功利主義


(参考文献:フリー百科事典Wikipedia、『倫理とは何か-猫のアインジヒトの挑戦-(永井均)』)
功利主義(こうりしゅぎ、英: Utilitarianism)は、行為や制度の社会的な望ましさは、その結果として生じる効用(功利、有用性)(英: utility)によって決定されるとする考え方である。帰結主義の1つ。実利主義(じつりしゅぎ)とも呼ばれる。また、「功利主義」という日本語の語感がもたらす誤解を避けるため、「公益主義」あるいは「大福主義」という呼び方が提案されている。

倫理学、法哲学、政治学、厚生経済学などにおいて用いられる。


歴史

社会全体の幸福を重視するという発想は古来からあるが、功利主義を体系化したのはベンサムである。

ベンサムの功利主義は、古典的功利主義とも呼ばれ、個人の効用を総て足し合わせたものを最大化することを重視するものであり、総和主義とも呼ばれる。「最大多数の最大幸福」と呼ばれることもあるが、正確には「最大幸福」である。この立場は現在でも強い支持があるが、一方で、さまざまな批判的立場もある。

功利主義においては効用は比較可能であると仮定される。ベンサムは快楽・苦痛を量的に勘定できるものであるとする量的快楽主義を考えたが、J.S.ミルは快苦には単なる量には還元できない質的差異があると主張し質的快楽主義を唱えたが、快楽計算という基本的な立場は放棄しなかった。

20世紀には快楽計算を放棄した選好功利主義が登場した。ヘアやシンガーがその代表と目される。

幸福を快楽とみる点で、功利主義の考え方はエピクロスに通じるものがある。

功利主義の原理

功利主義の基本原理は次の2つである。

①快楽主義

自然は人類を快と苦という二つの主権者のもとに置いた。
われわれが何をしなければならないかを指示し、われわれが何をするであろうかを決定するのは、快と苦だけである
功利主義においては、快=幸福と置き換えられる。この快と苦が人間の行動原理であり、その支配から誰も逃れることはできないとする立場が、快楽主義である。

②功利性原理

功利性原理とは、その利益が問題となっている人々の幸福を増大させるように見えるか、それとも減少させるように見えるかの傾向によって、
……すべての行為を是認したり否認したりできる原理を意味する(ベンサム)

行為は幸福の促進に役立つのに比例して正しく、幸福に反することを生み出すのに比例して悪である(ミル)
①の事実認識に基づいて行為の道徳による是認または否認をする。行為の結果として、人々の幸福が全体として増加するように見えればよい行為であり、全体として減少するように見えれば悪い行為である。

分類

「最大多数の最大幸福」がベンサムから続く功利主義のスローガンであるが、この幸福を快楽と苦痛との差し引きの総計とするか選好の充足とするかで、次の二つに分けられる。

  • 快楽主義型(幸福主義型)功利主義
  • 選好充足型功利主義(選好功利主義)
また、最大幸福原理を個々の行為の正しさの基準とするか一般的な行為規則の正しさの規準とするかで、次の二つに分類される。

  • 行為功利主義
  • 規則功利主義
行為功利主義と規則功利主義両者は功利原理(利益=善)の対象が異なる。前者は行為が利益をもたらすか(「それをすれば利益があるか?」)を基準にし、後者は「規則」(「皆がそれに従えば利益があるか?」)を基準にする。

例えば、行為功利主義では「貧しい人が子供のために食べ物を盗む」のは子供が助かるからかまわないとし、規則功利主義では「子供のためなら食べ物を盗んでもよい」という規則があれば窃盗が横行して治安が悪くなるからいけない、とする。

量的功利主義と質的功利主義

量的功利主義とは異なり、質的快楽主義では快楽の種類による質的な区分を求める立場を取る。後者の代表者であるJ.S.ミルは、「満足した豚よりも満足しない人間であるほうがよい」と語っている。なお、ミル自身は求められるべき精神の快楽を、狭い利己心を克服した黄金律(他人にしてもらいたいと思うように行為せよ)に見出すよう主張した。

他の理論・思想との関係

利己主義は、功利主義とは日常的にはあまり区別されないが、倫理学においては功利主義は「万人の利益」となることを善とする立場を指し、「私利」のみを図ることをよしとする利己主義とは異なるとする。

リバタリアニズムは、功利主義を基本理念とした政治思想である。アメリカにおいて幾分保守的・伝統的政治姿勢とされるが、保守からは革新的政治姿勢と見なされてもいる。「国家こそ盗人」であり、反国家・市場(経済)偏重を旨とする特徴的な思想を展開する者もいる。ときにグローバリズムと態度が共通するが、リバタリアニズムは税金の浪費につながると戦争を否定する点にみられるようにグローバリズムとは異なる。

功利主義への反駁、攻撃は多方面からなされている。
  • 政治学の場面ではロールズやロバート・ノージックら社会契約論の系列からの批判がある。
  • 倫理学の場面では義務論や徳倫理学が功利主義とならぶ有力な説である。

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最終更新:2011年08月22日 19:54
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