道も受け入れざるを得ないことにどこか歯がゆく思う。
「ところで、調査の結果はどうだったんですか?」
「ああ、あったさ。此処は雑貨屋じゃなくて武器商人かと疑うレベルだ。」
言葉と共に店の近くで横転したコンテナトラックを開く。
中には雑貨屋のトラックとは思えぬ非現実的なものが揃っている。
「ベレッタにレミントンにジュニア・コルト……いや、
流石に研究所の関係者としてもこれは多くないですか?」
拳銃、狙撃銃、ポケットピストル、更に日本刀に手榴弾やボディスーツ。
充実過ぎるラインナップに防護服の中で引きつった顔になる天。
これからデスゲームでも始めるのかと疑いたくなってしまう。
いくら研究所の関係者と言えどもこれには限度と言うものがある。
「この日本刀や銃とかもだが土汚れから察するに地面にでも埋まってたか。」
土に突き刺してたとしても、柄の部分まで汚れるわけがない。
埋まってなければ成立しない状態で放置されてるように見えた。
「え、刀が自生してるんですかこの村。」
「ワニと出会っておかしくなってるぞ、お前。」
精神的な疲労が垣間見えた発言な気がした。
刀が地面に埋まってる=刀が自生するは何をどうしたらそう思うのか。
荒唐無稽なものに出会ったことで彼らしからぬ発言に少しばかり呆れる。
「とは言えこの村はそもそも研究所からしてきな臭い。
木更津組を筆頭とした反社会勢力もいる。武器を隠す奴はいるだろうさ。
それを見つけ次第回収していた、と言ったところか? ご苦労なことで。」
彼等には与り知らぬことではあるが、
木更津組のブローカーである宝田一によって仕掛けられた多数の武器。
村には地震の影響で露呈した結果潮干狩り感覚で武器が見つかる量の割に、
余りそれらを見つけた人物が少ないのはそういうことでもあったりする。
彼以外に見つからないように隠されたと言っても隠した本人はブローカー。
スパイを監視する役割を担う浅野雅の目から逃れなかった一部は回収された。
それでもまだまだあるので、探そうと思えば出てきてしまうのだが。
「この村、ひょっとしなくてもやばい村なんです?」
「だろうな。全く、小田巻も不運な奴だよ。
休暇でこんな村に来ちまうとは、どんな運を持ってるのやら。」
「本当に災難で……え? 小田巻さん?」
「あ、言っちまった。」
わざとなのか本当なのか、
少々わかりかねる言動で肩をすくめる成田。
ブリーフィングではキレた美羽の対応に追われていたこともあってか、
天は作戦内容の一部については聞きそびれた状態で参加している。
勿論必要な分はちゃんと後で大田原が説明していたので問題ないが、
逆に言えば必要のない、と言うよりは大田原は少し懸念したこともあり、
小田巻の存在については伏せた状態にしておいて作戦内容を伝えた。
「言っちまったことだし言うが、小田巻はいるぞ。
ゾンビか正常感染者かは現時点では判断できないが。」
「そう、ですか……小田巻さんもこの村に。」
村については作戦前にネットで軽く調べた程度だが、
確かに彼女が好きそうなラーメン屋が口コミにあった。
今度彼女に勧めてみようかとは思ったが、本当に来ているとは。
声のトーンから、意気消沈しているのが手に取るように分かる。
「可愛い後輩は撃てないとか言うつもりはないよな?」
「少なからず、後ろ髪は引かれるでしょうね。
『小田巻さんにも協力してもらおう』と言うような、
彼女を生存を重視するかのような提案を思いつく程度には。」
嘗ての記憶で盾にされたり伝言役を頼まれたりと、
何かと頼られるを通り越して利用されてるのが否めない間柄だが、
彼にとっては後輩の一人だし、今後彼女が活躍できるだけの強さを知っている。
部隊の損益もだが、彼女をよく知る人物として殺すことになるのは気が引けてしまう。
「アイツが女王感染者だったらそれはそれは無駄な虐殺だな。」
殺しを楽しむ身としてはそれは寧ろ好都合だが、
一方でそのやり方については任務に支障が出る行為だ。
もし彼女が女王感染者だった場合無駄な命が犠牲になるだけ。
犠牲者をなるべく減らすのが念頭にあるであろう天とはかけ離れた行為だ。
「ですが必要なら戦い───いえ、撃ちます。」
しかし、意外な答えに少しだけだが成田は面食らう。
人の命を取捨選択ができる立場は基本的に医者等の領分であり、
決して汚れ仕事をする自分が神様気取りに命を選ぶ権利などない。
殺した相手を忘れないのが唯一できる贖罪と思う彼には最早愚問。
自らこの銃を手にした。自らこの防護服を着た。自らこの地へ参じた。
なら道は一つだけだ、同じ職場の人間だからと擁護も加減もしない。
もっとも、あくまで覚悟だけ。小田巻の優秀さはよく知っている。
異能で更なる強化を得ている彼女を相手にするのはより一層厄介なはずだ。
「まあ、甘い考えを口にしてしまいますが、
可能なら黒木さんと合流してほしいものですけどね。」
黒木はハヤブサⅢを標的としての活動だ。
現地にいるのであれば協力できる可能性は高い。
そういう意味では可能なら会って欲しいとは思うがそれはそれ。
出会って正常感染者であるのなら迷わず引き金を引くつもりだ。
「それで、この武器の山どうします? 一部は持って行けそうですが。」
全部と言うと流石にこの量は重すぎる。
中には万が一奪われたら防護服を貫通する威力の高い銃もある。
性能が良いからと持って行けば、ゾンビどころか死すらあり得てしまう。
持って行ってもいいのは少しか、或いは奪われてもいいものに絞っておく。
「とりあえずポケットピストルはお前が持っていけ。
威力が低いから、奪われてもさほど問題ないだろ。」
「あ、はい。」
携帯性のある銃は威力が低く防護服の貫通は難しい。
それは既にハヤブサⅢとの交戦で身をもって経験している。
念の為威力は確認しておくものの、さほど問題はないだろう。
「成田さんにレミントンはいいかもしれませんが、問題は環境ですね。」
本来ならば狙撃銃は一方的に敵を攻撃できる代物。
成田は狙撃の名手。距離さえとってしまえば一方的だし、
同時に成田程の優れた狙撃ができる人間はそうはいないだろう。
しかし、そうはいかないのが村の状況。崩れかけた建物では足場は安定しないし、
最悪倒壊する危険だってあるのに加え、季節は六月で夏が近づいてきている状態。
屋外では暑さの中補給がない状態で何時間も動かずに待つのは極めて危険。
狙撃は屋内を推奨したいのに殆どできず、屋外では消耗が激しい。
絶望的なまでに狙撃と言う行為は状況と噛み合ってないのだ。
「ま、いざと言う時は狙撃の必要が迫られたなら使う程度だな。」
もし視覚強化が事実でハヤブサⅢの手に渡ったら相手は人間スコープ。
スコープなしで狙撃されかねない危険を孕んではいるものの、
倒壊の危険がない建物だってある可能性は十分にあるし、
その時のアドバンテージを考えると持っておきたくはあった。
「後のはどうします?」
「破壊するならグレネードやトラックに銃弾ぶち込んで燃やすのもいいが、
あの黒田爆斗みたいなことをやっても目立つ。埋めるにも時間はかかるだろうし、
視覚が強化されてるとみていいハヤブサⅢに、その隠し方は即座にばれるだろうな。」
視覚の強化と言う戦闘に直接的な有利を齎さない能力。
しかし元が優れた人物に渡った瞬間やりづらいことこの上ない。
しかもこの暑さの中埋める作業は過酷だ。どうにも効率が悪くなる。
「あ、それでしたら一つ。雑な手段ですけど。」
天の提案により武器を回収した後二人は別の家の部屋の一つへ武器を纏める。
置いた後、倒れていた本棚を完全に空にして軽くしてから立てかけ、
医療テープをある程度貼って部屋を出て、テープをドアの下にある隙間に通す。
テープをそのまま引っ張れば少し派手な音が扉の向こうで響く。
「これでどうですか?」
「なるほど、つっかえた部屋は壊さないと開けられないと。」
試しに扉を開けてみるがドアを開くことはできても、
本棚がつっかえてる上に武器の山も死角で視認するのは困難。
無論破壊して強引に開けることはできるし、それを実行できる能力に目覚めた人もいる。
しかし地震が起きた最中で建物に逃げ込む人物の目的の殆どは、休息をとりたい場合だ。
他の部屋が開くなら態々時間をかけてまで開かない扉に固執する理由はないだろう。
入れなかったとしても地震の影響で本棚が倒れて開かなくなった、と認識するのが普通だ。
万が一、弾切れを起こした場合に最悪ドアを破壊して武器の調達としての意味合いも含む。
武器の調達はドローンに指示を送ればできると言えども時間差を考えると、
いざと言う時の調達に使えるようにしておきたくもあった結果の判断だ。
「ハヤブサⅢが浅野雅を研究所関係者だと気付いてる可能性も観点に、
とりあえず無関係な家に放り込んでみましたが、大丈夫でしょうか。」
「可能性は低くはないが、高くもないと言ったところだ。」
よほどのことがなければ見つからないが、
そのよほどがありうるが殆ど机上の空論だ。
考えても仕方ないので放っておき外へ出る。
外へ出てみれば、燦々と照らす太陽の下。
防護服で覆われてる都合熱は逃げることがなく汗が簡単に噴き出す。
屋外で長時間の活動は補給もできないので死に直結しそうな暑さだ。
「ところでカードキーだが、俺が預かるぞ。」
「分かりました。」
間違いなくこれはハヤブサⅢが求める代物。
となれば黒木に渡しておくのが良いだろうが、
休んだとはいえ連戦続きで消耗してる天に渡して、
変なところで死んで落とされても色々と面倒になる。
ついでに此処まであの野生児以外まともな奴と出会ってない。
その野生児相手も殺せてないのでどうにも物足りなかったところだ。
異能によって自分が重要なものを持ってると認識する可能性もあるだろう。
ならば寄ってこい。その方が好都合であるし、自分の目的も果たせる。。
「……癖も程々に、って言わなくても大丈夫でしょうね。」
ガスマスク越しなので顔は分からないが、
恐らく笑みを浮かべているのだろうと何となく察する。
「心配か?」
「いえ、私情は持ち込んでも仕事に支障を出さない。
成田さんのそういうところは、個人的に信用してますので。」
「『そういうところは』ねぇ……嫌われちまったもんだ。」
「嫌いではありませんよ。苦手なだけです。
後、残念そうなフリしても騙されませんから。」
隠しきれない暴力性についてはもう分かっている。
正反対な性質は到底受け入れられるものではないし苦手だ。
けれども、彼は残虐ではあるが決して無差別殺人をする殺人鬼に非ず。
破綻者であると同時に仕事はちゃんとこなしている、本物のプロ。
一見殺しを楽しむ瞬間が油断しそうに見えて、実際は油断も隙もない。
唯一の隙と思って仕掛けてみれば藪蛇をつつくようなものだ。
仕事は真摯に遂行するスマートさが成田が評価される所以。
この男は常に周囲を見ている。熱で相手を感知するガラガラヘビのように。
苦手と評価は別だ。この人は優れた人物。だから教えを乞うことも必要だと。
「乃木平、お前は東に行ってこい。俺はこの辺りの感染者を探す。」
北の高級住宅街は広川、美羽、大田原がいるはず。
此処に追加で戦力を投入しても効率が悪いので別の方を選ぶ。
黒木もそれを理解して他の場所を回っているかもしれない。
一度合流するのであれば、それ以外の場所を選択するに限る。
「はい、わかりました。」
此処でのやることは終えた。後は本来の仕事に戻るだけだ。
なるべく陽に当たらないように建物の影を通りながら天は離れる。
軽く見送ったと、使えそうな建物を探すべく成田も動き出す。
(ハヤブサⅢ、少し相手してみたくはあるがどうだか。)
氷使いと刃を交えるとなると必然的に彼女が難題だ。
ただでさえ狙撃は環境の都合強みが失われやすい中で、
視覚強化された相手なんてものに遭遇したら狙撃は更に困難になる。
とは言え、視覚の強化とは何もメリットだけを与えるものではない。
余計な物や本来気にならないものでも強烈な刺激になりうる。
(例えばこれとかな。)
スマホについているライトの機能。
夜道を歩くのに困らなくなる便利なライトだが、
一般人でも不意に喰らえば目をくらませるものを受ければ、
通常よりも視界を遮る効果が強くなるのは間違いない。
狙撃銃で居場所を知らせるのは愚かな行為ではあるが、
光で妨害できる可能性は十分にあるだろう。
加えて雲一つないこの快晴は此方としても不利だが、
同時に反射もしやすくあらぬ被害を生み出すのも間違いない。
(ま、ああは言ったものの俺も北へ向かうかもしれないが。)
戦力過多なので北上するのは保留としておいたが、
高級住宅街は名前の通り金をかけて作った頑丈な家が多い。
狙撃に使える建物がある可能性は高いので視野には入れておく。
今度こそ楽しめる。
もう面白みのないゾンビはうんざりだ。
野生児でもハヤブサⅢでも氷使いでも構わない。
ずっと待ち続けて物足りなかったのだから存分に楽しませてくれ。
より取り見取りの戦場。まだ見ぬ獲物の品定めをするかのように、
登りきった朝陽の下には似つかわしくない男が街を徘徊する。
【E-4 商店街/1日目/朝】
【成田三樹康】
[状態]:健康
[道具]:防護服、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、双眼鏡、研究所IDパス(L2)、謎のカードキー、浅野雅のスマホ、レミントンM700
[方針]
基本.女王感染者の抹殺。その過程で“狩り”を楽しむ。
1.周辺の散策。位置関係から高級住宅街は必要次第で動く
2.「血塗れの感染者(クマカイ)」に警戒する。
3.「酸を使う感染者(哀野雪菜)」も探して置きたい。
4.「氷使いの感染者(氷月海衣)」に興味。
5.狙撃に使えそうなポイントを探しておく。
[備考]
※乃木平天と情報の交換を行いました。
※ハヤブサⅢの異能を視覚強化とほぼ断定してます。
※レミントンの弾をどれだけ持って行ったかは後続の書き手にお任せします。
『何を言ってるんですか、
此処は間違いなくヒーローが集まる場所ですよ!
日本にとって悪となる存在を排除し、正義を守るんですから!』
(それは、違うような。)
眠ってる間に見た嘗ての記憶を天は思い返す。
正義を守ると言うのは、確かにそうかもしれない。
ただ、正義と言うのは結局お互いが持つものだ。
よくある話だ。正義の反対は別の正義でしかない。
正義なんてものは生きたり勝った者が正義と主張しただけで、
この世界の何処を見渡そうともそんなものは存在しないのだと。
手垢のつきまくった物語の題材として多くの作品が存在する。
広川はそれを理解してないか、考えてないかのようだった。
古来より続いてきた勧善懲悪の物語のように敵は単純な悪。
自分達は国のために尽くすから正義であり、邪魔する奴は悪なのだと。
だからこそ倒してしまおう、何処か子供じみた感覚が拭えない。
以前任務で一緒に行動した際に劣勢に追い込まれた時にも、
広川はヒーローらしさとかけ離れた悪態をつくこともあった。
(戦う敵にも、信念や想いと言うのはあるんですよ。)
多くの作品でそういうのに主人公たちが直面した時、
悩んだり葛藤した末に改めて答えを出して再起する展開は多い。
悪い言い方になるが、広川は正義やヒーローと言ったことを主張こそしているが、
彼自身の芯となる部分はどこかあやふやで、結果独善的な面が少なからず感じられた。
身も蓋もない言い方をすると、ファッションヒーロー。
(それが正解でしょうし、隊員も大体がそうだと思うのは確かですが。)
相手の事情を考えない。それは特殊部隊としては正しい。
殺す相手をいちいち考るべきではないと言うのはそれでいいだろう。
と言うより、割り切れず殺した相手を覚え続ける天の方が異常になる。
これを口にすればまず大多数からは否定的な意見が飛ぶだろうことも。
なのでこれはあくまで一つの考えだし、押し付けるつもりもない。
ただ、広川が憧れるヒーロー像とは少しかけ離れてる気がしてならなかった。
「……言うべき、だったのでしょうか。」
此処での任務は必要以上の殺しも視野に入る。
無関係だが邪魔でしかないゾンビを必要ならば処理する必要が。
場合によっては後輩である小田巻すらも手にかける状況もある。
それを考えると言うべきだったのか。彼の事だからゾンビも遠慮なく、
小田巻と会っても『嘗ての仲間が敵に……燃えるな!』となっていそうだ。
しかし、言って変に腕を鈍らせたら申し訳なくも思い言えなかった気はする。
結局どれが正解かは永遠に分からない。無限に続く選択肢の枝は答えを出させない。
今後、永遠に消えることのないそのモヤモヤを抱えたまま、東へと歩を進めた。
【乃木平天】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神疲労(小)、
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、医療テープ、ポケットピストル(種類不明)
[方針]
基本.仕事自体は真面目に。ただ必要ないゾンビの始末はできる範囲で避ける。
1.東へ向かう。
2.黒木さんに出会えば色々伝える。
3.あのワニ生きてる? ワニ以外にも珍獣とかいませんよね? この村。
4.某洋子さん、忘れないでおきます。
5.美羽さん、色々な意味で大丈夫でしょうか。
6.能力をちゃんと理解しなければ。
7.小田巻さんもいるんですね。ですが必要なら撃ちます。
※ゾンビが強い音に反応することを察してます。
※もしかしたら医療テープ以外にも何か持ち出してるかもしれません。
※成田三樹康と情報の交換をおこなっています。
※ポケットピストルの種類は後続の書き手にお任せします
※ハヤブサⅢの異能を視覚強化とほぼ断定してます。
※E-4の家屋に浅野雅が用意してた武器+回収した武器があります
該当する部屋は倒れたタンスで開かない為、入手と確認は困難です
最終更新:2023年05月16日 23:26