「上の連中の頭が沸いてるってなぁ、ありゃ誇張でもなんでもねぇんですかい……。タンクだってのに大砲積んでねぇ。積もうぜ」
トレーラーの荷台に鎮座する、今作戦とは相容れない武装が施された機体を見上げながら、デュバルは意図が伝わっていなかったのかと嘆いた。最も、戦車乗りに対する冒涜だろうなと思う構成自体にはあまり興味が無い。
大口径のキャノンないしはハウザーといった大艦巨砲主義の極みこそがタンクに相応しい武装だ。とも思わない。
重厚なる無限軌道の奏でる圧倒的な存在感。
生半可な積載量では収まりきらない圧倒的な総火力。
大半の武装を意に返さず弾き返す圧倒的な装甲。
小賢しい高速機に翻弄される悲劇的な機動力。
だが、眼前にあるこれは何なのか。
切れ目無き弾幕を展開する近所迷惑必至な計8門の銃身。
両肩より飛翔する無数の噴進弾による死の円舞曲(わるつ)
凄まじき弾薬消費の早さによる脅威的な継戦能力の無さ。
濃紺色の軽量化著しい手軽で便利な車体が峠を攻める。
ただの高速対空戦車ではないか。
無論、ヒートパイルやブレードといった頭のネジが10本くらい纏めて外れているような武装を施しているわけではない。それはもはや冒涜であり、そのような蛮行を恥知らずにも行う輩は皆死ねばいいのだ。
《
公主嶺》中佐が何時か言うだろう。
つまる所デュバルは、機体構成を見て《ヴィルベルヴィント》を迎撃機――より正確に言うならば、ロケット付き機銃座だと勘違いをしてしまったのだ。
「迎撃戦、いいですなぁ。迎え撃つ爽快感、綿密に計算され敷かれた防衛線。得意っちゃあ得意なんですがね。今は、どっちかっつーと、殲滅戦。キルゼムオール。火力も欲しい、機動力も欲しい、そんな欲張りデュバルさんにこの機体! ありがとう《バンガード》! ありがとう《大佐》! 愛してますぜ!」
最早ヤケクソだ。何事かと背中に集まる視線を無視して、誰かを迎え入れるかのように両手を広げた。
数秒ほどその姿勢で固まって、それからがっくりと肩を落とした。今日の大尉は情緒不安定だと隊員達が囁きあう。
「私が一体全体、なにしたってんですかい。そりゃ、クーデターにゃ参加しませんでしたがね。蹴っ飛ばされーの降格だーの左遷じゃーのって……十分報いは受けてると思うんですがね、実際」
呪詛のように漏れる彼女の恨み節に応えたのは、がさがさと何かを擦るような音だ。どんよりとした表情のデュバルが顔を上げると、ACの陰から顔を覗かせて一心不乱にハンバーガーを頬張っている自由人がいた。
「……」
「……」
顔立ちに子供っぽさを残す女が、リスのように頬を膨らませながら無言で口を動かしている。
デュバルを凝視したまま大きく喉を動かして口を空にすると、手に持った今にもはちきれそうなビニール袋に目をやり、再びデュバルのほうに顔を戻して、袋を背中に隠した。
「盗りゃあしませんっての」
誰だかは判らないがパイロットスーツを着用している。そのためデュバルは、大方増援のMTパイロットだろうと当たりをつけた。正確にはそう思い込みたかった。
「こんな所で油売ってていいんですかい? 小隊長あたりにどやされても知りませんぜ」
「ひはふはひひ……ん。ディバル大尉って人を探してる。それとワタシはACパイロットだから、ハンバーガー食べてても怒られない」
お前はハンバーガーを食べていただけで探してすらいなかっただろうとか、どのパイロットでも関係ないだろうとか、軍隊舐めてるだろうとか言わなかったのは、デュバル自身も不良軍人だからかもしれない。
ちなみに何のパイロットなのかは聞き流した。信じたくないからだ。
「……。おたくの尋ね人は目の前いますがね。それと、デュバルですぜ。さらにダメ押ししちまうと、私ぁ部隊指揮官なんで怒る事ができちまうんですが」
「も、もめんまふぁ……んぐ。ごめんなさい」
素直に謝ることが出来るのはいい事だ。しかしデュバルには、もっと大切な事があった。
あがく事、運命を否定する事。
「ちと聞きたいんですがね。サカモト伍長ってなぁ何処にいるか知りませんかい?」
「ワタシだ」
「……いえ、場所を知りたいんですがね」
「ココにいる」
「……顔がわかんねぇんで困ってんですよ」
「ワタシが坂下伍長だ」
「……」
デュバルの悪あがきは徒労に終わった。運命を受け入れろという事らしい。
がっくりとうなだれたデュバルを不思議そうに見ていたレーヴェだが、すぐに興味を失ったらしく再びハンバーガーと格闘し始めた。
ものの数秒で1ダースに及ぶ数の補給物資を処理し、さらに追加の燃料補給を試みた所でふと何かを思い出したかのように動きを止める。
暫く唸っていたレーヴェだが、漸く思い出したらしい。うなだれているデュバルの肩をつつく。
「……私がデュバル大尉ですぜ……」
「それは知ってる。そうじゃなくて、言わなきゃいけないコトがあった」
平素と大して変わりの無い表情のまま沈み込んでいたデュバルに正対し、レーヴェは踵をきっちり合わせて直立不動の姿勢をとった。
「《
坂下・レーヴェ》伍長、ただいま帰りました!」
「……おかえりなさい、つっとけばいいんですかね? そんでもって、メシフロネルの魔法の言葉……」
「……? よくわからないけどご飯がいい」
デュバルの返答に眉根を寄せて首を傾げたレーヴェは、羽織っていたジャケットのポケットをあさってくしゃくしゃになってしまったメモ用紙を引っ張り出すと、中身を読んで間の抜けた声を漏らす。
「……あ。間違えた。出頭いたしました!」
「……」
出頭してません。指揮官自ら出向いてさし上げました。アイアムグッドコマンダー。
そう言わない程度には、デュバルは大人だった。そして疲れてもいた。
「はいはい、お疲れさん。つうても、弾補給したらすぐ出ますんでね。早々悪ぃんですが搭乗待機しとって下さいや」
「これ食べ終わってからでもいいか?」
「すぐ食べきれる量だとは思えねぇんですが……」
デュバルの予想に反して、レーヴェが残りのハンバーガー全てを食べ終えるのに1分もかからなかった。
例え戦闘機動の激しさで吐いても関知しないでおこう。デュバルは固く心に誓った。
最終更新:2012年05月11日 14:58