アトラタン大陸の遥か西方に位置するハルーシア領ルカーニ島は、化粧水の原料となる「白星草」と呼ばれる特殊なアロエの産地として知られており、アトラタン各地の王侯貴族達の間でその需要は年々高まっていた。その化粧水の愛好家の一人であるハマーンの女王エドキアは、自身が出資することで白星草の生産量向上に協力しようと考え、自身の側近である
カエラを現地へと派遣したいという旨をハルーシアに打診する。
同じ頃、ハルーシア本国では、魔法師団の一人の時空魔法師が「ルカーニ島で巨大な混沌災害が発生する」という予兆を感じ取っていた。この状況に鑑みた上で、ハルーシア政府は現地の領主の親族である
ラマンを派遣することを決定し、ハマーンからの要請に対しても、この機に
カエラを
ラマンの船に同行させるという形で応じることにした(二人は、
数ヶ月前のジェラールでの騒動
の際に共闘した関係でもあったため、適任と考えられたようである)。
こうしてハルーシアから
ラマンと
カエラがルカーニ島へと向かおうとする中、実際に島内においても、不穏な混沌の気配が漂い始めていた。島の先住民の一族の長である
シャリエの元には「渡来民達の街の近海の混沌濃度が上がっている」という情報が届き、島に住む友好的投影体(大半は地球人)達の守護神的存在である
ゼロは「島の内陸部に、地球の『防空壕』のような遺跡が発見された」という報告を耳にする。不審に思った二人は、ひとまずは島の領主である
ルイスの元へと報告に向かうことにした。
一方、その頃、
ルイスが住む領主の館の邸内では、彼の妻の私室から、聞き覚えのないヴァイオリンの音色が響いていた。
ルイスの契約魔法師である
リエラがその部屋へと向かうと、そこには「紅のヴァイオリンを奏でる胡散臭い楽士風の男」の姿があり、しかも明らかに
ルイスの妻に対して色目を使っている様子であった。妻の方は(特に他意もなく)純粋に音楽に聞き入っているだけの様子ではあったが、さすがに見かねた
リエラが割って入って男を咎めようとすると、その男は飄々とした様子で彼女の追求をかわしつつ、その場から去っていく。
その直後、領主の館に「港の近くの海岸に投影体が出現した」という連絡が届く。ひとまず
ルイスと
リエラが現地へと向かい、ちょうど街へと向かおうとしていた
シャリエや
ゼロもまたその喧騒を聞きつけて海岸へと赴くと、そこにはゴブリンの大群が出現していた。おそらく、先住民達が実感していた混沌濃度の上昇の影響によるものなのだろう。明らかに住民に対して危害を加えようとしていたゴブリン達に対し、
ルイス達は共闘して(苦戦を強いられながらも)どうにか殲滅に成功する。
その直後、
ラマンと
カエラがルカーニに到着した。どうやら、彼等もまた海上で投影体と遭遇していたようで、その装束には戦いの痕跡が見られる。ひとまず彼等を領主の館へと迎えたところで、
ラマンは
ルイスに対して、本国政府から聞かされた「混沌災害の気配」について告げた上で、当初の予定通りに
ラマンが調査に向かうか、それとも現地の領主である
ルイスに調査を任せて
ラマンが彼の留守を守るか、という二択を提示すると、
ルイスは「自分が調査に行く」という旨を告げる。
一方、
カエラは(かつての契約相手候補であった)
リエラに対し、白星草の増産(およびそのための更なる島の開拓)への出資の件についての交渉を持ちかけるが、そもそも島の生態系的に現状以上の白星草の増産が可能かどうかも分からなかったため、ひとまず
リエラは返事を保留することにした。
そんな中、先住民達の集落の近辺に、正体不明の船が上陸したという情報が入り、
シャリエが
ゼロ(の本体)に乗って現場へと急行すると、そこにいたのは(数日前に隣の島で
シャリエと遭遇した)
レオノール率いる聖印教会の武装集団・星屑十字軍の面々であった。明らかに投影体である
ゼロの姿を見て、
レオノールの部下達は殺気立つが、その直後に
リエラと共に駆けつけた
ルイスの説得によって、ひとまず衝突は避けられる。
レオノールが言うには、彼等は数日前にこの群島地域の出身者からの混沌浄化の依頼を受けて、現在は無人島となっている隣の島を探索した結果、かつてその島に住んでいたと思しき人々の記録を発見したらしい。それが何十年前(あるいは何百年前)の資料かは不明だが、どうやら隣の島の人々が死滅したのは、このルカーニ島から現れた「地球から投影された機械兵器」による侵略が原因であり、その機械兵器からは「ヴァイオリンの音」が聞こえていた、という記述も残っているという。
ヴァイオリンと言えば、最近になってこの島の内陸部の混沌濃度の上昇と共にヴァイオリンの音色が響いているという情報は
リエラの元に届いており、そして
リエラ自身もまた、先刻「怪しいヴァイオリン弾きの男」を目撃している。関連性は不明だが、
レオノールが危惧しているような「機械兵器の再投影」が発生しようとしている可能性は十分にありえるだろう。この状況を踏まえた上で、ひとまず
レオノールは、この島の領主である
ルイスに事態の解決を委ねつつ、もし彼等が混沌を浄化し損なった時に備えて、しばらく海岸地帯に駐留する、という方針で合意する。その上で、
ルイス、
リエラ、
シャリエ、
ゼロがそれぞれの手勢を率いる形で、まずは
ゼロの仲間が発見した「防空壕のような遺跡」の調査へと向かうことになった。
目撃者の証言によれば、その遺跡は頑丈な「蓋」によって閉じられており、中に入ることは出来ない状態になっていたらしい。その目撃証言に従って彼等が現地へと赴くと、そこには意外な人物の姿があった。
リエラが
ルイスの妻の部屋で目撃した、例の「紅のヴァイオリンを持った楽士」である。
リエラが怪訝そうな表情を浮かべる中、楽士は明らかに何かを知っている様子で、「遺跡」の奥に「誰か」がいる可能性を示唆する。
ルイス達はそれぞれの聖印・魔法・邪紋・混沌の力を用いて、協力して「蓋」を破壊すると、その下から「地下へと続く階段」が現れた。
リエラと
シャリエに外の警備を任せた上で、
ルイスと
ゼロと楽士がその階段を下っていくと、そこには「防空壕」と思しき空間が広がっており、そして彼等の来訪と共に、「半霊体」のような状態の「褐色肌の少女」が現れる。投影体なのかどうかもよく分からないその少女は、謎の力を用いて「かつてのルカーニ島の映像」を彼等に見せながら、この島の「失われた歴史」ついて語り始めた。
少女曰く、この島の本来の先住民は(今の
ゼロ達とはまた別の)「地球からの投影体」およびその子孫達であった。しかし、やがてそこに(アトラタン大陸の南方に位置する)暗黒大陸からの渡来民達が来訪するようになった。彼等はルカーニを初めとする周囲の島々への植民を開始し、やがて「混沌浄化(投影体の虐殺)」を決行していく。それに対して、地球人達は自分達の生活圏を守るために「地球の巨大戦艦」を召喚する。それは、
ゼロの投影元の時代における最大級の戦艦を改造して建造された宇宙戦艦であり、その圧倒的な火力によって、周辺の島々を侵略していた渡来民達の大半が殲滅されることになった。
その後、暗黒大陸からの侵略者達は、彼等の故郷を治める「褐色肌の少女」に救いを求めた結果、最終的にはその少女の掲げた聖印の力によって投影体達は一掃され、残された僅かな侵略者達は(その聖印の力によって?)記憶を失い、そして自分達がこの島の先住民だと思い込んだ状態のまま、この地で自活するようになった。それが
シャリエ達の祖先、ということらしい。
ただ、この島はなぜか地球との親和性が高かったようで(もともと地球からの投影島という説もあるらしい)、やがて再び新たな「地球からの投影体」達(=
ゼロ達)が出現するようになったが、彼等は以前に投影された者達とは別個体ということもあり、特に
シャリエ達とも対立することなく、彼等と生活圏を住み分ける形での共存状態が今日まで続いている。
一方、かつての戦いで浄化された地球人達の中には、後に他の地方に再投影された者もいる。この楽士もまたその一人であり、実は彼こそが、そのヴァイオリンを用いた特殊な「魔曲」の力によって、「巨大戦艦」を呼び出した張本人であった。彼自身は当時のことは鮮明に覚えているようだが、だからと言って、別に「褐色肌の少女」に対しても
シャリエ達に対しても、特に遺恨はないらしい。
そんな彼が今になってこの地を訪れたのは、かつての自分の「弟子」であった(共に魔曲を奏でて巨大戦艦を呼び出した)「少女楽団」の者達が、再びこの島に出現しようとする気配を感じ取ったからであり、同じ気配をこの「半霊体の少女」もまた感じ取っているという。おそらく、混沌濃度が高まっていると言われる島の中央部から聞こえてくるヴァイオリンの音色は、その少女楽団の仕業なのだろう。
半霊体の少女が言うには、少女楽団の再投影の原因の一端は、この島において本格的に栽培が活性化している白星草にあるらしい。
ルイス達は白星草はルカーニ島原産のアロエだと考えていたが、実はこれは
シャリエの祖先達が暗黒大陸から植民した際にこの島での栽培を開始し、そのまま根付いた植物であった(本来の原生地の暗黒大陸では傷口を塞ぐための医療用アロエとして栽培されていたが、その後の混沌災害によって、暗黒大陸内では既に絶滅している)。つまり、もともとこの地に暮らしていた地球人達にとって白星草は「侵略者の象徴」であり、それが「この地に染み付いていた彼女達の残留思念」を喚起する触媒となってしまっているようである。
このまま放っておけば、少女楽団によって再び「破壊の権化」としての巨大戦艦が再召喚されてしまうかもしれない、と褐色肌の少女は告げた上で、
ルイスに防空壕内にあった「謎の箱」を持っていくように告げる。どうやら、それが「巨大戦艦の再投影」を防ぐための切り札らしい。そして、楽士もまた、かつての自分の教え子達が怨念にまみれたまま再投影されることは望んでいないと告げ、彼等の同行を黙って見守ることにした。
その頃、地上で周囲の状況を警戒していた
リエラと
シャリエは、島の奥地の方面から混沌濃度の高まりと共に不気味な気配を感じ取る。
リエラがすぐさま階段を駆け下りて
ルイスと
ゼロにその状況を知らせ、彼等が即座に地上へと戻ると、その不気味な気配の漂っている方角から、ヴァイオリンの音色が聞こえてきたため(なお、この時点で楽士は彼等の傍らにいる)、彼等はそれぞれの手勢を率いて音のする方面へと向かうことにした。
すると、そこに現れていたのは、何かに取り憑かれたかのような形相で一心不乱にヴァイオリンを奏でる少女楽団達と、彼女達の奏でる「魔曲」の音色によって次々と投影される人間の屍体のような姿の怪物達であった(それらはおそらく、かつての戦いで命を落とした彼女達の同胞なのだろう)。彼女達は言葉が通じる様子もなく、ただひたすらに怨嗟の念だけを込めて魔曲を奏で続け、そして屍体の怪物達は
ルイス達に対して敵意の姿勢を見せる。
そして、彼女達の後方から更に巨大な混沌核が収束しようとしている気配を察した
ルイスは、先刻受け取った「謎の箱」を開く。すると、その箱の中から全く別の音楽が流れ始めることで、彼女達の魔曲の効果が打ち消されていく。どうやら、この箱の正体は「魔曲封じ」のための特殊なオルゴールだったらしい。
この状況において、少女楽団は
ルイス達を「障害」と判断し、まず彼等を倒すべく、彼等の身体を内側から破壊するような音波攻撃を仕掛けてきた。オルゴールの力によってその威力は半減されたが、それでも無傷とはいかずに多くの兵士達が疲弊する中、更にそこに屍体達が襲いかかってくる。これに対して、
シャリエが変身・魅了能力を駆使して彼等の目線をそらしつつ、
ゼロが最前線で全力の爆撃を続けることで、彼等は屍体達を着実に撃破していく。更に後方からは
リエラが火炎瓶を投げつけながら、同時並行で治療薬を駆使することで戦線を維持し続け、そして最後は
ルイスの手によって少女楽団もまた殲滅・浄化されたことで、どうにかこの混沌災害は終息することになった。
その後、一通りの事情を共有した彼等は、今後の方針として、ひとまず島の主産業である白星草についてはこのまま個体数を維持しつつ、混沌災害の再発を防ぐための警備体制を強化することにした。その方針に対して、楽士は「女の趣味がいい奴は信用出来る」と
ルイスに告げた上で(
ルイスはその言葉の意味が分からなかったが)島を去り、
レオノール達もまたアトラタン大陸へと帰還していった。一方、
リエラは
カエラに対して出資の件を丁重に断った上で、
ルイスの妻に対しては「不用意に男を部屋に招き入れないように」と釘を刺す。
なお、防空壕に関してはいつの間にか消滅し、半霊体の少女もまた姿を消していた。
ルイスから話を聞いた
ラマンの推測によれば、おそらくその少女の正体は、暗黒大陸の港町カルタキアの領主
ソフィアであり、彼女の特殊な「時空を捻じ曲げる力」によって、この地域に干渉していたのだろう、とのことである。
ラマンはひとまず島の今後については
ルイスに委ねた上で、
カエラと共にルカーニ島を後にした。
こうして平和を取り戻したルカーニ島の住人達は、
ルイス、
シャリエ、
ゼロの三者協定の下で、先陣の轍を踏まぬよう、手を取り合って生きていく道を選ぶことになるのだが、そんな中、やがてカルタキアの領主
ソフィアから
「カルタキアへの従騎士の派遣依頼」
の連絡が届くことになる。今後の島内の警備強化に向けて、「混沌を浄化出来る従属君主」を育成する必要がある以上、島の将来にとっても悪くない話ではあるのだが、実際に
ルイスの部下の従騎士達の中からカルタキアへと派遣された者がいたのかどうかは定かではない。