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『表現の自由』めぐり活発な論議

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『表現の自由』めぐり活発な議論 『ザ・コーヴ』上映会・シンポ

2010年6月11日 朝刊

「ザ・コーヴ」上映後のシンポジウムで討論する映画監督の森達也氏(左から2人目)ら=9日夜、東京都中野区で


 和歌山県太地町のイルカ漁を扱った米ドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」(ルイ・シホヨス監督)の上映中止が相次ぐ中、東京都中野区の「なかのZEROホール」で開かれた上映会とシンポジウム(9日夜、創出版主催)には多くの人が詰め掛けた。五百五十人収容のホールに入りきれなかった人がロビーに座り込み、ホールの様子を中継するモニターを見つめるなど、作品への関心の高さをうかがわせた。 (石原真樹)

 全国二十六館での公開が決まっていたが、東京と大阪の映画館計三館が相次いで上映中止を決めたことで注目が集まり、チケットは完売。当日は午後六時二十分の開場を前に、ホールの入った建物を囲むように長蛇の列が延びていた。その人群れに、上映中止に追い込んだ団体関係者が自分たちの主張を印刷したビラを渡し、一方でテレビ局のスタッフが番組用アンケート用紙を配布する光景も。不測の事態に備え警備にあたる警察官の姿も目立ち、さまざまな立場の人間が入り交じる異様な雰囲気に包まれていた。

 創出版によると、当日券を買えなかった人が百人以上いたという。そのうち約四十人はロビーにあるモニターをぐるりと囲むように床やいすに座り、中継映像を通して「ザ・コーヴ」を鑑賞した。

 イルカ漁を隠し撮りして批判的に描いた作品。板橋区の三十代女性は「伊豆出身の友人から、イルカは魚をたくさん食べるからイルカ漁は仕方ないと聞いて、納得していた。でも作品を見て、どうしても殺さなければいけないのかと疑問を持った。外国人に『ザ・コーヴ、見たよ』と言われて、知らないのは恥ずかしい。公開すべきだ」と話した。

     ◇

 「映画館は表現活動の場であり、上映中止に反対する」

 上映後のシンポジウムでは、ジャーナリストや映画監督ら六十一人の賛同者を集めた緊急アピールを読み上げ、映画監督の森達也氏ら五人が上映中止騒動や表現の自由について発言した。

 東京、大阪だけでなく、今後も上映中止の連鎖が危ぶまれることについて、森氏は「一部の活動家や映画館を批判して済む話ではなく、日本社会の構造の中に歪曲(わいきょく)した部分があるのだと思う。それを考えなければ、この騒動はあまりにも不毛」と指摘。「見て、聞いて、読んで、それから議論すればいい」と、まず上映することの意義を訴えた。民族派団体「一水会」顧問の鈴木邦男氏は「反日映画だから日本人に見せるべきでないというのは国民をばかにしている。その方がよほど反日だ」と批判し、会場の笑いを誘った。

 作品に登場した元イルカ調教師のリック・オバリー氏も登壇、「表現の自由」を保障した日本国憲法二一条に触れて「日本人の観客は見る権利がある」と主張した。

 これに対し、ジャーナリストの綿井健陽氏は「表現の自由は国や権力に対する盾ではないか。太地町の漁師に対して『表現の自由』を言うのは、表現する側の暴力ではないか」と見解を述べ、「太地町の人々の生活と言い分は保障されるべき」と話した。

 作品に対して「残虐なイルカ漁」というイメージが先行している面もあるが、シンポ終了間際、司会でメディア批評誌「創」編集長の篠田博之氏が「作品を見て『思っていたのと違った』と感じた人」と客席に問い掛けると、多くの人が手を挙げた。篠田氏は「見ないうちにイメージだけで作り上げてしまう、これが問題だ」と強調した。

 主催者が配布した作品に対するアンケートでは、「(水族館で)イルカがストレスを感じていることなどを知って良かった」という賛成意見もあれば、「描き方が一方的」といった批判も多く、内容に関しては賛否分かれた。上映中止を支持する意見はほとんどなかったという。


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