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夏淑琴さん名誉毀損訴訟東京高裁判決(要旨)

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夏淑琴さん名誉毀損訴訟東京高裁判決(要旨)

(裁判所が配布したもの)



平成19年(ネ)第6002号損害賠償等反訴請求控訴事件
判決要旨

(略称)
控訴人兼被控訴人 夏淑琴 →第1審原告
控訴人兼被控訴人 株式会社展転社 →第1審被告会社
控訴人兼被控訴人 東中野修道 →第1審被告東中野
第1審被告会社及び第1審被告 →東中野第1審被告ら

1 主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

2 事案の概要


(1) 事実関係

  • ア 第1審原告は,いわゆる南京事件の生存被害者として,本多勝一らの著書や日本のテレビ番組(平成3年放映)で紹介され,平成6年には来日して,その体験等を語っている者である。
  • イ 平成10年,第1審被告東中野(亜細亜大学教授)執筆の「『南京虐殺』の徹底検証」と題する書籍(以下「本件書籍」という。)が,第1審被告会社から発行された。第1審被告東中野は,本件書籍の中で,当時の資料(主として,ジョン・マギー牧師が陥落後の南京市街の様子を撮影した16ミリフィルムにつき,マギー牧師が記述した同フィルム解説文)を分析して推論し,
    • 〔1〕「(上記資料に登場する生き残った)『8歳の少女』と夏淑琴とは別人と判断される。」
    • 〔2〕「『8歳の少女(夏淑琴)』は事実を語るべきであり,事実をありのままに語っているのであれば,証言に食い違いの起こるはずもなかった。」
    • 〔3〕「さらに驚いたことには,夏淑琴は日本に来日して証言もしているのである。」
      と記述した(本件記述)。
  • ウ また,平成13年に本件書籍の繁体字中国語版が,平成17年に英語版が発行された(出版社は第1審被告会社ではない。)。

(2) 第1審原告の請求

第1審原告は,本件記述により名誉を毀損され,名誉感情を侵害されたと主張し, 
  • 〔1〕第1審被告らに対し,共同不法行為に基づき慰謝料1000万円及び弁護士費用200万円の合計1200万円の連帯支払と謝罪広告の掲載を求め,これとは別に, 
  • 〔2〕第1審被告東中野に対し,本件書籍の翻訳書が発行されたことによる慰謝料300万円の支払を求めた。

(3) 原判決の概要等

原判決(東京地方裁判所平成19年11月2日判決)は,第1審原告の請求を, 
  • 〔1〕第1審被告らに対して350万円(慰謝料300万円及び弁護士費用50万円),
  • 〔2〕第1審被告東中野に対して慰謝料50万円の支払を求める限度で認容し,
謝罪広告の掲載を含むその余の請求を棄却したところ, 第1審原告が請求全部の認容を求め,第1審被告らが請求全部の棄却を求めて,それぞれ控訴した。

3 本判決の結論

当裁判所も,第1審原告の請求は,原判決が認容した限度で理由があり,その余は理由がないと判断し,本件各控訴を棄却した。

4 本判決の理由の要旨

(1) 本件記述の名誉毀損性

本件記述は,「第1審原告が『8歳の少女』ではないのに『8歳の少女』として虚偽の証言をしている。」との事実を摘示するものであり,第1審原告の名誉を毀損し,第1審原告の名誉感情を著しく侵害するものである。

第1審被告らは,当審において,「フィルム解説文はマギーの創作話であり,『8歳の少女』はマギーの空想の産物であるから,第1審原告が『8歳の少女』と別人であることは当然であり,本件記述は名誉毀損にあたらず,違法性を欠く。」と主張する。しかし,本件記述を上記主張の趣旨に理解する余地はない。第1審被告らは,原審においては,本件記述は,フィルム解説文及び『8歳の少女』の存在を前提としていることを認めていたものであり,第1審被告東中野もその趣旨の陳述書を作成していたのであって,第1審被告らの上記主張は採用することができない。

(2) 本件書籍の執筆,発行の違法性の有無

本件記述が公共の利害に関するものであること及び第1審被告らによる本件書籍の執筆及び発行が公益を図る目的に出たものであることは認められるが,本件記述が摘示した事実が真実であることについて,立証はない。

(3) 本件記述を真実と信ずるについての相当の理由の有無

第1審被告東中野が,本件書籍において,「第1審原告が『8歳の少女』ではない。」ことの根拠とした原資料の解釈には,不合理な点や明らかな矛盾がある。また,本件書籍が発行された当時,「『8歳の少女』が第1審原告ではない。」,「『7,8歳になる妹』は刺し殺された。」との理解が一般的であったとはいえない。以上のとおり,本件記述が真実であると信ずるについて相当の理由があったとの第1審被告らの主張は採用できない。

第1審被告会社は,当審において,第1審被告会社の責任と第1審被告東中野の責任は,別個に判断されるべきであると主張する。しかし,本件記述の内容に照らし,第1審被告会社は,本件記述が第1審原告の名誉を毀損し,その名誉感情を著しく侵害することを認識していたか容易に認識することができたものであるところ,第1審被告会社において,本件記述を真実と信ずるについて相当の理由があったとは認められないから,第1審被告会社にも過失が認められる。

(4) 損害及び謝罪広告

第1審原告の南京事件の生存被害者としての知名度,本件記述の内容,本件書籍並びにその繁体字中国版及び英語版の出版状況,本件書籍自体の内容,読者層,本件書籍中,第1審原告に関する記述の占める割合等の諸般の事情を総合考慮すると, 
  • 〔1〕本件書籍を執筆し発行した第1審被告の共同不法行為により第1審原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては300万円, 
  • 〔2〕中国語版及び英語版の発行により第1審原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当である。
また,弁護士費用については,50万円が相当である。

上記事情を勘案すると,謝罪広告の必要性は認められない。


機種依存文字である丸数字は〔n〕に改めました。


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