ロス物理学
空間はロス場と呼ばれる"靄"のようなものに満たされており、外部から特定のエネルギーを供給されるとそのロス場が歪み、閾値を超えるとそこからロス粒子と呼ばれる素粒子が叩き出される、という考え方に立脚した物理学。一般向けのサイエンスニュースでは、あたかも空間の"裏"に超高エネルギーの空間が潜んでおり、特定のエネルギーによってこれが歪められる形でエネルギーが取り出される、と表現される。
2100年代冒頭にアメリカの研究者たちによって理論的に完成したが、2123年に加速器の進歩によってロス粒子の存在が実証され大きな話題となった。
ロス場
通常時は均一なスカラー場。アルス波や特定の波長の電磁エネルギーを与えられたとき、あるいはロス粒子の近傍においては不均一となり、他のロス粒子に力学的な影響を与える。
空間に対して力を与えるという性質上、場の発振源から他の物体に力を与えることも可能。
ロス粒子
ロス場が特異点的に歪められたときに生じる粒子。基本的に青白い光を伴って見える。
高エネルギーを伴うが、すぐに周囲のロス場にエネルギーを分け与え、"溶けて"しまう。
ロス粒子推進
「粒子スラスター」と呼ばれるスラスターの原理。
ロス粒子のエネルギー状態によらず、大量に噴射するとそれぞれの作るロス場が空間上のロス場と相互作用して莫大な反力を生む。
ただし大量の粒子を安定して供給できる巨大なミスリルコアが必要な上、高エネルギーの粒子を噴射し続けることは推進機にも大きな負担がかかるため、大型ミスリルコアの搭載機が粒子を冷却しながら噴射するという非常に無駄の多い推進方法となっていた。
アジャンがブラッドガンダムでミスリルスラスターを試用しその性能が立証されてからは、各勢力が主用する推進法となっている。
共振粒子
ロス粒子の極めて高エネルギー状態になっているものをいう。
空間から叩き出されたロス粒子はその時点では莫大なエネルギーを持っている=共振状態にあるが、すぐにエネルギーを失っていき通常のロス粒子に戻り、最後には周辺のロス場に溶け消滅してしまう。しかし、更にエネルギーを加えて共振粒子を物理的に加速すると、移動していく共振粒子がその先のロス場から共振粒子を叩き出す玉突き的な現象が生じ、連鎖的に莫大なエネルギーを取り出すことができる。
これはロス連鎖と呼ばれ、これにより事実上の永久機関が完成し、世界のエネルギー問題を一気に解決に向かわせた。ロス連鎖による発電が普及してからは電気に対して「もったいない」や「節約すべき」との概念はもはや完全に消滅し、それと同時にこれまでエネルギーの問題でできなかったことが急激に発達していった。
ミスリル
ロス粒子、とくに共振粒子を反射する特性のある合金。
MASEが生産加工を最も得意とする材料で、その躍進を支えた材料といわれる。
ミスリルコア
「22世紀最大の発明」とされる、永久機関の中核パーツ。
半球をくり抜いたような形状のミスリル2つを向かい合わせてその内部でロス連鎖を発生させると、2つのミスリル間に非常に高周波かつ高い電圧が出現し、これを電源に用いることで発電を行う。また、この2つのコアの隙間から共振粒子が漏れ出す。
世界中のロス連鎖発電に必ず使用されている一方、破壊されると周囲に莫大なエネルギーを発散させる危険なものでもある。またロス粒子の産出量がそのサイズの3乗に比例する特性があり、艦船用など大型のミスリルコアでなければビーム兵器に用いるような量のロス粒子を算出することはできない。
ミスリルネットワーク
ミスリルをワイヤー状に成形して束ねたもので、パイロットのアルス波をモビルスーツの隅々まで伝えるのに使用する。
コクピットのシートにはアルス波を伝達するためのアンテナが仕込まれている。
複雑なモビルスーツをこれ以外の方法で制御するのは東西戦争の段階では不可能で、ウィグルしかモビルスーツを操縦できない要因となっていた。
ビーム兵器の登場後はさらにその傾向が増している。
MSの操縦は基本的にミスリルネットワークを介してアルス波で行い、その操作性は基本的には「普段体を動かしているような感覚」と言われる。MSが原則として人形でなければならないのもそこに理由があり、人間が脳波操縦するには人間型に近ければ近いほど習熟が容易なのである。したがって一般的に、ウィグルであれば動かすのにさほど難しさは生じない。ただ、それで兵士としての戦闘力を発揮するには同様に訓練が必要とされる。
ミスリルホーン
ウェル・カイザーが大学在学中に開発した、アルス波を伝達・増幅してロス粒子を共振状態にする特殊な形状のミスリル。
これによりウィグルはビーム兵器を扱うことが可能になった一方で、後の世代のウィグルたちが戦争の道具として研究され、駆り出される遠因ともなった。
ビーム兵器をウィグルが扱うタイプのモビルスーツにはすべてミスリルホーンが搭載されている。
ミスリルタンク
ウェル・カイザーが大学在学中に開発した、ミスリル製のロス粒子貯蔵タンク。大型ミスリルコアの共振粒子を充填する。共振粒子はすぐにエネルギーを失い通常のロス粒子として貯蔵される。
これにより大型のミスリルコアから離れたところでもロス粒子を扱うことができるようになり、ビーム兵器を携行するための要素技術が揃った。
ミスリルスラスター
ウェル・アジャンがハード島で開発した、ミスリル製のスラスター。
ミスリルコアの内面ミラーの形状を変え2つのカップの絶縁を調整すると、共振状態ではないロス粒子であれば小型のミスリルコアからでも多量に取り出せることを発見し、この粒子を吹き出すことで推進力を得るもの。
ブラッドガンダムはこれを計4基搭載することで小型のMSながらロス粒子推進による完全な飛行能力を獲得している他、一部の粒子を口部ビーム砲に供給することで弾切れのない武装を実現している。この技術は完成が幻獣戦役開始の直前だったためこの時点ではビームチェーンガンのみの搭載であったが、その後は幻獣軍のMSによく見られる技術となった。
アルス波
ウィグルたちが扱うエネルギーの源となる脳波。ロス物理学によってその挙動が説明される。
アルス波はこれまで観測されなかった超高周波帯の脳波で、ロス場に直接干渉する特性を持つ。ロス場を歪め実空間に圧力を発生させたり、ロス粒子を発生させたり、ロス粒子を共振させて高エネルギー化させたり、高エネルギー状態のロス粒子(所謂「ビーム」)をロス場により制御したりすることが可能と認識されている。
その性質上、ウィグルたちはアルス波(というよりロス場)を巧みに操って常人ならざる身体能力を持っているように振る舞うことができる(飛んでくる銃弾を弾く、空中でジャンプするなど)。たいてい、これを無意識に行ってしまうことで本人がウィグルであることが周囲にばれる。
ミスリルホーンにアルス波を注入することでMSに搭載されているロス粒子を共振させてビーム兵器として使用するということが可能であり、運用しているビーム兵器の出力がそのままパイロットのウィグルとしての強力さを示すものといえる。
一方でアルス波を大量に放出し続けることはパイロットにとっても大きな負担であり、強い疲労を生じるためビーム兵器の乱用は通常難しい。
軍事的には東西戦争中期以降の主力となる人々であり、強力なウィグルをどれだけ確保できるかが東西国家の勢力バランスを決定づけると目されている。
基本的に要求されるアルス波は
ロス粒子の発生>>>>ロス粒子の共振≒ロス場の発生
の順に強く、作中でも自力でロス粒子を発生させられるウィグルは極めて少ない。
ビーム兵器
共振粒子を用いた熱的兵器。
ウェル・カイザーのミスリルホーンにより完成し、ミスリルタンクにより実用化され、カイザーの反乱によってその価値が知れ渡った、まさにカイザーという人物の集大成といえる技術。
基本的にはミスリルタンクまたはミスリルコアから供給されるロス粒子をアルス波によって共振させ、これをロス場で制御して使用する。
大型ミスリルコアの場合は共振粒子が直接生産されるため、これに直結したビーム兵器も存在し、これは基本的に弾切れがない。
また、小型のMSに関しても未共振の粒子を大量に生産できるミスリルスラスターの普及で、粒子を共振させ続ける強大なアルス波を操れるウィグルに限れば弾切れのないビーム兵器を扱えるようになっている。
ビーム砲
ビームライフルなど、ビームを射撃武器として用いる武器の総称。
共振粒子を加速し、これによって隣の空間から共振粒子を叩き出すというロス連鎖を用いた武装であり、ビームが飛んでいくというよりは玉突き的に次の空間にビームを生成しているというのがより正確である。
通常はウィグルが粒子の共振のみを行い、MSの電源によって生成した電磁場で加速して射出するが、ビーム剣を高速で振り回すことでロス連鎖を発生させてあたかも衝撃波のように射出したり、ウィグルが自分のロス場で射出したりすることも可能である。
ビーム刃
ビームサーベルなど、ビームを格闘武器として用いる武器の総称。ロス粒子を共振させ、それをロス場で閉じ込めて使用する。
比較的少量のロス粒子で使用可能な武器であるが、一方で刃を維持するためのロス場も自分でミスリルホーンを介して発振しなければならないため、ウィグルへの負担は総合的に見てビーム砲とあまり変わらない。
強大なウィグルほど強力なロス場で大きなビーム刃を生成できるため、それがウィグルの能力を図る一つの基準となっている。
ビーム加工機
ビームの平和的利用の代表格であり、これもカイザーの発案。キャプテンベース建設時に工作機械に乏しかった彼が、自らのウィグルとしての才覚を最大限に利用し、機械加工の難しいアダマントをビームで加工したことに端を発する。
大杖
カイザーが発案した手持ち兵器で、後にアジャン、フィレルも持つようになった、人の身長程度もある巨大な杖。
アダマントフレームの中にミスリルタンクとミスリルホーンが仕込まれた構造で、強力なウィグルであればロス粒子を共振させた上に撃ち出すことができ手持ちのビーム兵器になる。
また、アダマントフレームを持たず強度がないが、小型のミスリルホーンとミスリルタンクを備えた「小杖」を備えている。
神剣
アジャンがカイザーの大杖を改良した際のキーパーツ。特殊な形状のミスリルホーンにアダマントをまとわせて研ぎ上げた短めの直刀で、刃の部分はミスリルがアダマントの隙間からちょうど覗くように研いである。
アルス波を注入しながら剣を振ると、刃のミスリルがロス場を切り裂き、あたかも斬撃がビームを纏っているかのように振る舞う。類似の原理が後にモビルスーツにも使われたことがある。
ウィグル
人類の中に突如発生した、「アルス波」と呼ばれる特殊な脳波を操る能力の特に高い者たち。
空間認識能力が非常に高く、直接視認していない対象をも認識できるほか、個人差はあるが物体に干渉することも可能。さらに、ウィグル同士であれば直接の会話などを介さなくてもある程度の意思疎通が可能な場合がある。
もとは2170年代初頭に突如相次いで覚醒した子供が見つかったが、当時は異端者として侮蔑的な意味で「ウィグル」と呼ばれていた。これらの人々を特に「第一世代」や「ファーストウィグル」と呼ぶ。
その後2160年代後半になると、東西の中央政府が彼らの戦闘要員としての素質に目をつけ、「ウィグル」をあぶり出すための大規模な研究が行われるようになった。出生した子どもたちは徹底的な身体検査、追跡調査を受け、ウィグルとしての素質と身体特性との間の関係が研究されていった。この研究対象としての扱いが中心だったウィグルたちを「第二世代」や「セカンドウィグル」と称する。
それ以降の世代には明確な呼称はないが、これらと区別するために「第三世代」と表現するものはいる。
2180年代に入ると研究はほぼ完成し、出生の段階でウィグルとしての素質をほぼ特定できるようになった。各国中央政府は彼らを政府の戦力として利用すべく徹底した優遇と特別教育を施し、現在に至って10代~20代前半の若いウィグルたちが戦場に送り込まれている。
「ウィグル」はもともと差別用語であったが、第一世代のウィグル達による地位向上運動において却ってこの単語が開き直って当事者たちに使われ、通称として定着した。特に治療対象とされていた時代は医学的な正式名称として「先天性異常念動症候群」と呼ばれていた。
一般的には10歳ころに覚醒、15歳ころまでには成熟するとされているが、人によってはより早い段階で覚醒する。発現率は0.1%前後とされるが、先進国や豊かな地域で発現しやすく、途上国では発現者がほとんどいない。また、遺伝的要因もあるとされている。
稀に先天的素質がなくても発現したり、逆に先天的素質があっても発現しないものがいる。また、何らかの病気(特に精神的な病気)によって精神にダメージを受けると、能力を失う場合がある。
ファーストウィグル
2170年~2175年、ウィグルに覚醒する子供たちが現れてから、ウィグルに関する研究が開始されるまでの時代(第一世代)にウィグルとして発現した人々。
とくに初期はウィグルの存在自体が知られていなかったことから、ウィグルとして成熟する15歳を過ぎて認識されることが多かったため、2170年頃に判明したウィグルが2150年代生まれが多いのに対し、2175年頃に判明するようになったウィグルは比較的2160年代生まれが多いなど、ファーストウィグルの中には多少の世代の乖離がある。
異端者として虐げられていたが、中央政府がウィグルの戦力としての価値に目をつけ始めた段階で今度は研究材料として扱われ、2180年代に入ってようやく待遇が改善されるようになったといわれる。
しかし依然として民衆レベルでは差別が残っていたほか、それ以前に社会からドロップアウトしたウィグルも多かった。
現在3~40代の者が多い。虐げられてきた経緯から極端に攻撃的だったり、内気だったりするものが多いと民衆からは思われている。
セカンドウィグル
2175年ころからウィグルに関する研究が実施され、出生した子どもたちの特性とその後の発達が大規模に追跡調査されるようになった。この追跡の中で2185年ころまでに覚醒したウィグルたちは研究対象として扱われ、その能力の由来や強化・弱体化の方法を徹底的に調べ上げられた。
セカンドウィグルのうち生き残りは東西両国で宇宙開発の原動力として重宝され、社会的に英雄として祭り上げられた。一方、研究材料としての扱いの中で力を失った者たちもおり、青春時代を研究施設に奪われた彼らは社会に適応できない若者たちとなりやすい。
成功したセカンドウィグルは自信家が多い一方、社会に放流された元セカンドウィグルは基本的に他者と関わりたがらない性質を持つ人が多いと言われる。引きこもりのような生活を送っている者もおり、一つの社会問題となっている。
ファーストウィグルよりも5~10年ほど若く、2200年時点で20代のものがほとんど。
サードウィグル
主に2180年代以降に生まれ、出生あるいは幼児期時点でウィグルとしての素質が見抜かれていた人々。
徹底的に各国政府の庇護を受ける一方、もはや一般人としての人生を歩むことは叶わず、ウィグルとして覚醒し発達してからは各国の道具として扱われる運命にある。
気質は全体的に達観しており、自分たちを管理するものの言い分に反対しないことが多い。
人工ウィグル
先天的な遺伝子操作や、後天的な育成・強化によってアルス波を操る能力を増幅されたウィグル。
前者は
ウェル・アジャンや
ナイトメア・フィレルが当てはまる。
後者はレンダが主に兵器として後天的にウィグルとしての能力を強化しようとしたもので、年齢層は少し高い。
アダマント
ミスリルとは異なり物理的特性に特化した性質を持つ合金。
軽量ながら非常識なほどに堅牢で、機械加工はほとんど受け付けず熱または化学加工する必要がある。
本作に登場する機械は揃いも揃ってアダマント製の装甲やフレームを持ち、その非常識な挙動を可能にしている。
もともとは宇宙合金であったが、レンダが国家プロジェクトにより地上での大量生産を可能にしたことで中国大陸に普及、
アダマント装甲
カイザーの反乱当時にはすでに普及していた装甲。
これを搭載したモビルスーツは打撃や衝撃の類で破壊することは不可能で、パイロットにダメージを与えて機能停止させるか、熱的兵器で破壊するかの二択を迫られることになった。
一方でビーム兵器には弱く、カイザーの反乱でその弱点が明らかになってからビーム兵器の研究が進んだと言える。
アダマントフレーム
アダマントを用いたフレーム。現在のモビルスーツでは駆動に静電モータが使われ、これをミスリルネットワークによって制御し、パイロットであるウィグルにとって自由自在な操縦が可能となる。
フレーム自体の機械的強度は非常に高いため、ロボットとしてはかなり非現実的な高速機動も(パイロットが適応できれば)可能である。
最終更新:2025年01月11日 08:58