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朝日社説:集団自決検定―学んだものは大きかった

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集団自決検定―学んだものは大きかった


 日本軍によって集団自決に追い込まれた。そうした表現が沖縄戦をめぐる高校日本史の教科書検定で復活した。

 教科書会社から出されていた訂正申請が文部科学省に承認されたのだ。その結果、次のような記述が来年度からの教科書に載ることになった。

  • 日本軍の関与によって集団自決に追い込まれた住民もいた。

  • 米軍の捕虜になることを許さないなどの強制的な状況のもとで、住民は集団自害と殺しあいに追い込まれた。

 今春の検定では、日本軍に強いられたという記述だけでなく、集団自決への軍の関与そのものも、文科省によって一斉に削られていた。

 文科省は今回の修正について、あくまでも教科書会社からの訂正申請に基づくものであり、検定の撤回ではないという。しかし、沖縄などからの激しい批判を浴び、事実上、検定を撤回せざるをえなくなったということだろう。

 こんな事態になった発端は当初の検定の異常さである。「すべての集団自決が軍の命令だと誤解される恐れがある」として軍のかかわりを軒並み削らせた。

 今回、文科省は訂正申請の是非を検定調査審議会に改めて諮った。審議会は新たに沖縄戦の研究者らの意見を聴いて、審議の基準となる見解をまとめた。

 軍の直接的な命令は確認できないとしながらも、集団自決の背景には当時の教育や訓練があり、集団自決が起きた状況をつくり出した主な要因には手投げ弾の配布などがある、と指摘した。

 この見解は多くの人が納得できるものだろう。米軍への恐怖心をあおり、住民に捕虜になることを許さないという異常な軍国主義の下で、住民は集団自決に追い込まれたというのだ。

 ただ、訂正申請の審議で、「軍が強制した」というような直接的な表現を最後まで許さなかったことには疑問がある。

 それにしても、こうした常識的な見解をなぜ今春の検定で示せなかったのか。そうすれば、文科省の教科書調査官の調査意見書をそのまま通すことはなかったはずだ。メンバーの1人は「もう少し慎重に審議すべきだった」と話す。

 当時は「戦後レジームからの脱却」を唱える安倍政権だった。時の政権の持つ雰囲気に、専門家らの審議会ものみ込まれたということはなかったか。

 その一方で、とんでもない検定をきっかけに、集団自決がこれほど社会の注目を浴びたのは皮肉なことだった。

 これまで集団自決が教科書に載るのは2~3行程度で、簡単な内容だった。それが訂正申請で、当時の社会的な背景なども書き込まれた。結果としては、内容はいっそう充実したかもしれない。

 今回の検定問題は、沖縄の県民大会などをはさんで9カ月に及んだ。その間に多くの人たちが沖縄戦の実態を改めて学び、検定制度のいい加減さを知った。その苦い教訓を今後に生かしたい。
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