「皆、集まったようだねェ。結構結構。時間に正確なのは良い事だよォ、何事に関しても」
会議室に集まった面々を見渡して、悲しき中間管理職《
公主嶺》中佐は満足そうに頷いた。
彼の視線の先には《バンガード》の名のある隊員達――文字通りの意味で――が、三者三様の思惑を胸に秘め次の言葉を待っている。
「今日、諸君らに集まってもらったのは他でもない――《大佐》に関する、ある懸念事項についてだ」
僅かに眉根を持ち上げる者。何故だか鼻で笑う者。そもそも聞いてすらいない者。
一癖も二癖ある面々の、彼の言葉に対する反応は様々だ。
「――彼がロリコンではないかという疑惑が軍内部で持ち上がっていてねェ」
暫し会議室を沈黙が支配する。先手をきったのは《バンガード》の妖怪だ。
「ゲァハハハハハハ! 往生せいやァロォォォリコォン! 逮捕逮捕ォ逮捕ォォォ!!!」
カッと目を見開き哄笑した超高性能おじいちゃん《
アルコフリバス・ナジエ》少佐だが、すぐに普段通りの曖昧な状態へと戻った。メシはまだですかいのぅと言う呟きが口から漏れる。
鼻を鳴らしてナジエを睨みつけた《
STCC》の《
ダフニス》少佐が後を継いだ。何故彼がここにいるかはよく分からない。しかしナジエが大嫌いな事は分かる。マルプル特攻するやつは皆死ねばいいのだ。
「こちら《ダフニス》。諸君、ロリコンを見つけろ」
一言そう言って、彼は部屋を出て行った。本当に彼がいた理由が分からない。
「撤収撤収。真面目に議論するほどのお題じゃないでしょー」
「カーネルの性的嗜好のままに」
「四十過ぎたオッサンは、未成年じゃなけりゃ碌に勃ちゃあしねー不能ですぜ?」
頬杖をついて大欠伸をかましている、峡谷方面指揮官《
スウェイン・ユードルファ》大尉。
部下に好かれる十二の方法と書かれた本を読んでいる、砂漠方面指揮官《
カルロウ・ノイマン》大尉。
テーブルに足を乗せて盛大に紫煙を吐き出している、派遣指揮官《
クロード・デュバル》大尉。
迫撃! トリプル・大尉とでもいうべき猛攻を受け、万年中間管理職の額に青筋が1本浮かぶ。
「た、《大佐》が幼女と一緒に司令室から出てきただとお!? 真昼間から破廉恥なっ!!!」
「年増も人妻も愛さぬ小児性愛者め…彼奴に見せるAVなどあるものか」
尉官の反乱が勃発した。
明々後日の方向に議題をブーストチャージした彼らに、遺憾の意を表明せざるをえないイカン事態だ。
窓際一歩手前中間管理職の額の青筋が1本増える。
「幼女を愛するものに善はない。そう確信している」
「まるで、聳え立つペドだ……。根絶やしにしろ! ア○ネスが許してくださる!」
「《大佐》がロリコン? 別にいいじゃないか。いーや、飴貰ったからじゃないぞ……!」
会議は踊るのではない。参加者が題目で遊び始めるのだ。
《公主嶺》の忍耐も最早限界だ。それ以前に元から大して無い。
「最初から上手くいくとは思っていなかったが……せめて最後まで言わせてくれてもいいものを! 人の話を聞かん役立たず共が!」
忍耐の限界を超えた独身中間管理職の怒声が会議室に木霊する。
「士官も! 下士官も! 私の司会進行を妨げるものは、皆死ぬがよい!」
彼の最後は《ヒュージキャノン》で誤射されるのだろう。そう思わせるブチ切れ具合だった。
一通り怒鳴った事で落ち着いたのか、着席しペットボトルのお茶を一口含んで大きく息を吐いたハゲてはない中間管理職は、ネチっこく部下を扱き下ろす。こんなんだから、こいつの飲み物には雑巾の絞り汁が混入している事もあるのだ。
「これだから佐官以外の連中は使えないんだよォ。出直してきたまえよチミ達ィ」
ナジエ君はおじいちゃんなので端から除外です。でも一応佐官です。
「さて。《シヅキ》君にルナール君。《大佐》の近くに長い事いる君達なら、何か知っているんじゃないかね?」
水を向けられた二人の反応は相反するものだった。苦虫を噛み潰したような表情の《
リュゼ・ルナール》中佐39歳――失礼、17歳と520ヶ月強です――と、何故だか頬を微かに染めた《鎮月》中佐年齢不詳。
先に口を開いたのはルナールおば……お姉さんの方だった。訥々と語られる言葉にいかな想いが込められているのか。会議室の面々はとりあえず適当に聞いていた。
「《大佐》がペドフィリアではないか……私も、そう考えた事があります。確かめてみようと、色々な事を試しましたよ。 狐耳をつけて出勤したり、もふもふの尻尾をつけたり。だというのに……」
「あまりにも無反応なのでノーブラで抱きついたりもしました。曲がり角から飛び出して、バッ! のあれもしました」
24歳コンビの《
コルヴス・レーヴァン》中尉と《フェルナンド》少尉が鼻を押さえながらも、秘密のアイコンタクトを交わして頷いた。友情が芽生えます。
トリオ・デ・大尉は肩を震わせ、必死に笑いを堪えている。ちょっとなぁとユードルファが苦笑し、ノイマンが口角を歪めつつ鼻を鳴らす。デュバルは爆笑しかけて椅子ごとひっくり返った。行儀の悪い座り方するからです。
「なのに怒られたのですよ……おかしいとは思いませんか?」
当たり前です。そう言える勇気のある者はいない。
「あー、うん、そうかい。次、《シヅキ》君」
どうしてこの子と階級が同じなのかねェと思いながら、最近トイレが近くなった中間管理職は《鎮月》のほうを見る。
白雪を思わせる肌に微かに紅を潮す姿は、なるほど《大佐》の御子息が握られるわけだと思わせるに十分な可憐さを持っていた。
「慈悲を、頂きました……」
衝撃の新事実発覚! となったのは、ごく僅かだ。惚気か畜生この野郎失礼このアマと、三十路を過ぎた面々が砂を食んだような表情になる。
「詳しく! そこの所を詳しくお願いします《シヅキ》中佐! 始まりから終わりまで、大スペクタクルノンストップ超特急百二十分! 全男子が前傾姿勢になった魅惑の超大作!」
興奮し、身を乗り出して捲くし立てるコルヴスは、《鎮月》の破れた服から覗く白い背中を思い浮かべるだけで鼻血を出せる域にまで達している。現に今も大量出血中だ。
「では……どこから話しましょうか」
「この肌! ピチピチの! 瑞々しい! 潤いベールでしっとりスベスベがッ! 私の生に貴方は不要ですから。消えなさい、イレギュラー! キシャー!」
おもむろに《鎮月》の首を締め出したルナールさんじゅうななさい。
どこで区切るかは自由だ。あなたの心に、いつも“2”を。
※ルナール中佐は体調不良により早退されました。
「全く! 全くもって全く! チミ達正規部隊は役に立たないねェ。これからの時代は特殊部隊だよォ」
「上官には現実を見てほしいし、もっと言えば逃避もしてほしくないんだよねー。自分としてはさ」
「現実を直視せよ」
「あーたも特殊部隊じゃねぇですし、まだ正規部隊だ。同じ穴の狢ですぜ我々は……左遷されちまえ」
「そういや中佐って昇進できるのか? 指揮もろくに執らないし、つまり……………………けっ!」
「新しい部隊を立ち上げてこい。造作も無い事だろう? 貴官ほどの腕ならば」
「すまんが、私には特殊部隊の器に見えないのでね」
「口で妄言たれる前と後に『I'm Cheese brain(私はアホ)』と言え! 分かったかクソ虫!」
「アホだ。アホがいる。またバカにするには、笑い飛ばせばいいのか……?」
お前も正規部隊の一翼担ってるだろうという突っ込みは聞き流された。胃痛に悩むとはいえ、コレステロールの値が心配な中間管理職の心臓と面の皮は超合金製なのだ。
「と言うわけで……おやァ? アンダーセン君。部下のバーンズ君は、どこに行ったのかね?」
はてと、本来の着席者がいない椅子を見て疑問符を浮かべた上司にしたくない人物ナンバーワンに7年連続で選ばれた中間管理職。
展開速度を重視する部隊の長は、回答も迅速だった。
「僕は楽させてもらいますよ。アルフ君の背中を椅子にしてね」
「俺は全く喜んでないからな! マジで!」
バーンズ君はアンダーセン君の椅子になってます。
中間管理職は疑問符ではなく青筋を浮かべてます。
「幼女共にモザイクなど不要。正面から抱き締めるまで」
「《
グスタフ》やりすぎよ。《
MCA》に捕まるじゃない」
「ふぁっくふぁっくふぁっくふぁっくふぁっくふぁっくふぁっく……私はなぜここにいるし!」
「──あはっ♪ ユーちゃんを×××するのは……もげちゃえ」
「大丈夫よリート。14歳は対象外だから」
シャルロッテちゃんマジ物知り。DSMⅣ曰く、ペドフィリアの定義は13才以下との(ピー音)である。しかも複数とのである。けしからん。ただし妄想でもアウトとなってしまうのだ。なんということか。
どの道社会的にアウトになるので関係ないかもしれない。というか広義のロリコンとは全く持って関係が無い。
胃の辺りを押さえている《
ジェシー・グットスピード》に愛用の胃薬を投げつけた《公主嶺》の口からエナメル質の白い物体が零れ落ちた。額に浮いた青筋は数えるのも億劫になるほどだ。
「貴様らに、二度と意見など聞くものか! 役立たずのクズ共が!」
「入るぞ」
会議室に動揺がはしる。渦中の《大佐》が、聞こえはしなかったがノックの音に続いて入ってきたのだ。
誰かが煩かったせいで《大佐》の礼儀正しさは知られる事無く無碍となったが。
「お前達……揃いも揃って、こんな所で何をしている? 《シヅキ》中佐、これは何だ?」
彼の疑問も当然だ。不思議そうに室内の面々を見渡している《大佐》の視線に、
一同冷や汗を垂らしつつも沈黙を貫いた。言い訳を考えているのではない。逃走手段を模索しているのだ。
「困るよォ、困るなァ、大佐ァ、ここに来られるとォ。総員退却するしかないじゃないかね? 散開!」
「……《
ニンバス》……《ルネ》……《
ウィープ》……《九音》……《マーガレット》……ロ、ロリィ……?」
佐官になれるのは逃げ足の速いやつだけだ。戦場は地獄である。
「……自分は《大佐》の趣味に口を挟む気はありません。……ごゆるりと」
「即時撤収以外の行動をした者はその場で命令不履行と見なし、放置する」
「へいへい、了解。そんじゃまぁ、ボチボチ帰るとしましょうかい」
ここはベトナムではないので大尉の墓場とはならない。
「中佐の情事が俺に力を与えてくれたッ! ……いやマジだって! だから本当に興奮したんだって!」
「今、この場では私が危機的状況だ。人生終了するつもりは無いのだから、《大佐》には見逃して貰おう」
「長居するな。死にたいのか」
「現時点をもって我々は会議室より撤退する。今から我々は――自由時間である」
「退出許可が下りたのか! 本当か? 本当なのか? 本当に出て行ってもいいのか!?」
退出方法にも一貫性が無い。ある者は窓から飛び降り、またある者は窓枠を伝って隣の部屋からの脱出を試み、
そのまたある者はロープを使って階下へ飛び込みと、窓を最大限に利用した方法が大人気だ。
無論、普通に扉から出て行く者もいたが少数だ。
瞬く間に人気のなくなった会議室で、取り残された《大佐》は彼の副官に率直な疑問をぶつけた。
「一体なんだと言うんだ……《シヅキ》、説明してくれ」
「私は、《大佐》が小児性愛者かどうかを知りたい。それだけが、望みです」
~Fin~
この物語はフィクションであり、WIKI内の人物及び団体とは一切関係ありません。
ルナールさんは変態ではありません。ここ重要です。テストには出ません。
大佐はちょっと怪しいです。ヒュージキャノンはやめてくださいしんでしまいます。
最終更新:2012年05月23日 13:10