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【愛媛新聞】沖縄ノート訴訟 史実と向き合う言論の勝利だ

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コラム社説2008年11月02日(日)付 愛媛新聞

沖縄ノート訴訟 史実と向き合う言論の勝利だ


 「集団自決は日本軍が深くかかわっていることは否定できず、総体としての軍の強制ないし命令と評価する見解もあり得る」―おとといの大阪高裁判決だ。

 大江健三郎さんの「沖縄ノート」には、太平洋戦争末期の沖縄戦で旧日本軍が住民に「集団自決」を命じたとする記述がある。これに対し、当時の守備隊長らが名誉を傷つけられたとして、大江さんと出版社に出版差し止めなどを求めていた。一審は元隊長ら原告の敗訴だった。続く大阪高裁も原告の訴えを退けた。

 「集団自決」を軍が強いたとする証言は数知れない。それが重要な裏付けとなって学術研究は積み上げられる。判決は自然で極めて妥当だ。

 名誉棄損は判例上、表現に公共性と公益性が認められ、真実の証明か、真実と信じるに相当な理由(真実相当性)があれば責任を問われない。

 高裁判決は元隊長が直接住民に命令したかどうかは断定できないとした。が、三十八年前の「沖縄ノート」発刊当時は、隊長命令説が学会の通説といえる状況であり、真実相当性があったと認めた。

 長年出版が継続している書物に対し、新資料が出るたびに紛争が蒸し返されるようでは言論の萎縮(いしゅく)につながる。高裁が出版差し止めの新たな判断基準を示して一審判決を補った点は特に注目される。

 公務員に関する記述など高度な公共性と公益性がある場合、新資料で真実性が揺らぐだけでは、ただちに違法にならないとした。その上で、出版差し止めは少なくとも内容が真実でないことが明白で、名誉侵害を受ける人が発刊後も重大な不利益を受け続ける時に限ると結論づけた。

 判決はこうも述べている。主張に対する批判と再批判の繰り返しの過程を保障することが民主主義であり、「後の資料から誤りとみなされる主張も無価値とはいえず、これに対する寛容さこそが自由な言論の発展を保障する」。

 憲法が保障する表現の自由の重さを広く解釈した判決の意義は大きい。史実と向き合う言論こそ尊重されなくてはならない。同時に、断片的な事実や現在の価値観だけに頼って過去を見ることの危うさを示唆している。

 政府も一連の判決を真摯(しんし)に受け止める必要がある。文部科学省は二〇〇七年三月の教科書検定で「集団自決」についての軍の強制に関する記述を削除させた。根拠のひとつが今回の訴訟提起だった。

 その後、軍の関与を示す記述への訂正申請を認めたが、先の検定意見は撤回されないままだ。言論の重さを指摘した高裁判決に照らせば、これまでの文科省の対応には強い疑念を抱かざるをえない。最高裁判決を待つまでもなく検定意見を撤回するべきだ。


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