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 乾いた砂粒を巻き上げるネイビーブルーの鉄塊が、弾丸を盛大に撒き散らしながら敵集団へと突進していく。
 射撃型の放ったレーザーをドリフトで華麗に回避しようと試みて失敗し、群がってくる突撃型の体当たりを逆に跳ね飛ばし、思わぬ形で敵陣に穴を開けていくのを見てデュバルは唖然とした。まだ攻撃命令は出していない。

「タンクの癖に速ぇ……つーか人の話聞いちゃいねー。誰がカミカゼしてくれなんつった……」

 呟いて、そういえばと、書類の扱い方欄に記載されていた文言を思い出す。

 いわく。とても頭が悪いので作戦時の注意事項や段取りなどは紙に纏めて渡してください。
 いわく。なるべく簡素に、出来れば箇条書きで。難解だと理解以前に読んでくれません。ポイします。
 いわく。面倒でもやった方がいいです。5分もかかりません。さもないと勝手に突っ込みます。
 いわく。食べ物を与えるとよく働きます。好き嫌いの無いいい子ですが、コストがかかります。
 いわく。諸費用(おやつ代)などは別途経費として計上可能ですので、お気軽に主計科まで。

(やっちまったなぁ! もう遅ぇっすよぅー)

 思わず声を上げそうになり、代わりにガムタイプの噛み煙草を口に放り込んだ。紙巻煙草を吸えない苛立ちをガムにぶつける勢いで噛んでいく。
 各種空調の整ったコクピット内で煙草を吸った所でさしたる問題は無く――たとえ戦闘中に吸う馬鹿がいたとしても――機能不全を起こすわけでもない。問題は整備員にいい顔をされないということだ。とくに鬼の整備隊長《コンラート・グリエフ》少佐が激怒しかねない。
 階級が上の者に対しても罵声を浴びせる彼の事だ。相手が女だろうと容赦なくスパナが飛んでくる。実際に何度も喰らった。
 仕方ないと、小さなため息をついてMT部隊に回線を繋げた。当初の予定を大幅に逸脱したが、ようは敵を殲滅すればいいのだ。

「《アンシャン・レジーム》より各機へ。《シチート》各隊、前進し攻撃を開始。《シュペーア》は《ヴィルベルヴィント》の援護を。S型は追って指示があるまで待機」

 機体にスナイパーキャノンを構えさせ、《ヴィルベルヴィント》の後方に迫っていた突撃型に照準を合わせる。発砲のタイミングを計りながら、思い出したように口を開いた。

「あーサカモト伍長。そのまま手当たり次第撃っといて下さい。後ろのは気にしなくてもいいんで」

 言って、トリガを引いた。狙い違わず獲物を撃ちぬいた砲弾を追う様に、支援型のレーザーキャノンが未確認機の集団へと突き刺さる。同時に《シチート》部隊も銃火を交え始めた。重装甲を武器に未確認機を押し込んでいく中、増援として送られた部隊が腕から散発的に光を撃ち出しているのを見てデュバルは思わず舌打ちをした。

「おいこら《サンティエ》隊。後ろからチマチマ撃ってんじゃねー。味方に当たっちまうでしょうが。回り込んで側面から攻撃して貰いてぇんですがね」
「《サンティエ1》了解。しかし、こいつには盾が……」
「……そいつの装甲は紙粘土か何かで出来てんですかい? そう簡単にゃ墜ちねーっすよ」

 彼らは両腕をパルスキャノンに換装された改良型の《シチート3》に乗っている。防衛型の象徴である盾を持たないとは言え、むしろ持たないからこそ、ノーマル型に比べれば装甲は厚い。
 緩慢な動作で動き出した《サンティエ》隊を見て、デュバルは内心で毒づいた。

(もちっとマシなの送って欲しかったんですがね……)

 とは言え、所詮は二級部隊に送られる増援だ。期待するだけ無駄だった。
 デュバルの様に、クーデターの際《政府》側についた為に閑職に追いやられた者――つまり左遷組。
 暴力沙汰等の問題行動を起こしたが為に、とばされて来た者――早い話が躾のなってないワンちゃん。
 敵前逃亡などの戦闘放棄や能力の低さを理由に、矯正の為に送られてきた者――ようは論外。

 正規部隊では味わえない堕落がここにはある。
 最も、前者は何も問題無い。あっても見逃すのが、デュバルの駄目指揮官たる所以である。
 素行の悪い連中も大して問題にはならない。荒くれ者を纏めるのは慣れているし、吼える犬には鞭をくれてやればいいのだ。一度屈服させてしまえば他の連中を躾ける時にも協力が得られる。
 問題は後者だ。腕が悪い、といった程度ならまだ矯正の余地もある。死なない程度に激戦区へ放り込んで自信をつけさせればいい。
 ただ、端から戦意の低い者はどうにもならない。銃殺が妥当である。ノイマン大尉のお言葉です。

「《プルプ1》より《アンシャン・レジーム》……新米の壌ちゃんが変な動きしてます」

 一難去ってまた一難か。
 待機中の《シュペーアS》隊長機からの通信に、デュバルの唇がへの字を描く。
 頭の悪そうなレーヴェの事だ。大方、持病の押しボタン症候群による発作でいらんスイッチを押しまくったのだろう。

「こちら《アンシャン・レジーム》、聞きたくねーっす。以上、終わり」
「いえ、機体の不調ではないかと……」

 慌てて長距離射撃用のスコープから目を離し、《ヴィルベルヴィント》に視点を合わせた。
 駒か何かの様に連続でスピンを繰り返しながら、弧を描くような機動で四方八方にオートキャノンの弾をばら撒いているのを見て、デュバルは怪訝そうな顔をした。

「……なにやってんだありゃ? 伍長、何かトラブルですかい?」

 返答の代わりに《ヴィルベルヴィント》の肩部や脚部のライトが点灯したのを見て、デュバルは眉を顰めた。機体の不調ではないかと言う疑いが強くなる。

「音声出力が切れてんのか……? サカモト伍長、聞こえてんなら――」
「どれだ!? これか! む……違う。これだな? ……やっぱこっちにしよ」

 ややあってレーヴェの声が聞こえてきたが、通信が繋がった事に気付いていないらしい。ライトがハイビームになった。続いて両肩のウェポンユニットが出たり入ったりを繰り返す。ただ、ロケットは弾切れを起こしているのか何も出てこなかった。

「何がなんだか。大回転の理由を説明して貰いてぇんですが……いらんスイッチ押さずに口だけ動かして下さい」
「ロケットが切れた。だからわざとスピンさせて弾をばら撒いてる。でも目が回る。吐きそう……ちょっと待って、ゼリー食べる」

 何かを漁っている様な雑音が耳に入り、思わずデュバルは脱力した。機体に問題があったのではなく、搭乗者に問題があったらしい。

「そら見た事か言わんこっちゃねぇ。つーかゼリー食ってる場合ですかい……」
「ふぉーふぁいふぉ……んぐ。もう大丈夫だ。マスカット味のおかげでスッキリした」
「早ぇな!? っと……《アルミュール》隊、前に出すぎですぜ。もうちょい速度抑えて」
「飲むのだからな。なんだっけ……コーツー事故おこしたかんじの……えっと、くだいてるヤツ」

 食べるスピードが馬鹿みたいに早いのは戦闘前に判明した。デュバルが言いたかったのは、吐き気が治まった事に関してだ。2秒ほど思考し、きっと空腹で吐き気がしたのだろうと結論付けた。何故なら、今も高速で回転しながら全方位に弾幕を形成しているからだ。ふと《ヴィルベルヴィント》の履帯の状態が心配になった。デュバルにタンクタイプの操縦経験は無いものの、凄まじい負荷が掛かっているだろうという事位は何となく理解できる。戦闘後、応急修理を行うとは言え、恐らくは帰還後にスパナの洗礼――必殺仕事人グリエフの最終奥義を受けるだろうと予想した。

「クラッシュって言いてぇんでしょうな。《ブウクリイェ》隊、後退。無理しなさんな。《エリッソン》隊、穴埋め頼んます。えー……何話してましたかね? あぁ、そうそう。つーかコクピットにそういう液状のもん持ち込んだら駄目でしょうが。ばしゃーってなっちまったら、偉い事ですぜ?」
「……なんで知ってるんだ。そーだ、ワタシはこの前カップラーメン水筒に入れて飲もうとしたらばしゃーってなったぞ。熱かったしスパナが痛かったな。すごい怒られた」
「……誰かロキソニン持ってねーっすかね。頭痛ぇ……――だーやっちまった! 最後の最後に外しちまったじゃねーか」

 弾の切れたスナイパーキャノンを投棄して立ち上がった《アンシャン・レジーム》を前進させながら、デュバルはリコン・ユニットを射出した。《ヴィルベルヴィント》周囲の未確認機を走査し、自機に最も近い1体に狙いを定めて撃った。
 KEに対する耐性の高い装甲を有するそれがたった1発で墜ちたのを見て、ほうと感心したような声を上げた。
 レーヴェのやり方は単体に対する投射量は減るが、全体に満遍なく損害を与えるという点では理に適っているらしい。最も、彼女がそれを見越していたとは思えなかったが。

「悪くねぇな。ねーんだが……」

 いくら高い耐久性を有するタンク型とはいえ、単機で敵集団の真っ只中で戦闘を続けるというのはあまりにも無謀すぎる。事実、格好の的となった《ヴィルベルヴィント》の各所からは早くも火花が散っていた。
 選手交代の頃合いだ。折角、面制圧を行える部隊を増援として要請したのだから、彼らにも戦果を挙げさせてやるべきだろう。

「お手柄ですぜ伍長。後でチョコバーでも進呈しますんで、一旦下がって防衛型と交戦中のを挟み撃ちにして貰ってもいいですかい? 周りに残ってるのはコッチで片付けときますんで」
「まさかのチョコ! 大尉はチョコの人か! 分かった。あ、ちがった……了解! チョコのために!」

 反転しグライドブーストで飛んで行った《ヴィルベルヴィント》を追うように敵が集まり始める。それを見て、デュバルは呆れたように小さく息を吐いた。

「カモ撃ちですなぁ……《プルプ》隊、お仕事ですぜ。クラスターで纏めて薙いじまって下さい」

 照準用レーザーが幾重にも伸び、ついでミサイルが発射された。幾つもの未確認機が、蝿か、蚊か何かのように墜落していく。撃破を逃れた数機も、然程時間を置かず沈黙した。
 それとほぼ同時に、後背から《ヴィルベルヴィント》の突撃を受けた集団も壊滅した。

「敵勢力の全滅を確認……探知圏内に敵影無し、作戦終了。一先ずはお疲れさん」



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最終更新:2012年06月24日 00:34