第1話(BSanother03)「焼け跡の村よ、こんにちは」
ヴィルマ村(下図)は、ヴァレフール南部、首都ドラグボロゥと大魔境ボルドヴァルドの中間に位置する小村である。
かつては大魔境に挑む冒険者の足掛かりとして、それなりに賑わう村であったのだが、現在のヴァレフールにおいてこの村はもう既に滅びた、「過去の村」として扱われている。
ある時、この村に、混沌に起因する伝染病が流行した。
当時のヴィルマ村領主、契約魔法師、首都ドラグボロゥの魔法師団の魔法師も事態の終息に尽力したが、ついにはこの伝染病について有効な治療法を見つけることは出来なかった。
そうしている間にも、伝染病は徐々に拡大し、いよいよ村外、そして首都への波及も時間の問題だと思われた時、当時のヴァレフール伯爵ブラギスの長子ワトホート殿下によって、この村への焼き討ち命令が下された。
首都に伝染病が波及した場合の被害の規模を考えた結果の、苦渋の判断であった。
以降、現在に至るまでこの村の跡地は放置され続けてきた。
復興するにせよ、伝染病が本当に根絶されたのか、新たな混沌の脅威が現れていないか、(ボルドヴァルドの大魔境に近いだけあって、)調査には慎重を要し、いよいよ復興に取り掛かろうかという話が持ち上がりかけたところでヴァレフールを二分する動乱が始まり、また話はうやむやとなってしまっていた。
こうして、ブラギス前々伯爵、ワトホート前伯爵在位時代にはこの村はとうとう顧みられることなく、ヴァレフールはレア新伯爵(下図)の時代を迎えた。
Prologue.1. 新体制ヴァレフール
ブレトランド南部を領地とするヴァレフール伯爵領はワトホート体制派と反体制派の分裂時代、ブラフォード動乱を経て、ようやく新伯爵レア・インサルンドのもと、再統一を果たした。
ブラギス時代、ワトホート時代の騎士団の中心であった前騎士団長ケネス・ドロップス、前副団長グレン・アトワイトは共に引退し、ケネスの孫であるトオヤ・E・レクナが伯爵を補佐する護国卿という新役職に、前クーン領主イアン・シュペルターがアキレスへの配置換えの上で騎士団長に、グレンの孫レヴィアン・アトワイトは家名をバーミンガムと改めて副団長に就任し、ヴァレフール騎士団の中枢は大きく様変わりした。
また、レア伯爵は契約魔法師にヴェルナ・クアドラントを迎え、彼女を中心に伯爵付魔法師団も着々と再編を進めていた。
(参照:
ブレトランド風雲録 最終話「雲を払う風」、
ブレトランドと魔法都市 第2話「伝統国家の契約事情」)
そして、レア伯爵は1人の新たな従属騎士を迎えていた。
エーラムでの祝賀会の折に飛び込みで現れた騎士だが、彼女の中では彼に任せるべき村は決まっていた。
父ワトホートが為したことの後始末、いずれせねばならぬ復興を彼に任せる。新伯爵の中では、未来への青写真が浮かび上がっていた。
さて、ここで話はさかのぼる。
ヴィルマ村の焼き討ち事件よりもっと前、この村がまだ平和な小村であった頃だ。この村に住む1人の少年がいた。
名前はアレックス・カーヴィス。(当時のところは)特段特別の能力もないごく普通の、大人しく、心優しい少年だった。
「アレックス! 遊びに行きましょ!」
「カーレル川のほとりに素敵なお花畑を見つけたの。アレックスもきっと気に入ると思うわ。」
そう言って声をかけてきたのは、同じくヴィルマ村に住む少女、アイディである。
アレックスとは、家も歳も近い友人、いわゆる幼馴染みであった。
アレックスの手を引いてアイディがたどり着いた先には、アイディの言った通り、色とりどりの花が咲く花畑が広がっていた。
「そうだわ、お花の冠を作りましょう!」
「出来たわ、かぶってみて、アレックス。 素敵だわ!」
花冠を貰ったアレックスは「そうかなあ? アイディの方が似合うと思うけど。」とアイディの頭に花冠を乗せ返す。
アイディが川に顔を映してみようと、川べりに向かうと、
「あら? これは何かしら?」
そう言ってアイディが拾い上げたのは赤く透き通る綺麗な石であった。2つの破片に割れてしまっているが、それは陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
川べりに落ちていたのを見ると、森林の中、パルトーク湖の方から流れてきたのかもしれない。
アイディは「持って帰ってパパにペンダントにしてもらいましょ。」と提案する。
こうして、2つの赤い石のペンダントは、アレックスとアイディが1つずつ持つことになった。
幼き日の、ちょっとした思い出として…
時は流れて、アレックスは村を旅立った。
ある時、ボルドヴァルドの森林近くで怪物のような見た目の投影体に触発され英雄になることを決意し、気づけば自身が邪紋使いとなっていたのだ。
彼は炎を纏う元素使いとなったが、その影響からか、食事に大量の香辛料を使うようになっていた。
そうなると、田舎の小村であるヴィルマ村の食事はあまり口に合わず、武名を高めるためにも放浪の旅に出たのである。
旅に出て間もなく、旅先でワトホートによるヴィルマ村焼き討ち事件のことを聞いた。
そしてまた時は流れ、アレックスはある街で貼り出されている求人広告を見つけた。
「旧ヴィルマ村の復興」のための人材募集の広告だ。
新領主の着任に先立って、開拓民が募集されていたが、魔境がすぐ近くにあるという立地上、邪紋使いなど戦力となる人物は歓迎されるだろう。
あてもなく放浪しているアレックスにとっては、ヴィルマ村に縁があったのと、もしかしたら香辛料を育てられるかもという期待があったのとで、興味をそそられすぐに手続きをして、ヴィルマ村に向かうことを決める。
こうして、1人の邪紋使いが故郷の復興に向けて歩みだすこととなった。
Opening.2. 南国の街にて
ここは、ブレトランドよりはるか南、ハルーシア。
ハルーシアは幻想詩連合の盟主、アレクシス・ドゥーセが治める大国であり、世界でも最も平和で豊かな国、と言われている。
このハルーシアの各地を転々と旅する少女がいた。
彼女の名は、アスリィ・エテーネ。アスリィの父親は武勲を挙げたことで、ハルーシアの貴族として叙勲された人物である。
つまりは、アスリィは貴族の令嬢である訳だが、急に貴族となり、周りの環境が変わったことに戸惑い、貴族として、聖印の後継者としてのふるまいを押し付けてくる父親に我慢ができなくなり、武者修行(実質家出)の旅に出てしまったのである。
そして、アスリィには類稀なる魔法の才能があった。その旅の中で無自覚ながら魔法の才能を発現して、使うようになっていたのである。
エーラムの正規過程によらず魔法を修めた、いわゆる「自然魔法師」という立場であるが、それにしても、誰にも教えられずに魔法を習得する、というのは非常に珍しいケースである。
その後、紆余曲折(エーラムの人との「ちょっとキミ、自然魔法師の届出は出した?」的な問答)があったものの、無事エーラムに自然魔法師として認められ、彼女はハルーシア各地を回る旅を続けていた。
ちなみに、彼女の使う魔法はエーラムの過程で言うところの「常盤派の生命魔法」にあたるのだが、彼女は特に魔法の名称など知らないため、適当な呼び名で呼んでいる。
さて、そんな彼女が今訪れていたのは、海辺の静養地として名高い街だった。
平和なハルーシアの中でも特に平和なこの街に…
「ヒャッハー、こんな金持ちばかりの街に目を付けるとは、さっすがアニキだぜぇー!」
「そうだろ―! ひ弱な金持ちなんか、ちょーっとつつけばポンと金を出すもんだぜぇー!」
…なんか、変なのがいた。
こんな見るからに怪しいヤツを目にして、アスリィが黙っている訳はない。
「目に見えて悪党! これはアスリィさんの出番ですね!」
「この街で狼藉を働くとは! そういうことはいけませんよ! 殴りますよ!」
「あぁん? なんだオマエはぁ。」
「ここにいるのを誰だと思ってんダぁ? "バタフライ・ナイフの"ジョニーさまだぜぇ!」
チンピラはそう言って威圧するが、アスリィとしては、そんな名前に聞き覚えはない。そして、武器がバタフライ・ナイフという時点で若干ショボい。
だが、アスリィは「名乗られたら名乗り返す」信条があるので律儀に返す。
「アスリィさんの名前はアスリィと申します。別に、以後お見知りおきを、って訳ではないんですが。」
…正直、こんなのと知り合いにはなりたくない。
とはいえ、悪いコトを企んでいるヤツを放っておくわけにもいかない。
アスリィの鉄拳制裁によって、チンピラどもは撃退されたわけだが、アスリィは少しばかり疑問を感じていた。
なんだかいつもより拳に勢いが乗っていた、ような気がしたのである。チンピラがいつもの3割増しぐらいで飛んでいった。
アスリィが振り向くと、そこには柔和な笑みを浮かべた男性(下図)が立っていた。
「おや、手助けなど不要だったかな? 小さな勇者さん。」
「私には、ちょうどキミぐらいの年の娘がいてね。ちょっとばかり、助けたくもなってしまった。」
この男性の名はワトホート・インサルンド。
(アスリィは知る由もないが)伯爵位を引退して、この街に静養に来た先代ヴァレフール伯爵である。
ちなみに、アスリィの年は16歳。ワトホートの2人の娘、フィーナとレアのちょうど中間ぐらいにあたる。
この後、アスリィが話を聞くと、ワトホートは自分の故郷のことを語る。
北の島国ブレトランドから来たこと。自分は引退した君主の身であること。今は娘がその国で頑張っていること。自分に因縁のある村が娘の手で復興しようとしていること。
話していくうちにワトホートもアスリィのことが気に入ったらしく、「最近、娘は新たな契約魔法師を迎えたようだがね。もう少しキミと出会うのが早かったら、娘に紹介していたかもしれないな。」と。
話を聞いたアスリィは、そろそろ実家のあるハルーシアから離れたかった、ということもあって、話に出た村の復興を手助けするため、ブレトランドに向かうことを決める。
「ふむ、ではこれを持っていくといい。キミが怪しい者でないことを保証してくれる。自然魔法師は何かと疑われやすいからな。」
そう言って、ワトホートは懐から取り出した筆記具でさらさらと一筆したためて、アスリィに渡す。
アスリィは、「この人、偉い人だったんだ…」と思いながら(まさか前伯爵とは思わず)受け取って、さっそくブレトランドに向かい始めた。
Opening.3. 出向辞令
ドラグボロゥ城では、伯爵付魔法師団の一員、サラ・ロートが次席魔法師ディレンド・グレイルに呼び出されていた。
サラは農家の出身でありながら、魔法師の才を見出され、中でも特に異界の物品・アイテムの召喚を得意とする無機召喚士の系譜を学んだ魔法師である。
エーラムを卒業した後は、ヴァレフール伯爵付魔法師団(伯爵位ともなると複数の魔法師と契約し、魔法師団を組織することが多い)の一員として、伯爵領の首都であるドラグボロゥへと赴任した。
若いながらも物品召喚、異界知識に長けた召喚魔法師であることにに加え、同門の魔法師であるチシャ・ロートが護国卿契約魔法師というヴァレフールの重要ポストに就いたこともあり、ヴァレフールの中でロート一門との繋がりは強まりつつある。
そのような背景もあって、魔法師団の中では「若手の有望株」と認識されている。
ちなみに、ブレトランドにおける同じロート一門には、同じくヴァレフールで研修中の学生サルファ・ロート、グリース領ティスホーンのジョシュア・ロート、アントリア領パトラのアテリオ・ロートがいる。
このあたり関連で、この後、サラは世間の狭さを思い知ることになるのだが、それはもう少し先の話である…
一方のディレンドは、先々代伯爵ブラギスの時代からヴァレフール伯爵付魔法師団の一員として仕えているベテラン魔法師である。
専門は静動魔法だが、他分野にも造詣が深く、現在は魔法師団次席としてヴァレフールを支えている。
さて、ディレンドの話に話題を戻すと、彼の言うことには。
「キミに新たな任務を与える。ヴィルマ村の復興計画の話は聞いているかね?」
「陛下は、新領主として、エーラムで新たに雇った騎士を任じることにしたそうだ。まあ、それはいい。」
「どちらにせよ、何もないところからの復興だ。下手にこの地とのしがらみの無い者の方が都合のいいこともあるだろう。」
「そこで、キミには補佐官として、ヴィルマ村に向かって頂きたい。」
ディレンドが言うことには、このヴィルマ村はボルドヴァルドの大森林にほど近く、混沌濃度の比較的高めの土地であるので、魔法師を置かぬわけにはいかない、ということ。
ヴィルマ村に赴任する魔法師を選任するにあたって、農家出身のサラが適任であろう、ということ。
そもそも伯爵の世代交代、新契約魔法師ヴェルナの就任などあってヴァレフール魔法師団も再編の途中であり、その一環、ということ。
そのあたりの事情を総合的に考慮した結果のサラへの派遣要請となったと説明する。
そこまで説明し、サラが了承したところで、ディレンドは付け加える。
「それから、キミを派遣せねばならぬことからも分かる通り、新領主にはまだ契約魔法師がいないようだ。」
「場合によっては、新たに契約関係を結んでくれてもかまわない。」
ディレンドにしてみれば、どのみちヴィルマ村領主への契約魔法師を後々斡旋する必要がある以上、エーラムに新規の派遣を要請するよりは、魔法師団から向かわせた方がよいだろう、という思惑もあった。
一方、サラはあくまでも自身の契約先はヴァレフール伯爵である、という意識があったゆえ、あまり契約替えには乗り気ではなかったが、ひとまず魔法師団の所属のまま派遣されればいいということで納得していた。
Opening.4. 開拓村へ
さて、アレックス、アスリィ、サラ、それぞれがそれぞれの理由でヴィルマ村に向かうことを決めるころ。
そのヴィルマ村を預かる領主もまた、ヴァレフール伯爵から正式な辞令を受け取っていた。
領主の名はグラン・マイア。
平民出身ながらも、自身の力で混沌核から聖印を作りだした、流浪の君主だ。
エーラムでのレア伯爵の就任記念式典の折に伯爵と知り合い、その従属騎士となった。
(参照:BS50「伝統国家の契約事情」)
「では、改めて、ヴァレフールにようこそ。我が従属騎士、グラン・マイア。」
「ようやく、キミに旧ヴィルマ村に向かってもらうことになった。待たせてしまって済まないな。」
「私としても、父上の成したことに始末を付けねばならない、という意味では因縁のある地だ。よろしく頼む。」
「キミと共に旧ヴィルマ村に向かってくれる魔法師を既に選任している。入ってきたまえ。」
そう言ってレアが呼ぶと、サラが部屋に入ってくる。
レアがグランに対して「彼女はサラ・ロート。私付きの魔法師団の一員だ。」と紹介する。
「新しく領主になることになったグラン・マイアだ。よろしく頼む。」
「魔法師団から派遣となりましたサラ・ロートと申します。どうぞよろしくお願いします。」
「ああ、この地に来たばかりでまだ右も左も分からないからな、いろいろ手助けしてくれると助かる。」
さて、これからの予定としては、ドラグボロゥから向かう開拓民と共に南の港町ナゴン村経由で、そこに集っている開拓民とも合流してヴィルマ村にに向かうこととなる。
ところで、グランには1つ気になることがあった。
「そういえば、元村民は今、どうしているんですか?」
「大半の村民は焼き討ち事件の時に死亡している。生き残りは片手で数えるほど、と聞いている。」
「焼き討ちを生き残ったという時点でそういった人物のほとんどは、邪紋使いやそれに類する特殊技能者の類だ。」
「風の噂によると、テイタニアに1人、当時の生き残りがいるらしい。」
「それから、村についての資料などがあれば、閲覧しておきたいのですが?」
「この城の書庫には一通りの資料が収められているはずだ。魔法師団の管理しているものだから、サラについて行ってもらえば許可は出るだろう。」
グランとサラは、ひとまず出発前に村について調べておこう、ということで城の書庫で資料を探しておくことに決める。
ドラグボロゥ城の書庫には大量の本が収められている。
ブレトランド3国の盟主国として、400年の歴史を積み重ねてきた国であるのだから、その中から目的の本を探し出すのは至難の業である。
そして、グランとサラは、あまり調べものは得意ではなかった。
「…いかんせん量が多いせいで。」
「やはり、でかい国だけあって資料は膨大だな…」
仕方がないので、上司であるディレンドに聞いてみることにした。
「ふむ、ヴィルマ村関連か…」
「かの村にフォーカスしたものではないが、これで一通りの知識はつくだろう。」
そう言って、ディレンドが渡したのは「ヴァレフール博物概論」と題された1冊の分厚い本。
「ヴァレフール全体のことを記したものだから、1つの村あたりは大して書いてないが、それでも各村の歴史、特産物などについてはまとめてあったはずだ。」
受け取ったグランがヴィルマムらの項目を開いてみると、その歴史に興味深い記述を見つけた。
◆「ヴァレフール博物概論」のとあるページより抜粋
ヴィルマの地は長らく、テイタニアと並んで、首都ドラグボロゥをボルドヴァルド大森林の脅威から守る防波堤としての役割を担ってきた。この地の所領を預かるアーシェル家は爵位こそ騎士位であるものの、その興りは英雄王エルムンドの侍従騎士を務めたアールオン・アーシェルに遡り、ヴァレフールにおける由緒正しき血統の1つとして数えられる。故に、歴代ヴァレフール伯からの信任も篤く、この重要な地を任されてきたのだろう。
どうやら、ヴィルマ村は意外と由緒の正しい場所であり、戦略的に重要な土地でもあったようだ。
グランは、これから自分が治める土地に思いを馳せるとともに、この村であれば、自身の宿敵たるパンドラに対応するだけの戦力を整えることも可能だな、と内心思っていた。
Middle 1.2. ナゴン村
現状、旧ヴィルマ村とドラグボロゥの間には街道はない。
南の港町、ナゴン村を経由して街道がつながっている。(とはいえ、ナゴン村-旧ヴィルマ村間の街道は長らく使われておらず、荒れているのだが。)
グランとサラは、ドラグボロゥよりも現地に近いこの村の方が住民の生の声が聞けるだろう、ということで、途中でナゴン村を視察していくことにし、少し予定を早めて出発していた。
ナゴン村の住民に話を聞いたところ、旧ヴィルマ村は、ナゴン村の住民としてもそうそう寄り付くような場所ではなく、せいぜいボルドヴァルドの魔境に挑む冒険者がたまに訪れるぐらいらしい。
ただ、そういった旧ヴィルマ村を訪れた者たちの話によると、現在の旧ヴィルマ村は魔境から出てきた下級の投影体たちが住み着いているという話を聞くとのことだ。
焼け跡になったとはいえ、雨ぐらいはしのげる建築物の跡でもある以上、投影体たちにとっても、森の中よりはまだ住みよいのかもしれない。
どうやら、村の復興に取り掛かる前に住み着いている投影体をどうにかせねばならないだろう。
「場合によっては、戦うことになるだろうな。その準備だけは整えておくか。」
「そうですね。」
こうして、グランたちがナゴン村で準備を整えているところに、他の開拓者たちもナゴン村に向かっていた。
アレックスは、他の開拓民たちと共にナゴン村に集っていた。
実は、テイタニア方面から旧街道を使って直接ヴィルマ村に向かおうとしたのだが、途中のカーレル川に架かる橋が落ちており、やむなくナゴン村の方に遠回りしてきたのである。
(水の元素使いなら、あるいは川を渡れたかもしれないが、炎の元素使いであるアレックスには自力で川を渡るのは少々難しい注文である。)
こうして、募集広告を見て集まってきた他の開拓民たちもナゴン村に集まっていたところを見つけ、合流するに至ったのである。
周りを見渡すと、どうやら他の開拓民は一般人ばかりで、アレックス以外に邪紋使いなどの類はいなさそうだ。
ナゴン村で次なる出発の準備を整えているグランのもとに、伝令が届く。
「領主さま、領主さま。開拓団の皆さんが到着されましたよ。」
「新天地で一旗あげようっていう農民の方々と、それから邪紋使いの方が1人いるらしいです。」
「ほう、邪紋使いがいるのか。それはいいな。」
そう言って、グランは開拓団の方に挨拶に向かう。
「僕たち、そうですね。開拓団というやつですね。」
「俺が、新しい領主となったグラン・マイアだ。」
「あなたがグランさんですか。」
「ああ、とりあえず、楽しくやってこうぜ。」
ここで、アレックスは新たな村を開拓すると聞いて、持参したものを取り出す。
「あ、一応、種は持ってきましたよ。」
そう言って取り出したのは、あわよくばヴィルマ村の一角で育てようとしていた香辛料の類の種である。
基本的な物資はそろっているだろうが、さすがに香辛料の種は自前で持ってこなければ無いだろう、ということで、アレックスが持参した品である。
(そして、実際育成もそこそこ難しい香辛料を育てる用意など、もともとの開拓団ではされていない。)
「この種は?」と聞くグランに、アレックスは香辛料の種だと答える。
この世界では、香辛料はそれなりに貴重品で商品価値も高いし、自前で使っても有用な香辛料にはグランも興味を示す。
こうしたやり取りをしている頃、ヴィルマ村に向かう面々の、最後の1人もまた、ナゴン村に到着していた。
アスリィは、ハルーシアから海路で港町オーキッドを経由し、ナゴン村に到着していた。
初めにワトホートと出会った街も港町だったゆえ、ここまでは(慣れない船で船酔いに悩まされた以外は)手間取ることなく順調にたどり着けたようだ。
ナゴン村に到着したアスリィは行きかう村人に「すいませーん!グランさんって人知りませんかー?」と尋ねて、目的の人物を探していた。
それなりの人数で村を訪れているグランたちにせよ、片端から聞いて回るアスリィにせよよく目立つので、無事にアスリィは、準備を終えて街を出ようとしている開拓団を見つける。
「あなたが、グラン・マイアさんですね!」
「ああ、俺がグラン・マイアだが、、キミは?」
突然現れた人物にグランが誰何すると、アスリィは「初めまして、アスリィです!」と挨拶する。
元気に名を答えられたはいいが、ところでこの目の前に現れた人物が何者なのかは未だ分からない。
ボルドヴァルド大森林近くでよく見かける冒険者なのだろうか、とグランが思っていると、
「あ、そうだ。これを渡せって言われてたんだ。」
そう言って、アスリィは、ハルーシアでワトホートに一筆書いてもらった紹介状を手渡す。
グランが中身を開くと、『アスリィは才能ある自然魔法師で、ヴィルマ村開拓の手助けしてくれるそうだから宜しく頼む』といった旨の文面が記されており、書状の最後には、前ヴァレフール伯ワトホートのサインが添えられていた。
グランがその名前に驚愕していると、アスリィは「ハルーシアで会った、ワトホートって方に貰ったんですけど。」と続ける。
突然現れた少女だが、想定外の大物の紹介状がある以上、信用はおけるのだろう。
こうして、アスリィも加え、改めて一行はヴィルマ村に向かうこととなったのである。
ところで、アスリィと出会って思うところのある人物が2人ほどいた。
1人はグランである。アスリィがエーラムの教えによらず自力で魔法を身に付けた自然魔法師と聞いて驚くと共に、妙に親近感を覚えていた。
グラン自身も、受け継いだ聖印ではなく自力で聖印を生み出した君主であり、これらはどちらも非常に珍しいケースである。
(こうした君主と魔法師の組み合わせ、ともなると世界中を探しても他にいるかは怪しい、といったレベルの話だ。)
この奇妙な符号ゆえに、グランはワトホートという大物の紹介であるということ以上に、アスリィのことを強く興味を持ってみていた。
一方、サラの方もまた、アスリィに対して思うところがあった。
サラのエーラム時代の同門の学友にしてライバルに、アテリオ・ロートという魔法師がいた。
今はアントリア領パトラの魔法師を務めている彼であるが、サラはエーラム時代に彼が如何に妹を溺愛しているか、という話を散々聞かされていた。
ある時、そんなアテリオが妹の姿をした抱き枕を作ったことがある。
それ自体、ちょっと引いてしまう光景なのだが、どうにも今目の前に現れた自然魔法師の少女はその抱き枕に似ているのである。
「まさか」と思いつつも、サラは少々歯切れ悪そうにアスリィに話しかけ、確認する。
「一応、あのー、違ったら聞き流してほしいんですが、アテリオって…」
「あー! 兄さんですね!」
「エーラムの人だから兄さん知ってるかもしれないんですね! 兄さん元気ですか!」
確認が取れたところで、サラはまた頭を抱えていた。そして思うこと1つ。
(…あの抱き枕にちゃんと似てるのがむかつく…)
どうやら、アテリオは割と手先の器用な方だったらしい。
頭を抱えるサラに、グランは「どうした?何かあったか?」と言って、出立準備ついでに買ってきた菓子を手渡す。
余談だが、ヴァレフ―ルはブレトランドの中でも特に肥沃な土地が広がり、菓子など嗜好品に類する食文化も幅広い。
大概の村には名物となっている菓子の1つもあるものだ。
(さらに余談だが、そんなヴァレフール各地を、そろそろグルメ本が出せそうな勢いで食べ歩きしている護国卿がいるのだが、それこそ別の話である。)
抱き枕(のモデルになった人物)との衝撃の邂逅に打ちひしがれるサラは素直に受け取ってかじり始めるが、そこに今度はアレックスが現れる。
「これ、かける?」
と言って彼が取り出した小瓶の中身はどう見ても赤い粉末。辛そう。
「いや、意外と合うんですよ。」
「僕は割とかけるんだけどなあ…」
とアレックスは言うが、その場の誰もが「いや、それはない。」と思っていた。
結局、グランの説得もあってアレックスは赤い粉末の小瓶を仕舞い、代わりに甘いものにも合いそうな香辛料(シナモン)を出してくれた。
と、また一悶着ありつつも、彼らはヴィルマ村に出発することとなった。
一方その頃、ドラグボロゥ城にて。
もう一人の味音痴こと筆頭魔法師ヴェルナ・クアドラント(下図)は、落胆していた。
彼女はヴィルマ村に旅立つグランたちの為に手製の弁当を用意していたのだが、(ナゴン村を視察するために、少し出発の予定を早めたことが厨房にこもっていたヴェルナに伝わってなかったという)不幸な連絡の行き違いによって、弁当箱を抱えて厨房から出てきた頃には、彼らは既に出発してしまっていたのである。
行き場を失ったこの弁当は、ドラグボロゥ城でまた一悶着起こすのだが、それはまた別の話である。
グランたちがヴィルマ村に向かい、そろそろヴィルマ村が見えてくるかという頃。
村の門の上から開拓団が近付くのを見ている小さな人影がいるのに彼らは気付く。
どうやら、下級投影体ゴブリンの偵察兵のようである。
ゴブリンもグランたちが気付いたことを察したようで、村を根城にする他のゴブリンたちに伝え、戦闘の準備を整え始める。
かくして、ヴィルマ村開拓の初仕事、村に巣くうゴブリンの第1次討伐戦が始まった。
とはいえ、ゴブリンたちもあまり数が多くないうえ、いまいち統制が取れていない。
(まだ知る由もない事だが、ちょうど今、ゴブリンたちのリーダーが不在だったのだ。)
偵察兵と剣兵が入り混じったゴブリン軍を相手に、難なく勝利を収める。
戦いの趨勢が決すると、残ったゴブリンたちは、ボルドヴァルドの大森林の方にばらばらと逃げていった。
再び襲ってくることも考えられたが、村についたばかりのこの状況で、魔境に追撃をかけるリスクも看過しがたい。
ひとまず、村をゴブリンたちの手から取り戻した、ということで、この場の戦いは終了した。
ヴィルマ村を見渡すと、村の建物はほとんどが焼け落ちており、まさに「焼け跡の村」であった。
ここで、今後の作業方針を相談する機会を設けよう、というところで、行軍用の移動天幕を広げ、仮住居を設営しようとする。
そこで、サラから異界から建造物を召喚する魔法《シェルタープロジェクション》で仮復興本部となる家を召喚しては?、という提案があった。
これは、無機物の召喚を得意とする浅葱系統の魔法師特有の魔法であり、確かに、それが出来れば、この場では非常に助かる。
グランたちがサラの建てた仮復興本部に入ると、その場の皆にどこからか声が聞こえ始める。
「皆さん、聞こえますか? ドログボロゥのヴェルナ・クアドラントです。」
レア伯爵付魔法師団の筆頭魔法師、ヴェルナ・クアドラントだ。
どうやら時空魔法を使って話しかけているらしい。ヴィルマ村の面々の前に、ドラグボロゥ城にいるヴェルナの映像が映し出される。
(ちなみにこの魔法、《テレコミュニケーション》は時空魔法の中でもかなり高度な部類になる。タクト通信と違って対複数人との通話が出来たり、後述のように資料を見せたりできるので便利である。)
「今後は、こうして私やディレンドさんがドラグボロゥから、情報提供などの形で復興をお手伝いさせて頂きます。」
「もし、何かありましたら、サラさんの方からタクト通信で連絡をいただければ、と思います。」
そう前置きしたうえで、ヴェルナは本題を切り出す。
「さて、村の復興にあたって、まず最も重要なものは「食糧」です。」
「こちらで、幾つか案を用意しました。ヴィルマ村で育てる主食としては、これらのラインナップが妥当かと思われます」
そういって映像の中のヴェルナは、資料を見せる。
◆開拓計画1 食糧の確保について 草案
村の復興においてもっとも欠かせない「食糧」、特に主食となりうる作物について、提案する。現在は復興初期ということで、首都ドラグボロゥ含めヴァレフール各所から当面の食糧は支援をしているが、いつまでもこの状態を続けるわけにはいかない。村の力で食糧を自給できるようにせねばならないだろう。
【選択肢1】小麦を育てよう
「小麦」は、ブレトランドにおいて最もメジャーな穀物であり、活用範囲も広い。特にヴァレフールの国土は穀倉地帯として知られている。食糧の候補としては第一に挙がるものだろう。(参考:ルールブック②)
【選択肢2】米を育てよう
ブレトランドではあまり聞かないが、アトラタンの東方の国では「米」という穀物を育てているらしい。小麦に比べて温暖な気候が必要なようだが、ブレトランドでもほぼ最南端に位置するこの村なら、栽培も可能かもしれない。他で手に入らないものを育てられれば、競争力という面では魅力的だろう。
【選択肢3】ジャガイモを育てよう
ブレトランドにおいて、小麦と並んでメジャーなのが「ジャガイモ」だ。その魅力は何といっても育てやすさだ。開拓・農作業に不慣れな者も多い、ということを考慮すれば、この選択肢も有りだろう。
【選択肢4】輸入しよう
何もこの村で穀物を育てなければならない、というわけではない。他に十分な村の産業があるならば、食糧は外部から買って補う、という手もあるだろう。
資料を見て、ヴィルマ村の面々は、どの選択肢がよいか頭をひねる。
「(米に対して、)確かに、他の村で作れないものを作れる、というのは魅力的だな。」
「とはいえ、あまり農業に慣れてない方もいますし…」
「さすがに、まだお金だけで何とかできるような資金力はないかな。」 …etc
しばらくの議論が続いたのち、グランは、早い時期に主食だけでも自給することを求められること、あまり農業に熟達した者ばかりでもないという村の状況を考慮して、最初は栽培の難易度の低いジャガイモを育てよう、と決める。
小麦なり、米なりの他の選択肢については、とりあえずの食糧状況が安定してからでもいいだろう、というのが彼らの見解だった。
また、この決定のもう1つの要因は、ジャガイモはアレックスが持ち込んだ香辛料と(料理的に)相性がいい、ということだった。
こうして、初めの指針を得た彼らは、ヴィルマ村の復興に、本格的に取り掛かることとなった。
Midlle 2.2. 開拓初日
ジャガイモを育てる、と決めたものの、その詳しい栽培方法は調べなくてはならない。
(最悪、ドラグボロゥのヴェルナやディレンドに調べてもらうという手はあるが、相手の多忙な立場を考えると、あまり望ましくはない。)
ここで、アスリィにはジャガイモの育て方に覚えがあった。
「ジャガイモなら、そうですね。実家の近くで農家の方が育てていたような。」
実家にいた時代に見聞きした内容を思い出し、ジャガイモの適切な育て方を開拓民の皆に教え始める。
とはいえ、ジャガイモ畑を作る前に、1つ問題があった。
現在の村は、焼き討ち直後の状態のまま残されているため、畑にするべき村の中の土地はほとんどが瓦礫が散乱しているのある。
まずは、この片付けから始めないといけないだろう。
畑を作るだけなら、もともと建物の少なかった村の外の土地を使うという手もあったが、畑が遠いと後々不便なのと、どちらにせよ片付けはいずれしなくてはならない、ということで、まず瓦礫の片付けから始めることにする。
これは力仕事なので、邪紋使いであり、体力には自信のあるアレックスが積極的に担当する。
アレックスは、村内のもともと村人の家が建っていたあたりで片付けを始めるが、そこで、そこがかつて見慣れた場所であったことに気付く。
目の前にある瓦礫の山は、もともと幼馴染みアイディの一家の住んでいた家であった。
「やっぱそうだよね。瓦礫になるよね…」
そう呟きながら、アレックスは片付けを始める。
時折、焼き討ちの犠牲者の遺骨と思しきものが見られたが、それらは(誰のものなのか分からないこともあって)、村の共同墓地に弔われる。
ただ、アイディの家があった近辺の片付けを一通り終えても、子供の遺体は見当たらなかった。アイディがいつも首から下げていた赤い石のペンダントも、である。
アイディは焼き討ちの時にはここにはいなかったのかも知れない。
「あれ、もしかして、生きてる?」
アレックスは若干の希望的観測を込めて、再び呟いた。
彼が、故郷の現実を見た哀しみと、僅かな希望を感じつつ作業をしていると、そこにアスリィが声をかけてきた。
「アレックスさん、どうかしましたか?」
「僕の幼馴染の骨が見つからないんだ…」
「あれ? アレックスさん、この村の出身の方だったんですか?」
その話を聞いて、グランも口を挟む。
「ということは、テイタニアにいるというこの村出身の人って君だったのかい?」
「いや、僕は放浪の旅に出てたんで、その人のことは知らないですけど。」
本筋からは離れるが、テイタニアにいるヴィルマ村出身の邪紋使いの名はアレス。
現在はテイタニア領主ユーフィー・リルクロートに仕えている。
アレスは現在29歳であり、20歳のアレックスより9歳年上。同世代の幼馴染というには歳が離れており、彼らの間に特に面識はなかった。
「このまま任せて大丈夫かい? つらいなら代わるけど?」
グランがアレックスを気遣って声をかけるが、
「いや、大丈夫です。ここまでくるともう、作業ですからね。」
アレックスは、気丈に言って、瓦礫の片付けを進めていった。
「あれ? ところでなんでアスリィがここにいるんだ?」
アスリィは瓦礫片付け班ではなく、向こうでサラと一緒にジャガイモの育て方をレクチャーしていたはずである。
どうやら、こっそり逃げて来たらしい。
そこにサラが現れる。
「アスリィさん、早く戻りますよー。」
(アスリィがサラに引きづられるような形で)彼女らは開拓民たちのところに戻っていった。
かくして、彼らの尽力あって、ヴィルマ村には小規模ながらジャガイモ畑が作られることとなった。
この後、ジャガイモたちは順調に成長し、村の食糧事情復興の第一歩となってくれることだろう。
Midlle 2.3. 大森林のゴブリンたち
領主グランは、ボルドヴァルドの大森林に出向いていた。
当初、村を占拠していたゴブリンたちは、大森林の方に逃げていった。
となれば、また徒党を組んで村を取り返しに来るかもしれない、というのは当然の推測であった。
グランは弓使いの君主であり、隠密、偵察行動の類は割と得意な方だ。
ゴブリンたちに気取られぬよう、巧みに森の中を抜けて行くと、村から退散していったゴブリンたちが再び結集しつつあるのを見つける。
しかも、よくよく見ると、どうやらその集団を指揮しているリーダーがいるらしい。
一般的に、ゴブリンは規律を以って集団生活をするよりは、無秩序な個別行動を好むものが多いといわれている。
それをまとめ上げているのだから、かなり(ゴブリンとしては)頭もいい、強力な個体なのだろう。
そのようなリーダーの下で、村を取り戻そうと準備を整えているようだ。
グランはそこまで確認したところで、いったん村に戻る。
そこで、帰る道すがら、村人から気になる噂を耳にする。
大森林近くまで出かけた村人が見知らぬ小さな女の子を見かけたというのだ。
その一帯は、女の子が1人で出歩いていいような場所ではないし、そもそも(家族で移住している者たちもいるとはいえ)開拓民の中に女の子など限られている。
村人曰く、ヴィルマ村で見かけない顔だったそうだ。
その噂が気になりつつも、グランは村に帰り、ゴブリンたちについてサラに相談する。
「可能性としては、(ゴブリンが村を)取り返そうと準備しているなら、先んじてこちらから攻めに行ってもいいが、おそらく森の中は奴らのテリトリーだ。」
「攻めてきたのを返り討ちにする方がいいかもしれないな。」
ゴブリンの襲撃に備え、村の見張りを強化する一方で、戦いの準備を整える、という方向で、グランたちはゴブリン戦に向け動き出した。
こうしてサラと話し合っているグランの元にまたもや(ジャガイモ畑から抜け出して)アスリィが現れる。
「グランさん、大森林の方に行っていたみたいですけど、何があったんですか?」
どうやら、グランの行動から戦いと冒険の気配を察して、話を聞きに来たらしい。
興味津々といった風で、グランに森の中の様子を尋ねていく。
そうしていると、ジャガイモ畑の方の作業が行き詰ったらしく、
「おーい、魔法師さま。ちょっと聞きたいことがあるんだが。」
呼びに来た村人にアスリィは当然のように、「サラさん、呼ばれてますよ?」と返す。
どうやら、自分も魔法師である自覚はあまりないらしい。
Midlle 2.4. 次なる課題
さて、開拓は次の段階に進みつつあった。
ヴェルナから、次の資料が送られてきたのである。
今回は村に必要と思われる施設についての提案であった。
そのリストを見ると、確かに、現状のヴィルマ村に必要と思われる施設がリストアップされていた。
◆村の開拓方針Ⅱ:新たな施設を作ろう
さて、この村にはいまだ足りないものが数多い。とはいえ、必要なモノをすべて今すぐ建てるような資金も人手もない。優先順位を決めねばならない。
【選択肢1】「冒険者の店」を作ろう
この村の立地条件として、最も特徴的なのは、村のすぐ西に広がるボルドヴァルド大森林だ。この大森林に挑む冒険者の足掛かりとして、この村がある意義は大きい。であれば、彼らを支援する環境を整えることは重要だろう。
【選択肢2】「炭焼き小屋」を作ろう
一般的な自給自足の村というレベルで見れば、地味ながら非常に重要なのが「燃料」の供給だ。冬を乗り越えるためには必須の資材であり、これを自前で用意できれば、村としての地力の向上と言える。
【選択肢3】「橋の再建」をしよう
現在、旧ヴィルマ村は、南方のナゴン村につながる街道しか通っていない。つまり、非常に交通の便が悪いのだ。テイタニアの街につながる旧道があるが、道は荒れ果て、途中の橋は落ちている。これの復旧は大変だろう。だが、テイタニアという大都市との間の街道がある意義は大きい。
これらについても、ヴィルマ村の皆で協議した結果、「最も早急に準備すべきは炭焼き小屋だろう」ということになった。
店や橋の整備も重要だが、それらはもう少し基礎的な部分の復興が済んでからでもいいだろう、というのが彼らの意見であった。
実際の作業については、炭焼き小屋の建設は、アレックスが担当することになる。
アレックスは炎の元素使いであるがゆえ、炭焼きに関しては、これ以降も活躍してくれるだろうと期待しての人選である。
Midlle 2.5. 南の山の錬金術師(?)
グランは次に南の山岳地帯を調査することに決める。
調査には、(そろそろ村の外を探検したくて仕方なさそうな)アスリィが同行することとなった。
ヴィルマ村の南には山岳地帯が広がっており、こちらも長らく人の手が入らず、放置されていた。
山を分け入っていくと、グランたちは山の斜面に幾つかの洞窟が入り口を空けているのを見つける。
よく見ると、古びてはいるが、どうやら自然の洞窟ではなく、かつて人工的に掘られたもののようだ。
鉱石の類の採掘に使われていた坑道にも見える。
「なんでしょう? 洞窟ですかね?」
アスリィは尋ねるが、グランもこの近辺の出身ではないので、ここで鉱石が採掘されていたという話は聞いていない。
ドログボロゥの書庫で見つけた「ヴァレフール博物概論」を詳しく読んでみれば、そのあたりの話も載っているのかもしれないが、なにせここまで忙しくて、まだ読めてはいない。
本自体は貸出許可を得て借りてきているのだが、さすがに山の探検にあの分厚い本は持ってきていない。一度、ヴィルマ村の復興本部に戻らないと調べられないだろう。
アスリィは洞窟を探検してみたいようで「入ってみます?」と聞くが、グランは古い坑道なら崩落などの危険もあるかもしれない、と制止する。
そんな話をしていると、グランたちに1人の少女が話しかけてきた。
「あれ? こんなところに人がいるなんて、珍しいですね。」
「わたしは、そこの洞窟に用があってきたんだけどね。希少な鉱石がいろいろ見つかるんだ。」
「ま、わたしは「アイテム屋」のようなものだと思ってくれればいいよ。ミーシャって言うんだ。」
「うんうん、「アイテム屋」でいいんだよなあ。この世界で「錬金術師」って言うと、魔法使いの意味に捉えられちゃうし。」
自己紹介しつつ、そうつぶやくミーシャに、「この世界で」という言い回しが気になったグランは尋ねる。
「キミは、もしかして、投影体かい?」
「そういうことになるらしいね。こっちの世界に来て長いから、ほとんどこっちの世界の住人…だと思うけど。」
「向こうの世界もあんまりわからないまま、こっちに来たからなあ…」
その言い方に若干気になるところはありつつも、投影体にはいろいろな経緯の者がいるのでまあいいとして、グランとアスリィは自己紹介を返す。
「俺はグラン・マイア。このふもとの村の領主だよ。今はその村の復興をしているところなんだ。」
「その手伝いをさせてもらってます。アスリィと申します!アスリィさんです!」
グランたちから、ヴィルマ村の話を聞くと、ミーシャは興味ありげにうなずく。
「実は、わたし、そろそろ自分のお店を持ちたいと思っていて、お店を出す場所を探しているんですけど。」
「ナゴン村にお店を出すにはまだまだお金が足りないし、いっそ新天地で、って選択はアリなのかも…」
なるほどそういうことなら、グランたちとしても歓迎したいことである。
ミーシャが具体的にどのような事が出来るのかは聞いていないが、この山の鉱石や森林の混沌産物を生かせる人材が村にいるのは良い事だろう。
グランがその意を伝えると、ミーシャも「それじゃ、考えておきます。お店を出せそうなお金が貯まったら、ですね。」と返す。
別れ際にグランは、せっかくだから森林のゴブリンたちのことを聞いて見ることにした。
「ところで、キミは森の方には行くかい? 森の方にいるゴブリンたちについて何か知っていたりは?」
「うーん、まさにそのゴブリンたちのせいで、あんまり近づけないんだよね。」
「やはり早急に退治するべきでは!(by アスリィ)」
「ゴブリンたちがいなくなれば、わたしももうちょっと踏み込めると思うんだけど…」
「やはり早急に退治するべきでは!(by アスリィ、2回目)」
…余程、ゴブリンたちと戦いたいらしい。
Midlle 2.6. 討伐作戦準備
グランたちは村に戻ったが、南の山でミーシャと出会ったとき、彼女から気になる情報を聞いていたのを思い出す。
「あと、森のゴブリンたち、ちょいちょいこっちの山の方に来るんだよね。」
「木とか石とか拾って持って帰ってるみたいだったけど、あれ、何か企んでない?」
どうやら、ゴブリンたちも村を取り戻すために何らかの準備をしているらしい。
となれば、彼らの準備が整うまでに先んじて叩くのが得策だろう。
(あと、アスリィがそろそろ放っておくと森に突撃しそう、というのもある。)
「それじゃ、部隊の準備を整えて、明日の昼だな。」
グランがそう宣言し、ゴブリン討伐作戦が決断される。
一方、アレックスたちに任せられていた炭焼き小屋もそろそろここまでの作業で、ようやく完成にこぎつけていた。
こうして、この村に新たな施設が出来たところで、彼らもゴブリン討伐作戦に向けて、準備を始めた。
さて、討伐作戦決行当日、昼の作戦開始に向けて、ヴィルマ村の面々は朝から準備を進めていた。
もちろん数は多くないとはいえ、村にいる兵たちを、グラン、サラ、アレックス、アスリィのそれぞれ指揮する4隊に分けて、部隊を組織する。
そのころ…
…そんな彼らを森から見つめる小柄な人影があった。
グランたちが準備を整え、いざボルドヴァルド大森林に行こうとしたところで…
森林の方から、先んじてゴブリンの集団が姿を現した。
指揮を執るのは、派手な羽根飾りを付けた他の個体より大柄なゴブリン。
木材を使って組み上げた、粗雑なウォーマシンを部下のゴブリンに引かせ、大声で指示を飛ばしている。
どうやら、ゴブリンたちが準備していたのはこのウォーマシンだったようだ。
だが、よく見ると、ところどころパーツが足りていない。
ヴィルマ村の皆が準備をしているのを察して、先んじて未完成のウォーマシンを無理やり出撃させてきたらしい。
(準備をしている間に、ゴブリンの偵察兵が様子を伺いに来ていたのだが、残念ながら誰もそれには気付けなかった。)
「あいつらも準備を整えてやがったな! 未完成だがしょうがねえ! やっちまえ、お前ら!」
「ふはははは、我らが楽園を奪った人間どもよ! この森ゴブリン族の首長、ディ……」
ゴブリンのリーダーが高らかに名乗りを上げようとしたその時、その顔の横をグランの放った矢が掠める。
どうやら、グランとしては大人しく名乗りを聞くぐらいなら、さっさと決着をつける気でいるらしい。
そこのところ、幼いころから傭兵として過ごしている彼はかなりの現実主義者であった。
「ちょ、ちょっと待て! ちょっと待って! せめて名乗らせろ!」
わめくリーダーに構わず、こうして戦いの火蓋は切って落とされた。
「ちくしょう! そっちがその気なら、もう容赦しねぇぜ! お前らぁ! やったれぇ!」
かくして、このリーダーの名前は分からずじまいだった。
ゴブリンのリーダーは、手数に秀でた剣技の使い手であり、ウォーマシンの方も燃えやすい草を使った火炎弾を投石機の要領で投げる機能など、ゴブリンにしては工夫にとんだ代物だった。
だが、グランの弓術は、接近されても戦える独特な撃ち方ができ、また複数を相手取って弓矢を射る事が出来る、ということで多数のゴブリンを相手にするのは比較的相性の良い、得意な戦場であった。
アスリィの常盤魔法を使った攻撃はゴブリンたちの防御を意に介せずに打撃を与え、サラもブラックドッグを呼び出し、雷電を纏って疾駆する黒犬で、複数のゴブリンを弾き飛ばす。
アレックスは自身の方に襲い来たゴブリンたちの攻撃を元素の壁で弾きつつ、炎を纏った攻撃を繰り出す。
相手の偵察兵がここにきて調子が悪そうなのもあって、戦闘は終始、ヴィルマ村の面々が優位に進める。
さて、戦いの最中、ここで事件が発生した。
問題は、戦いが割と村の近くで行われていたことだ。
村の一角にあるジャガイモ畑に紛れ込んだゴブリンの偵察兵がいた。
彼の役割は、遠くから敵を観察し、味方にその弱点を伝えること。その仕事は既に終わっていた。
そして、攻撃に参加しようにも、微妙に彼の足で近づける距離より離れた場所に陣取ってしまっていた。
まあ、要は暇を持て余していたのである。
そこで、彼は目の前にあるジャガイモ畑に目を向けた。
「あぁー、イモ、美味えぇー!」
そう、ゴブリンの本能(食欲)に従って、今できることを見つけた結果の行動、TSU★MA★MI★GU★Iである!
その行動に対して、怒りを燃やす人物がいた。
(ちょくちょくサボろうとしていたとはいえ、)村のジャガイモ畑を作ってきたアスリィである。
ちょうど、主戦場の方は決着が着きつつあった。
グランの聖印と天運の力を注ぎこんだ弓矢の一撃で、リーダーとウォーマシンが大きく揺らいだところで、皆が追撃をかけ、最後はグランの追撃の一矢でリーダーは力尽きた。
主戦場の方に気を配らなくてもよくなったところで、アスリィは畑でイモを食べているゴブリンの方に駆け寄って、全力の魔力(エーラムでいう《魔陣構築》という技法である)を乗せた一撃をゴブリンに打ち込む。
畑を荒らしたゴブリンは、その一撃で畑の外まで吹き飛び、イモの恨みに打ち倒されたのであった。
グランたちがゴブリンの首長、またウォーマシンを撃破するころ、周囲のゴブリンたちとの戦いも趨勢が決しつつあった。
残ったわずかなゴブリンたちは再び大森林の方へ逃げ込んでいこうとする。
もはや再び村を襲えるような戦力は残っていないだろうが、後顧の憂いを断つためにも、彼らは残りのゴブリンたちを追いかけていく。
大森林の入り口に差し掛かるころ、ヴィルマ村の皆がゴブリンに追いつくと、突然大森林の方から電撃攻撃が飛んできて、ゴブリンたちを撃ち倒していく。
「どういうことだ?」
グランがそう呟くと攻撃の主が森から姿を現した。現れた幼い少女がゴブリンたちに電撃攻撃を撃ち込み、撃破している光景だった。
ヴィルマ村軍の中でただ一人、その少女に見覚えのある者がいた。アレックスである。
その少女はアレックスの記憶にある通りの幼馴染み、アイディの姿であった。ただ不可解なことに、アイディはアレックスの記憶にある通り、幼いころの姿だったのである。
アイディの胸には、これもまた当時と変わらない、赤く透き通る石のペンダントがさげられている。
「…生きてた…でも、成長していない…?」
アイディはゴブリンを殲滅すると、きびすを返してボルドヴァルド大森林に消えていこうとする。
「あれ…その姿は、アイディ?」
アレックスがそう呼びかけると、
「…アイディ? …ああ、そうか。そんな名前だった。キミは彼女の知り合いかい?」
「まあ、幼馴染みみたいなものです。」
「キミはアイディではないのか?」
アレックスが戸惑いながら、グランが油断なく弓を構えながら答えると、アイディは「モノを聞くのなら、せめて弓を構えるのをやめてくれないか。」と返す。
言われたグランが弓をおろして、改めて聞くと、アイディは語り始める。
「アイディかどうか?、と聞かれれば、アイディでもあるし、そうでないとも言える。」
「焼き討ちの炎にまかれたとき、このままじゃ彼女は死ぬ。そう思ったから、体を借り受けることにしただけだ。」
「キミたちに興味もないし、関わろうとも思わない。まあ、今は、アイディではない僕については、『ボルドヴァルドのアサシン』とでも名乗っておこう。」
「いずれまた、会う時もあるだろう。」
そう言って、アイディはまた大森林の奥へと消えていく。
「アレックス、キミは良いのかい?」と尋ねるグランに「まあ、生存確認は出来たし、アイディだけがアイディじゃないから…」と歯切れ悪く答えるアレックスの内心には戸惑いと複雑な思いが巡っていた。
Ending.2. 新米領主の契約事情
ゴブリンたちとの戦いのさなかで荒らされたジャガイモ畑の一角の修復もおおかた終わったころ、一仕事終えたアスリィにグランが声をかけた。
「ああ、アスリィ。ちょっといいか。」
「キミは一応、領主たちはメイジと契約している、というのは知っているかい?」
「一応、うちの父も、メイジいましたし。」
自然魔法師云々の前に、アスリィの実家はハルーシアの貴族であるので、契約関係の事情は一通り知っている。
それを確認すると、グランはアスリィに対して話を切り出す。
「それで、俺はまだここの領主になったばかりでメイジとかはいないんだ。」
「で、キミさえ良ければ、俺と契約してくれないか?」
「サラさんじゃなくていいんですか?」とアスリィは問うが、サラは(成り行き次第ではグランに契約し代えていいと言われているが)、現在の契約相手はレア伯爵であり、この村の復興のために派遣されているという状態である。
それに、グランが完全な独立の領主ならともかく、現在のアカデミーなどの支援はレア伯爵の従属騎士として行われているので、自然魔法師のアスリィと契約しても、
サポート関連の問題はない。
そのあたりの事情と、グランがアスリィに個人的に親近感を感じていた(聖印を自力で生み出した自分と、魔法を自力で習得した彼女)ということで、この提案となったらしい。
アスリィは少し考えると、
「今はまだ、考えさせてもらっていいですかねえ。」
と返事を保留することにする。
アスリィとしては、内心ありがたい話だと思いながらも、放浪の旅の中で冒険心を満たす方が性に合っている、という思い、まだ自分は世界を見足りないという思いもまたあった。
どちらにせよ、この村の復興がひと段落するまではこの村にいるつもりであった以上、ゆっくり考えればいいか、と結論した。
Ending.3. 時空魔法師の見解
一方、サラはここまでの状況報告のために、ドラグボロゥのヴェルナとのタクト通信をしていた。
「はい、こちらヴェルナです。どうされました、サラさん?」
ジャガイモ畑の整備、炭焼き小屋の建築、ゴブリンの撃退、そして森の入り口で出会った少女アイディ。
一通りの報告を聞き終えると、「順調そうで何よりです。」と労いの言葉に続いて、アイディについて彼女の見解を述べる。
「彼女の言っていることを信じるなら、憑依体、という表現になるのでしょうか。」
「これだけではなんとも判断はつきがたいところですが、村に被害を及ぼさないのであれば、こちらから彼女への対応については何も言いません。」
「もちろん、友好的に共存できるなら、それが望ましいことではありますが。」
サラの方からは今後も機会があればアイディについて調べていくこと、ヴェルナもまた類似の事例などが見つかれば伝える、という話でこの場の報告は終わる。
それぞれに魔法師たちは、この村に関わる不可思議な存在について、思いを巡らせていた…
サラとの通信を終えたヴェルナは《プレコグニション》の魔法で、アイディについての予言を始める。
…「救出」、「同化」、「契約」…
「おおむねサラさんから聞いた話に沿ったような語ですね。彼女の話の大筋には嘘はない、すなわちただちに危険はないとみて良いでしょうか?」
「となると、どうして村と関わろうとしないのか、気になりますね。次報に期待しましょう。」
Ending.4. 炎使い、かく思う
アレックスは村の炭焼き小屋でぼんやりと幼馴染みアイディのことを考えていた。
(アレックスが炎の元素使いであり、炭焼き小屋の管理には適任ということで、成り行きでこの場の担当のようになっていた。)
彼の中では、死んだと思われていたアイディが生きていたという驚きと、明らかに昔とは違う彼女に対する戸惑いが渦巻いていた。
「…でも成長してないにしろ、あの見た目は何か訳ありってやつなんだろうな。喋り方も男みたいだし、彼女とは思えないな。」
「…死んじゃうよりもマシだけど、なんか腑に落ちないな。可愛かった昔のアイディに会いたいな。」
炭焼き小屋の煙は彼の心情を示すかのように、風に揺られゆらりと、立ちのぼっていた…
「あ、香辛料の種のこと、忘れてた。」
持ち込んでいた種のことを思い出したアレックスは、後にジャガイモ畑近くの一角でそれらを育て始めるのだが、それはまた別の話である。
こちらもまた、一波乱あるのかもしれない。(香辛料の栽培はジャガイモに比べたら遥かに難しい。)
Ending.5. 次なる訪問者
さて、ゴブリン事件から日は流れ、村のジャガイモは順調に育ち、炭焼き小屋は今日もその活躍を示す煙を上げている。
元々のヴィルマ村の姿には程遠いが、村は確かに、着実に活力を取り戻しつつあった。
そんな中、今日もサラが《シェルタープロジェクション》の魔法で投影したヴィルマ村の仮設復興本部を、1人の少女が訪ねていた。
「グランさん、いらっしゃいますか?」
訪ねてきたのは南の山でグランたちと出会った「アイテム屋」の少女、ミーシャである。出迎えたグランが用件を問うと、彼女はこう語る。
「まだちょっと準備が整わなくて、この村に移住するのは先になりそうなんですけど、今回は皆さんにお願いがありまして…」
「グランさんたちとお会いしましたあの山で………
そう続けて彼女が語った内容は、ヴィルマ村の開拓史に刻まれる次なるストーリーへの幕開けであった。
(…To Be Continued)
◆村の施設
(サラが召喚魔法《シェルタープロジェクション》で作成。毎日召喚し直している)
(現在、順調に成長中)
(1シナリオに1回、国資源の"森林1"を"資金1"or"技術1"に変換できる)
◆村周辺の調査
・森林およびヴィルマ村廃墟に住み着いていたゴブリンはおおよそ駆逐されたようだ。 ←New
・村近辺に影響はないが、相変わらず森の奥には多くの投影体が住み着いているようだ。
・アイディ(?)は大森林に消えていった。どうやら森の奥にいるらしい?
・無数の人工的な洞窟があるようだ。以前は鉱石を採掘していたのだろうか? ←New
・道も荒れているし、カーレル川に架かっていた橋が落ちている。
◆ヴェルナ's Comment
ヴィルマ村の皆さん、開拓の最初の一歩、お疲れさまでした。
まずは食糧の供給が安定するまでが難しいところかと思いましたが、順調そうで何よりです。
提示した候補の中でも特にジャガイモは育てやすいので、そう遠くはなくヴィルマ村産のジャガイモが食べられるでしょう。
一方で、村の施設について、まだやることは山積みです。
村の復興本部も、現在はサラさんが毎日魔法で建てている状態ですし、ナゴン村からの街道しかない現状は、交通にはかなり難があるといえます。
先は長いですが、これからもよろしくお願いします。
◆ディレンド's Comment
ご苦労、ヴィルマ村の皆。
村の開拓の状況は聞いている。順調そうだな。
さて、君たちをを派遣してのヴィルマ村復興計画の第一目標はまずヴィルマ村を村民たちが生活しうる村に復興することだ。
一方で、以前その村で発生した伝染病の究明も期待されている。
焼き討ちによって収まったとはいえ、未だその原因、対策などは不明のままだ。
ボルドヴァルドの大魔境から、いつまた再発生するかも分からない以上、その病について知っておきたい、というのが本音だ。
無論、村の復興が優先だが、それらに関しても、何か分かったことがあったら伝えてくれ。
では、よろしく頼む。
最終更新:2018年11月05日 13:12